表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

魔術(ちから)を欲する者たち

 アウラの言葉を待つ、その場にいる者たちは息を呑んだ。


 神殿には静寂が流れた。


 アウラは眼に映し出された少羊によって羊皮紙に綴られた文字を読み上げた。


nauthiz(ナウシズ)parth(パース)teiwaz(テイワズ )nauthiz(ナウシズ)


(苦難を越えよ。秘められた重要な財産を探せされば見つかる)


「なんて書いてあるんだぁ? アウラ」


 少年が碧眼の瞳をアウラに向け尋ねた言葉にアウラの形の良い薄桃色の唇が言葉を紡いだ。


「苦難を越えよ。秘められた重要な財産を探せされば見つかる」


「苦難を越えよ。苦難……これは厄介な事になるかもしれん」


 傍で見守っていたランディーがアウラの言葉を反芻した。


「はいランディー様……。恐らく神殿の何処かに魔法陣があると思われます」


 アウラは紫水晶の瞳を真っ直ぐに向けそう答えた。


「何故そう思うのだね? アウラ」


「それはソルシエールが天才魔術師だからです。いえ……なんと言いますか、彼女は禁術書の力を求めようとしている者を試しているのではないかと私は思うのです」


魔法ちからが欲しくば、メッセージを解いて見せろと言っているんだね? 解けぬ者には与えぬと、そう……」


「はい。ランディー様もご存じのように文献などから見て取れる魔術の力は強大です。解ぬ者は持つべきではないと、彼女はそう言っているのかも知れません」


「あっ!」


「の、覗き魔さんっ。静かにしていて下さい大事な話の途中ですっ」


 なにかを言おうとした少年にアウラは鋭い紫の視線を向けた。


 グランソルシエールの禁術書をもし探し出せる事が出来ればグランベルの悪魔を討つというアウラの願いに近付くことが出来る。


 いろいろ複雑な気持ちもあるが、しかしアウラの気持ちは高鳴っていた。“グリンベルの悪魔を討てる力が明らかになる”アウラにとってそれはどうしようもなく正直な気持ちでもあるのだ。


「しかし、どうして魔術は時と共に衰退し現在に至っては、ほぼ滅ぼされることとなったのかね? それほどまでに強大な力が……」


 ランディーが以前から時折アウラに話していた疑問を口にした。


「強過ぎたからだ。正確に言うと魔術(・・・)がだ」


「静かに――」


 なにかと会話の邪魔になる横槍を入れてくる少年の言葉を咎めようとして、ランディーに制されアウラは言葉を呑み込んだ。


 アウラは自分が平常心でなかったことに気付き、小さく息を吐き呼吸を整えた。


「聞こう」


 ランディーがそういうと少年は微笑んで話し出した。


「母さんに聞いた話だ。母さんは俺を育てる為に苦労し悩んだと言っていた。それで母さんは人里に下りる事にして人の世を回って俺を育てた。その時、母さんは人の姿――」


「覗き魔さんっ! そのことは――」


 平常心に戻りつつあったアウラが声を荒げた。


 少年の過去が明らかになれば、きっと国は彼の力を欲し利用しようとするだろうし、もしこのことが公に知れれば少年はきっと“魔物憑き”“忌み子”として教会に殺されてしまうかも知れない。


「母が人の姿……」


「俺の育ての親はドラゴンだ」


「ドラゴンだと?」


 ランディーとこの場に居合わせる騎士たちの表情が訝しげに変わった。


「覗き魔さんっ!」


 アウラは声を張り上げた。


 既に彼を育てたドラゴンは居ずとも、この少年が宿している循鱗の力もまた魔術と並び立つ強大なちからに違いなく、おそらくは失なわれた魔術に匹敵する、或いは凌駕する力だろう。


「アウラの言いたいことは分かっている。でも近い内にバレるような気がするんだよなぁー」


「……」


 ランディーやこの場に居る騎士たちの反応を見てアウラは感じ取った。


 循鱗の力を知られれば、やはり彼の力を利用しようとする者が現れるに違いないと……。


 魔術の力を欲する自分も同じなのだと知りながら、矛盾する思いが湧き上がる。


 この少年の秘めた力が他の誰かに利用されるかも知れない。そんな嫌だとアウラは思った。まだ気づけそうで気づけない水面に浮かぶ篝火のような小さく淡い恋心が、少女の我が侭な独占欲が少年を他の者達には取られたくは無いとそう思わせた。


 根無し草の如く長きに渡り旅をしていた少年の知識や経験談を聞くのは愉しく、面白い話をしてくれる少年に尊敬の念すら覚える。


 風狼から命懸けで助けてくれようとした少年は頼みしくもあり、また彼にとって仇であり自分にとっても仇であるかもしれないと知りながら、“傍にいる(逃げない)”と言い放った彼を他の誰にも盗られたくない。


