クリアライフ6―――選択―――
「俺はやるよ」
壊れはてた街中で、ポツリと青年がつぶやいた。
「そんな、やめてください!!そんなことをしたら貴方は!!」
「どちらにしろ、このまま放っておけば俺は――――――いや、俺たちは死ぬ」
「でも……貴方が行うことによる死とこなまま私たちが死ぬのとでは死の意味が違いすぎます!!」
「なに、魂が存在し続けるぐらい平気だ。それに、覚醒するまで眠り続けるわけだし、実質普通に死ぬのと変わらない。覚醒するかどうかすら怪しいのだから。それに、これが俺の責任だ。やらしてくれ」
「……わかりました。我々、ミリル親衛隊は貴方を信じます」
「ありがとう……じゃあな」 青年は笑うと呪文を静かに唱え始める。
それにはたくさんの願いが込められている。一文、一語……いや一音ごとの重さを感じる。この音に反比例するように周りの獣の雄叫びや酸素がなくなりそうなほどに青く燃える炎の音、風の音に寒くも無いのに降る雹の音が止んでいく。そして、彼は魔法名を、全てをリセットするトリガーを告げた。
「三種の呪鍵!!」
光輝く彼の体。そして、一瞬爆発的に瞬き次の瞬間には姿は無くなっていた。変わりに金色の光、暗い闇色の光、黒や緑等の色に変色し続ける光が生まれる。闇色の光はどこか遠くに去っていき、変色する光は徐々に形を成していき大きな狼となり何処かに走り去り金色の光は魔法を発動した青年の近くにいた別の男の体内に入り込んだ。
「受けとりましたよ……隊長」
男が呟くと目をとじる。その顔はとても穏やかだった。
世界の歪みがもとに戻っていきそして、獣も炎も雹もなくなり、空は綺麗な蒼が支配していた。
「―――夜美、福田、石田、僕達は本来の目的であるミントを連れ戻すことが出来た。まずは、お礼を言うよ。ありがとう」
僕―――冨本秀一は共に戦ってくれた三人―――星野夜美、石田湊人、福田海斗に対して頭を下げた。ミントは少しばつの悪そうな顔をしている。
「気にするなって、な」
「そうだぜ」
石田、福田がそれぞれ言葉を返した。
ここは石田の古代魔法武器を使った魔法、時流の変動により時間の流れが変わりこの空間において時間の流れが速く(体感的には変わらない)なっているのでここで一分すごすと空間外では一秒しかたってない。なので計算上一時間過ごしてやっと空間外では一分である。なのでこの空間で魔力および体力を回復するとともに作戦会議を行うことができる。一応不意打ちを警戒して時流障壁の上に僕の魔法、魔力合成・闇合成の植林により物理攻撃を完全に無効かしているため外部からなにかしらの攻撃がきても大丈夫なようにしている。
そして僕らは今、円を囲むように座っている。
「それで……わたし達が来たときにいたあの男の人って……誰なの?」
夜美がおずおずと尋ねてきた。その質問にミント=クリア=ライトが答えた。
「あの方が、堕天使の党首、堕天の頂上に立つ者こと、ミリス=クリア=ライトよ」
「あの人が……」
夜美はなにか考えるように口の中でその言葉を転がした。
「元の目的、ミントの奪還は成功出来た。でも、僕は奴の野望を知ってしまった……だから、僕はそれを止めたいんだ」
「その野望って?」
夜美の問いに少し長くなるけど、と前置きをして伝えた。
彼のいきさつ、神になろうとしていること、制限のない魔法はその過程に過ぎないこと、僕の知っている全ての情報を伝えた。
あまりのスケールの大きさに三人とも呆然としていたがしばらくすると夜美がある疑問を言った。
「でも、その神という存在は人がその宗教に入っているのが前提でしょ?今はそんな宗教は無いし、あったとしても無信仰の人や別の宗教を信じている人だっているんじゃ……」
確かにいわれたらその通りだ。僕自身、その話を聞かされたときは興奮状態にあったからか完全に見落としていた。だが、ミントはあぁ、と頷いてから答えた。
「確かに、現在その宗教は存在しないわ。しいていうならこの堕天使そのものがその宗教ね。だけどね……聞いた通り一度その宗教は世界に強く根づいた、私は別としてシュウイチやヨミ達の先祖がその宗教を信仰していた可能性が高い。そして、信じられないかもだけどここまで強く根付き存在したものをヒトは完全に忘れることは出来ないの。その宗教を信仰しようとするものがDNAの奥底に刻まれている、それを呼び起こす魔法はある。だから、その魔法で……」
「なるほどな」
僕を始め他三人も納得する。
「とにかく、だ。そういうことなんだ。僕はミリスの野望を止めたい。協力をしてくれないか?」
「協力ってのはちょっと違うよな。なっ、福田」
「あぁ、そうだな。星野」
「えっ?あ、うん。そうだよ、秀一君。協力する、しないじゃなくて、一緒に戦うよ」
「あっ……ははっ。そっか。ありがと」
僕は笑いかける。
「じゃ、少し休憩しようか。魔力回復の為にもな」
改めて声を作り直し伸びをしながら言った。
「あの……フクダとイシダの持ってる古代魔法武器の魔力供給、私がやろっか?」
「えっ?確かにしてほしいっちゃ、してほしいですけど……休まなくていいんですか?」
「私は……神から産まれた悪魔は欠片から常に魔力が発生してるか所有者の魔力切れることは無いの」
「じゃ、お願いします」
石田は笑顔でいって、福田もそれにつられ二人ともミントに古代魔法武器を差し出した。
「光弾魔法」
ミントが告げると手から光の弾が放たれ二人の持つ古代魔法武器に吸い込まれていく。
「―――ミントさん、よかったね」
夜美が僕の近くによってきて話しかけてきた。
「あぁ、そうだな。正直、連れ戻した所で負い目を感じて黙りこんだり恐縮したりするんじゃないかと思ってたんだけど……共通の敵をもったこともあってかなんとかすぐに馴染みそうだな」
魔法供給をしながらなにやら話をしている三人を見ながら言った。まだ少し大人しい印象を受けるが直ぐにいつもの……僕達といたときと同じ雰囲気に戻るだろう。
「そうだね……」
「……?」
夜美の含みを帯びた声音と顔を受ける。
なんなんだ、と一瞬考えるが直ぐに思い出した。そして、僕は呟く。
「―――答え」
「えっ?」
「答え、でたよ」
「……そっか」
夜美は柔らかな笑みを見せた。でも、僕の答えはきっと彼女の笑顔を曇らせるのかもしれない。どうするべきなのか……
「その、答えはすべてが終わった後に聞かせて」
「い、いいのか?」
「ふふっ。全て、終わって日常を取り戻してから……ね」
「―――!!あ、ははっ、そうだな」
僕は彼女の言葉の真意を―――未来の約束を、この窮地から脱した世界の約束をする。
「何、話てるの?」
ミントに尋ねられる。
「いや、なんでも……明日の時間割はなんだっけ、みたいな……そんな話だよ」
「ふ~ん?」
ミントは首をかしげながら頷いた……その時。
「―――――ずいぶんと楽しそうに話をしているネ」
「っ!!」
突如響いた一つの声にあわてて振り向く。その視線の先にいるのは―――。
「い、石田?」
僕はその人物に声をかける。だが、明らかに口調は違った。その口調は紛れもなく―――。
「ミリス。何をした!!」
「そんなに気を張らないでくれよ。ただたんにこの体を少し使わせてもらってるんだ」
「そんな……不可能だ!!ここは外部から魔法の影響を受けるはずがない!!」
「精神乗っ取り。知ってるだろ?あれを少し改良したんだ。キミ達がこの空間に入る前にこの人物にボクの意識を潜ませておき……一定の時間になるとボクの意識が表れるよう設定されているんだ」
「なにが目的だ……?」
「だから、気を張る必要性は無いって言ってるだろ?仮に下心があったところで現在媒介としているこの体は魔力がないし、この気持ち悪いドクロで魔法使ったところでキミ達にすぐ取り押さえられるだろうしね」
確かにその通りだ。なら、なにしに出てきた。
「ただ、ボクはタイムミリットの時間をさらに詳しく説明しに来たんだよ。第一タイムミリット。22時に欠片の調合は完成しボクはその調合後の物質、全てを解除する鍵を受け取る。そうなればボクは今以上の力を手に入れキミたちを圧倒する。第二は23時20分。キミたちの言う制限のない魔法ってのが手に入る。これは互いにメリットになるかもね。そして、最後、第三のタイムミリットは24時00分。準備が完了しボクは生み出した魔法、絶対なる守護神により神になる。そうだね……影響を及ぼすのに書かつ時間は1分ぐらいかな?」
「ちっ」
舌打ちを打ち時間を確認する。この空間に入って一時間がたとうとしていた。この空間に入ったのは18時17分―――つまりは現実には一分しか過ぎてないわけだから18分なわけだから第一のタイムミリットまでは後3時間43分。決してゆっくりしている時間はない。
「待ってください」
そこに凛とした夜美の声が響いた。
「どうしたんだい?」
「どうして、わたし達にそんな情報を?」
「何となくだよ。しいていうなら最高の舞台を作りたいだけさ。地獄を生み出し王となったルシファーVSキリストと地に堕ちずにその名を守ったサタナエルとその一行……最高の脚本じゃないか」
ミリスはそう言って笑う。
神には二人の息子がいる。キリストとサタナエル。神話通りならばサタナエルは後に地獄に堕ちサタンとなるのだが……地に堕ちずに残り兄弟のキリストと共に戦う……世界の命運をかけると言っても過言ではないこの場に置いては確かに最高の役者が揃っているわけだ。
「……ミントさん、どうでしたか?」
「えぇ、バッチリ見えたわ。確かに、嘘は一つもない……だけど、隠し事をしている」
ミントはミリスを凝視していった。そうか……これは見破る嘘の上位互換、深層の色。人の感情が色として見える魔法だ。
「ははっ!!何をしているかと思いきや……さぁ、ボクが隠していることがわかるかな?っと……そろそろ消えるけどね」
「おい!!」
「じゃぁね」
ミリスは石田の顔で嫌味に笑ったと思ったらすぐに石田の表情が消える。
「―――ん、ん?えっ、な、なんでみんな俺みてんの?」
自我を取り戻した石田は困惑した顔で僕たちをみる。
「……説明してやるよ」
福田は僕達をチラリと見て石田に近寄っていく。
「あ、あぁ」
状況のつかめないが故の中途半端に口を開けながら石田が頷き少し離れた場所で説明を始めた。
「……ミリスの言葉は信じていいんだよな?」
「うん、嘘の色―――紺色がいっさい見えなかったから大丈夫。ただその代わりに隠し事をしている紫の色が微かに見えたわ」
「そうか……」
「微かに……ですか。その隠し事が何かが分からないのが不吉ですね」
夜美の言葉に僕とミントは頷く。
「隠し事というラインではタイムミリットの時間がもう一つあってそれが実はもうそろそろということとか?」
「それは無いわね……だとしたら少しぐらい紺色も見えるはずだから」
僕の考えは直ぐに否定される。
「じゃあ、この結界になにかされた?」
「それもないと思うよ。いくら堕天使の長でも個々の魔法の定義をひっくり返すような事は出来ないから外側からこの結界に魔法をかけることは不可能。そして、石田君に憑依してからも魔法を使った様子は見受けられなかったし」
「じゃあ……奴と戦うときに何か不意打ち的なものを考えているとか」
そこで、始めて二人とも頷いた。
「それなら、あるかも」
「えぇ、あり得るわ……ただ、秀一は一度戦ったから知ってるだろうけどミリスは強い……わざわざ、不意打ちなんて用意するとわ……」
「確かに……でも、こんなに時間をかけて作った作戦が慢心で失敗に陥る事が無いように念には念を重ねているかもしれないけど?」
「そう……ね。こんなに膨大な時間をかけてるんだから慎重になってもおかしくないわね」
ミントは頷く。
そうだ、相手にとってもこれまでの苦労と時間を無駄にしたくないはずだ。
「…………?」
そこで、なにか違和感を覚えた。まだ形も影すら見えていないが何かを見過ごしているかのような違和感……気のせい、なのか?
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
夜美に尋ねられ誤魔化す。無駄な心配はかけたくないしただの思い過ごしの可能性も高いし。
「じゃあ、ここからが本題だよね。戦闘は不可避だろうし……わたしの中の魔力は……多少は戻ったけど、全快にはほど遠いと思う。秀一君は?」
「僕もかな。Sランク魔法多用したし」
「う、うぅ」
「あ、あぁ!!ミントを責めているわけじゃなくてだな……あれは仕方なかったし」
うろたえた表情を見せたミントに慌てて弁解する。
「でも……」
「誰かの―――妹の為に頑張ろうとしていたんだろ。なら、誰もミントを責められないよ」
「……ありがと」
まだ、多少の罪悪感を声音から感じるがそれでも、ありがとと口にしてくれただけ前進だ。これ以上は求めない、今はまだ。
「とにかく、このまま戦ってもミリスに圧倒されるだけ……なら、もう少し休息をとるほうがいいと思う」
「そうだね……わたしも賛成」
「じゃあ、夜美に秀一は少し寝てて……眠りは魔力を大幅に回復するし。そうね……5時間。ここでやすもう。外界では五分しか進んでないわけだし……これぐらいが妥当だと思う」
「了解……そうさせてもらおっか?」
「うん」
ミントの提案に頷く。
そして、僕らはこの結界の端にいき横になる。
眠れば魔力を操れなくなるので必然的に僕の展開している魔法が消えてしまうがそこはミントがなんとかしてくれるだろうし、石田達と魔法を何重にもかければ僕の魔法より数段ましなものができるだろう。
「魔法削除」
小さく告げて僕の魔法を消す。後ろでミントがちょうど別の魔法を唱えていた。
「夜美、眠れる?」
僕は隣にいる夜美に問いかける。
「正直、疲労感はあるけど、それ以上に興奮状態にあって眠りにはつけないかな」
彼女は苦笑いで答えた。かくいう僕もそうで、だからこそ尋ねたわけだが。
「じゃあ、魔法で無理矢理眠らせるよ。僕も自然に眠れそうはないし。あっ、抵抗があったらうまくかからないから受け入れてね」
それだけ言って僕は座りながら呪文を唱えていく。夜美もそれにならって腰を落とし結界の端の壁にもたれる。そして魔法名を告げる。
「夢への誘い」
その瞬間瞼が重くなり僕は眠りに落ちていった。
―――緋、朱、赤、アカ、あか。
見渡す限りあかが支配する。首がはじけとび思考し命を出す部分が無くなり倒れるヒトだったもの。
―――俺はなにをしているのだろう?
自分自身に問いかける。しかし、答えは返ってこない。当たり前だ。答えが出ているのであれば悩む事などないのだから。
―――無茶で、無謀だったのか?
その答えを欲する。誰かに言ってもらいたい。自分の行いが悪ではないと。
―――復讐に民を利用したのだろ?
違う。違う、違う、違う!!
何処からか聞こえた声に否定する。認めたら立ち止まってしまうから。そして、立ち止まったら死が無駄になるから。だから、無駄にしないために前に進み続ける。
―――はぁ、はぁ、はぁ!!
無駄に走り続ける。側には虫が集まりふしゅうを放つ死体や瀕死の人。体が傷つき赤を撒き散らす人。
―――やぁ!!
そして、自分自身も人を傷つける。血肉を抉り聞き慣れた悲鳴を耳にしながら。
「―――っ!!」
恐怖を覚え僕は目をさます。吐き気がする。体が汗ばんでいるのが分かる。嫌な夢をみた。しかも、やたらと鮮明な。
夢は記憶の整理でみると聞く。だが、あんな光景をみたことない。いや、葵姉さんのがあるか……しかし、それにしてもあんなに死体は転がっていないし、腐敗なんてもっての他だ。だとしたら、映画かなにかに感化されたのだろうか?
