恋の話と
柚子とヒナミ。
放課後、柚子とヒナミ、数人の女子で恋の話で盛り上がっていた。
もちろん女子なので、そういう話に食いつかないわけもなく、キャッキャッしている。
「アタシ、この前カレシとデートしたんだけど、全然楽しくなかった」
ツインテールの女子が髪をいじりながら話す。
「えー? チョーラブラブなのに?」
ポニーテールが、うそーと言うように身を乗り出す。
柚子とヒナミは、話を聞いている。
「だって、全然リードしてくれないし、手だってアタシから繋いだんだよ? あり得なくない?」
「えー? でも、引っ張っていけるのいいじゃん。ウチなんてデートしたらクタクタだよ? あちこち振り回されるし──」
二人の話に、柚子は落ち着かないようにモジモジしている。
それに気づいた二人が声をかける。
「どうしたの? 夏見」
「トイレ?」
「違うわ……! その、付き合ったら、楽しいの?」
「夏見興味あるんだ。てかカレシ居ないの?」
「……うん」
と柚子が小さく頷く。
「へえ〜。そうなんだ。あれよ。好きなら何してても楽しいよ。ね?」
「うん。楽しい。たまにめんどくさくなったりするけど、楽しいよ」
「そうなの──」
と柚子は考える。
もし舛田と付き合えたら……って何考えてるの//?! 私は!? 接点なんてないじゃない//! と柚子は顔を叩く。
「何夏見? 顔赤くない? もしかして、好きな人いるの?」
とツインテールがニヤニヤしながら柚子を見る。
「えっ//!? 別にいないわよ//!」
「顔赤いよ〜? 言っちゃいな!」
ポニーテールも悪ノリしてくる。
柚子はだんだん顔が真っ赤になっていく。
「ほらほら、夏見」
「言っちゃいな言っちゃいな!」
「い、いないって言ってるでしょう////?! ひ、ヒナミはどうなのッ//?!」
と柚子はヒナミに話題をふる。
二人もヒナミに視線を向ける。
「確かに。羽山はどうなの?」
「好きな人と何したい?」
とヒナミに質問をする。
柚子は自分から話題がそれて、ホッと息を吐く。
ヒナミはそうだな、と前置きして話し始めた。
「私は……自分のことだけ見てくれる人がいいな──」
「一途ってこと?」
「うーん……ちょっと違うかも。私だけ見るようにするって言うのかな? 他の女子が近づけないような……こう、なんて言うのかな……」
ヒナミの目が、だんだん薄黒くなっていく。
「二股なんて、許せないよね……? そうなったら、彼を誘惑した女子がいけないから、その女子に釘を刺しに行くかも。だって、そうしないとわからないんだもんね。仕方ないよね? そう思うでしょ──?」
二人は背筋に寒いものを感じて、小さく身震いした。
「でも、それはやり過ぎじゃない? ねえ?」
「そ、そうだよ。何か他にないの?」
「ないかな……。でも、彼にすり寄る汚い女子たちを駆除するのは楽しいかもね──」
とヒナミはニコリと微笑んだ。
それを見た二人は、羽山のカレシには気を付けようと思った。
もし気安く話しかけたら、殺られるかもしれない──
その後、これ以上ヒナミの話を聞いていたら、自分たちの恋愛観がおかしくなるかもしれないと判断した二人は、お開きにした。
「楽しかったね。柚子ちゃん」
「そうね。あ……」
と下駄箱に向かう途中、柚子は教室に忘れ物をしたことに気づき、ヒナミに言った。
「ごめん。忘れ物したみたい。先行ってて」
「わかった──」
ヒナミと別れて、柚子は教室に引き返した──
*
「あった──」
机からノートを取り出し、鞄にしまう。
「急がなきゃね──」
と少し急ぎ足で教室を出た。
廊下の曲がり角を曲がったとき、柚子は誰かとぶつかり、変な声をあげた。
「ぶひゃっ──!」
「あ。大丈夫?」
鼻をこすりながら顔を上げると、前に秋乃がいた。
心配そうな顔で柚子を見下ろしている。
「舛田?!」
「はい。大丈夫?」
「大丈夫よ//! 気を付けなさいよねッ!」
「え、うん……」
「それじゃあね////!」
と柚子は駆けていく。
秋乃は、歩いてたんだけどな……と柚子を見ながら思った。
柚子は、何で謝らなかったの?! 変な声出ちゃったし////! もう最悪//! 私のバカっ! となりながら下駄箱に向かった──
ヒナミの恋愛観が……