第1話:旅人
惑星ゼロス。
この惑星は、二つの世界に分かれていた。
一つは、禁断の地・ウィード。
もう一つは、ガゼイーンと言った。
この二つの世界は、お互い干渉する事なく数千年も経っているのである。
ゆえに二つの世界の文化は、異なっている。
ウィードとガゼイーンは、大きな海を隔てあり、大陸の面積はほぼ同じである。
そこに住む人達は、お互いの存在を認めているがどちらも手を出すことは無かった。
ガゼイーンの人達は、ウィードの地を禁断の地として宗教的な意味からも聖地としていた。
逆にウィードの人達は、ガゼイーンを蛮族の地として忌嫌っていた。
だから、誰一人としてどちらからも行ってみようと思う者など居なかったのだ。
だが、その永きにわたる無干渉も一人の青年によって破られる事になる。
その青年の名は、マレイン=ノルエ。
たんせいな顔立ちの若い男だった。
マレインは、ガゼイーンの人間でガゼイーンで育った。
しかしマレインは、自分の育った地ガゼイーンを嫌っていた。
そんな理由もあってウィードの地に足を踏み入れたのである。
だがその事を知る者は、いない。マレインは、密かにやって来たのだ。
誰にも見つかる事なく。
ウィードは、森の世界だと言っても過言ではない。森が多く村や町などその森の中に集落を作って
いるようなものである。
マレインは、ウィードの世界に馴れるまで、この世界の言葉を覚えるまで、ウィードを旅した。
村から村へ、町から町へ、集落から集落へと。
そう、マレインは一年半も旅を続けたのである。
そして、マレインはある一つの集落へと足を踏み入れた。
村雲の村。
一見普通に見える村。
ライ族の集落である。
この世界ウィードは、いくつかの一族に別れており、それらの一族ごとに町や村を形成している事
が多い。特に集落などは、血の繋がりが強い者同士で集まっているものだから、人と人の絆は、強く
結束してる。
もちろん、他の一族がうかつに異なる一族の地へ入る事は、許されない。
しかし、それは旅人からしては、大変である。
見知らぬ地に行く場合などたまったものじゃない。
でも、そんな時は心配しなくても良い。
ちゃんと旅人には、理解を示してくれるのである。
それも旅人は、歓迎してくれる所が多く何かと旅人には、親切なのだ。
「叔父さん!!旅人が来てるって?ホント?」
一人の少女が息を弾ませて村人の一人に近づいてきた。
「ああ! シーマ、それなら・・・今、長の所に居るよ」
「ありがとう! 叔父さん」
少女は、その村人にお礼を言うとすぐさま駆けて行った。
シーマと呼ばれた少女。
彼女は、この村のライ族の娘で16歳になったばかりだ。
彼女は、とにかく元気な子で1日中走りまわってるような感じである。
遊び友達も幼い頃から男の子とばかりと男まさりな所があった。
彼女は、何時も旅人が来ることを楽しみに待っている。
旅人から聞く旅の話しが何より好きだった。
この村から出た事のないシーマにとって、旅の話とかに興味があるのだ。
もうかれこれ旅人が来るのは、一年ぶりだった。
「シーマ! よいところに来た」
シーマが一軒のわらぶき屋根の家に入ると低い声が聞こえてきた。
家の中って言っても何も仕切られておらず、一つの部屋がそのまま家になったようなものだ。
その中心で中年の男と若い青年が向かい合うようにあぐらをかいて座っていた。
シーマは、その中年の男に顔を向けた。
「父様! 旅人が来てるって!?」
シーマは、次に若い青年の方に顔を向ける。
「わかっている。彼がその旅人だ」
シーマの父、ハーマ=ムラクモが目前に居る青年を紹介した。
そうその中年男がシーマの父でライ族の指導者。つまり長である。
「僕の名前は、マレイン=ノルエです。よろしく」
「変わった名前ですね。私、シーマ=ムラクモって言います」
シーマは、マレインの前まで来ると握手をかわした。
「長の娘さんですね?」
「あっはい! あのう・・・何処から来たんですか?」
「それは、とっても遠い所ですよ」
マレインは、うろたえた様子を見せずにハッキリとそう答えた。