プロローグ
この世界に私が生まれたのはいつだろう。もうわからないぐらい生きたのか、それともそれが分からないぐらい無知な状態なのか、どっちにしろ私にはわからない。
けれど、確かなことが一つある。
私はこの永遠の時間をこの牢獄で過ごすことが。
けれど、こんな世界にも光、希望があるなら、だれか"助けて"
◇◇◇◇◇
「な~、俺と一緒にいろいろ発見していかないか?」
夏休みまで後三日となったところの土曜の朝、腐れ縁な悪友の『黄昏真紅』が教室に入るなり、俺――『月神唯月』に向かって、言い放った、言葉がこれだった。
「おはよう、真紅。せめて挨拶ぐらいはしろ。で、今度は何のゲームだ?」
俺は真紅のこの一言で大体の察しはついていた。真紅は身長180㎝を超えるし、顔も超イケメンなのだが、とことんダメなゲーマーなのだ。だから、大体俺に何かを言うとしたらゲームのことなのだ。俺も真紅にいろいろ付き合わされてゲーム好きになってしまっているが。
「えっとな……これだ!」
鞄をがさごそ探していた真紅が取り出したのはゲームのパッケージだった。
「見えねえって」
真紅がゲームパッケージを掲げていたため真紅より身長が低いうえに椅子に座っている俺にはパッケージが見えなかった。
「おお、悪い。で、これを見てくれ」
パッケージを机に置いてくれたので、ようやっく見ることができる。
「ETERNAL DISCOVERY ONLINE」
(えっと、エターナル・ディスカバリー・オンライン? 日本語読みだと永遠・発見? だから、さっき、いろいろ発見しようと言ってきたのか。確か、今真紅がはまっているのはVRMMORPGだったよな。それじゃあ、これもその類いか?)
真紅は格闘からシューティングまでありとあらゆるVRゲームに精通しているが、今はまっているのはVRMMORPG、つまりは仮想大規模オンラインゲームというわけだ。
「確か、これって、今話題のゲームだったよな?」
「おう、ETERNAL DISCOVERY ONLINE、通称EDOだ」
「それはわかっている。でも、これ今人気で品切れだって聞いているけど、どうしたんだ?」
「実は、GW前にβテスターの応募があって、それに俺受かったんだわ。それで、今月の頭までβテストをやってたんだけどよ、テスターの優先購入権利でお前の分まで買っておいた」
「は? 俺、まだやるって言ってないけど?」
「いや、唯月のことだから、やらないという選択肢はないと思ってな」
「そりゃー、やりたいけど、俺、今月はちょっとピンチなんだけど」
「金は良い。唯月、来月誕生日だろ? だから、ちょっと早めの誕生日プレゼントだ」
ちなみに俺の誕生日は八月二十二日だ。まだ一か月以上ある。
「それなら、もらってもいいかな。で正式サービスはいつからだ?」
「……三日後」
「は? ちょっと待て。真紅、このゲームパッケージいつ届いた?」
「……一週間前」
「てめぇ……」
「ちょ、唯月さん? あの、可愛いお顔が台無しですよ?」
ブチッ!
俺の頭の中で何かが切れた。
「ちょっと、こっちの寄れ」
「ちょ! そ、それは!」
「良いから」
「は、はい」
俺は近寄ってきた真紅の頭をつかんでやる。そして、そのまま握り潰さんが如しの力で握る。俗にいうアイアンクローだ。
「ちょ! こめかみぎりぎり言ってるって! 無言で締めないで! ギブギブ!」
真紅が何か言っているが、無視だ。俺はさらに真紅の頭を引き寄せて、首を絞めた。
「く、首入っている! だから、ギブだって! ぎ、ギブ……」
真紅はその言葉を最後に気を失った。これで、すっきりした。
こんなことをやっていてもクラスメイトは一切注意しない。まあ、これがいつものことだというのもあるが。
そこに先生がやってきてホームルームが始まった。
ちなみに、真紅は床で気を失ったまま、欠席扱いになった。
◇◇◇◇◇
「唯月、朝のひどくね? それに、先生も俺がいるのわかってるのに欠席扱いにするしよ」
「真紅の自暴自得だ」
半日だけの授業を終えての帰り道で、真紅はいまだに嘆いていた。
「ひでえよ~……それで、一緒にゲームはやる気になったか? ちゃっかりゲームも回収したんだろ?」
「ああ」
真紅の言う通り俺は真紅が気を失った後、机の上に出しっぱなしだったEDOのゲームパッケージを鞄の中に入れておいた。
「ちゃんとやるから、安心しろ」
「おお~、じゃあこれから唯月の家に言っていろいろ説明するな」
「いいわ、サイトで見るから」
「良いから、俺に任せろ。サイトではわからない、βで得た知識を伝授してやる」
「さらに、いいわ~」
「お願いします。教えさせてください」
真紅はその場でジャンピング土下座をした。無駄に高い身体能力をこんなことで生かすな。ついでに周りの視線が痛いからやめろ。
「わかったから、頭を上げろ」
「よっしゃー! じゃあ、さっさと行こうぜ」
勢いよく頭を上げた真紅はそのまま、俺の家の方へと走って行った。さっきのジャンピング土下座で膝をうったのに痛くないんだろうか?
