~100円玉と僕~
あの日100円玉が転がってきた。
それを拾って顔を上げた。
僕の恋の始まり。
この恋も3年目になる。
サッカー部の僕は、
なるべく早くグランドに出る。
あの道が彼女の部活への通り道。
彼女があそこを通ると
いつも
グランドを見ていることを知っている。
彼女の視界に入りたい。
僕を少しでも見てほしくて。
少しだけ期待をしてもいいですか?
練習中に怪我をした。
たいした怪我じゃないけど。
マネージャーがばんそうこを持って来てくれた。
救急箱の分は切らしてたけど
あの人がくれたからって
校内に入っていく彼女を指差した。
走ってもいないのに
心臓の鼓動が早くなった。
部活が終わって
急いで彼女の教室に走った。
いつも持ち歩いている飴玉を持って。
入り口近くで1回止まって深呼吸。
教室を覗くと彼女がいた。
僕は初めて彼女の名前を呼んだ。
彼女は気づいて歩いてきた。
僕はお礼を言って
飴玉を彼女の掌に落とした。
少し照れたように笑った彼女。
ずっとこうして見ていたい。
そう思った。
卒業まであと3ヶ月。
部活が終わって教室に戻る。
教室の奥の席に彼女がいた。
夢かと思った。
化学の勉強を教えてもらっているのか。
そう思いながらみていたら
彼女が顔をあげて
一瞬目が合った。
けれど彼女はすぐに
下を向いてしまった。
中身だけでもあの友達と入れ替われたら
どんなにか幸せだろう。
僕は少し変ですか?
同じクラスの彼女の友達から
彼女には好きな人がいることを聞いた。
3年間ずっと同じ人を好きらしい。
僕と同じだ。
彼女のことを3年間好きなように。
彼女にもそういう人がいるんだ。
僕と同じように
彼女もこんなに胸が苦しい思いをしているんだろうか?
高校生活もあと3日。
彼女がいるこの学校で
彼女の姿を見れるのも
あと3日。
ポケットの飴玉を見ながら
3年間でたった1度
彼女と接したあの日を思い出す。
彼女のことを考えると
息が出来ないくらい
胸が苦しい。
あと3日しかないなんて
どうしてもっと近づく努力をしなかったんだろう。
今日は卒業式。
昨日僕は決めたんだ。
3年間のこの想いを
きちんと彼女に伝えよう。
この恋は本物だって
自分にも自身が持てるように。
僕は100円玉をポケットに入れて
教室を出た。
100円玉が恋の始まり。
向こうから彼女が歩いてくる。
こんなチャンスはない。
グッと歯を食いしばって
まっすぐに歩く。
彼女に向かって。
けれど声を掛けられず
彼女とすれ違う。
少し歩いて立ち止まった。
ダメだ。
ちゃんと伝えなきゃ。
振り返りもう一度彼女に向かって歩こうとした。
少し離れた彼女が振り返りこっちを見た。
僕はゆっくり歩き
彼女の前で立ち止まった。
手に持っていた100円玉を出し
彼女を誘った。
「一緒にあの自販機まで行かない?」
真っ赤な顔で
彼女は頷いた。
真っ赤な顔で
僕は笑った。
あの自販機の前で僕は彼女に伝えたい。
「3年前ここで君と初めて会ってからずっと好きだったんだ。」




