妊婦の不安
【起きよ】
頬を軽く叩かれる感触。眠気交じりの重い瞼を少し開く。
【レンヤ、起きるのじゃ】
ぼやけた眠気眼は視点がはっきりしない。誰か呼んでいる? 誰だ? とぼやけた頭で考える。けど、
何だか物凄く気だるい気分ですぐに考えるのをやめた。
【アサギに頼まれて来てみれば、そのようなところで眠りおって。ちゃんと布団で眠らんといかんぞ。こらっ。起きんか、レンヤッ】
……誰か知らないけど、そう怒鳴らないでくれ。吐きそうな感じで気分悪くてダルいんだよ。
気だるい眠気の頭を何とか切り替えようと思いながら目を擦ってパチクリと瞬きを繰り返す。
【起きたか、レンヤ】
はっきり目を開け、見上げると、
黒いポーラ帽子に薄紫色のブラウス、黒の水玉模様が入ったグレー色の短いジャンパースカート。
クラシカル? て言うのかな? そんな感じがするお洒落で可愛い女の子が目の前に立っていた。
はて? 見覚えのある顔なんだけど……、
「どちら様ですか?」
【何じゃ? ワシの顔を忘れたのか? それともまだ寝惚けておるのか?】
ワシ?
【どうやら寝惚けておるようじゃのう。まったく】
女の子が小さい溜め息を吐き出す際、後ろで纏められた黒髪に菫の簪を見つけた。
「あ、スミレか」
俺は気だるい声で目の前のスミレの名を呼ぶ。
【うむ。スミレじゃ】
どうしたの、その格好? スカートが短すぎない? 太もも丸見えだよ。
【ん? どこを見ておる?】
「え? 足」
【どこを見ておるっ!】
「だから足だよ」
二度も言わせんなよ、タコ。
そんなスミレは、スカートの裾なんて伸びないのに裾を下に引っ張って内股で必死に隠そうとする。
いくら外見が中学生とはいえ、精神年齢を考えた格好をされたほうがよろしいのでは? 実際年齢もアレですし?
そう、恥ずかしいのなら慣れないモノを着るべきじゃないよ。
【レンヤ、今、失礼なこと考えたじゃろ?】
「詳しくは言わないけど、うん、とだけ答えておく」
【もも、もしかして、この格好か? モモカが持っておる雑誌を参考にしたのにのう。うむぅ……】
ふーん。モモカはそういう格好をしたいのか。あまり私服を見たことがないから知らなかった。
【髪型も変えて、ぶりてぃっしゅすたいる、というモノを実践してみたじゃが……そんなに変かのう?】
スミレ、横文字苦手だろ? 発音が変だ。
【どうなのじゃ?】
「どう、と聞かれたら可愛いとしか言えない」
そういう服装も似合うね。俺個人の感覚だからその他の意見は知らんけど。
あ、あかん。気分が悪い。体調悪いのかな、俺。
【本当かっ!?】
大きな声を出すな。
「まあな。最初、お洒落で可愛いと思った」
どこのどなたかわからなかったけど。
【そうか、そうか。それはよかった】
スミレは安堵の表情を浮かべ、その表情は次第に喜びへと変化していく。
【ん? じゃが……かわ、かか……】
かわかか? 何を言いたい? 何だか昨日から言葉が噛む奴ばかりの相手をしている気がする。
【……おほん。そそ、そのように思ったのなら、何故ゆえレンヤは失礼なことを……】
なるほど。自分で『可愛い』と言うことに抵抗を持ったから言い方を変えたのね。
【何故じゃ?】
今のスミレは、いわゆる持ち上がっている状態だと思う。だから先ほど思った、精神年齢や実際のお歳のことを言えば確実に落ちるだろう、けど、そのあとが怖いと思う。
俺はそう考え、
「見慣れない格好をしていたから」
【ん? どういうことじゃ?】
「まさかそんな可愛い格好をしてくるとは思わなかった」
【なぬ?】
「お淑やかだけど可憐な感じ? だからちょっと意外な一面を見て、スミレだとわからなかったから、失礼だったかな? と思ったんだ。すまん」
【な、なぁんじゃぁ。そそそ、そういうことなら失礼にならんぞ、レンヤ】
褒められて何テンション上げてんの?
