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天津高校の日常  作者: オシュレイ
3/3

遠足だよっ☆ 全員集合〜♪

今年もやって来た、恐ろしい遠足の時間。

新学期にはつきものの、鬱イベント。

去年は山に行ったが、今年は……、

「今年の遠足は山だよっ!」

……ですよね。

俺は思い溜息を一つ吐き出した。

この学校の遠足は三年間山だ。

おまけに、一年より二年、二年より三年と、だんだん険しくなっていく。

普通に人間をやっている俺には厳しいイベントだった。

「煉? 溜息なんて吐いてどうしたよ」

「妖怪の、しかもボスの君にはわからない悩みだよ」

「…………?」

心配そうに見てくる兎角は余裕そうだ。楽しそうにしている様子も見受けられる。

「…………あれ、そういえば遠足っていつだっけ?」

「ん? ……言われてないよね?」

ぽつりと呟くと、兎角も隣で首を傾げた。

すると、明らかに京はしまったという顔をした。

「…………言い忘れてた」

「「まさか……」」

「明日ですー! ごめんなさい、言ったつもりでした! テヘッ☆」

軽いノリで先生が言う。

マジですか、マジですか。

先生、なんてことしてくれるんですか……! まだ準備何もしてない……!

(他の人は大丈夫かもしれないけど、俺は薬とかたくさん用意しないと駄目なんだよ!)

今から考えるだけでも頭が痛い。

「……もしかして、煉は人間?」

「人間だよ……」

「それは大変だ!」

兎角が驚いたように目を見張った。

しかし、兎角はそのまま顔を明るめ、優しい声音で俺に言い聞かせた。

「でも、大丈夫! 俺が危険から煉を護るよ」

その後頭を撫でられたのは癪だったが、その言葉に酷く安心感を覚えた。


ーー翌日。

「……うわぁ」

それはもう、凄い山だった。

落石、ガンガンじゃん。

「皆さんー、ここから登るよー!」

「嘘でしょ! 断崖絶壁だよ!?」

思わず叫ばずにはいられない。

こんなところ登れるはずがないんだ。

(先生は登れるの?)

チラリと京のところを見ると、……京は大型の鳥に跨って、涼しい顔してこちらを見ていた。

「先生……、絶対許しませんから」

「わー、煉顔が怖いよ? せっかくの遠足だから楽しんでこー?」

これが楽しんでいられるものか。

心の中で毒づいた。

「じゃあ、ボクは先に上に登って待ってるので、皆も早く来てねー!」

京はそう言うとそそくさと登って行ってしまった。

どうやって登れば良いのだろう。クラスの子はちらほら登り始めているが……。

「煉、ちょい良い?」

「え、……うわぁ!」

「ん、煉軽いわ。もっと食え?」

いきなり隣にいた兎角が俺を軽々と担ぐ。

え、何この人、力ありすぎ?

(流石妖怪のボス……あ、目が回ってきた)

兎角が岩と岩の隙間をすごい脚力で蹴り上げて上へと登っていく。

途中何度も降ってきた落石なんかは、俺を担いでいないもう片方の手で叩いて粉砕していた。(その際、岩の欠片さえ俺に当たらない……この人本当に凄いな……!)

「煉、大丈夫? 気持ち悪いとかない?」

「目が回った……」

「あと少しで上着くから、頑張って!!」

兎角の優しさが心に染みた。

うん、兎角が自分を慕っててくれて良かった。

「はい、着いたー。煉、お疲れ」

「ありがとう……! 本当に助かった!」

「いえいえ、気にすんな」

兎角がニコッと笑い、親指を立てる。

本当、かっこいいなこの人。

「…………っと、隙ありっ!!」

「うおっ!?」

突然、背後から凄い勢いで走ってきた少女が、兎角に飛び蹴りを食らわせた。

ジャストヒット。見事過ぎる飛び蹴り。

俺が驚いているうちに兎角は綺麗にはね跳び、崖から落ちていってしまった。

「……って、兎角君!!」

「ハッ、ざまぁ!!」

俺が崖の淵から下を見ていると、少女は大きな声でそう叫んだ。

これは酷い。酷すぎる……!