 胸中の大半は循鱗を討ちたいと思っているのに……。矛盾しているのに。


 少年がアウラにやわらかい笑みを向けて再び話し始めようとした。


「ドラゴン……、覗き魔……? しかし君はいったいなにを覗いたのかね? アウラのなにをっ」


 ランディーが喰い付くように少年に問い掛けた。


「ランディー様っ!」


 アウラは顔を赤らめ俯いた。


「そっちに喰い付くのか」


「すまない。場の空気が少々重くなって来たんでな和ませる為だ続けてくれ。その前に大勢に聞かれると不味いなら人払いをするが」


「……」


「しなくていい」


「そうか。なら続けてくれ」


「俺の育ての母はドラゴンだ。だが四年前に死んでいる。母さんは俺をとある滅んだ街で拾ったんだと言っていた」


「とある滅んだ街? 覗き魔さんが住んでいた魔物に滅ぼされた街のこと?」


 アウラは瞳を揺らした。自分の過去と重なる少年の過去を聞くとどうにも胸が痛みだし泣きそうになる。


 少年は何も言わずに碧眼の眼をアウラに向けた。


「ごめんなさい」


 少年が言葉を続ける。


「人里に下りた母さんは魔術師(・・・)たちが倒されていった理由に納得した。人間の知恵と物を作り出す早さを目の当たりにしてだ。遠い昔、魔物を極寒極北の氷土に追いやり閉じ込めるほどの力を持った魔術師が、本当に剣や弓に敵わなかったと思うのか?」


「思わんから不思議なのだ」


 ランディーの言葉にアウラが桃色の細い髪を揺らして頷いた。


「魔術師は陣を描き寄り代、指標とし大いなる力、自然、或いは神。何れにしろ何れかの力の流れに干渉しなんらかの切っ掛けを与え、魔術を発揮し力を得て魔術を行使すると俺は考えてる。俺が知るところによれば、その方法は様々で魔術師個々の秘匿事項だったそうだ」


「人それぞれに方法が違う? それはどういうことだね」


「魔術や魔法陣には基本があるこれは変わらない。だけとそれぞれの描く魔法陣は微妙に違うし、魔術を行使する切っ掛け、発動するやり方が違うのかな? 例えば……」


 アウラの眼に好奇の光が宿った。


 少年は魔術を使えないなずなのに、どうして魔術のことにこんなにも詳しいのだろうか? 永きを生きる賢い竜族の中には人語を解し、人間が扱う魔術に良く似た“魔法”を扱える個体も存在すると他国の学者が書いた文献を眼にしたことがあった。


「例えば呪文、羊皮紙や石板に書いた文字、道具とか……、そうだなぁー? 例えば鐘の音とかかな」


 少年がアウラに微笑み掛けた。


「力を行使する魔術の陣を描くには膨大な時間を要し、強大な魔術になればなるほど陣も複雑で尚更手間が掛ると聞いている」


 アウラは頷きながら少年の話に聞き入った。


「言い換えれば陣を描いていない魔術師はただの人に過ぎない。ランディー騎士たちが持つ剣や弓で十分あしらうことが出来るし、追い詰めることも難しくない。母さんは遠い昔から魔術師を知っていたが扱える人間は全体の内でも極僅かな人間だったと言っていた。その他の大多数が農耕や狩猟の便利な道具だったものを発展させ武器に変え、更に進化させ大多数で魔術師を追い詰めたのだろうと母さんは言っていた。何者かが魔術師を弾圧し魔術師狩りを先導したらしいが、母さんにとっては特別興味がある出来事ではなかったらしい」


「……確かにな」


「それに魔術を扱う天稟でもない限り、遠い昔でも魔術を扱うことが出来なかったのだとしたら、さぞ扱える者は敬われ、またそれ以上に疎まれただろうなぁ? そう思わないか?」


「ならばソルシエールの禁術書は諸刃の剣どころか扱うには、それ相応の手間が掛る、掛り過ぎるか……」


 ランディーは無言で眼を瞑った。


「そうでもない。魔術が弾圧を受け魔術師たちが狩られ、辺境に追われた後もソルシエールが天才魔術師と称えられた由縁がそこにあるんじゃないかなぁ」


 『例えば……鐘の音かな』アウラは少年の言っていた言葉を頭の中で反芻しなにかを感じていた。


「もしかして――」


 少年がアウラの後を引き取った。


「例えば陣を用いず魔術を行使するとか……かなぁ? それを出来るかも知れない人物を俺は一人知っている」


「それは誰? 誰にでも可能なの?」


 アウラは少年の碧眼を覗き込んだ。


「内緒だ。でもまぁ誰もが力を欲し、その強力な魔術を誰もが簡単に使えてしまったら生き物が住む場所が無くなってしまいそうだけどな」


 少年が微笑みで答え、祭壇に祭られていた奇怪な像に手を着いてもたれ掛かった。


「あれ?」


 メッセージの古語の翻訳が鍵だったのか調査の段階ではこれといった報告を受けていなかった像が倒れたと思ったら、祭壇は石薄で粉を引く時のような音を立て徐々に地面へと沈んで行き、祭壇が沈んだ後の壁から扉が現われた。


 扉は手を掛けてもいないのにまるでこの時を待っていたかのように扉が開き出した。


 To Be Continued

ご拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!><b

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