「ところでさ、スミレ? 話は変わるけど、どうしてここに来たの?」
何用なの? 今、ちょっと気分悪いから今度にして、そういうことは。
【ん? う、うむ。蔵で〝朱鷺尾の力〟について調べておる最中にアサギが来てのう、レンヤの面倒を見てくれと頼まれたから来たのじゃ】
なぜ頼んでもいないのにいらないことをする、あの母親。
「けど、それでその格好はおかしくないか?」
【い、いや、それはじゃのう……】
「何ですの?」
【病を患っておるのじゃったら、お見舞いにと思ってのう……】
「それだったらなおさらいつものセーラー服で来いよ?」
お洒落する必然性が全く見当たらない。
【いいではないかっ! ワシの勝手であろうっ!】
強気で押し通しやがった。まあ、ツッコミは入れないでおこう。スミレの自由だから。
【で、学校へ行っておらんところを見ると、本当に病を患ったのか?】
患ったというより憑かれた。そうか。憑かれたから気分が悪いのか。そうか、そうか。
【風邪か? 風邪じゃったら床で寝ておると悪化するぞ?】
あ、アイラに抱きつかれて俺、いつの間にか寝てしまったんだな。
ご丁寧に毛布まで被せてくれて……。誰か知らないけど、ありがとう。
「いや、風邪じゃないんだ」
【じゃあ、何じゃ?】
「うんうぅ……兄様……」
その時毛布がずれ、俺の胸元に引っ付いたアイラの頭が飛び出した。
【レンヤ、その娘は誰じゃ?】
目の前には氷の女王、もといスミレが現れる。
【説明をしてもらおうかのう】
スミレは俺の勉強机に向かうと、立てかけてあった竹刀袋から竹刀を取り出した。
説明は口しかいらないよな? 武器持つ必要がどこにあるの?
【そんな年端も行かぬ子供をどうするつもりじゃ?】
「いや、別にどうもしないけど」
【嘘をつくでないっ】
「いや、嘘はついて……」
【言い訳は無用じゃっ】
どうしろって言うのよ? 説明させる気あるの、お前?
【見知らぬ若い娘を……しかも、年端も行かぬ幼い娘を……。そのように育てた憶えは、ワシはないぞ……。そ、そんな幼い娘に手を出すような……】
奇遇だね、俺もそのように育ててもらった憶えはない。
「あのな、スミレ。俺の話を聞……」
と、説明しようとして身体を起こした俺の毛布が捲れる。
あ、痛ッ。足腰が痛ぇ。変な体勢で眠っていた所為か?
【ッ!?】
ギョロッと目玉が飛び出しそうなスミレのビックリ仰天顔に、おもしれぇ顔だな? と俺は思いつつ、下を見ると妊娠したお腹に目が止まる。あ、これだ。
【レレレ】
のおじさん? 何てアホな相槌を考えている場合じゃない。また話がややこしくなったなぁ、こりゃ。
【レンヤッ! お主、女子じゃったのかっ!?】
「いや、これにも事情があってね。今、説明するから落ち着いて話を……」
【いや、昔お風呂に入れた時にはちゃんと男性特有のアレが……!】
人の話を聞いてほしいなぁ……、と溜め息混めて思う。
何でこの状況にいらない奴を呼んだの、母親?