「おい、唯月早くしろよ~!」
大声で俺の名を呼ぶのは勘弁してほしい。ほんとに行動が残念だ。
数分で家の前に着いた。俺の家は学校から、十分以内の場所にあるのだ。鍵が開いていたので誰か家族がいるのが分かった。
「ただいま~」
「お兄ちゃ~ん! お帰り~!」
家の中に入ると何かが俺に向かって突撃してきた。もちろん俺はそれをよける。するとどうだろうか、俺のすぐ後ろにいた、真紅に思いっきりぶつかり、そのまま家の外まで転げ落ちていった。その時に、真紅の「ぐえぇー!」という悲鳴が聞こえたがそこは無視の方向で。
「兄さん、お帰り」
ちょうどリビングから、妹の『美瑠陽』が出てきた。ということはさっきの突撃物体は美瑠陽の双子の妹の『美柴瑠』だったようだ。
妹といったがこれには語弊がある。実際には従妹なのだ。父さんの弟、俺の叔父にあたる人の娘で血縁上も従妹になっている。しかし、十四年前に叔父夫婦が事故で無くなったため、唯一の血縁である父さんが引き取ることになったのだ。父さんと叔父の兄弟は生前から仲とてもよかったためにすぐに引き取る手筈が整えられていった。ただし、このことは美瑠陽、美柴瑠の二人は知らない。まあ、両親と髪色などが完全に違うので察しているとは思うが。
美瑠陽と美柴瑠はともにプラチナブロンドの髪色をしている。ちなみに、目は青色だ。二人は全くと言っていいほど容姿が似ているため、両親でもよくどちらがどちらかわからなくなる時がある。唯一の違いといえば髪型を美瑠陽が右のサイドポニーテール、美柴瑠が左のサイドポニーテールにしていることぐらいだ。どちらも、肌が白く、俺から見てもマジで可愛いと思う。つか、マジ『天使』。
でも、これだけ似ている二人だが、性格が全くの真逆なのだ。美瑠陽はどちらかといえば寡黙で周りに合わせる性格をしている。美柴瑠は元気いっぱいで、周りを引っ張っていくタイプだ。ただ、どちらも優しく、しっかりとした芯を持っている。俺は家族で唯一、雰囲気で二人を見分けることができる。
「ん。ただいま」
「兄さん……美柴瑠が今出ていったから、連れ戻して」
「ん。わかった」
俺は表の道路で伸びている真紅と、その真紅に頭から刺さっている美柴瑠を助けに向かう。とりあえず、美柴瑠の方から助ける。美柴瑠も美瑠陽も小柄なので、俺でも持ち上げることができる。
「大丈夫か、美柴瑠?」
「うぇ~ん。ひどいよお兄ちゃん! よけないでよ!」
「だって、ぶつかってくるだろ?」
「わたしは抱き付いて行ってるんだよ!」
「はいはい、それで、立てるか?」
「それは、大丈夫だよ」
それを聞いた俺は持ち上げていた美柴瑠を地面にしっかりと立たせる。
「それじゃ、先に家に入っとれ。俺は真紅を起こしてから行くから」
「は~い。お兄ちゃん、真紅さんに誤っておいて」
美柴瑠は走って家の中に入っていった。
「たくっ、自分で謝れっての。おい、真紅起きろ」
俺は、泡を吹いて気絶している、真紅をゆする。すると、素直に起きた。泡を吹いていたのにすぐ起きるって、どういう体してるんだ?
「あ、あれ? お、俺はどうしてこんなところで横になってるんだ?」
「あ~、それなんだが、家の美柴瑠がぶつかったんだ。悪かったな」
「ああ、そういえば美柴瑠ちゃんの声が聞こえたような」
「で、立てるか?」
俺は手を差し伸べながら言う。
「ああ、大丈夫だ」
真紅は俺の手につかまって、軽々しく立ち上がった。それはさっきまで気絶していたとは思えないしっかりとしたものだった。
「それじゃあ、家に入るぞ」
「ああ」
家に入った俺は真紅に先にリビングに行くように指示する。その間に自室で着替えるのだ。
「ぎゃー!」
俺が二階の自室に入る直前に下から真紅の悲鳴が聞こえた。しかし、真紅が悲鳴を上げるなんておかしい。今両親はいないし、下にいるのは美瑠陽と美柴瑠だ。二人にあって悲鳴を上げるほどのことを真紅がされるわけない。ということは他に誰かいるのか?
