見たいじゃん?
やっぱ男子だからさ……。
秋乃の通う高校には、プールがある。
体育の時間に、今日は男子、今日は女子という風にかわりばんこにある。
そして今日は、女子の番だ──
「柚子ちゃんえいっ」
「あ、ちょっとヒナミ、やめてよ──」
今は自由時間。
ヒナミが柚子に水をかける。
「冷たくて気持ちいいでしょ?」
「そうだけど……えいっ」
「きゃ、やったな──」
とわいわいと盛り上がっていた──
*
その頃の二組。
国語の授業だが、自習。
「何か、一組女子プールらしいんだよね」
香月がにやりと笑う。
「ここは、見に行くしかないだろ!」
「授業中に教室を出ていいわけないだろ」
と犀が眼鏡を押し上げながら言う。
「そんな堅いこと言うなよ。ちょっと見に行くぐらいだからさ!」
グッと親指を立てて、香月は笑う。
だが、犀は言う。
「教室を出ること自体がいけないんだ」
「いいじゃんいいじゃん! 今回だけ、な?」
「先生に叱られても知らないぞ」
「さすが湯川! ムッツリス──ブハッ」
犀が香月の頬を叩いた。
香月は頬をさすりながら言う。
「なんだよぉっ! 打たなくたっていいだろ!」
「誰がムッツリなんだ? 全く……行けばいいさ。僕は知らないが」
「うおっしゃ! 行くぞ秋乃!」
と秋乃の腕を取る。
「え、ちょっ──章もゴー」
「は? あ、おい──!」
と秋乃に腕を掴まれ、章も行くことになった。
「……大丈夫なの? あれ」
朔は犀に訊く。
「知らない──」
と犀はシャーペンを動かすのだった。
*
「うおお! 遊んでる遊んでる──」
プールの柵の外から、ちょうど簾が切れている所で香月が中を覗いて言う。
「やっぱスク水でも、十分見る価値があるよなぁ」
「何? 『キャー。田端くんのエッチぃ〜!』って言われたいの?」
と秋乃は暑いなぁとシャツの第二ボタンまで開ける。
「なわけないだろ! ウフフキャハハしてる女子が楽しそうに遊んで、当然揺れる豊かな胸を見るのがいいんじゃないか!」
「変態か」
「だね──」
冷ややかな視線を二人が送るも、香月には効かない。
「いやぁ、めったに見れないからなぁ」
と女子を見る香月をよそに、秋乃が思い出す。
「確か、夏見さんと羽山さんいるんじゃないかな?」
「そういえば一組だったか──」
「あ! 夏見と羽山だ! 夏見頭お団子にしてるぞ! ちょっと見てみ」
と香月が呼ぶ。
二人はとりあえず、見てみる。
「ほんとだ。お団子だ。……あぁ、レデンツもお団子ヘアーのフィギュア出ないかなぁ──」
「そこ?」
「何してるの……?」
そこに気づいたレデンツこと柚子と、ヒナミがやってくる。
「どうも、夏見さんと羽山さん」
「舛田くん。それに田端くんと平井くんだ」
「何? 覗き? 最低ね」
と柚子が荒んだ目で香月を見る。
ちょうど、香月が柚子を見上げる形になっていた。
「夏見意外と胸あるんだな」
「「「…………」」」
香月の一言に三人が固まる。
「なっ……//////!?」
すると柚子の顔がだんだんと真っ赤に染まっていく。
そして腕で胸を隠すようにしてから言葉を並べ立てる。
「最低最低最低っ////!! 女子の水着姿見て鼻の下伸ばしてなんなのっ////?! ほんと最低////!! いやらしい目で見て////!! ヒナミそいつに近づいちゃだめだからね! 絶対!」
「わかった。わかったから落ち着いて! 大丈夫だから」
「ヒナミ、離れて──!」
もちろん、柚子の怒りが収まるわけもなく……。
プールに向かうと、近くにあったバケツをガッと掴み、目一杯水をすくい容れる。
そしてすたすたと歩いてくると、思いっきりバケツを振り上げ、水をぶちまけた。
──バシャァ……ポタ、ポタ……
「イライラするっ! 行くよヒナミ!」
「柚子ちゃん──」
柚子はずんずん戻っていく。それをヒナミは追っていった。
「いやぁ、避けて正解だった」
「そうだな──」
二人はちゃっかり避けたので、濡れなかった。
香月だけが頭から水を被り、びしょびしょになっている。
「……冷た」
「自業自得だよ」
「だって〜……見たいじゃん?」
仕方ないよと言わんばかりの顔をした香月を見て、これはまたやるな……。と秋乃と章は思うのだった──
着替えてから気づく。
柚子「(舛田居たよね?どうしよう、口悪いとか思われてたら……あぁ──)最悪……」
ヒナミ「大丈夫?」
柚子「だめ……(涙)」




