表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/79

虫取り行こうぜ!

お久しぶりです。


秋乃「最近暑すぎじゃない…?」

香月「水分補給しっかりな!」

章「塩分も忘れずにな」

 蝉の鳴き声が増えてきた今日この頃。

 休日、舛田(ますだ)秋乃(あきの)は自分の部屋でゲームをしていた。

 すると「ピンポーン」とインターホンが鳴る。

 家には母が居るので、秋乃は気にせずゲームを続ける。

 少しすると、部屋のドアが叩かれた。


「秋乃、友だち来てるわよ」

「ええ? ……今行く――」


 誰だろと秋乃は思いながら、セーブをしてから部屋を出る。

 玄関に向かって、チェーン越しにドアを開けると、そこには田端(たばた)香月(かづき)が居た。


「香月じゃん。何してるの?」

「誘いに来た!」

「……何の?」

「この格好見ればわかるだろ?」


 と香月は左肩に虫かごを提げ、右手に虫取り網を持っている。

 服装も半袖短パンで、頭にはキャップを被り、柄を後ろにしていた。


「あ〜……分かりたくないけど、わかる」

「なら話は早い。一緒に行こうぜ!」

「遠慮します――」


 と秋乃はドアを閉める。

 向こう側で「おい! 閉めんな! 開けろ!」と香月が吼えるので、秋乃はまたチェーン分ドアを開けた。


「暑いじゃん、いいって……」

「そんなこと言わずに! 楽しいって!」

「いやいいよ」

「てかさ、まずチェーン外してくんね? 何でチェーン越し? オレ不審者とかじゃないよ?」

「外したら終わりだと思ってる」

「終わりってなんだ終わりって――!」


 二人が玄関で騒いでいると、秋乃の後ろに母がやってきて口を挟む。


「――ちょっと、近所迷惑になるからやめてくれる? それと、休みの日家にばっかり居るんだから、たまには外行ってきたら? こうして誘いに来てくれてるんだから――誘われるうちが華よ」


