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校正者のざれごと――「続柄」「代替」「重複」「重用」本来の読みは

作者: 小山らいか
掲載日:2026/07/17

 私は、フリーランスの校正者をしている。

 このところ、お金にまつわる本の仕事が多い。給与明細、相続・贈与、社会保険……細かい計算ばかりしている。以前、「校正者のざれごと――年収の壁が複雑すぎる」でも制度の複雑さについて書いたが、令和8年度はさらにパワーアップ(?)している。基礎控除は以前の38万円から最大104万円になった。と、この話は長くなるのでこのくらいで。

 相続の本によく出てくる「遺言」は「ゆいごん」と読むのが一般的だが、法律用語としては「いごん」と読む。「法律が施行される」の「施行」も、一般的には「しこう」だが法律関係では「せこう」と読むことが多い。実際、法律関係の出版社の編集者はそう発音していた。「強制執行」などの「執行」との混同を避けるという意味もあるらしい。

「養子」に対して「養親」という言葉があるが、これは何と読むか。

 答えは「ようしん」。「ようおや」とも読みたくなるが、広辞苑、新明解ともに「ようしん」で、「やしないおや」ともいう、とあった。「養親子」は「ようしんし」。さらに「実親子」も「じつしんし」または「じっしんし」。「じつおやこ」とは読まない。

 ちなみに、「親子」も「おやこ」だけでなく「しんし」の読みでも掲載されているのだが、広辞苑ではその隣に「震死」という項目があった。意味は「雷に打たれて死ぬこと」。なぜ「震」の字で「雷」なんだろう。急に調べてみたくなり、ちょっと脱線。

「震」一文字では広辞苑と大辞林に掲載があった。大辞林のほうを紹介する。

 ――易の八卦はっけの一。(中略)雷を表し、東の方向に配する。  

 つまり、「震」の字が雷を表すということか。なるほど、すっきりした。脱線終わり。

 相続の本では「続柄」という言葉も頻出だ。この読みは「つづきがら」? それとも「ぞくがら」?

 本来の読みは「つづきがら」だ。広辞苑には「ぞくがら」の読みも掲載されているが、「→つづきがら」とある。ただし、「続」の文字ひとつで「つづき」と読ませるのは特殊であるとして、NHKでは「つづきがら」と読ませるときは「続き柄」と「き」を入れて表記しているという。また、ある大学の調査では、大学生に「続柄」の表記を見せたところ70人中67人が「ぞくがら」と読んだそうだ。「ぞくがら」の読みも間違いとはいえず、慣用読みとして定着しているということだろう。

 同じように慣用読みが定着した例として「代替」がある。これも本来は「だいたい」と読む。しかしいまは「だいがえ」と読む人も多く、「代替品」は「だいがえひん」、「代替案」は「だいがえあん」と読んでも違和感を覚えない人も多いと思う。

 では、「重複」はどうか。

 これに関しては、私は「ちょうふく」が正しくて、「じゅうふく」と読むのは間違いという認識だった。ところがこれもいまは「じゅうふく」と読む人が増え、定着しつつあるという。文化庁が行った「国語に関する世論調査(平成15年)」によると、「重複」をどちらで読むかという問いに対し、「ちょうふく」と答えた人は20%だったのに対し、「じゅうふく」と答えた人は76.1%だった。20年以上前の調査であることを考えると、いまではその傾向はさらに強まっているのだろう。「日本医学会医学用語辞典Web版」では、「重複」の読みは「ちょうふく」ではなく「じゅうふく」に統一した、とあった。

 では最後に「重用」は?

「重用」はたとえば「この会社は若手社員を積極的に重用している」などと使う。これはさすがに「ちょうよう」だろう。「じゅうよう」とは読まないよなあ。

 ところが、NHK放送文化研究所にはこのような記述があった。

 ――原則として[ジューヨー]と読み、場合により[チョーヨー]と読んでもよいことにしています。

 あれ? 原則は「ちょうよう」ではないのか。さらに読んでみると、「重用」の本来の読みは「じゅうよう」なのだという。いつからか「ちょうよう」と読む慣用化が進み、1998年の調査では8割の人が「ちょうよう」と読んでいた。これを受けて、NHKでも「じゅうよう」のほかに「ちょうよう」の読みも認めることになったそうだ。

 知らなかったな。やはり、言葉の世界は奥が深い。

 ちなみに、このNHKの記事を書いた人は、自分も「重用」の読みは「ちょうよう」だと思い込んでいた、認識不足をあらためて痛感した、と述べている。

 校正者として言葉を扱うにあたり、間違いを見つけることは当然必要だ。でも本当にこわいのは、知識がないがゆえに間違いではないものを「間違いだ」と言ってしまうこと。とくに最近は新しい言葉、新しい用法も増えている。何とかついていけるようにしないと。

 相続税のゲラ(校正紙)では、どうしても税金の計算式が合わず何度も書き直していた。

「あー、もう」

 思わず声に出してしまう。ゲラには書いては消したたくさんのエンピツの跡。

 気持ち的に、この「あー」の「あ」に濁点をつけたくて検索したが、縦組みでは難しいらしい(ここでは横組みなのだが、私はいつも縦組みで書いてからコピーして掲載している)。仕方ない。何かしら「代替案だいたいあん」でも考えるか。「ゔー」とかね。


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