「ああ、大丈夫だよ。残念ながらアイツ崖から落ちたくらいじゃ傷一つ出来ないから……残念ながら」

残念ながらを強調しながら少女はそう言う。振り返って少女の顔をよく見ると……兎角とよく争っている、妖怪の四ボス(兎角も四ボスの一人だったと思う)の一人だった。

「A組の、しかも兎角の姿が見えたから、これはもう落とすしかないと思ったのよ。そだ、煉アタシのこと知ってる?」

「レイカさんだよね? 有名だから、知ってるよ」

「そー、覚えててくれてありがと! 私B組なんだけどさ、クラスあんま関係ないみたいだし一緒に行動しない?」

「待て、レイカ。煉に手出すんじゃねぇ。死ね」

「あらら、全く。兎角は言葉が汚くて困るね!!」

いつの間にか崖を登ってきていた兎角がレイカに向けて蹴りを食らわそうとするが、レイカは余裕そうな顔をしてそれをひらりと避けた。

それから、悪い笑みを顔に浮かべる。

「あれぇ? もしかして兎角君、アタシに蹴り一つも食らわせられない?」

「……落とすぞ」

「あんたこそ、もっかい落としてやるよ」

険悪モードな二人に、俺は慌てて仲介に入った。

「ま、まぁまぁ……二人共落ち着いて。先生のところまで行こう?」

三人でね。俺がそう付け加えて言うと、二人は煉の方を見て表情を和ませた。

「煉が言うなら仕方ねぇな」

「しょーがない、兎角も加えてやるか」

「……全く、レイカのせいで煉に恥ずかしいとこ見せちゃったじゃねぇか」

「醜いのは兎角の方でしょ」

「うっせぇ! ほら、行くぞ」

「餓鬼扱いしないでよね」

喧嘩しながら二人は俺の後についてきた。

良かった、険悪モード収まって……。だけど、あの……、

「ら、落石怖いぃぃ」

「ああ、煉の後ろにいちゃ駄目じゃん!」

「うっかりうっかり」

すかさず二人は前に出て来て岩から俺を守り始める。

うん、お二人共本当にお強い……心強いね。

「ごめんね、足引っ張って」

「いいや、大丈夫だから。気にすんな」

「いざとなれば兎角を盾にすると良いよ〜。ってか、落石は是非兎角を盾に……」

「うっさい、黙れ」

「最後まで言わせろよ〜」

「…………ん、なんかある。ちょいレイカ、マジで黙れ」

ワイワイと歩く二人だったが、ある所まで歩くと突然ピタリと止まった。

それからバッと俺の方を振り返る。

「「煉、後ろっ!!」」

「…………え?」

一瞬の出来事。

二人がとっさに動こうとしたが、それより先に俺の視界が暗転した。

何だこれ、俺、今度は何に巻き込まれたの……?


視界がクリアになったときには、全く景色が変わっていた。

なんだろう、いかにも怪しいといった、危険だとしか思えない神社。いるだけで呪われそうだ。

「へへっ、久々の神隠しだなー」

「神隠し!?」

「そそ、君今神隠しにあってるよ」

貴重な体験だねー。そう言って現れたのは、一瞬で目を奪うような美しい少年だった。

一つに結ばれた長い髪と、切れ長な目の色は、角度によって色が変わる。

細く、透き通るような白い肌には、何箇所か包帯が巻かれていた。

明らかに、禍々しい……!

「なんかさー、楽しそうだったから連れて来ちゃった! オレも構ってよ」

「えええ……」

何その理由……。ってか、凄い無邪気な顔してめっちゃ立派な刀俺に向けてるよね? 見間違いではないよね?

「刀……」

「あ、これ? よく切れるよ」

ニコッと少年は言う。

待って、よく切れるよじゃないでしょう。

(これ、マズイよね……!)

ゴクリと唾を飲み込み、持っていた自分のバックに手を突っ込む。

ああ、良かった。ちゃんと持ってる。

(ひとまず……逃げろ!!)

俺は刀を構える少年から急いで逃げ出した。

少年は大きな声でカウントダウンを始める。

「十数えたら追いかけるねー!」

少年は楽しそうにそう宣言した。

俺は近くの木の裏に隠れ、息を整える。

(落ち着け、俺……こういう状況にはなれているはずだろ)

息を整えると、より視界が鮮明になる気がした。

俺は先程確認したそれをバックから取り出す。

ーー愛用の銃だ。

これであの少年とやりあえるかはわからなかったが、とりあえずやるしかないだろう。

「十数えたよー! 行くねー!」

少年がキョロキョロとあたりを見渡し始める。

俺は精一杯息を殺して、木の上へ登った。

ジッと少年を視界に捉える。

銃を構えて集中力を高めた。

「…………ハァッ!!」

耳を劈く音がして、銃弾が放たれた。

少年は俊敏に反応し、弾を刀で受け流した。

「おおー、燃えるねぇ」

少年はニタリと嫌な笑みを浮かべると、こちらに向かって走りだした。

(……速い、けど)

