憧憬
空を見上げた
魚は
溜息ついて
水面を揺らした
ああ、もしも
もしも私に羽があったなら
あの大空を飛べるのに
鳥のように
自由な大空へと
そう考えて
溜息ついた
地面を見上げた
魚は
溜息ついて
水面を揺らした
ああ、もしも
もしも私に脚があったなら
あの大地を歩けるのに
獣のように
確かな大地へと
そう考えて
溜息ついた
群れを見た
魚は
溜息ついて
水面を揺らした
ああ、もしも
もしも私に仲間がいたなら
あのように笑えるのに
たくさんの
仲間に囲まれて
そう考えて
溜息ついた
独りを見た
魚は
溜息ついて
水面を揺らした
ああ、もしも
もしも私の身体が大きかったら
あのように泳いでいられるのに
堂々と
恐れることもなく
そう考えて
溜息ついた
深い深い
海の下
光も届かない深海で
魚は独り
泳いでた
空には憧れない
空を知らないから
大地には憧れない
大地を知らないから
群れには憧れない
群れを知らないから
独りには憧れない
ずっと独りだったから
憧れるものはない
比べるものがないから
変わりたいとは思わない
ずっと
このままでいい
このまま
暗く冷たい深海で
過ごせていれば
それでいいの