次は……
眼鏡を借りて。
それは、ある日の昼休み。
秋乃が、眼鏡男子について語っていた。
「眼鏡男子は、カッコいいんだよ。眼鏡外した時の顔も、また違ったカッコよさが生まれるわけだから、眼鏡男子はすごい」
「……なぜ僕を見ながら言うんだ?」
犀が読んでいた本を閉じながら、眼鏡のブリッジを押し上げる。
秋乃は犀の前の席に座っている。
「眼鏡を貸していただけないかと」
「自分のはないのか?」
「うん。ない。生憎、視力は両方ともよくて」
「……嫌味か?」
犀が眉間にシワを寄せる。
「いやいや。そういうわけじゃ……ただ、眼鏡かけてみたいなぁ、と思って」
「ダテを買えばいいだろう」
「そこまでじゃないんだよ。ちょっとだけなんだ」
お願い! と秋乃は手を合わせて頭を下げる。
「……はぁ。仕方ないな。汚したら、ただじゃ済まないからな──」
「やった! ありがとう!」
犀は渋々眼鏡を外して、秋乃に渡した。
「あ……湯川可愛い」
ふと眼鏡無しの犀を見て、秋乃が言った。
眼鏡で少し大きくなっていた目が、当たり前だが眼鏡を外したことにより、本来の目の大きさになる。
「あ?」
犀が低い声で、しかも目付きを鋭くしたので、秋乃は前言撤回する。
「嘘です。怖いです。鬼みたい」
「……」
誰が鬼だ? と犀の目が物語る。
「それも嘘です。じゃあ、ちょっと借りる」
「教室から出るなよ」
「ラジャー」
と秋乃は犀に敬礼して、眼鏡を装着。
「うわっ……」
くらくらする……と秋乃は眼鏡を外して目を擦る。
「大丈夫か?」
犀が訊く。
「ん……」
「眼鏡? 湯川のか──」
章が通りかかって、立ち止まった。
「貸してくれた」
「へえ。お前目悪くないよな」
「うん。バリバリ」
「だよな──」
また犀は、嫌味か? と思いつつ、二人を見る。
ちなみに章も視力がいい。
「そういえば、湯川は野嶋と仲良いよな」
と近くの席に座りながら、章が言う。
「まあ。小学校からの付き合いだからな」
「えっ? そういう関係……!?」
と秋乃が口を押さえる。
「……平井、舛田はバカなのか?」
「いや、アニメとかに影響されてるだけだと思う。代わりに謝るわ。ごめんな……」
「いや、べつに……」
「あ、そっちの気ないから──」
「「わかってるわ」」
章と犀がハモる。
秋乃は、ハモった! と思いながら眼鏡をかけたり外しを繰り返す。
「……で、野嶋っていつからああなわけ?」
「さあ? 僕が寝てる朔の上を気づかないで歩いた時に、もう一回って言われ始めた気がするな──」
と犀は腕を組む。
「お前のせいじゃん!」
「……確か小学二年の時だったな」
「早いな!!」
章がツッコむ。
秋乃はいつの間にか窓際で眼鏡をかざしている。
「あ。それからだ。苦痛に顔歪める人を見るとワクワクし始めたのは……」
「……重症じゃねえか」
「でも、朔みたいな人は何とも思わないんだ──」
なぜだろうか? と首を傾げる。
たち悪な……と章は思った──
「眼鏡じゃん。誰の?」
「ん? 湯川の。借りた──」
眼鏡をかざしていた秋乃に香月が声をかける。
「へー。オレにも貸して」
「汚すなって言ってた」
「ハッ。まかせろ。このオレがそんなヘマやると思うか?」
「うん」
「即答すんなよ……」
少し肩を落としながら、眼鏡を受けとる。
そして、装着する。
「どうだ?」
「おお! カッコいい!」
「だろ? あたりま──」
眼鏡を外して、秋乃に渡そうとしたら、滑って眼鏡を落としてしまった。
「ヤバいヤバい──」
──ギュッ……
鈍い音が、秋乃と香月の耳に届いた。
「「…………」」
「あれ? 何か踏んだ?」
香月が拾おうとした時、運悪く朔が通りかかり、踏んだ……
不幸というのは、だいたい連鎖するものだ。
だから、香月が眼鏡を落とした時から、連鎖は始まったと言っても過言ではないだろう。
「あれ? あぁ……ごめん。誰の?」
朔が眼鏡を拾い上げ、秋乃たちに見せる。
「……えっとぉ」
「湯川の……」
「え……?」
朔はゆっくり振り返った。
犀が席を立ち上がり、近づいてくる。
「あはは……犀、ごめん……踏んじゃ──」
「は?」
「気づかなくて……」
「それで済むと? 朔が少し下に注意して歩いてればこうはならなかった。違う?」
「……はは」
「笑って済むと思ってんの?」
秋乃と香月は章の所に避難する。
「あ。久しぶりに犀に怒られた!」
「……はぁ〜っ。返せよ。今日直しに行く」
「怒んないの?」
「いい──」
と眼鏡を取り、席に戻る。
まだ朔は犀のあとにつきまとう。
「犀、ごめん」
「しつこい──」
「思いっきり殴っていいぞ!」
「キモ」
「もっとお願い!」
「チッ」
舌打ちをして、小さくため息を吐いた。
「次、こういうことがあったら、許さないからな──?」
秋乃と香月はコクコクと頷き、朔はキラキラと目を輝かせていた。
章は目付きの悪い犀を見て、湯川だけは怒らせないようにしようと、心から思った──
休日投稿です。お知らせまで(_ _)/