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魔術師の鐘

 ドラゴン化を解いた後、目覚めずベッドに寝かされている少年の顔を覗き込んだ。


 この少年は何時になったら目覚めてくれるのだろう? 生き延びるため、そして自分の身を約束した通り、助け守ってくれるために北の神殿で山羊飼いの少年の強い意志の元で封印を解くことになった。


 少年の身をドラゴン化させる循鱗じゅんりんの力を再び封印してからまだ一度も目覚めていないのだ。


 まさかもう二度と目を覚まさないのではないか? 不安に駆られアウラは寝たまま起きて来ない山羊飼いの少年の頬をそっと手で触れた。


「おっ、おっぱいが、いっぱい……あれ?」


 頬に触れた途端、少年が奇声と共に目覚めた。


「……よかった」


 ベッドの脇に腰を掛けている細い桃色髪に紫水晶の瞳を潤ませた少女から安堵の言葉が零れた。


 アウラは少年に抱きつき紫水晶の瞳から熱い液体を溢れ出させた。


「バ……」


「バ?」


「バババババ」


「バババババ?」


「バカっ……本当に心配したんだからっ」


 目覚めた少年に飛びついたアウラの桃色のやわらかい髪が少年の頬を撫でる。


「アウラ……それよりここは?」


「街の宿ですっ! もう……目覚めないのかと思ったんですよっ? 心配させないでっバカっ」


「そんなことより始めようか?」


「えっ? いきなりそういうのは……私、初めてだし、その……」


 少年にしがみ付き嗚咽を漏らして泣いているアウラを少年がアウラを押し戻し言葉を紡いだ。


「さぁ始めようか。アウラ」


「えっ? そ、そんなこと急に言われても……私まだ心の準備が……。そ、それにお、お風――」


 少年の言葉に続きを遮られる。


「外に出よう」


「の、覗き魔さん? まだ無理しちゃ駄目です丸三日も眠りっぱなしだったんですよ。私は何処にも行かないから……ね?」


 アウラは俯きもじもじと恥じらいながら、かわいらしい声で少年を諭した。


 何時もの様に少年のやさしい微笑みが返ってくる……と思っていた。


「外に出て始めようと言っている」


 少年の強張った声がアウラの鼓膜を揺るがした。


「わ、分かりました。そ、そんなに言うなら……。でも初めてがそ、外でだなんて……ちょっと嫌かも……」


 アウラの胸の内に嫌な予感が広がる。それを振り払うようにおどけてみせた。


「言ったはずだ。俺は街を襲い母さんを死に追いやった魔物を創り出した魔術師を討つと、アウラは言ったはずだ故郷を焼き、家族を奪ったグリンベルの悪魔を討ちたいと」


「それは今でもそうですが……。覗き魔さんが、まだはっきり仇と決まった訳じゃないですし……、私には魔物を創り出したという記憶はありませんしきっとなにかの間違いじゃ……」


「確かに肝心な所の記憶は曖昧だ。でも七年前の冬、グリンベルに居たのは俺自身だった。炎に包まれた街をこの目で見ていた」


「そ、んな……うそ、でしょ? 納得できませんっ。私にはあなたの言っている意味が解らない。訳が分からないのに討ち合うことなんてやっぱり私できないですっ」


 アウラは混乱し紫水晶の瞳が彷徨わせた。




 街の外。小高い丘に風車小屋が見える道を少年が人気のない場所へと気配を探りながら進んで行く。


 アウラは少年の背中を追うように歩いた。


「ソルシエールに聞いた本当のことだ。母さんに連れられ北の神殿に行ったのは循鱗の力が暴走し始めたからだそうだ。風狼が言っていたろ? 封印がなんのための戒めかって」


「自我を失くしての暴走……?」


「人間の体と絶大で生命力に余るドラゴンの力は、物心が付き始めた俺の精神を侵食し俺と同化し始めた循鱗は別の自立した精神を持ち始め、俺の意識の外で動き出すようになった」


 ――少年の碧眼の眼光が見詰めている。右眼を閉じたまま。


「母さんは循鱗の力を封じる為に、かつて新たな魔術の開発に力を貸し魔物たちを極北の大地に閉じ込める程の魔術を持ったソルシエールの下に赴いて、魔術で循鱗の力を封じるようにと頼んだんだそうだ」