「んっ」
「―――えっ?」
そこで右肩に重みがあることに気づく。僕の肩を枕にして寝息をたてていたのは夜美だった。顔が思いの外近いところにあったので驚く。
「んっ、んん……」
「ち、ちょっ」
身動ぎをし更に顔を近づける夜美。可愛い寝顔に鼓動が高鳴るのがわかる。
「あれ?起きたの?」
「あわっ!!―――っ。う、うん。さっき起きたとこ……時間は?」
ミントが気づいて僕の元にやって来て慌てて誤魔化す。
「秀一達が寝てから4時間50分―――そろそろ起こそうと思ってたところ」
「そっか……夜美、起きて」
僕は肩を枕にして眠る夜美を起こす。
「んん……ふぁ……」
体を起こしゴシゴシと目をこする夜美。そして、頭を覚醒させるためか軽く頬を叩いた。
「うん、おはよ」
「あぁ、おはよ」
僕は落ち着いて返す。
「それじゃあ……きちんと、目を冷ましてね……青からの涙」
ミントの声にこおしてやや高い位置に雲が現れ雨のように水がふりそそぐ。つまり、この水で顔を洗え、ということなのだろう。ならば、と僕は手で水をすくい顔にかける。冷たい水が顔の熱を奪い取る。
「ふ〜……」
一息ついて隣の夜美を盗み見る。夜美は僕にならって顔を洗っている最中だった。
そういえば、彼女は学校でもメイク等をしていなかった。いや、前に家に行ったとき(Xが暴走をなんとかしようとした時なので正しくは連れていかれただが)化粧道具らしきものが二、三あったのでナチュラルメイクぐらいならしていたかもしれない。といっても、本当に元の顔立ちもいいし、メイクは不用かもしれない。余計な装飾は元の物を隠して邪魔になるような、そんな感じのものだろう。
「あれ?どうかした?」
「あっ、い、いや……なんでもない」
視線を感じたのか夜美が尋ねてきたのをなんとかかわす。
何を考えているんだ僕は。どうやら、寝起きの時に近くにあった夜美の顔の事がまだ頭に残っているらしい。
「…………」
「み、ミントもどうかした?」
「……別に」
なにか少し悔しげな声を聞きながらミントは僕らに背を向け石田達の方に向かっていく。その途中で魔法を消したようで雲が無くなった。僕たちもミントの後を追った。
石田達は僕らに気づくと手を振る。話を聞くに僕たちが寝ている間に福田は竹刀をふるって練習したり、石田は魔法を使いスタンガンの電力を回復、及び強化をはかる。また、ミント達と共に古代魔法武器について調べたりして、新たに色々な事が分かったらしい。
「新しい魔法が使えない?」
石田の言った言葉に僕は疑問の声をあげた。それに福田が答える。
「そうみたいだ。最悪の魔法、だっけ?あれを基準にそれ以降に作られた魔法は使えないらしい」
「どうしてだ?」
僕の問に次はミントが答えた。
「これは、私の予想だけど……多分古代魔法武器は予めに魔法を設定する必要性があるんだと思う。そして、設定された魔法だけは魔力が残ってる限り使えるんだけど逆をいえば設定されてなければ、っていうことね」
「でも、設定を弄ることが出来れば」
「無理ね。恐らく設定を弄るには古代魔法武器の生成した人の魔力なり、なんなりのその人特定できるものが必要だと思うの。もちろん、そういう訳だからその人さえいればできるんだけど……」
「死者の生誕、か?」
「うん。私なら呪文知ってるんだけど」
「ダメだ……あの魔法は……死者を冒涜してる。あんなものに頼りたくない。それに、仮にやったとしても作成者が分からないんじゃ復活させようがないんじゃないのか?」
「そうだね。もしかしたら、堕天使の文献を調べたら出てくるかもしれないけど……冒涜、だよね」
「ミント?」
「ううん、何でもない……ただ、私って最低だったんだなって、改めて気づいただけ」
遠い目をする、ミント。
「なに、言って……?」
「なんでもない、なんでもない」
苦笑いを浮かべながら誤魔化す。どうやら、僕の死者を冒涜してる、という言葉を気にかけているようだが……。
「それより、皆に教えておくべき情報があったことを思い出したの」
「……情報?」
急にミントは声音を変えた。これ以上踏み込まないでくれ、と言ってるような気がする。それなら、今はこれ以上聞くのは得策じゃない気がする。
「魔法のランクについて」
「ランクって……C、B、A、Sの四つですよね?あっ、一応Dランクもありますけど」
「うん、皆にはそう教えたけど……本当はそのもう一つ上。五文のGランクがある」
「じ、Gですか!?」
夜美が驚きの声をあげる。僕は驚きすぎて声が出なかった。
「そんなに、驚く事なのか?」
いまいち理解出来ていない様子の石田と福田。
「あ、あぁ。お前らは古代魔法武器使ってるから分からないだろうけど……Sランク魔法一発出すだけで魔力は大きく持っていかれるんだ。もっというなら体感的にはマックス時の半分ぐらいは取られる。それを考えたらGランクなんて……」
考えるだけで体がゾッとする。恐らく、一発でほとんど全部……いや、出せるかどうかさえ微妙だ。それに、Sランクで事足りそうなんだがな……。
「その、Gランク魔法。現在あるのは三つ。まずは何度も話に出てきて分かってると思うけど願いを封鎖する壁」
「あれか……てっきり、Sランクと思ってた」
僕は思い出すように呟く。でも、確かにスケールの大きさからみてもSランクでは足りない気がする。
「そして……名前は分かんないんだけどその壁を強固にするために産み出された……欠片達、三つを産み出した魔法。因みに両方ともミリルが発動者ね。先のが無形魔法で後のが実在魔法」
「で、もう一つは?」
願いを封鎖する壁がでた時点でこちらは想像は出来ていた。問題は後もう一つなのだが……。
「最後の名前は……あのときミリスさ―――ミリスが現れた時に分かった。絶対なる守護神」
「「「「……………」」」」
ある意味、予想通りな答えに僕たちは黙る。だけど、一つの疑問を俺は思いつく。
「あれ?対価の無い願いは違うのか?」
「ああ〜。あれね……説明不足だったわね。あの魔法は願いを封鎖する壁という魔法が完成するまでのつなぎとして使用した禁術ではあるんだけどSランクの魔法。だから、対価の無い願いの上位互換である願いを封鎖する壁に取り込まれたのよ」
「そういうことか」
僕は納得し頷く。そして、決意の言葉を放つ。
「……行こう。僕たちは負けない。負けるわけにはいかない。怯えてたって仕方ない」
負けられない。そう強い意思を僕は胸にぶちこむ。
「そうね」
「うん」
「あぁ」
「了解」 そして、皆返事をする。
「じゃあ、まずはこの空間を消すぜ。魔法削除」 今まで僕たちがいた空間が消え去り僕とミントが戦った場所に戻る。だが、少しだけ違和感を感じる。どこか、閉鎖的な、そんな感じ。
「あっ、私も魔法とくね。魔法削除」
すると、その違和感が消える。そうか、僕が眠ったあと、ミントが魔法を出したのか……この結界のような魔法も彼女のものか。
「ふぅ……じゃ、いくわよ。ミリスのいる場所は私が知ってるから。こっち」
ミントの先導で僕たちは歩みを進めた。
ミリスが消えていった扉をミントがなんなく開ける。トラップの危険も考え歩みは自然と遅くなる。
部屋には何もなかった。いや、正しくは部屋の中央には、下に誘う階段と封筒が一つ。
「…………」
僕はみんなを見渡し恐る恐る封筒を拾う。
名前は、無い。だが恐らく……いや、ほぼ間違いなく差出人はミリスだろう。
僕は封筒を開け手紙を取り出す。
「読むぞ。『ようこそ。これを読んでいるということは戦いに赴く決意が出来たということだね。ボクの居場所は娘から聞いているかも知れないが説明しよう。この最上階まで来た君たちはわかっているかもしれないがこの建物は真ん中をくりぬいた形をしている』」
「あぁ、確かに……大きく回りながら登っていったよな」
石田が思い出しながら呟く。確かにそのような感覚を受けた。だが、ガラス張りだったならともかくふつうに壁だったし指摘されるまで気が付かなかった。
「『そして、そのくりぬかれている部分には階段が設置されている。最上階から一番下の階、地下まで直通でつながっている。そこにボクはいる。恐らく、最速でも五時間はかかるだろう。つまり、キミたちのタイムミリットがなくなっていくわけだ。因みに、ボクは魔法陣を用いて移動している。その魔法陣をキミ達にも用意しよう。ただし、ただでそれを用意するわけにはいかない。この手紙の最後に魔法陣が描かれている。その魔法陣に冨本秀一、ミント=クリア=ライト、星野夜美の魔力を同時に流したまえ。そうすれば、三人に対応する敵が表れる。そして、三人はそれぞれ空間魔法で敵と一対一で戦う事になる。つまりは、石田湊人、福田海斗にはこの戦いには参戦できない。その敵を三人とも倒した時点で地下につながる魔法陣が出現する。それと敵はキミ達の実力ならば余裕で倒せるほどの強さには設定してある。どちらを選択するもキミ達しだいだけどね』だとさ」
僕は手紙を広げ皆にみせる。手紙の最後には確かに不可思議な模様が描かれていた。
「……どうする?」
僕はミントと夜美に尋ねる。
「魔法陣にふれるのは自ら罠に飛び込むようなもんだし……かといって階段でおりるのも……ミントさん、普段はどうやって行ってたんですか?」
「わたしは魔法陣で……って、そうだ。まず、魔法陣について説明しないとね。魔法陣っていうのは魔力を込めた図形の事。魔力を餌として与え続ければ半永久的に存在し続けられるし、実在魔法にも無形魔法にも分類されないし、特に制限も無いから知識さえあればいくらでも作れるわ。といっても、一つ作るのにも最低三分はかかるわね……ミリスは簡単な魔法陣なら一分ぐらいで作ってたけど。それでも、実践向きとは言えないから用途としてはトラップや空間移動、それに今回のように特定の相手に魔力を感じたときに魔法を発動させたり、文字を浮かばせたりする、暗号的な役目もはたせるわね」
なるほど……。やろうと思えば僕でも出来るのか。といっても、知識が無いか。
「それで、私はだけど。ミリスの描いていた魔法陣で移動してたわ。ほらっ、あそこ」
ミントが指差した先は部屋の隅であった。しかし、そこには特に何もないように見えるが。
「えっと……あっ、あの灰色の?」
「うん、そう」
夜美は見つけたようだ。灰色、と聞いて更によく目を凝らしてみる。すると―――。
「あっ、一瞬光った」
「俺も見えた」
キラリと、一瞬不可思議な模様が描かれていた陣が光った。床の色が灰色で擬態していたこともあり、全く分からなかった。大体の形が分かった今でさえ目を凝らさなければ見えないほどわかりづらかった。
「なんかなぁ〜。魔法陣つったら、ゲームとかだと部屋の中央にデーンと構えてそうなもんだがな」
石田がぼやく。僕も似たような意見だ。しかし、よく考えればそういったものは普通はありえないものなんだろう。
「さっきも言ったけどトラップとかに使うし、便利用の魔法陣だったとしても、むざむざ敵にそれを教えるなんて馬鹿な真似はしないわよ」
苦笑しながらミントが言った。言われれば、それが普通なんだろう。
「それじゃあ、あの魔法陣使ったらいいんじゃ?」
「無理ね。この部屋に入った瞬間に感じたんだけど魔法陣の質が少し変わってる。ミリスの魔力と反応したときにだけしか発動しないように変えたみたい」
「そうか……っていうか、普通に人体転移魔法でいきゃ、いいじゃん」
「それも無理。この階段と地下にある部屋には……さっきまで私達がいた部屋と似たような空間で空間外から魔法を使っても弾かれるわ。そして、その空間断層はご丁寧にも一段一段変えられてるからまず、転移系の魔法で移動するのは不可能ね。ミリスの認めた魔法陣でなら可能なようには作られてるけど」
抜かり無いな……。やっぱり、ミリスの提示した選択のどちらかをしなければならないか。
「それじゃあ―――どうする?僕は手紙についていた魔法陣を起動させたい。時間が無くなってタイムミリットが来たんじゃ本末転倒だからな」
「わたしも賛成。魔法陣起動させたい」
「二人がいうなら、私もそれでいい。ミリスの案に乗るのは怖いところもあるけど……だけど、秀一のいう通りだと思うから」
二人は頷いてくれた。危ないかけではあるが試す価値は十分だろうと判断してくれたのだと思う。
「俺達はどちらでも。戦いに参戦できねぇのはもどかしいがお前らの無事を祈っとくよ」
福田が石田の肩を掴みながらそう言った。石田も頷いている。
「よし、じゃあ、ミント、夜美。指を魔法陣に。せーので、魔力を込めよう―――せーの」
僕たちは指先に魔力を込めた。その瞬間魔法陣が輝き、視界が白でうめられた―――。
発光が終わり視力が回復していく。
周りを見渡す。薄いピンク色の空間。ここが、バトルようの空間か。さぁ、どんな化け物が出てくるんだ……!!
―――と、意気込んだときだった。
目の前に現れたのは確かに僕らの力なら余裕で倒せるであろう、相手。しかし、その相手は僕では 絶対に倒すことの出来ない相手だった。
「―――また、あったね……」
僕がこれから倒すのは自分の命にかえて僕を守ってくれた―――。
「―――葵……姉さん」
視界が白く変わる。その眩しさに目がくらみ、わたし―――星野夜美はたじろぎそうになる。でも、すぐに目を閉じたことが幸したのかたいしたダメージが少なくにすぐに視力が直った。
辺りを見渡す。そこはすでに別空間で淡い黄色をしていた。ずっと見ていたらそれだけで目が痛そうだ。元々警戒色でもあるし。
―――コツン、コツン。
靴の音が聞こえる。これがわたしが倒さなければならない相手。どんな人物だろうか?いや、ミリスの魔法によって産み出されたものなので人物では無いか。それに人形をしているとは限らない。
姿が見え始める。
人の形。髪の長さから恐らく女性。
冷静に頭の中で分析していく。しかし……すぐにこの分析が意味をなしていないものと理解した。なぜなら、多分この人物を一番理解しているのは、わたしだから。この人物―――彩愛お姉ちゃんを。
「―――久しぶり、なのかしら?」
口許に苦い笑いを浮かべながら尋ねるお姉ちゃんの声も口調もわたしの知るそれだった。
ミリスの手紙を思い出す。確かに、今のわたしならお姉ちゃんを倒すのは余裕であろう。無慈悲になれることが前提だが。
「うん。お姉ちゃんの中のわたしは十二才だと思うけど、今のわたしは十七才。五年ぶりだよ」
感情に流され過ぎないように答える。
「そんなに時間が……まさか、同い年になっているなんてね……。先に言っておかなくちゃいけないわね。どうしてこの状況になっているのか、事情は分かっているわ。ある程度、夜美の事についても分かっているつもり。堕天使抜けたんだね」
「うん。もう、夜の音の名は使ってない」
「そっか……とにかく、もっとお話したいけど、そんな時間は夜美も、私も無いみたい」
「どういうこと?」
わたしはともかくお姉ちゃんにも時間がないというのは?
と、考えていたらお姉ちゃんはバッ、と洋服をめくりお腹をみせる。そこには発光した魔法陣が描かれていた。
「さっきからね、体が疼いて……多分、この魔法陣には私の意思を無視して夜美を倒すように向かわせるものが描かれている。全力で私を……殺しにきて―――美しき棘鞭」
「っ!!」
お姉ちゃんの手に現れ、ふるわれた持ち手に薔薇の描かれた鞭を回避する。鞭には細かな棘がある。避けた所からお姉ちゃんの手元まで、棘により床に小さな穴が開けられた。だが、直ぐにその穴が塞がれる。どうやら、穴が塞がれるのはこの空間の仕様のようだ。
美しき棘鞭はその無数の棘で一度当てられたら恐らく痛いじゃすまないダメージが与えられる。なら……。
「星の召喚、星座蠍座!!」
白煙と共に蠍座を登場させる。多分、蠍座の尻尾なら……。
「初めて見る魔法ね……夜美のオリジナル、かし、ら!!」
喋りながらも攻撃の手は一切やめないお姉ちゃん。美しき棘鞭がわたしではなく蠍座に向かって一直線に向かっていく。
「蠍座、防いで!!」
―――パチン!!
