手紙
お久しぶりです…!
秋乃「遅くなったけど、明けましておめでとうございます」
章「ほんとな。今年もよろしくお願いします」
香月「昨年もありがとな!」
犀「鈍足だけど、終わらないぞ」
朔「今回は、上から三人の話だよ」
ある日の朝、下駄箱の前で、香月は手紙を手にしていた——。
「…………」
「……香月どうしたの?」
「あ? 果たし状か?」
秋乃と章も香月の手元を覗き込む。
「ら……」
「「ら?」」
「ラブレターじゃね?!??」
と香月はワクワクしたような、興奮気味な声を発して手紙を掲げた。
「ちゃんと女子っぽい字で、オレの名前書いてあるし!!」
「ほら!」と香月は手紙を二人に見せる。
確かに手紙の表には、可愛らしい文字で『田端香月くんへ』と書かれていた。
裏面は星の形のシールで蓋がされている。
「うわ、遂にモテ期到来か?!」
「モテ期到来って、一人からモテても意味ないんだよ」
「多数にモテてこそのモテ期到来だぞ」
「いや分かってるわそれくらい!」
と秋乃と章に香月はフンと鼻を鳴らした。
「とりあえずホームルーム始まる前に、教室行ってから話そう」
「そうだな」
「おっけ!」
と秋乃の提案に章と香月は頷いて、三人は教室に向かうのだった。
教室に入ってから、秋乃と章は香月の机に集まった。
「さて、これが本当にラブレターなのかってことだよな」
「貰った本人がそれを言うのか」
章にそう言われ、香月は「だって」と続ける。
「ぶっちゃけ、オレの良い噂聞いたことあるか?ないだろ、自称イケメンの変態だぞ?!」
「自ら傷を抉ってくスタイル……」
「わかってんな」
秋乃は目を閉じ、章は鼻で笑う。
香月は「おいおい」と机を軽く叩いた。
「そこはフォローする所だろ! 友だちだろ?!」
「友だちだけど、真実を曲げちゃダメだよね」
「それな」
「おかしいだろ……」
二人の冷たい対応に香月は絶望してから、パッと顔を明るくして話題を変える。
「そんなことはどうでもいいんだよ!! よくないけど! 今は、手紙を貰ったっていう事実があるんだ。どこの誰かはわからないけど、オレに好意を抱いてくれてる子がいるってことだろ?! 最高じゃね??」
いつになくテンション高めな香月に、章が「落ち着け落ち着け」となだめた。
「釣りとかだったらどうすんだよ。罰ゲームってこともあり得るわけだろ」
「そうだよ、よく考えた方がいいよ。ゲームだったら香月はなれて主人公の友だちの友だちなんだから」
「それモブだろ——じゃなくて、今はオレが主人公だろ?!」
「……まぁ」
「……そうだな」
「なんだその間は?!!」
「ホームルール始めるぞー」
三人で話していると、担任の山井が入ってきて、話はそこで一旦中断になる。
三人は顔を見合わせると、後でなと目配せして秋乃と章は席に戻っていった。
「……気になるよな~」
ホームルームが始まったが、香月は手紙が気になって仕方なく、山井に気づかれないように、そっと手紙を開いた。
『 田端 香月くんへ
こうして手紙を書くのは初めてで、田端くんも私の事知らないと思うけど、気持ちを伝えたくて今これを書いてます。
でも、文字にするのもいいと思うんだけど、やっぱり直接伝えたいから、もし私と会ってくれるなら、今日の放課後、体育館裏で待ってます。
時間は四時半とかでいいかな……?来てくれたら嬉しいです。 』
「……ガチっぽくね??」
手紙を読み終えた香月は、手紙をささっとしまい、顔を両手で覆う。
「絶対可愛い~っ……!」
「おい田端、何一人で笑ってんだ」
「いや、人生に花が咲くかもしれなくて……」
「何言ってんだ——」
浮かれながら言う香月に、山井は呆れたように言って「連絡事項は——」と話を戻した。
香月は「うわぁ~~」と小さく呟きながら、一人悶えるのだった。
*
昼休み。
香月は章と秋乃に話していた。
「……オレ、放課後行くわ」
「体育館裏ってことは、果たし状じゃね?」
