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String link  作者: 初瀬姫
String link・Ⅵ
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ミステリーゲームのお屋敷


「えー? あの子、お姉さんなのー? てっきり彼女さんかと……」

「違います」

 五人座ってもスペースが余るテーブルなんて初めて見たよ。長方形にどんだけ長いの、このテーブル。

「では、気を利かせる必要は無かったようですね」

「はい。全然ありません」

 部屋は部屋でシャンデリアとか調度品とか絵とか、かなり豪華だねぇ。

「あたしらその話題で盛り上がってたのになあ。あーあ、拍子抜け」

「えっと、ご期待通りじゃなくてすいません」

 この部屋やお風呂でもそうだけど、このお屋敷、けっこう大きいんだな。曇りで薄暗かったし、オマケの雨で建物の大きさが全然わからなかった。

「全然似てない兄妹だと私は思う」

「それには同意します」

 この四人メイドさんたち、仕事しなくてもいいの?

 強いけど心落ち着く紅茶の香りと、トロンとしたケーキの甘い匂いが部屋に立ち込める。あまり慣れていないから、ん? って首を傾げるような印象だけど、特別に気になるなぁってほどでもない。

 あえて気になるとしたらこの四人のメイドさんたち。

 食べているか飲んでいるか以外、よく喋る喋る。誰か食べていたり飲んでいたりしていても、その他が喋るから声が途切れることがなくずっと続いている。

 向こうは年上でこっちは年下。しかも俺が年下の男だからってことで、まあ色々と話を訊かれるという状態。

 ……マジであなたたちメイドのお仕事しなくてもいいの? しかもさっきから超フレンドリーだ、と冷ややかな目で俺は四人のメイドを見る。

「どうたのー? さっきから表情が硬いよー?」

「もしかしてキレイなお姉さんに囲まれて緊張しているじゃない?」

「えー? それホントー、リナ?」

「訊いてみたら」

「ねえー? ホントなのー、キミー?」

「え? えーっと、そういうことにでもしておいてください」

 冷ややかな目で職務怠慢しているところを見てました、なんて言えないので。

 てか、この嵐はいつになったら止むのかな? ふと、時計に目がいく。古く年季の入ったアンティークな時計の針は一七時を回っていた。

「えー、お姉さん困っちゃうなー。でも年下かー。いいかもー。私好みにバッチリ色々と教えて育てられるしー。ぐふふふふ」

 あらぁ、やば、もうこんな時間。親に迎えの連絡も取れないし、姉貴は失神してくたばってるし、どうしよう。まったりとお茶やっている場合じゃないじゃん。

「あー。話し聞いてないなー、キミー」

「え? 何がですか? 好みにしようとするなら一桁台の子の方がいいですよ?」

 ショタと言われる子。

「聞いてたのー!?」

「え? ええ」

「ちょ、ちょっとー。恥ずかしいなー、もうー」

 恥で済んでいるとはちょっと……。不気味な笑い出てたから、欲望のまま突っ走りそうな不安まで抱いていますよ、あなたに。どうか犯罪だけはしないでくださいね。

「……ねえ、トモミ? この子、〝彼〟に似てない?」

「全然似てないわよ」

「雰囲気よ、雰囲気。トモミの〝彼〟のことをラブっていう気持ちを除いて、雰囲気で語ってよ」

「間に挟んだ『〝彼〟のこと』云々っていらないでしょ?」

「え……? 事実でしょ?」

「否定はしないわ」

「否定されても困るわ。で、どうなの?」

「あっ!?」

「突然何よ、タカコ?」

「どうしたの?」

「この子、カ○ン様に似ていると思う」

「誰? 知ってる、トモミ?」

「――……。ドラゴン○ールの?」

「そう。仙豆せんずを作っていると思われる白猫。あなた、白くなって二頭身になれない? 杖は用意するから」

「なれません」

 無茶言うな。

「ねえー。カ○ン様ー?」

「さり気なくあだ名にしないでもらえます?」

「だって名前聞いてないよー?」

 白いメイドことノブエさんに言われて、ああそういえば、と。

「レンヤです。湊レンヤ」

「カ○ン様ー」

「めんどうだからカ○ン様で」

「カ○ン様でいいと思う」

「お客様の名前はカリン様ですね。了解しました」

「そうしておいてください」

 訂正する気にもならん。

「で、話し戻るけど、どう、トモミ?」

 黒いメイドことトモミさんが俺をジッと見てくる。一人が見ると他の三人の視線もこっちを向いて見てくる。

 何? {ピー}? 俺を見つめて性的な興奮でもあおる気?