わたしが叫んだときには蠍座は自らの尻尾で美しき棘鞭を弾き返し甲高い音を響かせていた。
「―――なるほど、防御に特化しているわけね。それに、スコーピオン、つまりはさそり座よね。さそりといえば毒よね。といっても、通常のさそりなら人間に致命傷を与えることが可能な種類なんて数十種類だったわね」
お姉ちゃんは一切攻撃の手を休めずわたしの魔法を考察してくる。分かっている。この考察はわたしを精神的に圧迫しようとするものだと言うことを。戦闘に置いて自分の出す魔法が知り尽くされていたなら、その分その魔法の癖や弱点をつく攻撃をしてくるかもしれない。だからこそ、わたしはお姉ちゃんの知らない、この魔法で戦闘に挑んだのだ。だが、それを暴かれるのは辛い。どれだけポーカーフェイスを装っても手札が全てバレていたら意味が無い。そこをつくのが声に出しての魔法の考察。自分はこの魔法をここまで解析したと知らしめる方法。
「そうみたい。だけど、これは悪魔でもさそり座の魔法だからね」
だから絶対に屈しない。この戦いの鍵は魔法の打ちあいじゃない、魔法の量じゃない。大切なのは、心理戦と作戦だけ。
「わかってるわ。恐らくその尻尾の毒は様々な種類に変えられる。眠らせることも、麻痺させることも、殺すことも出来る、でしょ?」
「闇の玉!!」
正解と言う変わりに魔法を使う。でも、こんなことは、多分―――。
「甘いよ」
闇の玉はお姉ちゃんに届くことなく蠍座に尻尾に跳ね返された反動をそのままに美しき棘鞭で叩き潰された。棘の細かさで分裂しきってしまい魔法が消滅してしまう。だが、それを待っていた。
「今よ、蠍座!!」
フリーになっている蠍座は一直線に自らの最大の盾を矛とかえお姉ちゃんに向かわせた。決まる―――そう確信しかけた。
「勿論、これも込みで甘いって言ったんだよ」
何が起こったのか分からなかった。一つわかったのは、蠍座の矛、尻尾がお姉ちゃんに到達する前に蠍座がやられていた、ということだった。形を留めでなくなった蠍座は消えていった。
「なにが、起こったの?」
わたしは場が分からずに困惑してしまう。お姉ちゃんは呪文はおろか、魔法名すら、言っていない。魔法を発動させるなんて不可能。
いや、そこで考えを止めたらダメ……なにか、あるはず。
「カラクリを教えてあげたいけどそれは口に出来ないみたい……夜美にプラスとなる情報は伝えられないようだから、頑張って解いてみて、私の妹としてね!!」
「っ!!壊れる二極」
迫る美しき棘鞭を壊れる二極で自分と美しき棘鞭の間に異常な磁力を生成し二つを反発させ互いを吹き飛ばす要領で回避する。
わたし自身も吹き飛ばされるがすぐに受け身をとり体制を立て直す。
しかし、こんなことをしていては思考時間が減ってしまう。別の力がほしい……お姉ちゃんの力に対応するものが。水瓶座は草の性質を扱うお姉ちゃんには厳しいし、天秤座は補助系が得意だから無理……双子座は?わたしの分身体を出すわけだけど……二人同時ならともかく、そうでなければ劣化にしかならない。だけど、今のわたしはお姉ちゃんを越える魔力を持っている。なら、無茶苦茶に攻撃をするだけでも、時間は稼げる。
「星の召喚、星座双子座」
それだけ、考えわたしはわたしを繰り出す。
「……変わった魔法ね。夜美が二人」
お姉ちゃんが距離をおきながら呟いた。なにをしてくるかわからないからだろう。ならば、わざわざ目的を教える必要もない。わたしは脳内で語りかける。
(とにかく、攻撃してお姉ちゃんの意識をそっちに集中させて)
(分かったよ)
双子座は小さく頷くと一気に駆け出した。手からは闇の玉を放ちながら。
「厄介ね!!」
バシッ、と鞭を地面にぶつけ距離をとりそのまま鞭を双子座に放つ。
わたしはそれを見ながら思考を展開する。
なにも言わずに蠍座を倒したのだから考えられるのは二つ。罠か発動中の魔法の効果。でも罠を仕掛ける時間はなかったはず。ならば残りの一つ、魔法の効果。
でも、美しき棘鞭はわたしもよく知る魔法。棘のついた鞭を扱う打撃系の魔法。
ダメ、そこで考えを止めちゃ。この魔法が関係していると仮定したとき、結論から言うと美しき棘鞭の何らかの効果により蠍座が消されたということ……。その力が気になる。
「きゃっ……っ。流星の滝」
悲鳴に反応しみると、鞭が双子座の腕に当たっていたようだ。それを受け、直ぐに反応するも鞭をくねらせながら逃げていき魔法が当たらない……あれ?
そこで、違和感に気づく。どうして、姉さんは無形魔法を使わないのだろうか?使わないのではなく使えないのかな?
「闇なる弾―――きゃっ!?」
双子座が一気につめより魔法を放とうとしたとき、彼女の目の前に突如大木が現れそれにぶつかりそうになっていた。
どういうこと?何できゅうに―――!!もしかして。
わたしはある仮説をたてた上で駆け出す。
「双子座!!時間稼ぎありがと。休んで!!魔法削除」
双子座の返事を聞かずに消す。それは、彼女を傷つけないため―――腕の付近から物理的に。
「夜をまとう剣」
剣を携え距離を積めていく。それを見たお姉ちゃんが鞭を自分の周りにぶつけてからわたしを見据える。
「カラクリが解けたのかしら?」
「多分ね」
わたしは鞭を交わし、大きく周りながら積めていく。ゆっくり、早く、隙をみて……。
お姉ちゃんが大きく鞭を振り上げた。その隙を見て、わたしは“わたし”に魔法を放つ。
「壊れる二極!!」
「しまっ―――」
わたしは自らの後方に磁力場を作りその爆破の速さで一気にお姉ちゃんの間合いを詰め、そして、夜をまとう剣で美しき棘鞭を貫き、地面に突き立て動きを封じた。
「正解みたいね」
お姉ちゃんが小さく呟く。お姉ちゃんの体温が動きを封じるために巻き付けた腕を通じて感じる。わたしよりもやや高い、その背中に抱きつき過去を沸騰させる。
「お姉ちゃんの美しき棘鞭の力の最大の要素はその攻撃力じゃないんだよね。確かに美しき棘鞭は実在魔法だけど同時に無形魔法でもある。多分、魔法を発動するときに種子を植え付け、それを自在に成長させ、からせれる、だよね?」
「…………」
お姉ちゃんはなにも答えない。いや、答えられない。それが、正解であることを意味していた。
「蠍座が倒されたとき、尻尾付近に穴があいて、双子座の時は突如として木が現れた。蠍座の時は恐らく尻尾に種子を植え付け、それを一気に成長させると共に枯らしてわたしの目には突如として穴が空いたように見えた。双子座の時は鞭を地面に叩きつけた時に種子をばらまいていたんだよね?だから、やたらと鞭を地面に叩きつけて守りを固めていた、わたしの考察、どう?」
「…………これなら、言えるのかな?夜美、アンタは私なんかを軽々と越える天才だったみたいね」
「お姉ちゃん……」
その言葉は私のだした答えが正解であることを示していた。そう、これで、完璧に決着はついた―――決着がついてしまった。
ミリスの書いていた事に嘘は無かった。魔力的にも余裕がまだある。夜の魔女と相対したときより全然楽に、決着はついていた。実質、わたしは怪我一つおっていなかった。だからこそ、怒りがわく。こうなることを予想していたミリスに、そして、正解だと分かっているのに魔法を解説し少しでも話を試みるわたしに。
「夜美。早くこの空間から抜け出しなさい」
お姉ちゃんが優しくわたしの手に触れる。お姉ちゃんの言葉の意味は分かっていた。早く自分を殺せ、そういっているのだ。
「…………………なんで?」
長い沈黙と手の震えを挟み、わたしは小さく呟き、それを大声にしていく。
「なんで!?お姉ちゃんがいつも言ってたじゃん!!殺しはするなって……なのにどうしてそんなこと言うの!!わたしには―――出来ないよ」
最後の言葉は嗚咽を無理矢理隠した震えた声だった。
「確かにね。でも、私はもう死んでいる人間。一度死んだ人間を殺すのは無理なんだよ。だから、私も言い方をかえるね?早く、私を終わらせて」
その言葉に、わたしの瞳から堪えきれなくなった滴が一筋、地に落ち弾けた。わたしはもう“二度と”殺しはしないと決めているのに、その決意を揺らがす言葉をわたしが“殺した”お姉ちゃんが言った。
「お姉ちゃんは、なんでわたし優先なの?あのとき、わたしなんか無視して逃げればよかったのに。自らの命を媒介にしてまで、なんでわたしを助けたの!?」
言うことを聞かない子供のようにわめく。あの時、どうしてお姉ちゃんは自らわたしに殺されたのか。命を背負わせたのか……。
「倉真坂優癒。私のずっと昔に“棄てた”本名。初めて教えるわよね」
お姉ちゃんはそんなわたしの様子をみてか、どこか遠い目をして語り始めた。
「倉真坂は佐々羅祇家の、言ってみれば分家に当たる存在なの。ササラグループ、知ってるでしょ?日本の、世界の経済の一端を担う会社」
説明するまでもなくわたしはその事を知っていた。その名を聞いてピンと来ないのはよっぽどへんぴな所に住んでいる人間か外とのやりとりを完全にシャットアウトしている人間くらいだ。でも、倉真坂、という名前は初めて聞いた。
「そのササラグループの当家が佐々羅祇で、そこの遠い親戚にあたるのが裏諜報部を担う倉真坂家。多種多様な方策を練り佐々羅祇家を裏で支える存在なの。時には情報流出を食い止めたり、時には情報を盗んだり、時には、人を殺したりしてね」
「殺し……」
わたしはその言葉をそのまま呟き返した。大きな企業になれば裏が黒くなることもあるだろうが……いや、ササラグループぐらいなら警察に圧力をかけられるだろう。そういえば政治家の鎖詩羅香さん、という人はササラグループの関係者という話をテレビかなにかで聞いたことがあるような気がする。もしかすると佐々羅祇家の分家なのかもしれない。
「いわゆる間諜とかそんな感じ。佐々羅祇家の為に全力を尽くす、それが倉真坂家よ。そして、私は倉真坂家の本家の一人娘。幼い頃から間諜としての教育を受けてたわ。諜報から潜入、それに暗殺もね―――ふふっ」
自嘲気味な笑いをこぼす。もしかして、だけども。
「正解。私はどうしようもない悪人だったのよ。この手で何人の人を殺したか……堕天使に入る前からね」
わたしの微かな息遣いを感じたのか子どもが悪戯を告白するような―――罪悪感と許しを得るかのような口調でいった。その許しを得ようとしている相手が誰なのか、わたしには分からなかった。
「そんな私にもね幼馴染みの男の子がいたの。彼は佐々羅祇家の次に地位が高い佐久騾伎家の本家の長男。立場は全然違うけど佐久騾伎家と倉真坂家の交流が当時盛んだったからよく、わたしも家族に連れられ家に行ったわ。そして、年の近い彼とよく遊んだ。今思えば恋でもしてたのかしらね」
わたしには想像も出来ない大グループの関係に少々困惑する。
「そして、時がたち……私は八才の時から間蝶業を始めた。異常でしょ?八才にそんな仕事をさせて、人を殺させるなんて……まっ、殺すといっても薬物での殺人だから、ある意味では誰でも出来る殺人なんだけどね」
本当に異常、としか言い合わせない話だ。わたしも社長令嬢という立場だが、お父さんが一代で立ち上げた会社なので親戚関係等無いに等しかった。だからか、そんな異常な形を想像出来なかった。
「そんな事を続けながら月日がたって……わたしの十二才の誕生日プレゼントとして任務が言い渡された。その任務が、佐久騾伎家の殲滅」
「えっ?なん、で?」
思わず声が漏れる。予想だにしなかったその言葉に驚きが隠せなかった。
「理由なんて本当に単純明快で、下らないもの。佐久騾伎家が佐々羅祇家にたいして反旗を覆そうとしているという容疑が確定したから」
「確定……?」
その、まるで、昔から疑ってたかのような言い方に違和感を覚えた。
「佐久騾伎家の動きの不穏を感じ取った佐々羅祇家は長年にわたり倉真坂家を使って調査をしていた。これで、分かるわよね?夜美」
「……お姉ちゃんが昔、よく一緒に連れられたのは……佐久騾伎家の調査を倉真坂家が行うと同時に“倉真坂優癒”に家の内装、仕掛け等を覚えさせるため」
「正解……流石の分析力よ。それで、その策略は見事成功。証拠をつかみ、優癒にそれらの記憶を植え付けられていたわ」
そう、感情なく語ったお姉ちゃんの瞳には今までにわたしが見たこともない、色が宿っていた。
「私には逆らう力を持っていなかった。倉真坂の名に従い佐久騾伎家殲滅に動いた―――呆気なかったわ。防犯設備は全て破壊し、次々と額と胸に穴を開け殺していったわ」
わたしはごくりと唾を飲む。その光景のむごさと共に倉真坂優癒という恐ろしさに鳥肌がたった。なにかで知った知識だが暗殺する場合、対象を確実に殺すために急所二ヶ所を狙うらしい。それを十二才の少女が行うだなんて……。
「そうしてね、最後に残ったのは―――最後に残したのは私の幼馴染みだった彼……彼との対面は今でも忘れない。彼とよく遊んだ一室で一定の距離を保ち拳銃を掲げる自分と穏やかに笑う彼……彼は全てを理解した上で笑っていた。そうして、言ったの。『もし、佐久騾伎とか倉真坂とか、そんなの無かったらおれは優癒を一生幸せにしていただろう』ってね」
その時の彼の気持ちはいったいどんなものだったのだろうか?でも、一つ言えるのは彼はお姉ちゃんを本当に大切に思っていたということだった。
「私は最後に『ごめん』と言って彼は最後に『愛し続ける』と言って銃声を二発私が鳴らした」
辛そうにお姉ちゃんは言い切った。彼の最期の言葉には多分、色んな意味があったんだろう。
「私は悲しみ自分を倉真坂を恨んだ。その時ね……魔力を得た。裏で活動していた私は魔法を知っていた。この力を知っていた。気がついたら魔法と銃とで倉真坂を滅ぼしていたわ。自らの家族をね―――そこから先はわかるでしょ?」
お姉ちゃんが微笑む。確かにわたしは全てを理解した。
たぶん、この魔力を感じた堕天使が“倉真坂優癒”を仲間にしてそのまま天使の名をもらうほどに成長していったのだろう。それに、こんな陰惨な事件がササラグループとしても明るみにでていいはずがないし堕天使側も魔法が明るみに出るのはまずい。きっと内々に下手すれば警察にすら連絡されず、遺体はどこかに埋められているのかもしれない。埋めた場所がササラグループ管理の場所なら見つかることはまずないのだから。
「私が殺しにこだわるのはそれが原因。たくさんの人を殺してきて、私にとって大切な人が奪った時命というものについて知った。その十字架を夜美には背負わせたくなかった。そして、自分自身、今まで命を奪う側だったけど、最後は命を救う側の人間になって終わりたかった。その時に私と夜美にあの命令がきた。その命令が下されたときにシナリオを作り終え、ここから脱出しようと夜美にもちかけたのよ」
「あの、時に?」
「えぇ、最も一番よかったのは二人して逃げ切ること。だけど、それが無理だった場合、夜美に命を奪わせる任務を与えないことを堕天使に約束させること、それが目的のシナリオね」
「えっ……じゃ、まさか!!」
「正解。私が彩愛と名乗っ理由、わかる?」
それは、以前、わたしち秀一君が対立した時に秀一君ふぁ教えてくれた。それを、わたしは言う。
「文目。花言葉はメッセージ」
「知ってたのね。こうなることをすべて予想していたわ。まっ、まさかその後夜美が本当に堕天使を抜けるとは想像することができなかったけどね」
「お姉ちゃん―――どうして?」
「さぁ、わからない。でも、これだけ言おっかな“愛し続ける”ってね」
「っ!!」
そう、か。愛し続けることに理由なんてない。理由の言えるものなんて本当に一握り。人の感情に理由をつける事なんて、到底できない。プログラミングされた機械ではないのだから。
「すべて私のわがままよ。私は早く、自分の罪から逃げたかった。それに夜美を利用しただけ。だから、もう一回利用させて。こんな、人とはいえない、魔法でできた存在だけど、感情はある。だから、その感情で苦しまないように私を早く終わらせて……お願い」
お姉ちゃんの声には本当に懇願するような響きがあった。わたしが終わらせる。わかった。お姉ちゃんの為にやるよ―――だから、これだけ言わせてね。それが、わたしのわがまま。もう一度その言葉を聞かせてね。
「“ごめん”」
「っ―――“愛し続ける”」
わたしはその言葉を聞いて鞭から剣を抜き、お姉ちゃんの胸を突き刺した。
その瞬間、お姉ちゃんが光となり消えていく。空間も消えていく。その消えていく空間にわたしの瞳から落ちた滴落ちて、はじけた。
魔法陣が発動時に輝くことを伝えることを二人に忘れていたことに気づくが。もう、注意を促すには遅かった。でも、大丈夫だろう、私―――ミント=クリア=ライトが瞼を閉じて感じた光の強さは大したものではなかったから。
「ミリスの事だから一筋縄ではいかないだろうけど……」
私はこの空間の淡い紫色を感じながら色々と可能性を考える。それが無駄になるのかどうなのかはわからない。どうなるうんだろうか?