 母に言われ「そうだそうだ」と虫取り網を掲げる香月を見てから、秋乃は「はぁ」と小さく息を吐き、それから「わかったよ」と呟いた。


「テレビ消してくるから、ちょっと待ってて」

「よっしゃー! 熱中症対策もしっかりな!」

「……はいはい――」


 変わらずやる気の香月に、秋乃は早く帰れればいいなと思いながら、テレビを消しに自分の部屋に戻るのだった。



 テレビを消して香月と合流した秋乃は、自分だけ連れ回されるの嫌だなぁと思いながら、香月に訊く。


(しょう)は誘わないの?」

「何言ってんだよ。これから誘うに決まってんだろ?」

「来るかなぁ」

「来るかなぁ、じゃなくて、連れ出すんだよ――」


 ニヤリと口角を上げる香月を見て「うわぁ最悪」と呟きながら、おれだけじゃなくてよかったと秋乃は内心思うのだった。


           *


 平井(ひらい)章の家に着いて、香月がインターホンを押し、秋乃は後ろで待っていた。


『――はい』

「あ、章居ますか? 田端香月です、香月って言えば伝わると思います」

『ああ、章の友だちね、ちょっと待ってねーー』


 インターホンが切れて少しすると、足音が近付いてきて、恐る恐るドアが開かれる。


「……なに?」


 秋乃同様、チェーン分ドアを開けて、章が隙間から顔を覗かせた。

 今まで寝ていたのか、所々はねている髪を軽く整え、章は眉間に皺を寄せて香月を見る。


「よっ、これから虫取り行くから、章も来いよ」

「だる……」

「だるい言うなよ――てか章もチェーン外さないのなんなの? 秋乃もさっきチェーン外さなかったんだけど」

「え? あー……外したら終わりだろ」

「理由も一緒かよ! 何が終わりだよ! 始まりだろ!」


 ドアの前で吼える香月に、章は「うるさいうるさい」と注意しながら、秋乃に気付いて言った。


「……あれ? 秋乃もいんの? 珍し」

「仕方なくだよ」

「仕方なく?!」


 秋乃の返答に驚きながらも、香月は章に続ける。


「仕方なくでもなんでも――、一緒に虫取りしようぜ!」

「二人で取れよ、外暑すぎ、出たくない」


 外に出る気はないようで、章はドアのチェーンを外す気はないようだ。

 そんな章に「そんなこというなよ」と香月は続けた。


「この夏、オレたちと最高の思い出作ろうぜ!」

「何で虫取りだよ、小学生かよ」


 そう怪訝な顔をする章に、香月は「ちっちっち」と人差し指を振って言う。


「わかってないな……。小さい頃は無邪気に取っていた虫だが、珍しい虫は高値で取り引きされるらしいじゃないか……! これすなわち、小遣い稼ぎでもあるのだ!」

「……なるほど?」


 香月の説明に、今まで行く気を見せなかった章も少し考える仕草を見せる。

 それから納得したのか、香月に言った。


「その話、乗ろう」

「よっしゃー! じゃ、熱中症対策しっかりしてこいよ!」

「了解――」


 さっきまで渋っていたのに、それが嘘だったかのように章はドアを閉めて部屋に戻っていく。

 そんな章を見て、取れなかったら意味ないのでは……?と秋乃は思ったが、それを言ったら帰ってしまうかもしれないので、心に(とど)めておく秋乃だった……。


          *


 準備を終えた章を迎え、三人は公園に来た。

 至る所から蝉の鳴き声が聞こえてきて、夏を感じる。


「……さて、目的地に着いたわけだが――。虫取り網、オレしか持ってないの?」

「虫取りしてこなかった人生なもので……」

「近所の子どもにあげちゃったな」


 と秋乃と章が答える。

 香月は「なら仕方ないか」と呟いて、改めて虫取り網を掲げて言った。


「それでは、虫取りを開始する! 各々気になる虫がいたら、隊長であるこのオレに声をかけること。虫取り網を持って参戦するからな!」


 「いつから隊長になった?」「今だけでしょ」とごにょごにょ話す二人に、香月は「やるぞー!」と一人気合い十分に探し始めるのだった。



 それぞれ木を見たり、秋乃はベンチで休んだり、香月は蝶々を追いかけたり、章はもう飛んでいるトンボを見て「季節間違ってね?」とツッコんだり……。


「――はーっ、全然捕まらん!」

「おれたちにはまだ早かったんだ……」

「虫取りに早いも遅いもねーだろ」


 一旦三人でベンチに座って休憩していると、少し離れた所で子どもたちの声が聞こえた。



「なんか居るぞ!」

「ほんとだ! レアかな? すっげーでけー!」


 と子どもたちは虫取り網でつんつんと突っつく。

 それはかなり大きいのか、子どもたちは背伸びをして虫取り網を伸ばしていた。

 その様子を見て、香月は「よし」と呟いて秋乃と章を見る。


「……子どもたちが諦めたところで、横取りしよう」

「大人げないね」

「オレたちだって子どもだろ? 関係ないね」

「そういうことじゃなくね――?」


 そう三人がごちゃごちゃ言い合っていると、子どもたちは中々それが取れないのか、諦めた様子で首を振り、木から離れていった。


「よし、今度はオレたちの番だな、行くぞ!」


 待ってましたと言わんばかりに香月は立ち上がって、子どもたちが居た木に向かう。

 秋乃と章も香月の後を追って、木に向かった。



「……何かいた?」

「だいぶデカいぞ! 売ったら相当な額になるんじゃね?!」


 秋乃の問いに、香月は木を見上げて鼻息を荒くする。

 確かに、枝と枝の間に何かが丸く固まっているように見える。

 香月は虫取り網の端を持ち、思い切り下から網を突き上げた。

 香月が伸ばした虫取り網は、見事それに命中する。


「いったッ――!?!」

「「「え――」」」


 返ってきた言葉に三人が固まっていると、それは枝の間からスタッと降りてくると、ゆっくり立ち上がって、虫取り網が当たったであろう腰辺りを撫でた。


「酷いでござる……結構な力だったでござるよ……」


 と枝の間に居た忍者は、悲しげな声で続ける。


「せっかくの休み、なぜこのような仕打ちに遭わなければいけないでござる……」

「忍者さんだ――何してるんですか? 虫かと思いましたよ」

「すいません、結構な力でやっちゃいました……」


 秋乃と香月に言われて、忍者は痛む腰を撫でながら口を開いた。


「ずっと学校に居るのも疲れるでござるから、こうしてたまに公園に来るのでござるよ。外の空気は良いでござるな――」


 うんうんと頷きながら空を眺めてから、忍者は三人に視線を戻して訊く。


「ところで、何故(なにゆえ)田端殿はそんな網を持っているでござる?」


 香月は「あぁ」と虫取り網を見てから答えた。


「虫取りに来たんですよ! 高値で取り引きされる虫を捕まえて、小遣い稼ぎしようと思って!」


 フフンと鼻から息を吐く香月に、忍者は「なるほど」と手を叩いて頷いた。


「それはいい考えでござるな」

「でしょう!」

「忍者さんは木の上で何してたんですか? 虫探してたんですか?」


 「ふっふっふ」と笑う香月の横で章が訊くと、忍者は「探してないでござるよ」と続ける。


「拙者、いつも狭い空間や高い所に居るでござろう? だからか、木の上など、地面よりも落ち着く気がしてな。だから木の上で眺めていたでござる――子どもたちが無邪気に走り回っているのを見ると、平和を感じるでござる」