「あの時に私がソルシエールさんの魔法陣を解読していた時、思い出したって言ったのは、そのことだったのですね」


「あの時は半信半疑だったけど循鱗の封印を解いたときに焼ける街を見ていた記憶がぼんやり浮かんだ」


 風車小屋の脇を通ると大きな羽根が風を切り、ぐわんぐわん音を立て回っている。


「グリンベルを襲った時の記憶、ですか?」


「そうだ、と思う。封印の準備をしていたソルシエールと風狼、そして母さんが俺から目を放した隙を見て自己の意思を持ち始めた循鱗は逃げ出した。その時に行き着いた先がグリンベルの街だ」


「……」


 ――討ちたくない、討ちたくて止まなかったドラゴンを今は討ちたくない。……だって私はこの少年に……。


 惹かれている。


「俺がグリンベルに着いた時、循鱗が身体の中で疼いた魔物を見てな。そのことまでは思い出したが、その後の記憶は全くない次に気が付いた時に良く利く鼻で俺の後を追ってきた風狼の口に首根っこを咥えられていた俺の目には炎に包まれた街が映っていたんだ」


「……そんなの嘘ですっ! きっと嘘よ……」


 ――討ちたい家族と街の仇を討ちたい。


 風車小屋の羽根の音が遠ざかる。


「それにグリンベルとハングラードを襲ったのは、たぶんアウラが創り出した魔物たちだ。今でもアウラが描いた魔法陣から新たな魔物が生まれて来る可能性があるとランディーが言っていた」


「ランディー様が……」


「ソルシエールは、かつて生命を宿した魔物を創り出す魔術を完成させることが出来なかったんだ」


「それを私が……ソルシエールさんが出来なかったことを私に出来るなずが――」


 ――幼い頃に見つけ魔術に興味を持つ切っ掛けになった殴り書きの残された魔術書。


「この魔術書はランディーが持っていたものだ。アウラが街に戻った時に脇に抱えていたものらしい。黙って借りてきた」


「この魔術書は……家の納屋で見付けたもの……」


「思い出したか?」


 ――少年から手渡された魔術書。


「お、覚えて……います」


「もっと良く思い出せ、その魔術書の中身を」


「思い出せ……ません」


 ――思い出したくない。


「アウラは偽りの真実より本当の真実の方がいいと言った。だから話している」


「わ、私は……この魔術書の魔法陣を……街中や外に落書きしてよく遊んでいました。もしかして……」


 ――体が唇が震える。


 何時も持っている節くれた杖に括りつけた鐘が小気味良く響いた。


「仇を討つと言ったろ? アウラも俺も約束を果たそう。今ここで」


 少年が閉じたままの右眼を開いた。


 ずっと開かれている左眼の碧眼と今、開かれた右眼は炎のように紅く、爬虫類の様な縦長の瞳が鋭い視線を向けている。


「俺が焼いたグリンベルを思い出せ。アウラっっ! 俺は覚えてる街を焼いた魔物の姿を――、母さんが最後に作った笑顔を俺は今もはっきりと覚えてるっ。俺はその笑顔に誓った思いを果たさなければならないんだ」


 ――そこまで私を討ちたいの? ……そうだよね、お母様の仇だもんね?


「でもっ! 私が創り出したかも知れない、私が創り出した魔物が覗き魔さんの街を襲ったとは限らないんじゃないですかっ! だって……だってっ! 野には野生の魔物がいますし、北の神殿で私たちを襲ったゴーレムを創り出した組織の魔術師が創り出した魔物かも知れないじゃないですかっ!」


 ――討ちたいのは仇、グリンベルの悪魔。この少年……でも私はこの少年を討ちたくない。


 私はきっと……この少年に恋をしている。


「今は昔と違って野生の魔物は数少ない。極北の氷土に閉じ込められているから、大地を覆うほど群れたりしない。なによりその魔物の姿は異形そのものだった。その魔術を完成させたのはお前だろ? アウラ」


「……でも禁術書に目を通すまで私は魔除けの小さな火を生み出す程度しか魔術使えなかったのですよ?」


  ――この少年がグリンベルの悪魔? 死んでいった家族と街のみんなに討つと心に誓った仇。


 私は本当にこの少年の仇? なの……。――切なく苦しくて、そしてとても心が痛い。


「それを今から試すんだ。魔物を創り出せアウラ、お前の全てを奪った俺を……、グリンベルの悪魔を討つんだろ? アウラ。だから俺はお前を討つ、討たなければならないんだ」