足音が聞こえる。前方。恐らくミリスの事だ、怪物などではないとは思うけど……。
「―――貴女は?」
人型が見え始めた所から尋ねる。先制攻撃、といっても最初から魔法は放たない。敵がわからない以上不用意に攻撃するわけにはいかない。まずは分析。同い年ぐらい、髪の長さから女性だと思われる。
「―――ひ、久しぶりです……お姉」
心の中で警鐘を鳴らす。『お姉』って……その言い方。
「ミライ……?ミライ=クリア=ライトなの!?」
その人型に向かって叫ぶ。外形がわかり始める。でも、待って。私の知ってるミライは五歳まで。それに、ミリスは殺したって……まって、ミリスが絶対に正しいことをいってるとは限らないわよね。
「混乱してるですよね。ミライはもう、情報をもらってるから教えるです。ミライは確かにもう、死んでる人間です」
やっぱり、本当なんだ……わかってたはずだけど改めて言われると辛い。
「ミライが死んだのは十才の時です」
「えっ?で、でも、貴女の背格好どうみても、私と同い年ぐらい……十七ぐらいわよね?」
てっきり、夜の魔女が得意としていた金術・死者の生誕と同列の魔法かと思っていたので驚きの声を素直にあげてしまった。
「ミライは成長された形として現れたのです。心身共にです」
「どうし、て?」
「多分、お姉を倒すためです。風の三枚刃」
「えっ?あっ、しまっ―――」
私はその言葉の意味を理解し慌てて回避行動をとる。
「天空と光の派数武器、形態・双剣」
横に飛び、一発目の風を避けそのすきに魔法を発動。次からくる二発を片方の剣から放つ風で防ぎもう片方で着地による衝撃を防ぐための風を放つ。
「流石お姉です。ですが、ミライは止めることが出来ないのです。早くミライを終わらせるです―――暴風」
「形態変化・大剣」
私に向かってくる荒れ狂った風を大剣の一降りでほぼ相殺する。大剣から出た風の余力でミライの髪を揺らす。
「七色の玉弾」
「形態変化・弓」
七色に光る光の弾目掛けて弓を引きそして放つ。七色の玉弾―――虹とはなばかりで実態は赤〜紫までの温度と質が異なる炎の弾だ。だから、大剣や双剣のように風を送るのでは 燃料になりかねない。だから、弓の一転突破の攻撃で魔法事態を破壊した。
―――それからは、繰り返しだった。ミライの魔法を次々と相殺する。たまに私の相殺する為に送ったはずの風が強すぎてミライの髪を揺れる。それだけだった。
二人の間に会話は無い。何故ならば、会話をする余裕も無いぐらいにミライが次々と魔法を出すからだ。
―――甘えよね。
自らに話しかける。先程から私は攻撃をしようとしてない。出来ないのではなく、してない。いくらでも攻撃するチャンスはあるのに、だ。
私に、ミライを倒す事が、傷つけることが出来ない。
「光弾魔法―――あれ?」
ミライは洗い呼吸をしながら魔法を発動しようとするも出来なかった。魔力切れ、誰の目からみてもそうはんだんできた。
「あはは、です。魔力がもう、無いのです」
膝をつき倒れるミライ。それを、私はただ、見つめるしかなかった。
「はぁはぁ、眠いです。お姉、無くす三欲一睡かけてくれないですか?寝たく無いです」
「……うん、無くす三欲一睡」
強制的に体を興奮状態にし、睡眠を行わないようにする魔法をかける。魔力不足からなる疲労は無くならなくても眠気は無くなったはずだ。
「ふう、やっぱり、お姉は強いです」
「そんなことないわよ……無限の魔力で無理矢理押してるだけよ」
「本当にそれだけだったらこんなに上手く魔法を扱えないですよ」
「そっか……」
辛そうに額に汗をかきながらも笑顔のミライ。
「お姉、早く終わらせてです。魔力が少しでも戻ったらまた攻撃するかもです」
「分かってる……だけど!!」
私の手の震えにあわせ持っていた弓も震える。ミライを倒すのが本当に辛い。
「お姉、何を戸惑うことがあるんです?ミライは死んだ人間です。それにお姉がミライを倒さないと他の人にも迷惑です。戸惑う事など無いはずです」
辛い。痛い。胸が恐怖や痛みでしめあげられる。
「ミライは憎くないの?私を躍起にさせる為の駒として扱われ、それで殺された……そんな扱いされる原因になった私が憎くないの!?」
私は自分の気持ちを吐露させる。感情が堰をきって流れ出す。
「私はミライを救うために舞台にたった。なのにミライは殺された……。もしも、あの時一緒に逃げ出していたらミライは生きてたかもしれない。今のように党首になったとして、ミライをすぐそばに置くように説得してたら生けていたかもしれない。なにもせずに、結局自分の保身の為にしか動いていなかった私が憎くないの!?」
感情がふくれ爆発する。自分の本心と見つめあう機会なんて無かったから気がつかなかった―――気づこうとしなかったが、自分で言って、自分で気づく。
結局、自分がかわいかったんだ。思考を停止させ、操り人形になることで感情を忘れようとしていたんだ。
人形は楽だから。感情も、過去も未来もない人形が楽だったから。悲劇のヒロインという役を全うしていたかったんだ。
「……お姉は好きです。とても慕って愛しているです。でも、それと同じくらい嫉妬心もあったです」
ゴロンと寝転がりミライは語りだした。
「もしも、神から産まれた悪魔がミライに宿っていたなら、魔法の才能にお姉のように長けていたら……思い出したら数えきれないです」
苦笑いを浮かべるミライ。私はそんなミライの本音に耳を傾ける。ここから先の言葉は私を壊してしまうかもしれない。立ち直れなくなるかもしれない。でも、今まで逃げてきたのだ。本音に向き合うのは義務なんだ。
「お姉と離ればなれになってからますますその思いは強まったです。ミライ達の母親もまたただたんに母体として選ばれたかりそめの母親ですから、ミライを見守ることもなく行方がわからなくなったです……。ミライはたった一人で生きていて、お姉は党首として、部下と上司の関係でもたくさんの人と関わっていたです」
「ちっ―――ぁ……続、けて」
違うと反論しそうになって、でもそれは自分にとってそうおもってるだけでミライはそう思って無かったんだと悟り、押し黙る。
私はミライも私も孤独だと思っていた。ミライは本当に一人で、私は多数の中の一人として。人が増えるほどに自分の孤独が増していくような感じで。でも、ミライは本当に独りだった。私の話す言葉は誰かに届いてもミライの言葉はただの独り言に化けてしまう。そう、悟った。
「嫉妬は積もって、積もって……泣く日も増えたです。だけど、お姉の事を憎むことは無かったです」
「なんで……!?」
「当たり前です。お姉が好きだからです。唯一、ミライを構ってそれで愛してくれる存在、それがお姉です」
「ミライ……」
「結果的にミライは死んだですけど、ミライはお姉が頑張る姿が好きで、ミライを助けるために奮闘するお姉を見ながら死ねて嬉しかったです。だけど、今のお姉は……頑張らずに逃げ道を探してるお姉は嫌いです」
「ぁっ……嫌いです、か……」
私は声に唇をかみ涙を堪える。逃げ道を探していた私は結局、まだ本心と向き合えてなかった。向き合っているふりをしていただけ。ならば、やることは一つ。ミライの好きなお姉にならなくちゃ。
「ミライ……ミライのお願いを教えて。お姉がそれを叶えるから」
声を震えさせ無いように気を付けながらたずねる。
「ミライのお願いはここから抜け出してお姉のお友達と一緒に戦う事です」
「……うん」
私は頷き、弓をかまえ照準をミライの胸にし放つ。
ドスッという音と共に一瞬こわばったミライの体から力が抜けそして光に包まれる。
私は我慢していた涙を一筋、下に落とした。
「―――葵……姉さん」
僕は目の前に立つ人の名を呼ぶ。
「もう、会えないと思ったのに……また、あっちゃったね」
「葵姉さん……なんで、えっ……でも、なんで?」
「あは、はっ。あたしにもわかんないけど成長しちゃってるね」
苦笑いを作る僕の目の前に立つ、僕と同じかやや年上の女性、葵姉さん。
「なんだろうね……なんかわかんないけど前、あの人に呼ばれたときよりも落ち着いてるというかさ……体だけじゃなくて、心や知力も上がってるみたい」
「そう、なんだ……っ!!他に変わったことは無い!?」
「えっ?……特には、無いけど」
「ホント?体のどこかに変な模様とか?」
「うん、大丈夫だよ」
「……よかった」
僕はほっと一息つく。最悪の想像。葵姉さんとの戦闘が避けられた。でも、それと、同時に……。
「…………っく」
なんの抵抗のできない葵姉さんを倒さなければならないなんて……。
「ねぇ、秀ちゃん」
「……なに?」
「今回はどうして、あたし呼び出されたの?」
「えっ……?しら、ない……の?」
「うん……とにかく、このなんかよくわからない空間に秀ちゃんがいるってだけで」
「……そっか」
僕は言葉をつぐむ。
さっきは、戦闘せずによかったと思ったが、こうして思えば戦闘中に誤って倒してしまった方が精神的に助かったかもしれない。
「秀ちゃん?」
「あぁ、ごめん。話も長くなるし座ろ」
「うん」
葵姉さんと向き合うように腰をおろす。葵姉さんも僕に習って座る。
「なんだか、一緒ににピクニックに行ったときを思い出すね。あの時は原っぱで一緒に遊んだっけ。なんだか、懐かしいね」
「うん……そうだね」
無垢な笑みを浮かべる葵姉さんに視線をそらしてしまう。成長しているのにも関わらずその笑顔は過去の僕の知る姿の葵姉さんと同じだった。そんな、彼女を……僕は。
「秀ちゃん、あたしが現れた理由って、そんなに秀ちゃんを苦しめるものなの?」
「えっ?」
「秀ちゃん、辛そうな顔してる。あたしが刺された時と同じような……うぅん、それ以上に辛そうな顔」
「……そうだね。出来れば、葵姉さんには現れてほしくなかった」
「そうなんだ。でも、理由を教えて。あたし、どう動いたら分かんないし、どの行動で秀ちゃんを傷つけるのか、どの行動で秀ちゃんが助かるのか、理由がわからないと私はどうしたらいいか分かんないの。無意識に傷つけるのが怖いから教えて?」
「……わかった。だけど、少しだけ、逃げていい?」
「どういうこと?」
「多分、言葉で説明する事が出来ないから、僕には。言葉で説明するのが怖いから……苦しいから……だから、魔法で、テレパシーのような魔法でなんで葵姉さんが呼び出されたのか伝える。ダメかな?」
すがるように、葵姉さんを見つめる。そういえば、葵姉さんになにかを頼むときはいつもこんな感じで頼んでた。まるで、成長してない。
「ううん。秀ちゃんが思う、一番辛くない方法であたしに伝えて」
「ありがと―――伝言鳩魔法」
僕は手を伸ばし葵姉さんにハトを飛ばし情報を渡す。
葵姉さんは暫く目を閉じて情報を整理するようになんどか頷いた。そして、瞼をゆっくりと持ち上げた。
「…………優しいね、秀ちゃんは」
「弱いだけだよ」
「ううん。確かに弱い所もあるかもしれない。だけど、それ以上に優しい。優しくて強い」
はっきりとした口調で葵姉さんは言い切った。
「もし、秀ちゃんがただの弱い人間なら逃げるためにあたしを直ぐに倒しにくるか、話をそらしてしまう自分の役割を放棄するはずだよ。そっちの方がずっと楽だから。優しいからあたしの意思を聞いてくれるんだよ」
「……強さとか、僕にはわかんないけど……だけど……だけど!!僕に姉さんを傷つけるなんて……出来ないよ」
「そうだよね。人を容赦なく傷つける事ができる人はいないよ……でも、秀ちゃんがやらなかったらどうなるのかな?」
幼児をあやすかのような優しい口調で聞いてきた。
「どうなるって……多分、いつかはこの空間も消えると思う……そして、ここで過ごした時間は完全な無駄に」
「そうだよね?秀ちゃんはそれでいいの?」
「いいわけ……ない」
「だよね。あたしも迷惑をかけてまで生き残りたくないな。そんなんなら、舌でも噛みきって自分で死ぬよ」
「…………わかった。でも、あと少しだけ、決心がつくまで待ってて」
僕の言葉に嘘はない。決心がつけば葵姉さんを出来るだけ苦しまないように倒すつもりだ。それに葵姉さんのことだ。僕が拒否したら、本当に自分の舌を噛みちぎってでも死のうとするかもしれない。そんなのは、嫌だ。
「じゃあ、さ。あたしのお願い聞いてくれる?」
「えっ?」
「あたしのお願いを叶えることを秀ちゃんの決心にして。ダメ?」
「ううん。もちろん、いいよ。葵姉さんの願い、絶対に叶えてあげるよ」
「ありがと」
ふわりと微笑む葵姉さん。
僕はこの笑みに何度も助けられてきた。葵姉さんが刺されたとき、夜の魔女と戦ったとき、それ以外にももっと前から僕はこの笑みに助けられてきた。
「じゃあ、お願いね。あたしと秀ちゃんの空白の思い出を創ろう?」
「えっ……?どういうこと?」
「だからさ、もしあたしが殺されなくて平穏な、もちろん秀ちゃんも魔法とかと関わりが無かったら……あたしたちがどうなってたのかなって?もしの世界だよ。どんな世界なのか……考えよ」
「うん、そうだね」
僕は頷く。僕らにとって訪れてほしいと願った未来。しかし、実際に訪れたのはこないと思っていた未来。あれ以来僕は辛い思いをして自分の事を嫌いになっていた。
そんな未来ではなく明るい未来―――考えよう。浸かろう。きっと、それは楽しい時間だから。
―――きっと、仲良くずっと遊んでたよ。
―――わたしと秀ちゃんが従弟って知らない誰かが変に勘違いして囃し立てる人も出てただろうね。
―――喧嘩もたまにはすると思うな。でも、きっと葵姉さんには負けるだろうけど。
―――高校は地元のを通うだろうね。部活とかは入るのかな?
