風とテニスとS心
テニスだ!
「ぶああっくしゅっ──!」
豪快に、香月がくしゃみをした。
辺りに唾が飛び散る。
「汚ねえなあ!」
と章が眉間にシワを寄せて言った。
「仕方ねえだろ〜? 寒いのに半袖短パンで外って、くしゃみするしかなくね?」
と香月はまたくしゃみをした。
秋乃たちのクラスは体育で、外でテニスだった。
「テニスだよ、テニス」
「だから何だよ」
と章がどこかそわそわしている秋乃に言った。
「テニスって言ったら、あれだよ? えっと──あった」
秋乃はラケットを構えると、スッ……と章に向けて言った。
「まだまだだね──」
「……戦ってねえし、どこぞのテニスマンガだよ」
と章が向けられたラケットを手でどかす。
「じゃあやろうぜ!」
と香月がラケットを持ってくる。
「香月、負けても文句無しだから」
「わかってらあ。秋乃には、絶対負けねえぜ──」
秋乃と香月の間をバチバチと見えない何かが飛び交う。
章はラケットを持ち、またくだらないことやんのか、と思いながら二人を見た──。
*
「秋乃弱すぎだろ!」
「うーん。頭の中では完璧だったんだけど……」
試合の結果、香月の勝利。
秋乃は、思っていた以上に弱かった。
「体がついていかないんだよね」
「おじさんかよ──」
と章が秋乃にツッコんだ時、ちょうど隣のコートから歓声が上がった。
「湯川スゲエ!」
「何かいつもより輝いてね?!」
生徒が群がる所の隙間を見つけて、秋乃たちはコートを見た。
そこには、いきいきとテニスをする犀の姿があった。
「もっと動けっ──そんなんじゃ、ボールは打ち返せないぞ──!」
スパンッと、犀がスマッシュを決めて、ふう。と一息吐き、眼鏡をくいっと上げる。
「めっちゃ強くね?!」
「負かせるのが、楽しいんだろうよ」
と章は香月に言う。
秋乃は、湯川の本領発揮とか、珍しい……。と犀を見ている。
「犀は、負けて悔しがる顔を見るのが好きらしいよ」
と朔が隣に来て言った。
「ちなみに、けちょんけちょんにやられたよ。いやあ、あの負けた人を見る目がさ、こう……ゾクゾクするよね!」
と朔は目をきらきらと輝かせる。
「……うん。もう何も言わないよ」
と秋乃は一人頷いた。
「……さて、次の相手は誰だ?」
犀がラケットを手にとんとんやりながら、コートに群がる生徒を見渡す。
「はいはい! オレやる!」
と香月が手を上げて言った。
「いいぞ──」
ブチのめしてやる……。と呟いた犀の言葉は、コート外の生徒には聞こえていない……。
「よっしゃあ、こ──」
スパンッ!
香月がコートに入り言うが早いか、犀はスマッシュを打ち込んだ。
「どうした? 打てないか?」
「……待って? 何か、コートの中と外で、空気が違うんだけど──」
「香月〜、湯川本気だから、気をつけろ〜」
秋乃が香月に向かって言った。
「え……?」
ちらりと犀を見ると、犀の目はぎらついていた。
「コートに入ったら、戦場だって、先生が言ってたろ──っ!」
シュッ──と鋭い音が香月の頬を掠めた。
「ちょ……待て待て待て待て? これ──」
テニスじゃなくね──!?
次々と飛んでくるボールを、危ないと思ったら避けて、打ち返せるものは打ち返して、香月は戦った。
が、犀の燃えるS心に勝つことはできなかった。
吹いていた冷たい風も、コート内だけは生暖かかったという……
犀「あー、楽しい(黒笑)」
休日投稿ですが、次は来月の第二、三週目からになります。




