折り畳み傘
大変、お久しぶりです。
関野さんとこの二人だけが絡むのは初めてな気がしますね。
この三人の関わりが見たかったので(^^)
湯川犀
野嶋朔
放課後、犀と朔は図書室に寄ってから帰るところだった。
「……あ、雨降ってる」
「本当だ――」
朔の声に犀は外に目をやって、参ったな、と眼鏡を押し上げる。
「天気予報は晴れだっただろう」
「ん、……あ、雨に変わってる」
と朔がスマホで天気予報を見て、犀に見せる。
確かに、太陽の晴れマークから、傘の雨マークに変わっていた。
「傘持ってきてないぞ。朔は持ってるか?」
「いや、降らないって思ってたから持ってきてない」
「だよな——」
どうしたものかと犀が考えていると、朔が良いことを思いついたというように手を叩く。
「一つ良い案を思いついた」
「何だ?」
「俺が傘になるよ」
きらきらとした目を向けてくる朔に、聞いた俺が馬鹿だったと犀は眉間に皺を寄せて溜め息を吐いた。
「それで俺が完全に濡れないとでも思ってるのか……? 完全に濡れない案を出せ、無能が」
「久々の罵声……! 堪んないね……!」
「気持ち悪いな——」
ちっ、と舌打ちをすると、朔はふふふと嬉しそうに微笑む。
久々にこういう朔を見るが、本当に気持ち悪いな……と犀が無言で居ると、そこに靴に履き替えた関野がやってきて、二人に気づいた。
「ぁ……、舛田くんの友だちの、湯川くんと、野嶋くん、だよね……?」
「あぁ、関野か——、こうして話すのは初めてかもしれないな」
と犀は関野に気づいて返答する。
関野は「そうかもですね……」と少し考えるような仕草をしてから、少し暗めの赤色眼鏡を押し上げた。
「クラスも違いますしね。……二人は今帰りですか?」
「そうなんだ。でも傘を持ってなくてさ」
朔の返答に、関野は「じゃあ」と提案する。
「私、折り畳み傘あと二つ持ってるので、貸しますよ?」
「え、いいの?」
「……折り畳みを二つ? 心配性なのか?」
二人に訊かれ、関野は少し赤面しつつ答えた。
「うん、大丈夫だよ——。あ、これにはわけがあって、この前私が傘を忘れたときに、夏見さんと羽山さんに傘に入れてもらって、それで、もし二人が傘を忘れたら私がいつでも貸せるように、下駄箱に常備してるんです。持ってきますね——」
そう答えてから、関野はほわわんと微笑むと、下駄箱に向かっていく。
「……なるほど、それで持ってるのか」
「優しい人だね」
「だな」
犀と朔が話をしていると、折り畳みの傘を持って関野が戻ってきた。
「お待たせしました。ちょっと可愛いかもしれませんが、よければ使ってください」
「おぉ……」
「これは……」
関野から受け取って、二人が傘を広げると、可愛らしい花柄が目の前に広がった。
見るからに女の子らしい模様で、男二人でも使うのに少し勇気がいる……。
「……あ、やっぱり恥ずかしい、ですよね……? すいません」
「いやいや、関野さんが謝らないで、持ってない俺たちが悪いんだから」
「あぁ、謝ることはない——が、可愛いな」
そう二人が言うと、関野は少し照れながら答えた。
「はは……、でも、夏見さんと羽山さんに使ってもらうなら、やっぱり見た目も可愛いのがいいかなぁ、と……」
答えてから、関野はハッとしてから慌てる。
「今はそんなこと言ってる場合じゃないですよね!? すいません——、あ、どうしますか? 傘、使います……?」
親切に傘を貸そうとしてくれ、なおかつ見るからに女子用を使うことへの心配り、そして、友だちのために折り畳み傘を常備している……。
そんな関野の好意を無駄にするわけにもいかないだろう、と思うのと同時に、本当に優しい人なんだなと二人は心が温かくなる。
「……使わせてもらうよ」
「うん、俺も――」
「そ、そうですか?」
なおも心配そうにする関野に、犀と朔は微笑んで頷いた。
「あぁ、明日返すよ。ありがとう」
「これで濡れないしね——。俺が傘になっても良かったんだけど」
「え……? か、傘?」
朔の言葉に関野が首を傾げて犀を見る。
犀は「あぁ、気にしないでくれ」と関野に答えた。
「いつものことなんだ」
「いつもの……??」
関野が理解できずにいると、犀は「じゃ」と傘を肩に傾けて告げる。
「傘、明日返す。また明日」
「ほんと、ありがとね、じゃ——」
犀に続くように朔も傘を肩に傾けて歩いて行ってしまった。
「えっと……、傘になる……? いつもの、こと……?」
残された関野は、どういうことなんだろう……と首を貸しげるのだった。
*
一方その頃、雨が止むまで教室で駄弁っていようと考えた秋乃と章、香月は窓際で外を眺めていた。
「雨止まねーかなー」
「そう簡単には止まないでしょ」
「だからこうして待ってるんだろ」
と香月の呟きに、秋乃と章が答える。
そうだけどさーと香月は呟いてから、少し遠くに花柄でおもむろに女子という風な傘を見つけて、おいおいと笑った。
「なあ、あれ見ろよ、めっちゃ花! しかも差してるの男子……」
と香月は最後まで口にせずに止まった。
「どうした?」と秋乃と章が外に顔を向けると、そこには振り向いてわざとらしく笑う犀と、やっちゃったね、という風に苦笑いする朔がいた。
「っ……す、素敵な傘ですねー!」
慌てて取り繕う香月に、犀はぱくぱくと口を動かしてから真顔になって、それから朔と歩いて行った。
「え……、今何て言ってた? 怖くて知りたくもないけど、知っとかないといけない気がする……」
「たぶん、明日覚えておけ、だと思う」
「いや、明日殴る、じゃないか?」
「……いや、どっちも地獄——!」
秋乃と章の言葉を聞いて、香月は一人身震いするのだった——
その後、篠山が来たので。
関野「野嶋くんは…、傘の擬人なの…??」
篠山「え!?」