アイラをベッドで寝かせ、俺はスミレに隅から隅まで懇切丁寧に昨日から続くハプニングを説明した。
【何じゃ、そうじゃったのか。それじゃったら早く説明をせんか】
「突っ走ろうとしたの、誰?」
【いやいや。突っ走ろうとしてはおらん。ちょっと驚いただけじゃ】
「何て? ちょっと?」
【ま、まあ、よいではないか】
向かい合って正座しているスミレは、あはは、と誤魔化し笑いをする。
自分の早とちりをこれ以上ツッコまれないようにしようという魂胆が見えた。
うちの母さんが頭おかしいことや、姉貴が頭弱い原因って元を辿ればお前の所為だな。何せ、曾お祖母ちゃんだからな。きっとそうだ。間違いない。遺伝子、良いところだけ伝えてやれよ?
【しかし、この幼い娘が大トカゲにピストルで魂を滅する、か……】
スミレはスヤスヤと眠るアイラに目を配る。
「何か知ってる?」
十段階期待値の内、一にも満たない淡い期待を抱く。
【いんや、知らぬ】
だろうね。お前の記憶に過剰な期待はしていないよ。
【で、気分はどうなのじゃ?】
「ん? あぁ、誰かに苦労させられたから、すんげぇよくない」
【誰じゃ? そのようなことをしたのは?】
「帰ってくれ」
【じょじょ、冗談じゃ。レンヤにちょっとイジワル、いやいやこういう、こみゅにけぇしょん? というものをしたいというか何というか】
「成仏してくれ」
今度は横文字を滑らかに話せる外国の方になりなさい。
【いやだから冗談じゃ、冗談。そのような面倒くさい目を向けないでくれ】
昨日、今日の朝もだけど、けっこう面倒事に対応していたから、そろそろそういうモノを持ってくる奴の相手はしたくないんだわ。
何だか気分悪くて身体ダルいし、足腰痛いし、やんなっちゃうのよ。
【おほん。話を戻そう。で、気分はどうなのじゃ?】
「さっき言ったよ」
【先ほどのこととは別でじゃ】
「起きた瞬間からダルくて気分が悪い。これ以上悪くなったらマジで吐きそうだ」
【では、どこか痛いとかそういうのは?】
「痛いところねぇ……足腰が痛い、かな」
【服を脱いでくれぬか?】
「変態ババァ」
【誰がババァじゃっ!】
あ、すまん、つい思ったことが。てか、変態はいいのか?
【お腹だけ見せてくれればよい。ほれ、はよう脱ぐのじゃ】
何で? と思うけど、スミレは真剣な表情だった。
俺はしょうがなしに着ている服を上に捲る。妊娠したお腹が丸見えとなった。
【ほおぉ……。少々、触るぞ】
「どうぞご自由に」
ひんやりと冷たいスミレの手が、俺のお腹に触れる。
撫でる触れ方――そういう手つきに妙な感覚を覚えた。医者に診察してもらっているような、そんな感じとも違う、優しい触れ方。いや、目の前にいるのは変態だったか?
【もうよいぞ】
服を元に戻す俺。
「これの意味は何?」
【レンヤ、食欲はあるか?】
「はあ?」
朝メシ食べたばっかり……え? 十四時?
壁に掛けてある時計を見ると、もうお昼を過ぎていた。
あ、寝ていた所為だな。けど、お腹が空いていない。
「食欲はない。というか、食欲が湧かない」
吐き気のほうがあるからな。胃や内臓が押し込められているような、そんな圧迫感。その所為だろう。
【なるほどのう。わかった】
「何が?」
お前、医者か何か?
【レンヤ、お主の身体に妊婦特有の母体の変化が起きておる】
「ごめん、意味がわからないんだけど……?」
母体は女性の身体のことなので、男の俺には大きい変化はおろか、小さい変化もわかりません。
【まず気分が悪く、嘔吐感が起きるのは、つわりじゃ】
「つわりって、妊娠して吐き気が起こるやつ?」
【うむ。酷いものは相当酷いらしい。レンヤのはまだ軽いやつじゃな】
いや、そんなまさか? 俺、男だよ?