「……確かに雰囲気は似て通ずるところがあるわね。でも、ほんの少しだけ。カ○ン様はまだまだ子供よ」

「さすが〝彼〟に従順なメイド。比べてもやっぱり〝彼〟が格段に上ってわけね」

「変な言い方をやめなさい」

 〝彼〟って……あのー、Mr.ナントカさん? えっと、何だっけ? サタンだっけ?

「少しとは言え、トモミのお墨付きを貰うカ○ン様は中々やると思われる」

 青いメイドは頭のネジ以外に部品パーツが足りてないと思われる。

「じゃあー、頑張れば〝この屋敷から出られそうだねー〟」

 意味深な言葉は聞き逃すわけもなく、俺は少し眉を吊り上げる。

 何と?

 ニコニコした白いメイド以外の三人のメイドは、素知らぬ表情で口をつぐんだ。

「今、何て言ったんですか?」

「〝この屋敷から出られそうだねー〟って」

 ニコニコ笑顔を崩さない白いメイド。他三人メイドは、マジで素知らぬ顔を決め込んでいる。

 まさかの電話が繋がらない仕業はあなたたちの所為か?

「安心してしてください。何も捕って食べようとかの危害を加えるつもりはありませんから」

 黒いメイドは俺を落ち着かせようと冷静に言う。

「あったら困ります」

 知らないひと四人に{ピー}されるとか、もしくは{ピー}とか、夏の思い出にならん。男子中学生の心に一生の傷が残るよ。

「ただ、この屋敷から出るには、ある〝謎〟を解いてもらわなければなりませんが……」

 そもそもあんたらの方が謎だらけな気がする、って言ったらダメか? いや、それは言うまい。もう、あんたらの正体は解ったわ。

「それまで、ミステリーゲームにお付き合い頂けますでしょうか?」

 ニコニコ。ニタニタ。フワフワ。とした他、白、赤、青の三人メイドの、これまたむかつきを抱かせるような表情がチラチラと目に映る。

 ……やるしかない、か。俺はゲンナリしつつ頭を切り替えた。

「如何でしょうか?」

「あの?」

「はい、何でしょうか?」

「〝Yes〟しかない問いは聞くだけ無駄じゃないですか?」

「それは失礼を致しました」

 今のところ何かしらの危害を加えられることはないようだし、〝謎〟を解けば屋敷から出られるというのなら、付き合ってやろう。どうせ嵐で外に出ても帰れないわけだし。

「では、内容をお話しします。それから〝ミステリーゲーム〟開始ということで……」

 まあ、いざとなったら実力行使ブチのめして出ればいいこった。

「きゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」

 反響して悲鳴が屋敷の中に広がる。姉貴の声だ。ああ、あいつのこと忘れてた。

 てかよく悲鳴を上げるなぁ、あいつ? 今日二度目だよ、もう。

 俺は自分の分のカップを手に取り紅茶を啜る。

「……いいのー? お姉さん、悲鳴上げてるよー?」

「え? ミステリーゲームの内容を聞いて、紅茶を飲み終わったら行きますよ。たぶん」

 何処の部屋にいるのかわからんし、今、無駄に屋敷の中を走り回っても疲れるだけ。

 冷静にしている俺を怪訝に思ったのだろうか、

「カ○ン様、自己中なタイプ?」

 と赤いメイドが訊いてくる。

 いやいや違いますよ。

「もし、あの悲鳴に姉貴の命が関わっているのなら、実力行使したらいいだけですから、俺は」

 『ミステリーゲームにお付き合い頂けますか?』、とか言っておきながら、そっちが姉気の身の安全を確保していないのなら、こっちは始まったばかりのゲームのルールを律儀に守る必要は無ねぇよ。〝謎〟とか知らん。始まる瞬間に身内が死ぬとかどこの無理ゲーだ。

「へー。クールだねー」

「〝彼〟とは違うタイプでクールってやつだ」

「でも、歯応え十分と思われる」

 おもしろい、って顔してやがんなぁ、この三人。こっちはめんどくさいでお腹一杯一杯なのに。

「では、まずお姉様と合流しましょう。それから〝ミステリーゲーム〟の本題をお話しするということで」

「はい、いいですよ」


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