なんのとりとめのないもしもの話。あったかもしれない未来。時に笑いながら、時に真剣に考え、アルバムを完成させていく。そして―――。
「あたしがもし大学入ってたら一回生か……入ってたと思う?」
「きっと入ってたよ。僕の予想だと教育大とかかな?子どもと関わる仕事、教師とか保育士とか、葵姉さんの夢だったでしょ?」
「うん、そうだね」
あははっ、と互いに笑う。
「ふふっ―――ふう、これであたしたちのアルバムは完成したね」
「そうだね」
ここから先は例え僕らが話したもう一つの世界に僕らがいたとしてもまだ訪れていない未来の話。思い出はアルバム出来ても未来の事はアルバム出来ない。
「秀ちゃん、あたしのお願いは叶えられたよ。ありがと」
「うん、じゃあ、僕も……決心ついたよ」
僕は決意を込めた眼差しを葵姉さんに向けた。そして、魔法定義を唱える。
「―――剣と固まる気取る風。すべきを切り裂く鋭き刃。時に温かく拭う風。金と光し空をここに具現せよ―――風をまとう剣」
静かに金と透き通る空色の剣を取り出す。
「……秀ちゃん、やっぱり、お願いをもう一個だけ追加していい?」
「えっ……?」
「お願い、笑顔で終わらせて。秀ちゃんと、あたしの二人の笑顔で」
その時、自分の顔がひどく歪んでいたことに気づく。いくら決意をしたとしてもこんな顔じゃダメだよな。
「わかった……これでいい?」
精一杯楽しかったこと、楽しみな事を思い浮かべながら笑顔を作る。
「うん、良くできました。ふふっ」
冗談っぽく笑って僕の頭を少し背伸びをして撫でた。
「ははっ……ちょっと、恥ずかしいな―――じゃっ、行くね」
「うん」
僕らは笑顔のままこの物語のピリオドをうつ。
僕の剣が葵姉さんの胸を貫く。痛くないように神経が痛みを知らせるより早く、終わらせた。
葵姉さんは笑顔のまま光となり消えていった。僕はそれを見届け、笑みを浮かべたまま一筋、涙を溢した。
光がはじけ魔法陣のふれた、あの場所に戻ってくる。キラキラと光る世界が虚無に帰っていく。
「うっ……」
唐突な場所の転換に気圧が変動したときのような違和感を感じる。
「おっ……戻ってきた」
誰かの声が聞こえ、僕は後ろを振り向く……時に、やっと両隣の気配に気付いた。
「あっ……二人とも。たお―――終わらせたの?」
敵を倒したのか、そう尋ねようとして二人とも瞳が赤くなっていることに気づき言い方を変える。
少し、軽率だった。僕がそうだったように、彼女達もまた、必ず倒せるが倒せない相手、が敵だったかもしれない。
「―――うん……私の方は、大丈夫」
「わたしも……うん」
二人は小さく、それでいて強く意思を込めた顔で頷いた。
「そっか……なら、どこかに魔方陣が現れて―――あっ、あれか」
僕は辺りを見渡すとそれを部屋のすみに発見する。やや黄色く発光していたため比較的楽に見つけることができた。
「そうだ。今、何時だ?」
時計を確認する。
―――21時28分、第一タイムミリット22時まで32分……休憩している時間はないか。
「ミント、夜美……二人とも大丈夫か?」
「うん、私は直ぐにでも行きたいわ……アイツの元に」
ギュッと拳に力を込めるミント……多分、ミントの中でなにか決心がつくことがあったのだろう。
対する夜美は瞳に少し迷いの光を宿しながら呟いた。
「わたしは……そうだな、欲を言えば休みたいけど……わたしも早くこんな物語を終わらせたいって気持ちの方が強いよ」
瞳から迷いの色を徐々に消していきしっかりとした口調で言った。僕はそんな二人の様子に頷きながらみんなに言う。
「じゃあ、これからこの魔方陣に入る。いきなり、ミリスと相対するのか、なにかワンクッションを挟むのか、それは僕にはわかんないけど……だけどミリスと戦うのは確実だ。準備はいいか?」
「うん!!」
「大丈夫だよ」
「まかせとけ」
「バックアップは任せろ」
「よし、じゃあ行こう」
僕はみんなの反応に大きく頷き魔方陣に向かった。
部屋の隅に書かれたそれは、ちょうど、僕たち五人が入れるスペースぐらいあった。
「とりあえず、はいったらいいのか?」
「うん、この魔方陣の形から察するに誰かが魔力を微量、魔方陣に注入することで発動する仕組みみたいだから。私が魔力を込めるよ」
「了解」
ミントの説明に答え、僕、ミント、夜美、石田、福田の順に足を踏み入れる。
「それじゃあ、飛ぶね」
ミントがいった刹那魔方陣が輝き、そして目の前の景色か変わる。
「っ……扉?」
僕は目の前のそれの名称を呟く。堅牢そうな鉄の大きな扉が構えていた。
「でけぇ……」
石田がそうぼやく僕も一瞬、恐怖に近いなにかを感じた。
そんななか、ミントだけが冷静に僕らに話しかけた。
「あぁ、これ……見かけ倒しよ。よくみなさい」
「えっ?」
僕らはミントに言われたように扉を凝視してみる。すると―――。
「あっ……もしかして、これ」
「冨本も気づいたか」
「冨本も、ってことは福田君も?」
「えっ、なになに?なにみつけたんだよ?」
一人気づいていない石田は目を皿にして扉を見ているが気がつかないようだ。
「すぐ分かるわ。鍵もかかってないからシュウイチ、あけちゃって」
「そうなのか、了解」
僕は中央についている二つの扉の取っ手をつかみ、部屋を開けるために、横にスライドさせた。
「えぇっ!?スライド式!?観音開きっつうの?あんな感じじゃねえのかよ」
石田が驚きのまま声をあげた。確かに、見た目は気づきにくいがよくみればスライドするためのレール部分を見ることが出来た。
―――ガシャン。
力のままに扉を開け放った。
少し明るく、広い部屋が現れ、中央に椅子に座ったミリスがいた。
「ようこそ、ボクの部屋に。そうだ、その前に聞かせてもらえるかな?ボクからのプレゼントは三人ともどうだったかな?」
「……ある意味では最高だったんじゃないのか?」
僕は低く答える。それを聞いたミリスが大笑いする。
「あっはっはっはっ、そうかい。それはよかった。それじゃあ、用件を聞こうか?」
「ミリス、お前を倒す」
僕は手をミリスの前に掲げそう威嚇した。
「ふ〜ん、そっか。いいよ。五対一……圧倒的君らの有利。ひっくり返してあげよう―――不幸を求む貫く槍」
ミリスがニヤリと笑いあの槍をだす、と同時に僕らは一気に散らばり戦闘体制にはいる。
「幸せ具現に導く緑閃光」
「天空と光の派数武器、形態・双剣」
「星の召喚、星座鶴座」
「三種の攻撃」
「風をまとう剣」
各種魔法で武器等を作り出す。夜美の鶴座は白い羽の生えた女性の形をしていた。
僕は胸に輝くペンダントをちぎる。
「攻撃名・氷結晶」
幸せ具現に導く緑閃光の新の強さを出すための名前を命令する。十字架のペンダントが一瞬青く光、形態を指輪に変え右手薬指にはめる。光は元の緑色に戻っていた。
「ふ~ん、面白いネ。さぁ、来てごらん」
「じゃあ、俺から行くぜ!!」
三種の攻撃を右手に火と電気の、左手に微毒があるクナイを構えた石田が一足先にミリスに突っ込む。
「ふん、キミからかい?」
キン!!という甲高い音が鳴り不幸を求む貫く槍が石田の火のクナイを弾き飛ばした。
「やあぁぁ!!」
「見えてないとでも?」
その伸ばされた不幸を求む貫く槍がその勢いのまま石田の後ろに隠れて移動しそして、石田を追い抜いて一太刀入れようとした福田の風をまとう剣とぶつかる。不幸を求む貫く槍と風をまとう剣の出す風でなんとか耐えようとしているが、明らかに福田が劣勢だ。涼しい顔をしているミリスに対して福田は苦しい顔をしている。
「ぐっ……!!」
このままではだめだと判断した福田が風を爆発させその勢いで自らを後ろにふっとばす。それ見て僕とミントが動く。
「えい!!」
「固定氷」
僕はミントが次々と送り出す風を氷らさせる。実体のない風を実体のある氷にすることでダメージ数を増やす作戦だ。
「ふ~ん、面白いネ」
だが、その厚い氷を槍で簡単に貫かれた。それでも、まっすぐにのばされた槍を急に別方向に変えることはできないはず。だから!!
「夜美!!」
「星の衝突!!」
鶴座につかんでもらって空を飛ばせてもらっていた夜美が空中から急降下しながら魔法をぶつける。
―――あてる!!
そう確信したが。
「不幸を求む貫く槍をなめないでくれるカナ?」
「キャッ!?」
なんと、不幸を求む貫く槍の刀身が曲がり夜美の脇腹と後ろにいる鶴座を貫いた。
「っ!!柔軟氷!!」
僕は夜美の落下点に柔らかいジェル状の氷を敷く。幸せ具現の緑閃光のおかげでそんなに狙わなくても僕の否定する不幸に導かれないように偶然の名の元に半自動的に夜美の落下地点にはいった。
「形態変化・弓」
ミントは僕らの様子を見送りながら直ぐに攻撃にうつる。
「これは……よっと」
だが、ミリスはそれを易々とかわした。弓は一転集中型の攻撃。故に軌道を読まれたら終わりだ。
「壱!!」
「おっと……危ないな」
そのかわした先に福田が剣を振り落とすも槍の柄で塞がれる。左手には古代魔法武器と石田が落とした火の短剣を持っている。あれは、一角の激昂馬の構え。勝負に出たか。
くそっ……古代魔法武器ではやはり不幸を求む貫く槍は吸収出来なかったか。僕らの不幸をあの槍は求めたのだろう。
「弐」
どんどん攻撃をしていく福田。よし、少しだけ、時間を稼いでいてくれ。
「夜美!!大丈夫か?」
「なん、とか……」
辛そうな顔の夜美。思ったより出血が酷い。僕の出したジェルも赤く染まっていた。鶴座は壊されたようで消失している。
「今、僕が治す―――」
「ちょっと、待った!!俺が治した方が良い。冨本は戦闘に集中しろ!!草木の恵み」
「あ、ああ。サンキュウ、石田」
僕は夜美の治療を石田に任せミリスを伺う。夜美の怪我が治るのは恐らく十分は必要か……。なら、こんな緩い攻撃はしていられない。
「惨!!―――がっ!?」
福田がクナイで攻撃しようとするも一気に延ばされて福田の肩に傷がつきその勢いのまま後ろに飛ばされた。だが、傷は浅いようで顔をしかめながら飛ばされた先で自分で手当てをし始めた。
「攻撃名・高電圧。超電磁波」
黄色に光り、指輪からブレスネットに姿を変えたそれから電力の高い固まりの弾をミリスに向かって放つ。幸運の名の元に当たるはずだ!!
「これは、危なそうだネ。やぁ!!」
「なっ!?」
ミリスは槍を持ち手部分を地面にさし先端を超電磁波に当てた。すると槍がアースの役割を果たし、超電磁波を受け流された。
「こっちを忘れてんじゃ無いわよ!!」
「忘れてなんかいないさ」
不可視だがミントの指の形から五本の風の矢が放たれたのがわかる。今、不幸を求む貫く槍は地面に突き刺さっている。チャンスだ!!
「千本の尖線風」
―――ビュゴー、というすごい風の音が鳴ったと思ったらミントが吹き飛ばされていた。
「かはっ!!」
壁に背中からあたり肺が押し潰され空気を漏らすミント。服に無数の傷がつき体からは血があふれでていた。
「ミント!!」
僕はミントの元に駆け寄る。意識が完全にとんでいた。一瞬、最悪の事態を思い浮かべるが呼吸はしているようで胸が上下している。だからといって安心は出来ない。治療をしなければ。
「福田か、石田!!時間を稼いでいてくれ!!」
「了解!!人体転移魔法」
僕の言葉に真っ先に反応したのは夜美の治療に当たっていた石田だった。夜美の傷は完全に塞がっていたが、それは、古代魔法武器内の魔力を大量に使ったことを意味していた。
「喰らえ!!」
「無駄だって」
ミリスの後ろに転移した石田が首筋にスタンガンを当てようとするがそれを手を掴まれ阻止される。
「ミント、助けるからな。補助名・細胞活性」
ブレスネットが赤く光りチョーカーに姿を変える。僕はチョーカーに命令を出す。
「零血」
ミントの傷が直ぐに塞がり綺麗になる。僕はミントを壁にもたれ掛からせるようにする。
「無駄じゃねぇんだよ!!らっ!!」
「ん?おっと!?ヤバイヤバイ」
石田がスタンガンのスイッチを押すと明らかに要領をオーバーした高電圧になり爆発する。一発限りの大改造を行っていたようだ。その威力は小型の爆弾並みで爆風がおきた。
爆風がおさまり視界が開ける。
「ふ~、危ないね~。何するんだい?」
「くそっ!!」
不幸を求む貫く槍を片手に持ち立つミリスに悪態をつく。爆発に巻き込まれた福田はそのまま飛ばされたようだが怪我はばさそうだ。しかし、意識を手放したようで壁際に眠るように倒れていた。
これで戦力は5分の3。内、夜美と福田は回復をしたといっても怪我のダメージがある。実質、十分に戦えるのは僕だけか……。時間は稼げた。ここは、一点集中の高火力攻撃より隙を見せない攻撃の方がいいはず。
「攻撃名・炎砲化」
赤く発光しチョーカーから腕輪に変える。
「炎獄!!」
僕は地面から炎の柱を何本も立ち上される。これで簡単には近づけないはず。
「熱いネ~。やめてくれよ」
槍を構えたかと思うと炎を突き破って一直線に僕の元に伸ばしてくる。
「くっ。紅高熱」
腕輪に熱を与えながらその腕輪に幸運にも槍があたる。腕には熱を感じない使用になっているので熱くはない。逆に槍は熱伝導でミリスに暑さが伝わるはず。
「―――キミはさすまたを知ってるかい?」
「えっ?なっ!?」
穂先が三つに別れ僕の腕を貫いた。
「ふふっ。痛いかい?」
不敵に笑いながら槍を回収するミリス。僕は痛みで膝をつく。
「秀一君!!闇なる弾丸!!」
「ほ〜、目くらましか」
ミリスと僕の間に闇なる弾丸を放ち爆発の威力で前が見えなくなる。
「蒼火炎!!」 僕はその爆発により吹き荒れた風の力に蒼い高温の炎をふくませる。流れに乗ればミリスに必ず届く。
「消化しようかな?零の無風」
一定の距離を真空状態にされ炎が消され、空気も届かない。
「歌劇!!」
いつのまに移動したのかミリスの後ろに回っていた福田が自らが名付けた剣技、歌劇でミリスを倒そうと試みていた。石田が気絶しているためクナイがなくなっているがその手には代わりに闇をまとう剣が握られていた。
「福田君、届かせて!!」
夜美がこちらに走ってきながら福田に声をかける。どうやら、闇をまとう剣の発動者は夜美らしい。なるほど、先ほどの夜美の攻撃は誘導か。
「ふ~ん、それ本当に剣の技?」
槍でまず闇をまとう剣の一撃を回避される。だが、歌劇の強さはこれからだ。歌う演劇、オペラ。それと同じく歌うように、演じるように一角の激昂馬の強さである一瞬の攻撃力のまま空かける天馬の柔の剣技を取り込んだ技。
「秀一君、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。夜美の時と比べてたらこれくらい……補助名・細胞活性。零血」
僕は素早く自らの傷を活性させる。
「っつ」
「秀一君?」
「な、なんでもない大丈夫だ」
魔力を使いすぎたのか視界が一瞬眩む。福田達を霞む視界で見ると福田が次々と剣を振り下ろしているがそれを楽々と槍でふさがれている。だが、攻撃する隙を与えていないのは確かだ。それならば。
「補助名・身体強化」
桃色に光ったそれを次はイアリングに変化させる。
「解放脚!!」
「ん?軽くなった?」
「いけっ!!福田~!!」
僕は叫ぶ。この魔法で福田の足の速さが上げた。ただし、幸せ具現に導く緑閃光を別の形に変えれば補助もまた消えてしまうので幸せ具現に導く緑閃光での攻撃ができなくなってしまったが福田が決めてくれるなら。
「サンキュー!!」
「っ。めんどくさいな」
初めて顔に苦渋をみせる、ミリス。これなら押し切れるか?
