夜の学校
遅くなりました。
夜の学校。
秋乃と香月は、ある計画を企てていた。
「さて、夏と言えば──」
「肝試しだな!」
「そう。で、やっぱりここは学校でやるべきだと思うんだよね」
と秋乃は腕を組む。
「雰囲気もあるし、ぴったりじゃん?」
「確かに。……でも何で急に?」
「小さいことーは気にするな、それワカチコワカチコ〜」
「懐かしい! ……じゃなくてさ、何かあんだろ?」
「おっ。さすが香月殿、察しがいいですのぉ。実は最近、章がイライラして燃えてるから、背筋を冷やしてあげようと思って」
「原因、オレたちじゃね?」
と香月が指摘する。
「…………」
「…………」
「まあまあ、それはそうだけど──まあ、単におれが章の怖がるところを見たいだけなんだけどね」
「それは一理ある。 オレも見たい!」
「でしょでしょ。じゃあ決まりだ。明日の夜、決行」
「楽しみだな!」
と二人で盛り上がっていると、ネタにされている本人、もとい章が来る。
「盛り上がってんな。何の話よ」
「章の怖がるところを見ようっていう話」
「なんだそれ」
章はくだらないというように、呆れた顔をする。
「だから、明日の夜空けとけよ!」
「学校探検だ!」
「……あぁ、そう──」
てか、夜に学校入れんのか? と章は思った──
*
そして、当日の夜。
「いやあ、セコムしてなくてよかった。ほんと──」
秋乃たちは、一階の廊下を歩いていた。
運良く?一階の男子トイレの窓の鍵が開いていたため、そこから入室、もとい侵入した。
「やっぱ雰囲気あるな……」
香月が辺りを見回しながら言う。
確かに、昼とは違って誰もいない学校は静かで、些細な音でも大きく聞こえる。
それに廊下は薄暗く、月の光だけが頼りになってくる。
「てかライトは?」
「そんなものに頼るわけないじゃん。もうっ、章くんったら」
「バカにしてんのか?」
「冗談だよ。ライトは、雰囲気を楽しむために持ってきてません」
と秋乃が胸を張る。
「さすが秋乃! 考えることが違うな!」
「いや、ただのバカだから。てかどうすんだよ。あっちすげー暗いんだけど」
と章が立ち止まる。
前方には、窓が木に隠れて光が入ってこない場所がある。昼でも電気をつけっぱなしにするぐらい薄暗い所だ。
「ここは、章が前で香月、おれの順で」
「いやいやいや。ここは章だけで」
「ふざけてんのか──」
と言ったあと、章が何かを察知してゆっくりと指をさした。
「……誰だ?」
「忍者さんじゃないの?」
「ああ、忍者──」
だが、動きが何か違っていた。
左右にゆらゆらと揺れていた。
「忍者さんって、あんな動きだったか?」
「酔拳とか?」
「学校にお酒持ってきちゃだめだろ」
「香月、そういう問題じゃない──」
そんな会話をしてる間に、“何か”は明かりが届く場所まで近づいてきていた。
当たり前だが、三人に近づいてきているのだ。
「……これってあれか? 逃げないといけないパターンか?」
「そうだね。逃げよう──」
秋乃の言葉を皮きりに、三人は背を向けて走り出す。
「待てやあああああ──」
と野太い声と共に、足音が近づいてくる。
「ヤバいヤバいヤバい!」
「香月振り返ってみ! ちょっとでいいから!」
「やだよ! 秋乃が振り返れ!」
「いやだよ──とお」
と香月の足に自分の足を引っ掛けて転ばせる。
「ブッ──」
香月は、廊下に突っ伏した。
そして秋乃は言う。
「さすが、香月は友だち思いのいいやつだなぁ」
「お前最低だわ──」
そう言いながらも走りをやめない章も、秋乃と同じだろう。
少ししてから、うわああああああという香月の悲鳴が聞こえた。
「……どうする?」
「連れて帰らないとだろ……」
立ち止まって少し考えてから、二人は戻りだした──
*
戻ってみると、香月の隣に山井がいた。
「お前ら、何してんだよ」
「先生こそ何してるんですか?」
「見回りだよ。週直で」
「なるほど──それじゃ、おれたちはここら辺で……」
「明日、お前ら反省文な。学校に不法侵入したってことで──」
と山井が怒りに満ちた笑みを浮かべる。
「「「……はい」」」
三人は、やっぱりね……と思いながら頷いた──
*
「てかさ、香月何で悲鳴あげたの? 先生だったじゃん」
「確かに──」
家に帰る途中、秋乃と章が訊く。
香月は何言ってんだ? というように二人を見ながら言う。
「ちげえよ。オレが叫んだのは、血眼の髪の長い女が首絞めてきたから。で、先生に呼ばれて意識が戻ったんだよ。マジ怖かったんだからな──!」
学校では暗くてよくわからなかったが、電灯に照らされた香月の首には、うっすらと手で絞められた痕があった……。
その日の出来事は、秋乃と章、もちろん香月にとって、忘れられない思い出となった──
休日投稿です。(今回は別)




