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第2話 別れを告げる日常

 時刻は夜。廊下にはボク以外誰もいない中、ボクは扉の向こうから聞こえる会話をそっと盗み聞きをする。


「……おい、いつになったらあのクソガキを殺すんだ?」


 その物騒な言葉を吐く人物の事をボクは知っている。何故ならその人はボクの叔父なのだから。


「おいおい、お前の兄とその嫁が事故に遭っただけだぞ? まだ死んだわけじゃない」

「それでも死んだら遺産は全て、あのクソガキに移るんだぞ!?」

「かといって、どのタイミングでもあのガキを殺したら疑いはお前に向くぜ?」


 それはある一人の子供を暗殺するという恐ろしい内容。

 ボクの身体は震え始め、今すぐにでも逃げたいと感じる程の怖気さが身体中に駆け巡る。

 しかし、今この状況で逃げたらこの人たちが計画している内容は分からなくなる。

 怖い、死にたくない。だからこそ勇気を振り絞り彼らの計画を聞いて対策を立てなければならないのだ。


「クソ! やっと降って湧いてきた幸運なのに……」

「……いや、まだアンタの幸運は続いているようだぜ?」

「は?」


 叔父の仲間である男の発言により、図らずもボクと叔父は驚愕する。

 その瞬間ボクの精霊が、怒鳴るように言葉を発した。


『いけない!! 扉から離れて!!』

「――っ!」


 転がるように扉から離れたその時、扉が吹き飛ばされた。


「おーおー避けたかぁ……やるねぇ譲ちゃん」

「ど、どうして……!?」

「これでも魔導師だぜ? シルフィードの力場を薄く広く増幅させて、周囲の探知を行なうのは朝飯前だ」


 もしそれが本当ならこの魔導師は、ボクがこの扉の前に来る前に気付いていたと言うことだ。

 ならどうして、ボクを暗殺すると言う話を態々聞かせたんだ!?


「たった今俺が思いついた作戦を聞かせてやろう。筋書きは先ずこれだ。『とある組織に雇われた暗殺者が、事故を起こしたとある企業の社長の弟の下にやってくる。理由は勿論、その弟の命を消すためだ』。サラマンドラの『火球』」

「ぎゃあああああああ!!!!」

「叔父さん!?」


 目の前の魔導師が、突然何かを語り出し、いきなり叔父の両足に向けて火球を放つ。

 その火球を両足に受けた叔父はそのまま倒れ、気絶した。

 両足は既に炭化されていて、もう二度と元の脚に治らないだろうと感じた。


「な、何を……」

「『そして瀕死状態になった対象。あわやその命が奪われるその瞬間、この暗殺の光景を目撃した少女がいました。なので口封じのためにも、見られた暗殺者はその少女を殺すことにしました』……どうだ? 完璧な作戦だろう?」

『逃げてイブキ!!』


 シゼンの言葉にボクは我に返った。早く逃げないと……殺される!


「おいおい、この一直線の廊下でどうやって逃げるって言うんだ?」


 この廊下から逃げられないなら、窓から逃げるだけだ。

 魔導師が油断しているうちに、ボクはそのまま窓を破り下に落っこちる。

 ここから地面までは約三階分の高さがある。

 このままだと例え生きても骨折は免れないだろう。


 だけど……例えライセンスを持っていなくとも、ボクは魔導師の卵だ!


「シルフィードの『浮風うきかぜ』!」

「何!?」


 詠唱した瞬間、風がボクの身体を包み込み落下の速度を和らげたのだ。


「チィッ! あの年で、落下という状況から冷静に魔導を起動し、自身の体重と同程度の風を操作しやがったのか! 将来有望だが、逃がさん!!」


 クソ!流石暗殺者をやっているだけはあるのかもしれない。

 ボクと同じく、窓から飛び降りて同じ詠唱をし追いかけてくる魔導師に、ボクはサラマンドラの『活性』を使いボクの脚力を強化して逃げた。


 だがそれも相手は同じだろう。基本的に、ボクが出来ることは相手に出来ると考えたほうがいい。

 早く、早く逃げて誰かの助けを借りないと……!




 ◇




 時刻は夜。僕は静かになった道を目的も無くフラフラと歩く。

 妹からは励ましを受け、母親からは無理しないで言われた。

 しかし、それでも僕はそろそろ決めなくてはならないのかもしれない。


「……適正検査を受けて、それで最後だ」


 その時に、また合格ラインに到達しないのなら、諦めよう。


「……ハァ! ……ハァ!」

「ん? 何だ?」


 息を切らしながら走る声が聞こえた。

 走る音は二人分。夜の時刻で周りに人がいないためやけにはっきりと聞こえる。


「音は、この先か?」


 すると遠目にだが、音の持ち主が見えた。

 一人は少年みたいな格好をした少女。

 そしてその少女を追いかけているのはローブを纏った男だった。


 ――追いかけられているのか?