先生に散々叩きこまれたから、ついていける。

俺は少年の攻撃を軽々と避けた。

伊達に天津高校の三年生をやっているわけじゃない。

俺は人間とはいえど、戦闘の腕には多少自信があった。

「あれー? おかしいな、当たらないー」

少年は不思議そうに首を傾げてそう呟いた。

(……マズイ、こっちも攻撃できない)

少年は驚くほど隙がない。

攻撃を仕掛けるタイミングが見当たらなかった。

と、その時……、

「にょー」

呑気な声と、鋭い斬撃。

少年は背中を切り裂かれた。

「いったぁ……! 誰ー?」

「にょー? 自分かにょ? おれはねー、フィッシングって言うんだよー」

「黒い猫?」

いつの間に、と少年は少し戸惑ったように零した。

クラスメイトだ。フィッシングという、黒猫の少年。どこまでも間抜けな喋り口で、昨日先生を散々戸惑わせてたっけ。

「最初からいたにょ。君が気づいてなかっただけで、煉と一緒にここに入り込んできたみたいにょ」

嘘っ、と少年は驚いたような顔をした。

少年の様子はお構いなしに、フィッシングは俺の方に近づくとすりすりと擦り寄りながら言葉を続ける。

「もーそろそろ皆が来る予感にょ。そしたら、煉と一緒に遠足に帰るにょ」

フィッシングはそう言うと今度は少年に駆け寄り、「背中大丈夫?」なんて気にしていた。

少年は少し俯くと、可笑しそうに笑った。

「あはは、君ら面白いねー! 一体どこの人なの?」

「天津高校、三年生」

凛とした声が、少年の問いかけに応える。

少年は明らかにビクリと肩を震わせた。

「こんなイタズラしかけるのはどこの悪餓鬼かと思ったら、月咲つきさきじゃない」

「レイカに兎角……なんでいんの?」

「俺らも、天津高校の生徒なんだよ」

少年の目が泳いでいる。どうやら知り合いらしい。

兎角はスタスタと少年に近づくと首根っこを掴んだ。

「下らないことしてんじゃねえ! 煉に手を出すとは何事だ!」

「あはは、ごめんって! レイカや兎角の知り合いって知らなかったのー。許して!」

「大体ね、こういう日頃の行いが悪いからーー」

兎角が少年に説教を始めた。

レイカはハァと一つ溜息を吐き、こちらを見た。

「月咲が迷惑かけたね。どうもアイツは血の気が多くて困るわ。あと、兎角説教始めると長いから先帰っちゃお」

「にょー、帰るにょ」

「あら、フィッシングもいたの。可愛いなぁ」

フィッシングがレイカに頭を撫でられている。確かに可愛い。

「二人共、お疲れ様。アタシについてきてね」

ようやく帰れる……俺は安心して銃をしまった。

久しぶりに銃なんて使ったから、ドッと疲れてしまった。このまま家に帰りたい気分だ。

「あ、そうそう。煉達がいない間に遠足終わっちゃって、先生達先に学校で待ってるみたいだよ。学校まで一飛びで行っちゃう?」

「えっ、本当? お願いします!」

「おれもお願いするにょ」

「よっしゃ、やるぞー!」

レイカがそう言うと、じわりと景色が変わった。

次の瞬間にはもう俺らは学校にいた。

「煉ー! あれ、フィッシングも一緒だったんだ」

「一緒にょー」

「何はともあれ、災難だったね! 月咲って、結構有名な刀の付喪神だけど、大丈夫だった?」

「大丈夫です」

俺が頷くと、京は安心したように笑った。

「良かった。だいぶ強くなったね、煉」

「……ありがとうございます!」


解散した後、帰ろうと思ったら兎角が待っていた。

兎角は俺に気づくとふにゃりと微笑んで駆け寄ってきた。

「今日は月咲が迷惑かけてごめんな」

「いや、大丈夫だよ」

「一緒に帰ろう」

「うん」

帰り道、兎角は月咲の話をしていた。

喧嘩早いけど、大切な仲間なのだと。

話し方から、弟のように可愛がっていることが伝わってきた。

(今日はいろいろあり過ぎて疲れたけど……)

でも、なんだかんだ楽しかったかな。

今日の遠足はそんな風に思えた。

なにより、

(強くなった、か)

少し……いや、かなり嬉しい言葉だった。

(これからも頑張ろう!)

俺はそう意気込んで、家路についた。


ーー翌日。

「転入生が来ましたよー!」

「ハーイ、月咲って言います! 皆よろしくね♪」

明らかにこちらを見ていたずらっぽく笑う少年。

目をつけられてしまったようだ。俺は密かに頭を抱える。

(ってか、先生俺がこの人に襲われたの知ってたよね!?)

この人の転入を許した先生を、心から憎く思った。

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