【足腰が痛くなるのは上半身のバランスが崩れて下半身に負荷が掛かっておるのであろう。食欲が湧かないのも、臓器が圧迫されておるからじゃな。とすれば、厠が近くなったり、息切れや妊娠中毒症などの症状もありうるかもしれんのう】
ちょっと質問しただけで、何でそんなわかるの?
【お腹の具合も、およそ妊娠九、十ヶ月目ぐらい。しかしそうじゃと、つわりや足腰の痛みが起こるのは……これはとり憑かれた所為か? これは不思議じゃのう、うむぅ……】
うむぅ、じゃない。一人で進めないでくれ。話について行かせてください。
「スミレ? スミレッ?」
【ん? どうした?】
「俺にわかるように説明してくれませんか?」
【簡潔に言えば、レンヤの身体はまさしく妊婦の身体と言ってよい】
「はっ? 男なんだよ、俺?」
【話を聞く限りレンヤの身体は妊娠してから出産までの症状と酷似しておる。それに先ほど確認したが、お腹や胸に妊娠線があった。じゃから間違いないと思う】
俺は服を捲って自分自身の身体を確認すると、お腹と胸にミミズ腫れのような線が入っていた。
いやぁぁぁ……。血の気がマジで引いた。
【大丈夫じゃ】
えっとあのね、俺、本物の男なんですけどぉ? どうしたらいいの?
【不安にならなくてもよい】
「え、でもよ」
ただお腹が大きくなるだけならいいけど、身体に及ぼす影響まで妊婦と同じになるとか、何とかなる気がしなくなってきたよ、真剣に?
今ほどこの事にどっしり構えていた昨日の自分に後悔を覚えるわ。
【不安になるでない。ワシがおる。なにせ、ワシは七度も経験しておるからのう。任せておくのじゃ】
――……え? 七度? お前、七人も子供産んだの? そのちんちくりんな身体で?
俺はちょっと驚きの目でスミレを見た。
【どうしたのじゃ?】
「い、いや、何でない」
首を傾げ、キョトンとするスミレ。
すげぇなぁ……。思えば体調が悪くなるだけじゃなく、ちょっと動くだけでも困難極まりない大変なことを七度も……。
そういえば、出産する際は相当苦しくてキツイって聞いたことがある。
うわっ、考えてはいけないことを考えてしまった。これ、どうなるの……本当に出産とかなったら、堪えられるのか……。
俺は、膨らんだ妊娠したお腹を呆然と眺める。
【お腹にいる赤ちゃんの霊は、レンヤの身体の中で成長しておるだけかのう? 邪気というものが感じられん。とすれば、出産する状態まで成長させれば霊は離れる可能性も……】
出産? いやいやいやいや、無理無理無理無理。
【レンヤ、不安を感じておるな?】
不安にならねぇ奴いねぇよっ。
【女子は妊娠すれば誰もが通る道じゃ】
だから男なんだってっ、俺。
【そう不安になると身体に影響も出る。赤ちゃんは霊であっても、今のレンヤは妊婦とそう変わらんと思う。そういうものは悪影響になって、母体が損なう恐れもあるぞ】
どうして一々不安を煽ること言うの? アホなの?