「夜美。力を貸してくれ。僕の七色の玉弾と闇なる弾丸を合わせる。一人じゃ無理でも、二人なら!!」
「……うん!!分かった。闇なる弾丸!!」
「七色の玉弾!!」
「「混ざれ!!二つの魔法!!」」
僕らの攻撃の合わさった魔法がミリスの元に迫る。
「めんどくさいが……それぐらいじゃ無駄だネ!!命令式・悪意共鳴」
「おぐっ!?」
「きゃっ!?」
「がはっ!?」
ミリスの槍が三つに割れたと思ったらその刹那には福田、夜美、僕の胸をとらえて突き刺さっていた。途中、僕と夜美の助け合う魔法を一本の槍が突き破っていたようで少し遅れて爆発をしていた。
「急所は外したか。ソレの効果が以外と強いみたいだな」
ミリスはそういいながら槍を元の形に戻した。それによって槍で体を支えられていた夜美と福田が地に伏す。僕は辛うじて胸から血を出しながら持ちこたえる。
「まだ、動くかい?しぶといね」
「負け、る……わけにはいかないから、な……攻撃名・高電圧」
僕は低い声で唸りながら形態をかえる。魔力もほぼなく出血の影響もありほとんど目も見えない。
「……何をキミがそこまで奮い立たせるのか。まあ、いい。一つ良いこと教えてあげよう。たった今、22時になった。ボクはもう、全てを解除する鍵の所有者だ」
「…………………」
なにか、言葉をはっしようとするが上手く言葉にならない。ただ、先ほどミリスの魔力の質が変わったのが肌で感じた。
「全てを解除する鍵の能力は尽きぬ魔力、三種類の性質の使用。そして、魔法自身の単純な強化だ」
「雷撃!!」
「風の刃」
「かはっ!!」
呆気なかった。僕の雷撃を一瞬で突破され腹に一撃くらい、次こそ本当に立ち続ける事が出来なかった。
幸せ具現に導く緑閃光も維持できなくなり消えてしまう。今度こそ、殺される。もう、偶然は味方に出来ない。せめて、みんなを連れて逃げなければ。
「―――」
小さく、本当に声になっているのかすら怪しい声で呪文を呟く。もう、高速詠唱を行う魔力もない。
「それにしても、残念だ。てっきり覚醒していると思っていたんだが」
ミリスが冷徹な声でよくわからない事を呟く。
「だが、次に会うときには本当に役者が全員揃うだろう」
「別次元の往来」
僕はなんとか魔法を発動させ僕と仲間全員を別次元に送った。この魔法が結界ではなく僕の作った世界への移動である、転移系の魔法でよかった、僕が気を失っても結界のようにとけなくて、なんて思いながら気を失った。
―――起きろ。終焉に導く者よ。起きろ。俺の後継者よ。
暗闇の中から声をかけられる。不思議と、ミリスと戦った時についた傷の痛みは無かった。
「くっ……うっ……」
僕は目をあけ、体を起こす。
「あ、あれ?」
そこで、数々の違和感に気づく。確かに、別次元に移動はしたが、僕の示した場所でない。それに、妙にふわついているような……そして、衣服をまとっていなかった。
全裸で、比喩ではなく本当に真っ暗闇の世界に、僕がいた。
「ここ、は?」
「ここは神から授かりし光りの残滓の世界。まっ、もっと簡単に言うとお前の精神世界だ」
「なっ……!?ミリ、ス?」
暗闇からまるでスポットライトを浴びたように突如現れたそいつの名を呼ぶ。が、少し違和感を感じる。しゃべり方もそうだが、ミリスと似て非なる者に見える。
「その名前は俺の弟の名だな」
「弟……ってことは、まさか!!」
「俺の名前はミリル=クリア=ライト。ミリス=クリア=ライトの兄で、最大の敵だ」
目の前の男―――ミリル=クリア=ライトはそういって俺の前に腰をおろした。
「いつまで寝転がってるつもりだ?」
「あ、あぁ……」
僕はミリルに言われるがままに体を起こし、ミリルに習ってあぐらをかく。
「だが、お前が俺の後継者か……名は冨本秀一でよかったな?」
「そう、だが……なんで、ここに?」
状況が飲み込めず困惑する。どうして、僕はこの精神世界とやらにいるのか、どうしてミリルが目の前にいるのか。分からないことばかりだ。
「俺もまだ覚醒したばかりでね。まだ記憶も混濁しているんだが……なにから話せばいいのやら」
困ったとばかりに眉間に手をやるミリル。
「じゃあ、まず聞かせてくれ。さっきから言っている覚醒って、どういう意味だ?」
ミリスも言っていた覚醒という言葉。その言葉の意味が図りかねる。
「えっと……そうだな。まずは、三種の呪鍵という魔法名を聞いたことはあるか?」
「三種の呪鍵?いや、はじめて聞く」
質問に質問で返されるのはあまり好きではないがミリルも真剣に考えているようなので今はミリルの事を信じ答えよう。
「そうか……なら、神から授かりし光りや神から産まれた悪魔、生命の調整機のことは?」
「それなら、知っている。ミリルが作ったGランク魔法だよな?」
「その通りだ。そこまで知っているなら話は早い。俺はこの魔法につけた名前、それが三種の呪鍵だ。そして、この三種の呪鍵には一つの工夫がなされている。それは、俺の意識体、簡単にいうなら魂を神から授かり光りの欠片にいれて差し迫った時に俺が目覚め今、お前と精神世界で対話するようにプログラミングしといたんだ」
「その、差し迫った時ってのがそうなのか?」
「そうだな。もっと言うなら神から授かりし光が保有者の体から抜き取られて少ししてからだな……」
「なるほどね……僕から欠片が抜かれたからミリルが現れたわけか……」
僕はとりあえず覚醒の意味を知り咀嚼する。三種の呪鍵にはまだ、僕には知らなかったことがあるらしい。
「一つだけ、気になっていた事がある。なぜ三種の呪鍵を作ったんだ?」
「どういうことだ?」
「願いを封鎖する壁はほとんどの魔法を使えなくさせたんだろ?なのに、それを解除する魔法がどうして必要だったんだ?」
これが分からなかった。|三つの欠片を集めればどんな魔法でもたちまちに解除されてしまう。そんな魔法をどうして作ったのか。ミントは魔法の強化の為と言っていたがデメリットの方が多いように感じる。
その意味を理解したのかミリルは一つ頷き続けた。
「お前は最悪の魔法―――これが何を指しているかわかるか?」
「あぁ。ミリルの二つのさっきいった魔法の事。それ以前と以後を魔学歴と新魔歴っていうんだろ?」
「ふ〜ん。そこまで知っていたか。じゃあ、分からない単語が出てきたら止めてくれ」
手を顎にやり考えるようにそう言って一つ息を吸いミリルは続けた。
「最悪の魔法が行われる直前に、世界のバランスが崩れた。妙な獣は現れ異常気象に見回れ……世界が崩壊に導かれた。一種の環境破壊だ。つまりはこれ等も抑えなければならなくなったんだ。元々は俺たちはリトブラム教打倒の為に立ち上げた組織だったが―――」
「待ってくれ。リトブラム教ってなんだ?もしかして、当時実権を握っていてミリル達の父親が狂った行動をするようになったという、その宗教の事か?」
ある程度予想をたてつつミリルに尋ねた。
「その通りだ……。忌々しい宗教の名前がリトブラム教だ。そして、それに反旗をあげたのが俺たちの組織―――名は後から俺の仲間が勝手につけたんだが、ミリル親衛隊だ」
「ミリル親衛隊……か」
それが、ミリルの仲間たち。革命軍といった所だろうか。
「話を戻すぞ。俺たちはリトブラム教打倒に立ち上がった。事実、リトブラム教のほとんどを崩す事ができた……多大な犠牲を払ってな」
「犠牲?」
「ああ、俺たちの目的はリトブラム教により束縛された人々を救い解放すること。しかし、リトブラム教の信者はそれをよしとしなかった。リトブラム教によって世界が保たれていると確信していたからな。だから、その信者と俺たちは血肉をえぐる戦いになり、俺たちの仲間も信者も多数死んでいった」
ミリルは本当に悔しそうに拳を握りしめる。爪が皮膚にささり爪痕を少し残した。
「俺は戦いながら悩んだ。これは本当に人々の為になるのか……狂った世界であってもリトブラム教にまかせて、世界を安定させておけばよかったのでは無いかと」
「……たしか、リトブラム教って、元は魔法管理組合って名前で、その組合だけが魔法を独占するようにさせるための宗教だったんだろ?そんなの、間違っている」
「そうかもしれない。正しくないかもしれない。しかしな……結果的に魔法を使いすぎ世界のバランスが崩れ、一度地球は終わった。たとえ、仮初めでも平和だったものを崩してしまった……結局さ、俺は母親を失いその復讐をしたかっただけなんだよ」
寂しげに、自嘲するように笑うミリルの顔に、同じように笑ったミントの顔が重なった。そういえば、ミリルはミントの伯父にあたるので、似ていて当然なのかもしれない。
「話がずれてしまったな。正義なんて見方しだいで変わる。独占の為とはいえ魔法を管理し、世界が崩れないように制御をはかっていたリトブラム教が正義かもしれないし、俺たちの方が正義なのか……その時々の立場によって変わる。絶対的正義は無いな」
絶対的な正義は無い―――僕はその言葉に強い衝撃を受けた。
そういえば、堕天使のメンバーの一部を除く全員が過去に闇を持っているのだ。中には命を救ってもらった人だっている。夜美にしても、香里にしても、もし堕天使がいなかったら死んでいたかもしれない。
それに、堕天使のメンバーはどうなる?ここで生活している彼らが、はたして堕天使が無くなったあと普通に生活できるのだろうか?
夜美によると堕天使から任務を与えられ、きちんとこなせば報酬金がおくられるらしい。そのお金を切り崩しながら夜美は生活している。それに、まだ高校生なのでいくらでも未来はある。
だが、他のメンバーはどうだろうか?香里と戦った時に現れた香里の部下と思わしき男たちの中には二十歳を超える人間もいた。彼らが、社会では生きていけるのか?
…………いや、考えるのは止めよう。確かに、そういった人物が現れるのは確実だが、だからといってミリルを神にするわけにはいかない。答えなんてない。絶対的正義なんて無い。だから、だからこそ僕たちは僕たちの信じる正義を真っ当しよう。
「どうかしたか?」
「いや、大丈夫だ。話を続けてくれ、ミリル」
「それならいいが。そして、先ほども言ったように世界はバランスを崩した。そのバランスを元に戻すために必要な魔法が三種の呪鍵だ」
「その目的の為に……三種の呪鍵が……詳しく説明してくれないか?」
「三種の呪鍵は、知ってのとおり神から授かりし光、神から産まれた悪魔、そして生命の調整機だ。そして、それぞれに役割がある」
「役割?」
「神から産まれた悪魔は人々から記憶を奪う。神から授かりし光は一部の人間、つまりは俺が選んだ人間の記憶を守る。そして、生命の調整機は世界の環境を整えたんだ」
「……記憶を奪うのは、別の魔法、記憶消去魔法じゃないのか?」
「ふっ、そんな風に聞いてるんだな」
意味ありげな笑みを浮かべるミリル。それは、よくやってくれた、と言わんばかりの笑みだった。
「情報をかく乱させておいたのさ。記憶消去魔法は確かに存在するが最高でも十人程度が一気に記憶を奪える人間の限度。そんな非効率なことはしないさ。少しでも、情報を惑わすことにより三種の呪鍵、という魔法を隠す。ミリル親衛隊の仲間で記憶保持を志願したものだけは記憶を奪わなかった。恐らく、彼らがうまく俺が消えてから情報をかく乱してくれたんどろうな」
情報のかく乱、か。確かに大切なものではあるな。しかし、まだもう一つ理解出来ない部分があった。
「だとしても、三つの鍵を集めたらどうしてどんな魔法でも解除することができる存在、全てを解除する鍵になるようにしたんだ?」
「それは……仕方の無いことなんだ。この魔法は三つの物体を作り出すもの。しかし、わかっていると思うが実在魔法は一つのものしか作れない。質が同じものならいくつかに量産させることも可能だが……この魔法はそれぞれの質が全く異なる。それを一つの魔法に定義するために、元は一つのもので変形して三つになった、という形にする必要性があった。そして、その存在が三つの力が合わさった総合的な力にする必要性もあった……合体して弱くなるなんてありえないからな。その結果が全てを解除する鍵だ……」
「副次的なもの、か……なるほどな」
よし、三種の呪鍵についてはわかった。次の質問だ。
「じゃあ、次は、どうしてミリルは神から授かりし光に魂を埋め込んだんだ?」
「ミリスが自らにかけた魔法。禁術・衰えぬ生命……それを解くためだ。この魔法はその名の通り死ななくなる魔法だが。この魔法にも弱点がある。それは、魔力の異常だ。体内に自分以外の魔力が大量に混じるとこの魔法が途切れる。死なない体が死ぬ瞬間だ」 死なない体が死ぬ瞬間……その為に。だが、魔力を埋め込むなら別にミリルじゃなくてもよかったんじゃ……。
「無理だよ。お前の考えている事は」
「なっ……」
「ふっ、顔に出てたさ。お前は知らないのか?魔力をうえこむには長い間敵を拘束する必要性があることを」
「いや、知っているが……普通ならそんな事をしていることを感じれば魔力を放出させたりして敵の魔力をかきだす。だけど、意識を失わせたりすれば不可能では―――」
「それが無理なんだ。衰えぬ生命の能力としてあるのが怪我をしたときに一瞬で元通りになるのと、意識を失ったりならないという能力だ」
「……なんだよ、それ」
思わずなげやりぎみに言ってしまった。なんというチートだ。
それに、さっきまでのミリスとの戦闘が完全に無駄だったということも発覚した。
「じゃあ、どうすんだよ?」
「だが、俺ならそれができる。だが、お前の力が不可欠だがな」
「僕の力?」
「お前の魔法によりミリルに多大な怪我をおわせろ。それを回復しようとするときに一瞬にして俺の魔力を奴に移す。それが唯一、魔力を混ぜる方法だ」
ミリルは強いまなざしを僕に向けた。簡単に言ってくれる。さっきの戦いでは、多大な怪我、どころかかすり傷さえあたえれなかったというのに……でも―――。
「分かったよ」
僕もまた、強いまなざしを彼に向けた。
「ふっ。ありがとな。お前ならそう言ってくれると思ったよ。そんな、お前にプレゼントだ」
「プレゼント?」
「あぁ―――もういいぞ、出てこい」
ミリルが視線を向けた先から黒い影が現れ、そしてソイツは僕のもとに走ってきた。その姿を見て僕は驚きの声で、久しぶりにソイツの名を呼んだ。
「ま、マト!?」
「わん!!」
その、黒い物体、マトが僕の体に飛び込んで一声鳴いた。それを僕は抱き留めた。
「俺も驚いた。目が覚めた時、てっきり一人だと思っていたんだがその犬がいたからな。同化をしたんだろ?」
「そ、そうだけど……なんで、マト―――魔法犬がここに?」
「同化はきえるわけではないんだ。あくまでも同化。つまり、お前の中に潜む。マト……って言ったな。そいつはずっとお前の中にいたんだ」
「そう、だったんだな」
僕は少し笑い本当に久しぶりにマトの背中をなでる。服を着ていないからかマトの毛並が僕の肌に当たりチクリと皮膚を痛めた。
「で、プレゼントって、こいつの事か?」
僕はマトをおろしてミリルに尋ねる。マトは僕に寄り添うようにちょこんと座った。
「まぁ、そうだな。ただし、それだけではない。お前にマトとの意思を疎通してもらうことが大切なんだ」
「意思の疎通?」
「ああ、お前はもう経験したか?魔法同一化を」
「魔法同一化……あぁ、何度か危ない経験をしたよ」
「それなら話がはやい。その同一化した時の人格けし、強さだけを取り出せるとしたら……どうだ?」
「そりゃ、魅力的だが……それが、できるってことなのか?」
「もちろんな。それに、意思の疎通つったが、そんなに難しいことじゃない。簡単だ。現実世界に戻った時胸の中で強くマトを呼べ。そうすれば、きっとマトは答えてくれるだろうよ」
「わん!!」
頷くように大きく鳴くマト。その鳴き声に僕は少し勇気づけられる。
「ただし、注意がある。あくまでも、これは別人格を無理矢理押さえ込んでいるようなもの。精神的疲労の負担もあるからね。長くてそのモードが続くのは十分が限度だよ。それ以上続けると自分を見失う。廃人になるよ」
「あ、あぁ……十分だな。分かったよ」
「ははっ、そんなに気を張る必要性もないよ。恐らく体が悲鳴を上げて持続が不可能になるはずだからね」
気にするなといいたげに笑うミリル。それで、少し安心する。
「とにかく、お前にはこれからもう一度ミリスと戦ってもらうことになる。覚悟はいいな?」
「ああ、わかってるよ。必ずミリルの悲願を達成させてやる」
「……よろしく頼むよ」
ミリルは僕の言葉に強く頷く。それを見送った瞬間急に意識が失われていくように視界がブラックアウトしていく。
「では、頼むぞ!!」
「わん!!」
ミリルとマトの声をうけながら僕の視界は完全になくなっていった。
「シュウイチ!!シュウイチ!!」
「秀一君、目覚まして!!」
「冨本。目を覚ませ冨本」
「こんなんで、死ぬんじゃねえぞ。起きやがれ冨本!!」
闇の先から声が鼓膜を揺らす。その声のする方向に意識を向けて目をうっすらと開ける。
「ん……みん……な?」
「シュウイチ!!」
「秀一君!!」
僕の言葉に真っ先に反応したのはミントと夜美。そして、少し遅れて福田と石田も振り向いた。
「大丈夫!?私が目を覚ましたとき、一番ひどい状態だったのがシュウイチだったから……でも、息はしてるし……生きててくれて、本当によかった」
ミントは涙をこぼしながら僕に抱きつく。夜美もまた、頬を涙で濡らしていた。
―――ズキッ。
「うぐっ……」
「あっ、ご、ごめん。シュウイチ」
突然痛んだ腹に僕は声をあげた。よくみれば僕は上半身裸で、お腹にはミリルの風の刃によるものと思われる傷が線となり残っていた。
不幸を求む貫く槍により胸に受けた傷は完全に塞がっているのを見ると全てを解除する鍵による強化がどれほど恐ろしいものだったのかがひしひしと感じた。
「大丈夫だ……少し痛んだだけだ……って、そうだ!!今何時だ!?」
僕は突如思い出したかのようにみんなに尋ねる。まさか、タイムアップになってなければいいが。
「今は……23時30分だよ……第二のタイムミリットも過ぎてる」
「クソッ」
僕は悪態をつく。思いの外長く眠っていたらしい。
「……ねぇ、シュウイチ。これから、どうするの?」
「どうするって……」
「万全の態勢で挑んだのに私たちは負けた……悔しいけど、今の傷ついた私たちに勝ち目は……」
本当に悔しげに語るミント。確かに、僕たちは一切怪我を奴におわせ―――られなかったのか?