「香月、ボロボロにされるよ」
「心配してくれてありがとな。でも、この子に会ってみたいんだ……」
と香月は遠い目をする。
章はそんな香月を見て、首を横に振った。
「……ダメだ、もう気持ちは放課後に行ってる」
「仕方ない。見届けてあげよう。おれたちで——」
「一体どんな子がオレに好意を抱いているんだろうな……!」
頷きあう秋乃と章に気づかないまま、香月はうっとりと放課後に想いを馳せるのだった……。
*
そして、香月が待ちに待った放課後。
秋乃と章は最後まで罰ゲーム説だと言いながら、三人は体育館裏に向かっていた。
「ほんとにいいのか? 罰ゲームだったらめちゃくちゃへこむぞ?」
「そうだよ香月、まだ引き返せるよ」
「いや……、お前らどんだけオレの気持ちマイナスにさせんだよ——。ま、罰ゲームだとしてもさ、オレはいいんだよ」
と香月は少し苦笑いになって続ける。
「てか、普通にどんな子か気にならね?! めっちゃ気になんじゃん! あと、罪悪感とか、その子が嫌々やらされてるなら、気にしないでいいよって、言ってあげたいし」
「……香月」
「……ちゃんと考えてたんだな」
「ま、オレの勇姿、ちゃんと見とけよ——」
そう香月はニッと笑うと、体育館裏に進んでいった。
秋乃と章はひっそりと影から覗く。
香月が体育館裏に進んでいると、一人の女子が困ったような顔で後ろを見ていた。
「……私には出来ないよ」
「大丈夫だって、盛大に振ってやれ!」
「で、でも……っ」
「ヤバッ、来た——」
聞こえてるんだよな……と香月は苦笑いになりつつ、あたかも気づいていないフリをして、その女子に近付いた。
「……えっと、もしかして、手紙くれた……?」
「あ、はい、そうです……」
女子は言いずらそうに視線を泳がせる。
香月は笑って、女子に言った。
「手紙、ありがとな。嬉しかった。でも、罰ゲームでしょ」
「えっ」
「さっきのやり取り、聞こえてた」
と香月は女子の後ろに視線を向けてから、小さい声で伝える。
「だから、気にしないで大丈夫」
「ご、ごめんなさい、私……っ、その……」
ぎゅっとスカートを掴む手が震えていて、香月は「はぁ」と一つ息を吐いて女子に言った。
「無理矢理とかなら、気にしないで。こうしないと何かされるとか言われたんだろ? なら仕方ない仕方ない——オレでもそうするかもだし。でも、また今度同じような事しろって言われたら、やっちゃダメだぞ。逆上して何かされたら大変だしさ」
「っ……はい、すいませんでした……」
申し訳なさそうに頭を下げる女子に、香月は「謝んなって」と笑って続ける。
「もういいから、それより、ちょっと笑ってみ」
「はい……?」
「早く早く」
香月に促され、女子は少し引きつったように笑顔を作った。
「こう、ですかね……? はは……」
「うん。いいじゃん。笑ってた方が可愛いよ」
「え」
「じゃ、まあ、校内で会ったら、その時はその時で、よろしく」
「はぁ……」
まだポカンとする女子に手を振って、香月は体育館裏から離れる。
離れる途中、後ろから「何失敗してんの~」「ダメじゃん!」という声と「いい人だったよ」と言う女子の声が聞こえてきて、香月は少し寂しそうに笑った……。
*
「おかえり」
「ただいま……」
「どうだったよ」
秋乃と章に迎えられ、香月は「罰ゲームだったよ……」と言って肩を落とす。
「やっぱり。なんか、女子謝ってなかった?」
「ああ、ごめんなさいって。無理矢理やらされてた感じ」
「なるほどな」
「……オレにいつか、春は来るんだろうか……」
そうぼやく香月に、秋乃は「安心して」と肩を叩いた。
「毎年来てるよ」
「いや、季節的なものじゃなくてな」
「来ないんじゃね?」
「言うな、思ってても言うなよ章……」
二人に肩を叩かれながら、なんで毎回オレだけ……と香月は深く息を吐くのだった——
香月「意外と可愛かったんだよなぁ…」
秋乃·章「ドンマイ」




