第1話 尋問
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「神凪のお嬢さん、お待ちしておりました」
「お疲れ様です、魔導犯罪対策課の刑事さん」
ライトは着けてあるが雰囲気が暗いせいで若干薄暗い様子の通路の入口でボクを呼ぶ刑事。
ボクがここに来ている理由は、先日の事件を起こした犯人である暗殺者がボクに会いたいと指名してきた為だ。
ボクの名前は神凪イブキ。
神凪財閥の社長の娘で狙われる事が多い立場の人間だ。
だから本来暗殺者からの指名を了承する義理も無いけど、個人的に聞きたい事もあってこうやってやって来たのである。
やがて長い通路を歩いて辿り着いたのは、犯罪者を尋問する尋問室だ。
犯罪者は魔導を扱うための精霊を取り上げられているので、魔導を使うことは出来ないのだが、相手は暗殺者。何を仕出かすかは分からない。
尋問室へと通じる扉の前でそう警戒するボクだが、それを見た刑事は苦笑した。
「そう警戒しなくてもいいですよ」
そう言って扉を開く刑事。
中にいたのは暗殺者らしき男だ。しかしボクが暗殺者らしきと思ったのはその外見は痛々しい位の包帯を身体中に巻かれており、ベッドの上に寝ていた状態で待っていたからだ。
「あの……これは一体……」
「……貴女と共にいた少年の反撃により、この男の膝は砕かれ、そのあと貴女の火柱をまともに食らって身体全体を大火傷」
いや、あの時は殺されたくないから必死で抵抗した訳で……。
「本来尋問できないレベルの重体だが首から上を治癒したことで会話できるようになった訳です」
……刑事さんも中々の鬼畜ですね。
「というわけで尋問をどうぞ。私達はあそこのマジックミラーで様子を見てますから」
「……は、はい。ありがとうございます」
バタン。刑事さんが出ていき、扉が閉まる。
今この部屋にいるのはボクとボクの精霊、そして目の前の男だ。
「……お前のリクエスト通りに来たぞ」
最初はボクから声を掛けた。
そしてそれから数瞬、痛みを堪えるような声が目の前の男から発せられた。
「良く……来たなぁお嬢ちゃん。まぁ適当に座れや……今の俺に……お嬢ちゃんをどうこうする力はねぇ……」
その男の言う通りにボクは掛けられてあったイスに油断なく座る。
ボクが座ったことで、目の前の男はため息を吐き、こう呟いた。
「さて……何処から話そっかなぁ……」
「何故……ボクに色々話そうとする。一体何が目的なんだ」
暗殺者故に依頼内容は機密で決して口外しない筈だが、何故かこの男はそこら辺を無視しようとしてきた為、何か裏があるのではないかと咄嗟に質問をしてしまった。
問い質す前に全部聞いてから良かったと後悔をするボク。
「……暗殺者の流儀ってのは……人それぞれ……なんだよ……。だから俺が喋るか喋らないかは……それは俺の勝手だ」
本当にそうだろうか。
仮にも目の前の男は狡猾な暗殺者である。
必ず裏があるはず……そう思っているボクを見て、彼は痛みを堪えながら笑い声をだし始めた。
「信用ならないのは……当然だぁ。そうだなぁ……なぁお嬢ちゃん……お前さんが気になった質問を出来る限り……俺が答えるってのは……どうだ」
流石に勉強の答えは教えられないがなぁ……と冗談を言う暗殺者にイラっとするボクだが、ボクの精霊であるシゼンの言葉により冷静に戻る。
「ふぅ……なら先ずは一つ目。ボクの叔父と手を組んでいたのは何故?」
「お前さんの叔父を……神凪財閥の社長にするためだ……」
「なっ……! でも社長はボクのお父さんが……まさか。そのためにボクの両親を事故に見せかけて……」
先日、両親の事故について知らされて不安だったボクは叔父さんに今後の事を相談しようとした。
だが部屋に入る前に中から叔父さんと見知らぬ男の人の話し声が聞こえて、ボクは慌てて耳を澄ました。
中から聞こえたのは叔父が社長になるという野望の話。
そして叔父の相談に乗っている暗殺者の声。
はっきり言うと叔父には神凪財閥の次期社長になる可能性はない。
何故なら次期社長の座にはボクがいたからだ。
だから目の前にいる暗殺者は両親を事故に見せかけて殺そうとし、ボクの命を狙った。
これがボクが予測した事件のあらましである。
だが目の前の男は笑ってボクの考えを否定した。
「いや……お前さんの親に関しては……俺は一切関与してない……」
そして、まぁ元々手を下そうとしてたんだがなぁと、最後に笑いながら言い残した。
最後の言葉にボクは激怒しそうになるも、両親の事故についてボクの考えが間違っていたという事が頭によぎった。そこでボクはふと疑問に思った。