ここで疑問にぶち当たった。先程までは一切考えていなかったが……奴のカラクリを知った今なら……。
「違う……逆だ」
「「「「えっ?」」」」
僕の言葉にみんな不思議そうに声を漏らした。
「逆だ……今だからこそ奴を倒せる……僕たちはもう奴を一度……下手したら二度倒している」
一度は石田がスタンガンを爆発させたとき。あのとき、涼しい顔で現れたがあの至近距離……防げるはずがない。恐らく爆発は喰らっていたはずだ。だが、ミリルの衰えぬ生命の能力ですぐに傷を治してダメージを受けてない風を装っただけだ。それに、夜美が闇なる弾丸を目眩ましとして放ち、僕が蒼火炎をぶち当てた時だって……アイツは消火しようかな、と言っていたが今考えれば蒼火炎の速度的にミリルに当たっていたと考えた方が納得がいく……。
「秀一君、それどういうこと?」
「それの説明もかねて、僕の知っている情報をみんなに共有する。伝言鳩魔法」
手から鳩を四羽放ち全員に行き渡らせる。それと同時に無駄に魔力を使ってしまったのでは、と後悔しかけたがすべてを口ではなしていては時間を喰ってしまう。そう考えると必要経費と割りきってもいいかもしれない。
僕の渡した情報に、ミントは驚きの表情をしめし、夜美は情報を必死で整理しようとしているのか、少し難しい顔になる。石田と福田は今一つ理解できてないようだが、大体の事情は分かったと言いたげな顔をしている。二人とも僕らより、魔法に対する情報が少ないぶん真に意味を理解するのは難しいかもしれない。しかし、逆に言えば魔法の常識がひっくり返されるような事があったとしても一番早く適用できるかもしれない。魔法とはそういうものだ、と認識し直せばいいのだから。その事はGランク魔法についてあかされたと僕と夜美が驚いたことに対して二人が平生だったことからもわかる。
「……正直、理解が追い付かないわ。だけど、とにかく、今大切なのはシュウイチの攻撃をミリルにあてること……そういう認識でいい?」
「あぁ、そう思ってくれ。ただし、同時にのせた情報通りミリルの強さは全てを解除する鍵によりブーストされてる。ますます、油断が出来なくなっていると思ってくれ」
腹の傷を押さえながら僕は四人に言った。もともと、強いものが更に強くなる。鬼に金棒とはまさにこの事だ。
「だとしても、ここでグダグダしてる必要性はないでしょ」
パンパンとお尻を払いミントは立ち上がった。その瞳には強い意志を感じられる。
「そう、だね。正直魔力はもうほとんど残ってないんだけど……このまま負けっぱなしなんていやだよ」
夜美もまた立ち上がり僕に微笑んだ。
「俺も同じだ」
「奇遇だな。俺も負けず嫌いでね」
石田、福田も少し笑い僕に視線を与える。
「そうだ!!第二のタイムミリットは過ぎているってことは魔法の制限はなくってるはず。ミリルが封印した魔法の一つに禁術・精神渡しの力が使えるってことね。私の魔力をみんなに渡せる。魔力の回復ができるわ」
「待ってくれ!!その禁術に副作用はないのか?」
「安心して。この魔法が禁術に分類される理由は体内の魔力を他人に受け渡すことによる使用者の魔力不足が原因。だけど、裏をかえせばそれさえ防げば大丈夫であるということ。私には魔力は無限いあるわけだから、大丈夫よ」
ミントは安心して、と言いたげに優しく笑った。僕はほっと息を吐く。そういうことなら安心できる。
「じゃあ、いくわよ。イシダ達も古代魔法武器をだしてね―――禁術・精神渡しの力」ミントの声が響いたと同時に体が暖かくなる。うまく言葉であらわすことが出来ないが……力が沸くようなそんな印象だ。
「…………ふう。とりあえず、こんなところかな」
「ああ、ありがと。満タンってわけではないけど、それでも十分以上に回復はできたよ」
「そう。あっ、でも、回復できるのはあくまでも魔力であって、体力は回復できてないわよ」
「だろうな……でも、大丈夫……みんなで、次こそミリルを倒そう」
一人座っていた僕は近くに落ちていた服を着ながら立ち上がる。服は風の刃の影響でお腹の部分が大きくさけていた。他のメンバーもよくみれば服がボロボロになっていた。だけど、僕らは決して逃げるという選択しを取らない。多分、いまここで逃げ出してミリルの野望が達成されたとしても僕らを恨む人なんていないだろう。だけど、そんな選択しを僕らは選びたくない。僕らがとるのは勝利だけだ。
「それじゃあ、行くぞ。あらわれる先は僕らがミリルと戦った場所。恐らく、移動していないだろうからすぐにバトル開始になると思うよ」
本来、この魔法、別次元の往来は元の世界に戻るときは元ののぞき見て安全性を確保してから戻るものだけど、それをするにはほんの少しだけでも元の世界とこの世界をつなげる必要性がある。つまり、そこを狙われたら攻撃が僕たちにあてられるかもしれない。そんな危険性を犯すわけにはいかなかった。
僕はみんなが完全に戦闘態勢に入ってるのを確認し、呪文を唱え―――。
「―――別次元の往来!!」
一瞬の空間の歪みと浮遊間、そしてふっと変わる空気の質。
先程までいた暖かな空気が流れる場所でなく、温度としては同じなのに寒さで震えているかのように突き刺さる空気。その空間に僕たちは降り立ち、目をあける。
「おやっ?待てども待てども来ないから逃げ出したのかと思ったよ」
眼前で皮肉げに笑う、ミリス。だから、こちらも精一杯に皮肉げに笑ってみせる。
「期待にそえなくて悪かったよ―――期待だけでなくミリスの夢にもそえなだろうがな―――幸せ具現に導く緑閃光、攻撃名・魅力音!!」
僕はペンダントを出すと共にすぐにそれを橙色に光らせ首飾りに変える。
「天空と光の派数武器、形態・大剣」
「星の召喚、星座双子座」
「風をまとう剣」
僕に続くようにミント、夜美、福田は武器となりうる魔法をだす。石田は少し後ろに下がりサポート役に徹してもらう。というより、ここにいるメンバーで、僕以外は全員、僕がミリスに一太刀浴びせるようにするためのサポート役だ。
「面倒だな……まあ、いいや。全ての準備が整うまであと21分24秒。楽しませて貰おう。不幸を求む―――」
「騒音!!」
「くっ……」
ミリスが言葉をはっするより早く爆音の周波をぶつける。音は空気の震動によりおこる。それを制御してミリスの元にしかこの爆音は届かない。
爆音に耳を塞ぎたじろぐミリス。それを逃すことなく二人の夜美が駆け出しミリスを挟むようにたつ。「「闇なる弾丸!!」」
両端から魔法を放たれ一直線にミリスの元に軌跡を描く。
「なめるな!!」
ミリスは後ろに大きく跳躍し闇なる弾丸を回避する。二つの弾丸は衝突し小さな爆発をおこす。
すかさず、ミントは大剣を、福田は風をまとう剣を大きく振りかざし風をおこし硝煙を流しさる。
「命令式・喰らう絶欲」
硝煙が無くなった瞬間に響くミリスの声。いつのまにか出していた不幸を求む貫く槍が僕の胸目掛けて切っ先を回転させながらやってくる。
「風の壁」
「重奏音!!」
石田の風の壁に当たった不幸を求む貫く槍は少しスピードを緩め二つの重なる音の震動により方向がズレ僕の顔の横をそのまま通り抜ける。
重奏音は元々はかなり大きな音で不協和音を鳴らすのが役目。だが、音を調整すればその二つは空気を揺らし投てきなどの軌跡を変えることすらできる。
「ちっ……」
小さな舌打ちがミリスから聞こえる。延びきったその槍の切っ先は僕の体をえぐれず回転も止まっていた。
「歌劇!!」
それを逃すはずなく福田は通常の竹刀を左手に添え攻撃に移る。
「闇の玉」
そこに夜美、かはたまた双子座なのかはわからないがミリスに攻撃が差し迫る。
「無駄だ!!」
だが、ミリスは槍を長く伸ばした状態のままそれをグルンと一周させる。
「おわっ!?」
石田以外の全員が槍の直径に収まっており当たる前にしゃがむなりして攻撃を回避する。闇の玉は槍の質量に押し潰されるかのように槍にぶつかると分裂するより早く消滅する。
槍は回転しながら徐々に小さくなりすぐに元の大きさにまで戻る。
―――残り二十分をきったことを体内時計が教える。急がなければ。
「攻撃名・氷結晶―――鋭尖氷」
空中に五十をこえる氷柱を形成、そして一気にミリスに襲いかかる。
「命令式・百針山」
だが、槍は持ち手を残し溶けたかのように丸くなりそして、そこから無数にトゲが鋭く、長く出現し氷柱を壊していく。
「形態変化・弓」
ミリスの横方向に駆け出していたミントは弓に形態を変え三対の矢を一本はミリスの前方に、一本は後方に、一本は頭上に向けて放たれる。
「くっ……!!」
ミリスはトゲ山となった槍を振り回し頭上の槍以外を消し去る。そして、ラストの頭上の一本に向かっても槍をぶつけようと縦方向にふろうとする。
「柔軟氷!!」
「繋がりし木々壁」
「なっ……!?」
ミリスの槍がまず、柔軟氷によりスピードを和らげられ繋がりし石田の木々壁による竹の壁で完全に停止させられる。
真っ直ぐに落下しくる風の矢。氷と竹のせいで動かすことの出来ない槍。絶体絶命のはず。
僕もその場から駆け出しミリスに魔法をぶつける準備をする。矢が当たり、痛みでひるんだ先をたたく!!
……つもりだったが―――。
「第三の目、漆黒」
「えっ!?」
僕はミリスのしたことの意味がわからず急制動をかけて体を止めて再度距離をとる。
落ちる矢が黒く塗りつぶされミリスに届く寸前に消滅した。爆散したり別な物質に形を変えたりするわけでなく本当に消失したのだ。
「できるだけ、これは使いたくなかったが仕方がないな。まっ、多少痛みを伴うだけで傷は治るしね」
右目を閉じながら喋るミリス。その閉じた瞳から赤い血液が一滴、涙のようにこぼれ落ちていく。
「くそっ……」
魔法の正体をつかめずに悪態をつく。
第三の目を危惧していなかった、といえば嘘になるが全く出してこなかったので注意を払っていなかった。今思えばメリットよりデメリットが高かったから出さなかったとも考えられる……漆黒。どういう効果なのか。
「「闇の玉!!」」
僕が思考を走らせていると夜美が動く。二方向から挟むように闇の玉がミリスに迫る。
「やあ!!」
だが、ミリスは力まかせに竹をへし折り状態を普通の槍にもどしてそれを振り回し壊される。
その様子を見たミントがまた、もう一度弓をひく。その手にひかれている弓の数は五本。それを限界まで引き最高速度で放たれる。
「ぐっ、命令式・百針山」
カキンッ、と甲高い音が鳴り響く。針山とかした槍を盾にして矢が防がれる。だが、それと同時にミントは第二射、第三射の矢を放つ。
「壱!!」
「っち……!漆黒」
ミリスの後ろにまわっていた福田は風をまとう剣がミリスの頬をかすれ一筋の血が流す。最も、すぐに傷は塞がったが。そして、ミリスの漆黒の効果により風をまとう剣が黒く塗りつぶされる。
「弐、惨!!」
「なっ、おい!!」
だが、構わず剣をふるい続ける福田。それに僕は口をあけ、ミリスは驚きで目を開ける。
「……っ。風の刃」
剣が自分に当たる前にとミリスは慌てて魔法を放つ。
福田は魔法の動作が見受けられた瞬間には竹刀をはなし逃げ出していた。竹刀は風の刃により半分に折られる。風をまとう剣は完全に黒く染まり消失した。
「……ありがと、ミントさん、福田君。双子座もね。ミリスさん。あなたの魔法をわかりましたよ」
恐らく、本物とおぼしき方の夜美が口に笑みを浮かべて言った。ミントと福田はなにかをつかんだようだな、といわんばかりの顔を夜美にむける。気がつかなかったが、夜美の指示で二人が動いていたのか?
「まず、始めにその槍、不幸を求む貫く槍は攻撃形態をかえる命令式の穴。一度、向きを変えたり形を変えたりした場合、元の大きさ、槍に戻るまで新たな命令式はくだせない。そうですね?」
「………………」
ミリスは肯定も否定もしない。だが、その無言は肯定と受け取って差し支えないだろう。
―――タイムミリットまで残り十五分。
ゆっくりしている時間はないが夜美が魔法の正体を掴めたのならそれを聞いておいた方がいい。
「そして、第三の目、漆黒。この魔法は闇に包まれたものを消し去るもの。だけど、条件がある。それは、生物、または自らが思考し動く事ができるものは消せない。証拠にその漆黒でわたしたちを消そうとしていないし、双子座も大丈夫。そして、福田君はその黒い物質に風をまとう剣が包まれたとき、少し触れたけど大丈夫だった。さらに、これはどちらかはまだつかめていないけど漆黒により消すことが出来るのは常に一つ、もしくは一つ消せば数秒間のインターバルをもたないと次のものは消せない。そうですよね?」
「……ふっ、あっはっは。正解だよ」
急に笑い出すミリス。開き直ったか。
「教えてあげよう。ボクの漆黒はインターバルが必要なのではない。常に一つしか消せないんだ。まっ、ちょっとニュアンスがちがうんだけどね。この漆黒。ボクの右目にとらえたものをけせるのだが、一度使っただけで、その物質とボクの視力を奪う。まっ、ボクは衰えぬ生命のお陰ですぐに回復するんだがな」
なるほど……ミリスだからこその、運用方法なのか。使うたびに流す血の涙は、そのたびに視力を失っていた事を意味していたのか。
「素晴らしいよ、流石は知識の恵みになついていた事はある。なかなか頭がきれる。だがね、魔法がばれたところで君たちに勝利は無いんだよ!!命令式・堕ちる幸福!!」
「っな!?」
僕の元に一瞬で伸びる槍。それは、細く、長くのばされて僕の胸の目前にまでせまる。
さけられない……いや。こいつなら!!
(マト!!力を貸してくれ!!)
ドクン、と心臓の音が強くなる。血がにえたぎり活性化され、頭脳が回転して、僕でない、“俺”の部分が考え命令をくだす。
まるで、時が止まったかのように槍の動きが見える。体を倒すように横にずらす。その瞬間、槍の動きが元に戻り時が加速されたかのような錯覚をうける。
―――ドスッ。
不幸を求む貫く槍は僕の体には当たらず、そのまま壁にぶつかり波紋じょうにひびがはいり、その威力をものがたる。
「魔力の質がかわった?この感じ、似たようなものキミと始めてあったときにも感じたよ。でも、今はそれを完全にコントロールしているようだけどね」
「そうだよ―――攻撃名・魅力音、強攻音波!!」
「ぐふっ、ガハッ……」
音波による空間の震動をぶつけてミリスを後方にぶっ飛ばす。だが、これぐらいじゃ、ダメだ!!傷は浅い。回復してしまう。
―――タイムミリットまで残り十一分。Xを押さえることが出来るのは九分。
時間に勝たねば!!
「重音!!」
重い音の固まりをミリスに放つ。
「漆黒!!」
だが、その固まりを黒く塗りつぶされ消滅させられる。しかし、それは攻撃のチャンスであることを夜美に教えてもらったばかりだ!!