 見れば、少女の表情は必死だ。対して後ろの男は、顔に狂気を感じさせる笑みを浮かべていた。

 二人は、まだこちらに気付いている様子はない。


「とにかく……助けないと」


 周囲が暗いこの中で、彼女が逃げる先に何か無いか?

 周りに人はいない。彼女を連れてどこか隠れる場所は無いか?

 この二つの条件に当て嵌まる場所は一つあった。

 付近にだが工事途中の建物があったはずだ。


 なら先ずは先回りしないといけない。しかし、悠長に考える暇は無い。

 僕の足よりも、あの二人の足は速い。恐らく何らかの魔導を発動しているのだろう。


「魔導か……」


 人の厄介事に首を突っ込めば、魔導が使えない僕はどうなるのだろうか。

 しかし今は、彼女の逃走ルートを計算して早く目的地に行かなければ。


 ここがいつも散歩しているルートで良かった。

 自然と覚えた道は、僕に最短ルートを教えてくれた。

 どうやら、まだ来てないらしい。幸運なのは、この道は工事途中の建物に入る扉があることだ。


「ハッ……ハッ……!」


 来た。息を吐き出す速度が速い。もう限界だろう。

 男の方は見えない。撒いたのか?

 だが今はいい。僕は扉の中に入り、彼女を待ち伏せる。

 そして、彼女が通り過ぎようとした瞬間、彼女の口を塞ぎ扉の中へと引き込んだ。


「んー!! んー!!」


 僕の事を敵だと思っているのだろう。魔導で強化された身体能力で僕の拘束を外そうとする彼女。

 だが、これでも魔導に憧れて色々勉強したんだ。

 幾ら身体能力を強化しようにも、人間はとある部位を押さえつければ、梃子の原理で思うように動くことが出来ない。人間は主に重心で動くようだから。


「大丈夫僕は敵じゃない。僕は君を助けたいだけなんだ」


 ここで重要なのは、大声や乱暴な言葉を吐いてはだめだ。

 ゆっくりと、相手がちゃんと聞ける様にはっきりと、簡潔に言葉を話すことが重要だ。


 すると僕の言葉を理解したのか、彼女は静かに自身を落ち着かせたのが分かる。

 このタイミングなら大丈夫だろう。僕はゆっくりと彼女への拘束を解いた。


「ふぅ……ごめん。ボクは大丈夫……」

「……あ」

「?」


 そこで僕は、彼女の顔を初めて見た。

 一人称がボクと、少年みたいな格好をしているなどおかしい所はある。

 けど、肩まで届く黒髪に整った可愛らしい外見の少女に、僕は一瞬見惚れた。


「あの……?」

「あ、いや……。……キミは、誰かに追われているのか?」


 咄嗟に何かを誤魔化すように言い放った僕に、不信感を抱く彼女だが切羽詰っているのだろう。

 僕の様子を無視して、彼女は言い放った。


「暗殺者に追われているんだ」

「……暗殺者?」

「君は早くこのことを警察に言って欲しい。ここはボクが時間を稼ぐから」


 確かに合理的な判断だ。第一、彼女は僕が魔導を使うことが出来ないというのを知らない。

 だから、ここは彼女の足を引っ張る前に、僕は僕に出来ることをやるしかない。

 だが、僕が了承の言葉を言おうとした時、それは一歩遅かった。


「言っただろぉ? 俺は探知を薄く広く張り巡らせるのが上手いってよぉ。サラマンドラの『火球』」

「なっ!?」


 いつの間に入ってきたんだ?そう思う前に、彼女は僕を押し倒した。

 その瞬間、大きな火球が目の前を通り過ぎたのだ。


「お前……この人を巻き込むつもりか!?」

「巻き込むぅ? 言いがかりは止せよ。巻き込まれに行ったのは他でもないソイツだぜぇ?」


 確かに正論だ。だけど悪人の正論ほど、説得力の無い物は無い。


「なぁ、この二対一で勝てると思うか?」

「ハッ、ガキ二人が訓練した魔導師に勝てると思うか?」

「勝つ必要は無いよ。〇〇県の〇〇市、郵便番号〇〇〇-〇〇〇〇付近の工事現場」

「……お前まさか」


 流石に露骨過ぎたな。そう思った僕は手に持った携帯を突き出した。

 その携帯の画面には通話中と書かれており、番号は一一〇番。つまり警察に連絡済みだ。


「手際がいいな。何時からだ?」

「お前が俺達に火球を放って、彼女が僕を庇った時からだ」

「あの僅かな状況で、行動したのか……ったくここ最近のガキは判断力がえげつないな」


 雰囲気が変わった……。

 今の魔導師はそれまでこちらを嘲笑うかのような雰囲気だったが、今はナイフのように鋭い雰囲気だ。


「サツが来る前にテメーらを殺す」

「……来るよ! ボクから離れないで!」

「警察が来るまでに、時間稼ぎに徹底することが重要だからな!」


 本当に……適性検査云々の前に僕の最後が来そうだな。

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