 ――討ちたいよね? 私もそうだったのだから……。


「そこまで言うなら……分かりました。今の私には魔物を創り出せはしませんが、禁術書に記されていた魔術と術を持って討ちます。あなたを……討ちます」


 穏やかに吹いていた風が一瞬、強く流れた。


「始めようか魔術師。さあ鐘を鳴らせ」


 強く流れた風が、からん♪ と響いた鐘の音色を連れ去っていった。




 地面は所々消し飛び半円の穴が穿たれている。木々が焼け薙ぎ倒された森が痛々しい。


 明るくなった森の中にできた荒れ果てた地面に少年が仰向けに倒れている。


 静かに穏やかに……。


 そしてまるで眠っているように……。




 ★からんちゅ♪魔術師の鐘★ ~ グランソルシエールの禁術書 ~


 出演


 山羊飼いの少年  ドラゴンの循鱗を宿した少年 (グリンベルの悪魔?)


 羊飼いの少女 アウラ・ヴァージニティ  (魔術師の末裔?)


 魔術師ソルシエール・エクル  グランソルシエール(偉大な魔女)


 騎士ランディー・ハーニング 名も無き赤の騎士団ブラッディーレッド


 騎士アサー・コークス 兄 名も無き赤の騎士団


 騎士マイル・コークス 弟 名も無き赤の騎士団


 騎士カックス・ローエン 名も無き赤の騎士団(ブラッディーレッド:副官)


 エント・ヴァージニティ  (アウラの祖父)


 オリエ・ヴァージニティ  (アウラの祖母)


 ラガッシュ・ヴァージニティ  (アウラの父)


 アニア・ヴァージニティ  (アウラの母)


 アウル・ヴァージニティ  (アウラの弟)


 プラム(アウラの牧羊犬)


 究極のドラゴン=オプティマール・ドラゴン(山羊飼いの育ての母。北の風狼の盟友)


 北の風狼(ウォルプス (ソルシエールの旦那。ドラゴンの盟友)


 ジーエン・サルエル (グリンベルの老神父)


 バルバロ・フォーカス (謎の騎士団:指揮官)


 ターデン・ギミック (謎の騎士団:副官)


 騎士A(謎の騎士団)


 騎士B(謎の騎士団)


 騎士C(謎の騎士団)


 旅商人A


 旅人A


 

 著者:雛仲 まひる 


 イラストを描いてくださった方々:RIONさん。 うさこさん。


 監督:漏れ


 監修:僕


 脚本:私

 

 助手:そんなのいないっ! 

     


     

 ★からんちゅ♪魔術師の鐘★  終幕
























「ぶ、葡萄二房下さいなぁ! ……あれ?」


 からん♪


「漸くお目覚めですか? もうこんなに夕陽が綺麗ですよ? 覗き魔さん」


「そうだな。明日も良い天気になりそうだ」


「きゃっ!? う、動いちゃダメですよ。くすぐったいです」


「アウラの膝枕、気持ちいい」


「もう……バカ」


 からん♪


「……アウラは強いなぁ。……痛ぇ」


「それ女の子を褒める言葉になってませんっ」


「うーん……。控え目と思ってたけど下から眺めると――」


 からん♪ からん♪


「痛いっ……そこ傷口だぞ。……討たれてやれなかったけど俺の負けだ。だからアウラの勝ちってことで手打ちにしないか?」


「……こんな体で無理するから」


 からん♪


「こんなにしたのはアウラだぞ?」


「違いますっ! ドラゴン化の反動が出ていた体で無茶をするからですっ! それに……封印を解かないから」


 グゥ~。


「腹減ったなぁー。なにか食べたい」


「もっ! 私の話を訊いています? せめて会話にしてくださいっ! ねぇ? ……覗き魔さん? 私のこと……好き?」


「やさしいアウラは好きだ」


 からん♪


「……!? だから膝の上で動いちゃダメですてばぁ……もう。ちょ、何処へ?」


「めし! 森に兎を捕まえに行く、この前捕まえ損ねた」


「もう……捕まえてるじゃないですか? こんなにも……」


 からん♪


「かわいいわたしを……」


 からん♪ チュッ ~ ♡


 Fin

ご拝読アリガタウ。

次回はエピローグです。

ここまでのご拝読感謝いたします。

では次回もお楽しみにっ!

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