「高速音」
先程よりも攻撃力は薄いがそのぶん、早さに重点をおいた攻撃を放つ。
「千本の尖線風!!」
高速音と千本の尖線風がぶつかり爆音をおとして爆発する。もちろん、爆風だってやってくる。
「激昂音!!」
「命令式・喰らう絶欲」
その爆風をも意図もせず更なる攻撃がぶつかり合う。爆風のせいで瞳が乾き痛む。
「くっ……」
「大丈夫ですか?」
「なんとか、ね」
ミントたちが爆風などの攻撃に圧倒されている。どうやら、ミントがなんとかしてみんなを守ってるようだ……だが、長く持つだろうか。僕個人はXの効果により肉体が異常なほど発達して大丈夫だが……いや、どちらしろ時間なんてかけられない。タイムミリットまで残り九分。Xは七分
「攻撃名・彩色!!」
透明という色が似あう光をだし簪に姿をかえる。僕は髪につかれたそれを素早く抜き取り手に持つ。
「白鳩!!」
その簪で空中に白色で鳩を描く。描かれた一羽の鳩は弧を描きミリスの元に向かう。頭に姿を思い描いたときは描かれているのはうれしいが、一匹しか描けないのが残念だ。
「漆黒」
やはり、というべきかその鳩は黒く塗りつぶされ消滅してしまう。
「緋刀」
だが、それと同時に赤い刀を描き右手に装備。それをすぐに一振りする。一直線に火炎が立ち上りミリスの元に火柱が走る。
「くそっ!!」
右目を押さえながら悪態をつき槍をうまく回転させ火炎を消し去る。
「命令式・堕ちる幸福」
「――――――」
ギリッ、と僕の歯がきしむ音がどれだけ強く歯を食いしばったがわかる。髪の毛を何本か持って行かれたが紙一重でかわせる。
二回この命令式をみてどんな攻撃かがわかる。長さの調節を犠牲にしてスピードと破壊力に回して一撃必殺の攻撃にしいるようだが、それはおおきな隙をうむということにもつながる。
「はっ!!」
体から余分な力を抜き刀から火炎を放つ。火炎は円をかきミリスを狙う。
「蒸散の暴走」
その火炎と水がぶつかりあい水蒸気が一面に広がる。その水蒸気にも高い熱が込められており皮膚を焼かれる。
そのすきにか、槍が元の長さに戻るのを感覚が伝える。水蒸気で前は見えない。だが、ここで水蒸気が晴れるまで待つのはやぼというものだ。
「やああ!!!!」
ガキン、と音がはねる。槍と剣が重なりあう。
「漆黒」
「なっ……だー!!」
黒く塗りつぶされていく赤い剣。だが、それよりも早く炎が剣を大きく包む。しかし、槍は溶けることも無くそのままの形だ。だが、攻撃事態は効いている。後ひとおしすれば、ミリスから槍をはじけとばせそうだが。
「命令式・禁断果実」
「なっ……!?ぐふッ……」
槍は唐突にふくれ爆発する。そんな急激な変化に対応できず僕は吹き飛ばされる。
「……っつう」
僕はすぐに体勢をたてなおすため立ち上がる。頭部と膝元から血が伝うのがわかる。
―――タイムミリットまで、残り六分。Xは四分。時間が、ない。
「攻撃名・炎砲化、黒炎!!」
「…………もう、いいや。第三の目・終末」
「えっ……ガハッ!!」
まるで、それは時が止まったかのように感じた。僕のだした炎は唐突に、なんの前触れもなく消える。炎だけじゃない、その親元、幸せ具現の緑閃光さえも消えてしまう。さらには、僕の立っていたぶんの床が抉れ爆発し、僕はまたしても吹き飛ばされ、そこには大きな穴が形成された。
「タイムミリットまで後、ちょうど五分だ。遊びは終わりだ。魔力を込めてさせていただくよ。絶対なる守護神はこの地球全体に影響を及ぼすものでね。簡単には発動できないんだよ」
ふてぶてしく笑うミリス。僕とミリスの間には大きな溝ができていた。地割れ、とでも称したほうがいいのであろうか。
「く……っそ!!」
血を流しすぎて視界が揺らぎ立つのもつらくなるが、それでもなんとかミリスを見据える。
「風の三枚刃……!!」
なけなしの力で魔法を放つが―――。
「―――合わさりし過去の心」
ミリスの、呪文とおぼしき言葉の後に、ミリスから波紋状に現れた青い波動のようなものに阻まれる。
「なん、だ。あれ?」
「シュウイチ、あれは高い密度の魔力よ」
「魔力……?」
ミントが僕の元に走ってくる。後ろには、夜美に石田、福田ももちろんいる。ミント、夜美、福田の三人はいつの間にかそれぞれの実在魔法を魔法削除をしていたようだった。
「体外に放出された魔力をシュウイチは何度も見てきていると思うけど、あれでもまだ低密度の魔力で、 体外に放出されでは直ぐに他の物質に感化され霧散してしまう。だけども、高い密度を持った魔力なら、すぐには霧散せずに魔力そのものの色さえもみせてくれるわ」
「……じゃあ、魔法は?」
「残念だけど、当てるのはほぼ不可能ね。だけど、もし魔力さえも切り破るものなら……恐らく、これを 打開する方法は一つだけ。風をまとう剣のような魔法を武器として持ち常に発動者からその魔法に魔力を与え続け魔力の並みに逆らえ続けば、ミリスに届くわ」
「だけど、それって……」
僕はミリスとの間に空いた大きな穴を見下ろす。それを行うにはこの穴をこえる必要性がある。しかし、魔力を込め続けるのが大切な今回の作戦、同時に体を浮かしたりして移動するのは難しい。また、魔力を切り裂くにもスピードがいる。人体転移魔法で、現れればいくらXといえど急激に加速することは出来ない。
「……なるほどな。じゃあ、俺たちでこの穴を塞ぐ。冨本、お前は剣を届かせてこい」
今まで黙っていた福田が唐突に喋り出す。
「そうね」
「うん」
「ああ!!」
それに、ミント達も大きく頷く。もう、迷ってる時間はない。
「わかった、頼むぞ」
僕は大きく頷く。
「光の軌跡!!」
「堕ちぬ闇」
「「|現る草原(グランドグラップ!!)」」
金に光るもの、暗い闇色のもの、そして緑色のもの。三つの色をした台が割れた地面をふさぐ。それを確認し僕は地をけり駆け出す。
「風をまとう剣!!」
ガキン、と音をたて蒼い魔力にぶち当たる。チリチリと皮膚が焼けるかのような感覚に襲われ強い魔力のせいで嘔吐感もある。だが、それでも歩をゆるめない。ビリビリと魔力を切り裂くが……。
「個を砕く現の思想」
「ぐっ……」
更なる文が唱えられ僕は魔力の波に耐えきれず弾き飛ばされる。途中で体を動かし、僕は体制をととのえ割れた地面に落ちないようになんとか、ミントたちのいる場所に戻る。
―――残り三分。Xに至っては一分をきった。体の負担がわかる。
「シュウイチ、大丈夫?」
「なんとか、な」
僕はもう一度息を整え剣を構える。
「秀一君、今飛び込んでいっても二の舞だよ」
だが、僕の行動を先によんだ夜美が釘をさした。
「二の舞、でも。やらなくちゃ……」
「待て、冨本。落ち着け」
「落ち着けるかよ!!」
「いいから、落ち着け!!」
僕の肩を掴み怒鳴り声をあげる福田。そこで少し興奮しきっている“俺”を落ち着かせた。いつの間にか、“俺”が僕を凌駕しようとしていた。
「星野、ミントさん。次は、俺と石田が土台をつくる。二人は冨本に力をかしてやって、助け合う魔法の三人版を完成させてくれ。恐らく、二人でも跳ね返されるかもしれないけど、三人なら」
「―――わかった。ヨミもいい?」
「はい。では、わたしは闇をまとう剣を、ミントさんは風をまとう剣を、秀一君は緑葉の長剣を。三種類の性質が集まればバランスはとれやすくなると思います」
「「了解」」
僕たちは頷き、魔法を解除する。石田と福田は集中し空いた分の穴を埋める。
「風をまとう剣」
「闇をまとう剣」
「緑葉の長剣」
三つの剣が、それぞれの色を放ち現れる。
「「「混ざれ!!」」」
そして、剣どおしをあわせる。―――が。
「ぐっ」
「キャッ」
「ウッ」
剣は弾き合い拒絶する。やはり、無理なのか……。
いや、待て……これは三つの剣をあわせようとしたから。なら、元から一つの魔法であるなら、ば。
「ミント、夜美!!二人の魔力を貸してくれ!!僕が、それを体内にとりこみ一つの魔法を創る!!」
「シュウイチ……うん!!」
「わかったよ」
二人は頷く。僕はそれを確認して直ぐに走り出す。二人の思いが、魔力となり僕を包む。
「シュウイチ、お願い」
ミントの強い気持ちを、呪文に変える。
―――愛しき全を変えし力。
始めてミントにあったときから今までの記憶が走馬灯のように頭を駆け巡る。今思えば、彼女がいたからこそ、僕は変われた。前にすすめた。
「秀一君に託すよ!!」
―――時に強く、時に優しく包みし力。
ついで、夜美との記憶が駆ける。彼女は僕の鏡のような、そして師のような存在だった。僕が葵姉さんについて迷ったときに強く力を貸してくれたのも彼女だった。
視界に集中する、福田と石田をうつす。そして、僕に力を貸してくれた皆を思い出す。
―――異なる力を合わせ壁を壊す一つの力となす。
石田や、福田は僕がこの学校に来た時に始めて話しかけてくれて、葵姉さんの事で悩み苦しんでいた僕にそれらを忘れさせてくれるほどの笑顔をくれた。
そして、葵姉さんも、なんども僕を助けてくれて、香里も僕に力を、未来を託してくれた。
―――個としての力は迷い弱き力。
これは僕自身。僕は本当に弱く迷いに満ちた存在。いない方がましに感じるくらいの愚かな存在。だけど、それを皆が支えてくれた。
―――混沌を消し全てを白くせよ。
五文のGランクの呪文が完成して僕はその魔法の名を叫ぶ。
「無に還す三種の光剣!!」
白く発光したそれは魔力の波を虚空に還す。
「―――我が認知し称える者とせよ」
ミリスの言葉がまた、魔力の波をつくる。しかし、それをも虚空に還す。
Xを押さえられる時間は過ぎた。Xが暴走を開始しようとする。だが、その暴走をも力に変換する。
―――行くんだ!!冨本秀一!!
内側から始めてミリルが僕の名を呼び応援をかけた。
「ぐっ、コイツ!!」
ミリスが危機を感じ閉じていた瞳をあけ放出される魔力そのものを槍に直接変換させる。カキン、という一つな甲高い音がなり、拮抗する。
「だあぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁ!!!!」
肺から空気を出しきり叫び声をあげる。拮抗は一瞬にしてくずれ、僕の剣がミリスを切り裂いた。
―――これで、終わりに出来る。ありがとう。
ミリルがまた内側から声をかけてきた。
―――こちらこそ、ありがとう。
僕もそれに返した。
そして、なにかが僕の体から抜けたような感覚の後にミリスはその傷から広がるように姿を消失していき、最後には、ミリスの着ていた服だけが残った。
「や、やったー!!!!」
ミントが声をあげる。これで、終わったんだ。
僕はゴロンとそのまま横になった。いつの間にか、無に還す三種の光剣は僕の手から消えていた。
僕のとなりが光輝く。そこからミント達が現れる。人体転移魔法でもして、あちらがわからこちらがわにわたってきたようだ。
「お疲れ、シュウイチ」
「ありがと、秀一君」
二人が眩しい笑顔を浮かべる。
「よくやった」
「流石だ」
「……ああ、皆の協力のお陰だ」
僕は笑みを浮かべて四人に返した。疲れが一気に押し寄せる。睡魔が僕に襲いかかってきた。魔法を使いすぎたから仕方がないかもしれない。僕はその睡魔に体を奪い取られそうになった。その時―――。
「なっ!?」
地面が大きく揺れる。皆もその揺れに足元をすくわれこけて声をあげる。
「じ、地震!?」
穏やかでないその言葉。そして、この地震は今までに経験したことの無い程の強い揺れ。
一分、二分とたつ。揺れは止まらないがなんとか自分の意思で行動出来るくらいにはなる。
「どうなってんだ……」
石田が呟く。おかしい。あきらかに異常だ。地震にしても長すぎる。
「……おかしい状況……まさか!!」
ミントがなにかを気づいたかのような声をあげる。そして、魔法を繰り出す。
「映す世の中」
「なっ……」
「うそ……」
「どう、いう……ことだ?」
「なにが起こって……」
僕らはミントのだした魔法により映しだされた、この山の付近を始め世界各国の状況を見て呟く。
あるところは、半袖の服を着る人々の元に雹が降り、あるところには雷の光がやまず、またあるところには冬服を着込む地に、陽炎が現れる程に気温が上がっている。異常な気象。考えられるのは一つだけ。その導きだされた答えを小さく呟く。
「世界のバランスが、崩れた……」
絶望的に気持ちに支配される。全く考えていなかったが、あんなに魔法を連発して使い世界を揺るがす魔法を使ったのだから、こうなるのは頷けないことはなかった。
「そうだ、またミリルの真似をすれば!!」
「あっ、そうだよ、秀一君!!」
僕の案に夜美がのる。だが、一番この事態について知識を持っているであろうミントがかぶりをふった。
「それは、無理よ。ミリルによって産み出された生命の調整機は、今は形こそ 失ったけどざんしは残って、今もなお存在している。その欠片が全力を尽くしても世界異変は止めれてないことがわかるし、仮に同じ魔法を放ってもそれはより魔力の強い方に吸収されてしまう、という話しはしたわよね。そう考えるとミリルの魔力をこえる事ができないわ」
「くっ、だったら!!生命の調整機をこえる魔法で―――」
「Gランク魔法をこえるなんて、出来ないわ」
ミントがゆっくりと否定した。
こんなに神様を恨むのは久しぶりだ。確かに、僕たちの戦いはミリスとミリルのバトルの延長線上にあるが、ここまで真似しなくたっていいじゃないか。なんでまた、世界に負けなきゃいけないんだ。
大きく絶望し項垂れる僕ら。そんな僕らにミントの声が響いた。
「―――私なら、この危機を救える」
「「「「えっ?」」」」
「大量の魔力と知識が必要なSランクの魔法、禁術・創造する新たな世界を放つ。この魔法は一つだけ物事を否定して、それが無かった世界を産み出す、堕天使が造った魔法。私はこれでこの世界のバランスを……ううん、魔法というもの事態が無かったことにする」
ミントの宣言。それは立派なものに聞こえるし唯一の打開策にも思える。しかし。
「禁術ってことは、ミント。お前に悪影響が」
それを僕は危惧する。仮にそれで世界が助かったとしてもミントになにかがあるなんて、嫌だ。
「そうね……大量の魔力を消費するから、いくら無限の魔力といえど身体に多少のダメージが起きると思う。だけど、酷くてもせいぜい足の筋肉が使えなくなるぐらいじゃないかな。命と比べたら安いわよ」
それでも、僕は耐えきれない。ミントが苦しむなんて嫌だ。だけども、命と比べられたら……。それなら、もしミントになにかあったなら、それいこうは僕が守ってやれば、それでいい。
「それと……これは言わなきゃ卑怯よね。魔法という物が元から無かったという世界が構築されるから、魔法によって知り合えた私たちは多分、離ればなれになって互いを認識しあうことは難しくなるんじゃないかな。あっ、でも魔法発動者である私は例外。全ての記憶は保持されるわ」
「そん、な……」
魔法によって知り合えたミントや夜美と会えなく、なるのか?
「あっ、でもヨミは多分大丈夫。同じ日本人だし。新たに構築した世界を魔法発動者は多少操作できるからヨミが普通の高校生としてシュウイチ達と友情を育むぐらいならなんとか操作できるわよ」
「なら、ミントも!!最近は国際交流だって普通だし、留学生という設定でもつけたら!!」
「……そうね。ちょっと、難しいかもしれないけど不可能では無いかもね。だけど、やっぱり無理かな……それに、新しく構築した世界では私の事を皆知らないから、苦しむこともないよ」
どこまでも笑顔なミント。その笑顔に、僕は悲しさ覚える。夜美や、石田、福田も同じ様な悲しみを表した顔をしている。
認めない!!と、叫ぶのは簡単だ。駄々をこねるのは出来る。でも、じゃあここで皆仲良く死ぬなんて出来ない。それを理解しているから、皆が黙る。
「―――ない」
「えっ?」
「―――すれない。忘れない。僕はミントを忘れない」
「わたしも忘れません」
「俺もだ」
「もちろん、俺もです」
僕の言葉に四人が続く。みんな、同じ気持ちなのだ。
「―――ふふっ。そっか。じゃあ、もし私に声を届かせれる事が出来るとき、私の名前を言ってよ。ミントって。シュウイチ達が覚えているなら、シュウイチ達の目の前に現れるわ」
ミントはそう言ってまたしても笑顔を咲かせる。
「ああ、約束だ」
「うん、約束よ」
僕たちは約束を違えないと誓い合う。こうしている間にも世界が滅茶苦茶になっている。別れはおしいが時間がない。
「じゃあ、そろそろ魔法をだすね」
一瞬の沈黙。そして、次こそ、本当のピリオドをうつ。
「創造する新たな世界!!」
ミントの体が金色に輝く。その姿はとても幻想的で綺麗で。
「絶対また会うからな!!」
僕は最後に叫ぶと意識がプツンと消えた。
ガヤガヤと賑わいをみせる校舎。多種多様な服装をした生徒が行き交う廊下。今日はこの私立南里高等学校の文化祭が開かれていた。
生徒だけではない、普段は寮住まいの彼らにとって久しぶりに会うであろう父兄の姿もみられ、生徒のテンションは上がりきっていた。
出し物も多く、部活の出展も多く、心霊、UMA写真集なんてかかれた、ミステリー同好会プレゼンツの怪しげな店もあったりする。また、劇も開催されていて、その劇の衣装なのかやたらと奇抜な格好をしている生徒もいた。
「賑やかね」
しかしながら、こう呟いた金髪の少女、ミント=クリア=ライトの格好をいにもかいさなのはおかしいだろう。格好、といってたっがそれには語弊がある。なぜなら、彼女は一切服をまとっていないからだ。 だが、それすらも気にしない沢山の人々。なぜなら、彼らは彼女を認識できないのだから。
唐突に軽快な音楽が放送される。そして、それが弱まった後二人の男女が声をあわせる。
『『南里レィディオ!!』』
『皆さんこんにちは。この時間帯のパーソナリティーを勤める、冨本秀一です』
『皆さんこんにちは。野星夜世美です』
二人の男女、秀一と夜世美の声が校舎に響く。彼らのクラスのだしものは構内ラジオというちょっと変わったものだった。
「あっ、シュウちゃんだ」
そう声を発した女性の方にラジオに耳をミントは振り向く。そこには、見覚えのある女性が立っていた。ミントは頭を働かせその人物の名、葵を思い出す。大学生を思わす風貌にミントはすぐには思い出せなかったのだった。
―――シュウイチ、ごめんね。私、最後に嘘をついた。
ミントは心の中で謝罪をした。
魔法の無い世界が構築されたが、魔法の無い世界なのに魔法が無くなるという魔法をかけなければならない、というのは矛盾であった。その矛盾を世界は許さず、最小限に歪みをとどめようとする。その結果が、世界に認知されずに存在する、というものだった。
この魔法を使った彼女を擬似的な不老不死として世界に認知されないままずっと意識をたもたなければならない。そんなことをもしあのとき言っていればきっと秀一たちは反対しただろう。だから、この事をミントは黙っていた。
『続いてのコーナーはあえて、どうでもいいような質問に答える。超ふつおたのコーナー』
秀一の司会にミントは笑みをこぼした。あんなにも、元気な声を守れたのは大きな成果だと彼女は安堵する。
『え〜、最近色んな味のガムがありますがお二人はどんな味のガムが好きですか?とのことです』
本当にこのコーナーのタイトルにあったどうでもいい質問にこのラジオを聞いてる人間はもれなく笑いだした。
『色んな味出てるって言っても結構かぎられるんじゃないかな』
『そうだね。あっ、じゃあいっせいのーでで、味を言わない?』
『あっ、それ面白いかも』
こんなどうでもいい質問にも全力で答える二人。ミントは微笑ましい気持ちで笑う。
『じゃあ、いっせーので』
『『ミント!!』』
「―――っ!!」
それは偶然かなんなのか、奇しくも二人とも同じ味を選択し放った言葉は彼女との約束の言葉だった。
ミントはいてもたってもいられなくなり微かに期待を胸に走り出していたのだった。
ここまで見ていただきありがとうございました。私の作品を紹介している『ツバサ小説紹介』にてクリアライフシリーズ作の後書き、及びキャラ達との会話が主体となった裏話などを記させていただきました。そちらのほうもご覧ください。
最後となりましたが、重ねて礼を申し上げさせていただきます。ありがとうございました。