「まあ、いいか」
俺はそう結論づけて、部屋に入る。真紅が、悲鳴を上げても奴ならそうたいしたことにはならないだろう。
俺は部屋でティーシャツとステテコに着替えて下に降りて、リビングに行く。すると、真紅が扉の横でぼろ雑巾になっていた。
「お、おおー。どうした真紅?」
「どうしてたじゃねえよ! どうしてもう少し早く来てくれなかったんだ!?」
「いや、これでも結構速く来たんだけど」
「違うよ! 俺が悲鳴を上げたらすぐに来いよ!」
「お前なら、ほっといても大丈夫かなと思って」
「うう、唯月がひどい」
真紅が泣き崩れている。正直言って、180㎝を超えるイケメン男が泣き崩れる絵なんて男からしたら気持ち悪い。
「で、何があった?」
「そ、それは……」
「それは私です!」
真紅に聞いたところに背中に重みが、それと圧倒的なボリュームが俺の頭を包む。
「この感触は……桜姉?」
「ん。当たりー!」
後ろからの抱擁がなくなり、後ろを向くと、そこには黒髪黒目の美女が。彼女は黄昏桜花。苗字が示す通り、真紅とは姉弟だ。今は、市内の有名難関大学に通っている大学一年生だ。俺は桜姉と呼んでいる
「なんで、桜姉が家にいるだ?」
「それはねー。唯月ちゃんに会いに来たのだ!」
桜姉はどうしてか、俺のことを溺愛している。弟の真紅にはかなり厳しいのに。
「それだけ?」
「まあ、唯月ちゃんに会いに来るのが本命だけど、ほかにもあるよ。唯月ちゃん、EDOやるんでしょ?」
「え? なんで桜姉がそれを知っているだ?」
「それはね、簡単なことだよ。真紅はEDOのβをやっていたでしょ?」
「ああ、そうだけど」
「それで、唯月ちゃんを誘わないのはおかしいよ」
「何それ?」
その理屈が分からない。
「あ、知らない? 真紅ってね、本当に面白いゲームしかβ時代からしかやらないの。それでβ時代からやっているゲームってほとんど唯月ちゃんを誘っているのよね。それに、今日EDOを持って行ったし」
「へえー」
それは知らなかった。でも、真紅っていいセンスしているから、誘ってもらたったゲームってかなりおもしろかった気がする。
「それで、なんで真紅がこんなぼろ雑巾になってるだ?」
「ぼろ雑巾ってひどいな!」
真紅が講義をしてくるがそれにいちいち反応していたら話が進まないのでスルーさせてもらう。
「あのね、兄さん」
ここで、今まで成り行きを見守っていた天使、美瑠陽が登場。ちなみに美柴瑠はソファーでジュースを飲みながらくつろいでいます。
「桜姉さんが、兄さんが来たと思って飛びつこうとしたら、現れたのは真紅さんだったって話」
「ああー。なるほど」
真紅に厳しい桜姉のことだ、俺じゃなくてがっがりして真紅に八つ当たりをしたんだろう。
「それで、兄さんもEDOをやるってホント?」
「ああ、本当だぞ……って、も? も、ってことは美瑠陽もやるのか?」
「うん、私だけじゃなくて、美柴瑠と桜姉さんも」
なんと、今年の夏は家族+悪友姉弟と冒険になりそうです。
それは置いといて、さっさと、EDOの説明をしてほしい。
「真紅、さっさとゲームの説明をしろ」
「ああ、その前に何か飲ませてくれ」
「たくっ、俺も何か飲みたいから待ってろ」
「待って兄さん」
「ん?」
美瑠陽に呼び止められて差し出されたのは俺の大好きなオレンジジュース。どうやら、用意しておいてくれたようだ。さすが美瑠陽。
「ありがとう。美瑠陽」
俺は美瑠陽の頭を撫でてあげた。うちのツインエンジェルこと美瑠陽と美柴瑠は俺に頭を撫でられることが大好きなのだ。だから、こうやって、よく撫でてやる。
「ん、どういたしまして」
「じゃあ、真紅の分も用意してくれるか?」
「もうした」
さすが、美瑠陽。
「じゃあ、ソファーに座って話を聞こうか」
「ああ、いいけど。なぜ、ちょっと上から目線?」
なんとなくだ。
こうして始まる、真紅によるEDOの初心者講座。
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