 そう言ってから、周りで走り回る子どもたちを見て優しく微笑むと、忍者は三人に向けて言った。


「暑いでござるから、水分補給をしっかりするでござるよ。じゃあ、そろそろ拙者はまた学校に戻るでござる。レアな虫が捕まえられるといいでござるな。では――」


 一方的に伝えると、忍者は身軽にジャンプして木に上がり、そのまま木の枝と木の枝の間を縫って走っていく。

 残された三人は顔を見合わせて、思わず言っていた。


「すごい、マンガで見たことある走りしてる」

「忍者さんってホントに忍者走りするんだな!」

「……やっぱり本物なのか……?」


 それぞれ驚きと発見、そして疑問を口にする三人なのだった……。



 そしてその後、何も捕まえないで帰るわけにはいかないと、香月は虫取り網を振り回していた。


「何か入れー!!」

「あんなんで入るか?」

「入らないんじゃない――?」


 章と秋乃はベンチに座って、蝶々を追いかけ回す香月を見て話す。


「捕まえられたとして、どのくらいの値段になるかだよな」

「……そういう問題?」

「そうだろ?」


 真顔で「違うのか?」と首を傾げる章に、秋乃は本当に稼ぎにきたのかと内心驚いていると、香月が二人を呼ぶように叫んでいた。


「秋乃ー! 章ー! 野嶋(のじま)捕まえたー!」

「「は?」」


 二人はポカンとしてから、少し離れた所にいる香月の元に向かう。

 近くに行くと、香月は虫取り網で捕まえていた。

 捕まえていた、というか野嶋 (さく)の頭に虫取り網を被せていた。


「――何してんだお前は」

「香月、野嶋は虫じゃないよ。人間だよ」


 と章と秋乃が言うと、頭に虫取り網を被っている朔が口を開く。


「田端は俺を虫みたいな存在だと思ってるってこと……? 最高だね。なんならもっと強く被せてきても大丈夫だよ!」


 何故か目を輝かせる朔に、章は周りを見渡してから言った。


湯川(ゆかわ)はいないのか――? こういう時の湯川だろ」

(せい)は本屋に行ってるよ。一緒に行くってついて行こうとしたんだけど、お前は邪魔だから公園で虫の気持ちでも考えとけって言われて」


 と朔は「ははは」と小さく笑って、(ひたい)にかいている汗を軽く拭ってから続ける。


「夏の虫はどんな気持ちでいるんだろうって考えてみたんだけど……、この暑さに正常でいられるわけないし、それでもこの暑さの中で鳴き続ける蝉たちは、きっと自然に虐められて嬉しくて『ありがとうありがとう』って鳴いてるんじゃないかなって思って――。なんか、シンパシー感じちゃった」


 虫取り網を被ったまま口角を上げる朔に、章は「なわけないだろ」とツッコんだ。


「鳴くのはオスの蝉だけで、求愛行動だぞ。だから暑さに喜んでるわけじゃないからな? あと普通に熱中症になるから、早く帰れ」

「そうだったっけ、はは、暑さにやられたかな」

「野嶋の頭が暑さにやられる前に、早く解放してあげないと――」


 秋乃が虫取り網を外すと、朔は少し残念そうな顔をして呟く。


「もう終わりか……」

「そういう遊びじゃないからね。香月もダメだよ、虫取り網なんだから」

「ごめんな野嶋……。あまりにも虫が捕まらないから、ついボケに走っちまったぜ……危ない危ない」


 そう香月は(ひたい)を腕で拭うと、諦めるように続けた。


「そろそろ帰るかぁ、虫も捕まらないし……」

「早く帰るべきだったろ、忍者さんに会った後に」

「確かに、それもそう」


 と章と秋乃が顔を見合わせて頷くので、香月は「なんだよ」と少し拗ねたように口を尖らせる。


「なら早く言えよな〜――てか、野嶋も嫌なら嫌ってちゃんと言えよ?」


 香月が朔に言うと、朔は「大丈夫だよ」と満面の笑みで答える。


「むしろドンと来いだよ、久々にこういう扱いされて嬉しかったし、ありがとう」


 何故か嬉々とした顔でお礼を口にする朔に、香月は若干引きながら言った。


「……おぉ、じゃあ、また学校でな!」

「じゃ、また」

「ちゃんと水飲めよ――」


 そう三人は朔に別れを告げ、公園の出入口に向かって歩き始める。


「……久々に野嶋の狂気を感じたわ」

「わかる、普段は隠してるだけなんだなって思った」

「普段も隠せてるか怪しいけどな」


 とツッコみつつ、章がちらりと後ろを見ると、まだ朔は立ち尽くしていた。

 熱中症にならなきゃいいけどな、と思いつつ章はまた前を見る。

 そして三人は背中に蝉の声を受けながら、公園を後にするのだった――






その後。

犀「…ちゃんと帰ったか?」

朔「帰ったよ。水分補給もしたし、安心して」

犀「そうか、ならいい――」


自分で言っておきながら、朔がちゃんと帰ったか少し心配していた犀でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