【不安を煽ることどうして言うのじゃ、と思ったじゃろ?】
「ああ、おもいっきり思ったよ」
【じゃがのう、今のレンヤはそれを知っておかねばならん。妊婦じゃからな。赤ちゃん、子供を産むというのは遊びではないからのう】
そう、言われると……何も言い返せないし、思えない……。
【大変なのは十分わかっておる。じゃが、それらも踏まえて心を強く持ってほしい。これは経験者から助言として受け取ってくれ】
確かに……。
妊娠するのはおめでたいことだ。新しい命が生まれるという行為なんだから。
だけど、良いこともあれば悪いことだってある。
ちょっとした不注意だったり、本人の精神面であったりと、不安な要素はたくさん。
それらを知っておくのは、決して悪いことじゃない。
「すまん、スミレ」
【ん?】
「ちょっと、いや、かなり驚いていたようだ、俺」
【レンヤ】
どうなる、どうなる、って考えても仕方のない不安なことを。
「今の状態がこれであるなら、それに備えておく必要がある。スミレ、色々教えてくれないか?」
【純粋なレンヤらしいのう。うむ。ワシがれくちゃぁしてやろう】
「ああ、頼む。そのお礼として、滑らかに英語を話せるようにレクチャーしてやるよ」
というか、無理に喋らないというのも一つの手だな。
【なぬ? 悪いか?】
「悪い。超悪い」
英語の授業を始めてやった学生並に悪い。
【ふむ。えげぇれすの言葉は難しいのう】
当分、一人で海外旅行できない。行ける機会はないと思うが。
【まあ、そんなことよりも、レンヤに妊婦としての心構えを……】
「貴方、霊ねっ!」
ん? と俺とスミレが声のするベッドに振り向くと、ピストルを構えていたアイラがいた。
あ、起きたの。
【レンヤ、何じゃこの娘は? いきなり人にぴすとるを向けよったぞ?】
スミレ、お前は〝銃〟って言ってくれ。その発音、すごく気になるから。
【この人には手を出させないわ! 離れなさい!】
「はーい、アイラちゃん。寝起き早々お仕事偉いけど、そのピストル下ろしなさい」
「貴方、何を言っているの!? 悪霊かもしれないのよ!」
「ぶっぶぅ~。ハズレ」
「え?」
【スミレじゃ。初めまして、アイラ】
と頭を下げて挨拶をするスミレの姿に、
「あ、はは、はい。初めまして、アイラです」
思わず挨拶を返すアイラは、
「って、どういうことっ!?」
俺に詰め寄ってくる。
本人に聞けよ、挨拶済ませたんだからもう顔見知りだ。
「ねえ! 答えて!」
俺は答えるの? うーん、長い説明になるからどうしたものか……。うん、こうしよう。
「曾お祖母ちゃんです。職業、幽霊。以上」
【適当に説明するでない、レンヤ】
だって、一からは長いもん。
「曾お祖母ちゃん? だ、誰の?」
「俺の」
知ったのはついこの前だけど。
「じゃあ、悪霊なんかじゃ……」
「ないです」
「あ、そう、なんだ……。私、また早とちりを……」
「しましたね」
「そう……」
と呟いてスミレを見るアイラ。
【何じゃ? 言いたいことがあるなら申してみよ、アイラ】
ニッコリと笑い返すスミレにアイラは、
「か、可愛いくて、綺麗……」
小声で呟いて照れるように恥ずかしがった。
今日のスミレはお洒落しているからね。
【そ、そのようなこと言われると……照れるのう……】
いつもはちんちくりんだけどね。
「レンヤ? 何を思った?」
「アイラに激しく同意していた」
【なっ……! そそ、そうかのう。レンヤもそう思うかっ】
再びテンションが上がるスミレ。
扱いやすい性格していてくれてホント助かります。というか、さっき口に出して言ってやったはずなんだが。
「ね、ねぇ? 〝あの子たち〟は……?」
アイラは唐突に違うことを口に出した。
「ケンシンくんとマリナちゃんの二人。どこに行ったの?」
あれ、そういえば……。
と俺は部屋の中を見回すけど、二人の姿は部屋にはいなかった。
俺たちが眠っている間にどこか行ったのか?
「ッ!?」
と唐突に胸に痛みが走って俺は蹲る。
「どうしたの、貴方!」
【レンヤ!】
何だろう、すごく深い悲しみが心に広がり、伝わってくる。決して晴れない、霧靄のような、そんな掴みどころのない〝想い〟が。
糸――小指に結んである、〝黄色い糸〟。
壁を通り抜け、外へと伸びた黄色い糸。
――〝泣いてる〟――。