神凪財閥は魔導に関する研究を担う日本を代表する科学者の集団でもある。
その中で神凪一族は代々魔導適正が高く、実力も高かった。
だからこそ自身の体を使っての研究が出来、科学者集団の纏め役を担うことが出来たのだ。
当然ボクの両親も魔導師としてはかなり優秀な方である。
そんな人たちが、まさかただの事故で命の危機に陥るのだろうか。
「まだ……何か質問はあるか……?」
今はまだ情報が少ない。
両親の事故について謎はあるが、今はこの暗殺者の目的を聞くことだ。
「ボクの叔父を社長にするといったな。何故叔父を社長にさせようとした」
「世界有数の大企業の一つを……内から操りたかったからだ……そのために俺達は神凪一族の中に……社長の座が欲しい人物……またはそれに近い野望を持った人物にコンタクトをした」
「それが……ボクの叔父……。今、お前は『俺達』と言ったな。つまりは複数犯、神凪財閥を裏から操って一体何をするつもりだ」
ゴホッ、ゴホッという咳き込む男。
首から上は治癒されていると言っても、全身を覆う程の大火傷だ。喋るだけで身体中が激痛に苛まれる程だが、一体この男はボクに何を伝えたいんだろう。
「俺はなぁ……ゲーム感覚で人を殺してきた……目の前から、正面から……そんな面白みもねぇ殺しはしない殺し屋だった……」
何だ?こいつは一体何が言いたい?
「後ろから殺し、油断している所を殺し、誰にも見つかれず……隠れて殺す。目標は必ず殺す……そんなリアルステルスゲームみたいな感覚が……好きだった……大好物だった……」
「……質問に答えろ! お前たちの目的は一体なんなんだ!」
「ところが……お嬢ちゃんがすぐ近くにやって来たことで……いらぬ台本を思い付き……通りかがったクソガキにやられた……」
ボクの質問は無視され、尚も続けられる男の独白。
埒があかないと感じたボクは、マジックミラーの先にいる刑事さんに顔を向けた。
これで刑事さんはもうまもなくこの部屋に入ってくるだろう。
「負けて……悔しかった……だかなぁそれ以上に……俺は気付いた……やりたくなかった事、やってこなかった事……それに挑戦するワクワク感は……俺に新たな楽しさを与えてくれた……」
「……は?」
「あぁ……このワクワク感を……他の人に分かち合いたい……なぁ嬢ちゃんよ……」
「な、なんだ……?」
「俺の組織は必ずお前の家を奪う……そして仲間である俺をこんな目にしたクソガキ共に……必ず報復をする……なぁ嬢ちゃん……心配しなくていいかぁ? 俺の膝を壊したクソガキの事が……」
「な、お前まさか!?」
「スリルあるだろう……!? これからテメーらは困難に立ち向かって行くんだ……! ワクワクがすげぇだろ!? そして俺が漏洩した組織の情報を与える事で……組織側にも緊張感が走るんだ……! これが今俺がやりたい事さ……!! 俺の組織……『黄金の理想郷』は……世界を手にする程の力を――」
「危ない!!」
刑事さんがボクを覆い被せるように抱き締めたその直後、目の前の男から何か爆発するような音が鳴り、部屋の様々な所に何かが飛び散る音が聞こえた。
そして、気付いたらボクはオフィスのような所で椅子に座っていた。
シゼンから聞いた話によると、暗殺者の男は何やら機密に関する情報を喋ろうとした瞬間、機密漏洩防止用の魔導が発動し、男は爆発したとのこと。
「その……男は……?」
『流石に……生きていないわね』
「そうか……」
結局ボクはあの男が言っていることは理解できなかった。
精神は既に壊れていて最初の頃の意志疎通は最早奇跡に近かった程だろう。
「……」
未だに脳裏に鳴り響く、部屋中に飛び散った音。
もしシゼンの言う通り、あの男が内部から爆発したということはあの部屋中に飛び散った音は、あの男の肉片――。
「ウッ……」
そう思った瞬間、ボクは吐き気を感じ慌てて口を抑える。
『なるべく思い出さない方が良いわイブキ……。それよりも大事なことはあの男の子の事よ』
あの衝撃的な光景で忘れていた。
もしあの男の言う通り、必ず報復に来るのであればボクの事は当然として、あの時ボクを助けてくれた少年も危ないということ……!
「早くこの事を刑事さんたちに知らせないと……」
八城ゲン。先日の暗殺者事件の時にボクを助けてくれた、魔導が使えない少年。
「ボクの事情に巻き込んでしまった……!!」
どうかお願い、彼が無事でいられますように……!
今連載してる小説よりも優先順位が低い小説ですので気長に待っていただければ幸いです。
あと本日はもう1話投稿します。