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偶然の賜物  作者: 臥亜


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1/7

『猶予はあなたのもの』

言葉は人を救うのか。

それとも、傷つけるのか。

誰かの「正しさ」は、別の誰かの未来を削ってはいないだろうか。

封筒は、昼休みに届いた。

差出人の記載はない。

白い厚紙。切手も消印もない。

編集部の机に、それだけが置かれていた。

悪戯にしては手が込んでいる。

真白は封を切る。

中にはポラロイド写真が一枚。

川辺の橋。

柵の向こう側に立つ青年。

横顔。

見覚えがある。

喉がひりつく。

蒼。

写真の右下に、黒い数字。

【残り17時間】

心臓が、遅れて強く打つ。

裏返す。

文字。

《あなたの人生で、最も大きな偶然は三日後に起こる》

蒼は三年前、真白が担当した新人作家だ。

そして三年前、

橋から落ちた。

死亡記事は出なかった。

未遂だったからだ。

だが、その後、消息を絶った。

真白は椅子から立ち上がる。

窓の外を見る。

現実の橋は、遠くに見える。

写真と同じ角度。

同じ川。

時計を見る。

午後一時。

【残り16時間42分】

減っている。

思わず写真に触れる。

インクは乾いている。

加工ではない。

誰かが今、蒼を見ている。

いや。

“起こる”のではない。

“起こると知っている”。

真白の背中を冷たい汗が伝う。

スマートフォンを取り出す。

蒼の連絡先は消していない。

だが、発信ボタンが押せない。

三年前、最後に交わした言葉がよみがえる。

「偶然に救われる物語は、逃げだ」

自分が言った。

会議室で。

蒼は何も言わなかった。

ただ、原稿を抱えて立っていた。

その背中が、写真の横顔と重なる。

【残り16時間31分】

数字が減るたび、呼吸が浅くなる。

これは脅しなのか。

予告なのか。

それとも。

真白は封筒をもう一度見る。

内側に、小さな文字。

ほとんど見えない。

《猶予は、あなたのもの》

その瞬間。

デスクの上の電話が鳴る。

非通知。

一瞬、迷う。

出る。

沈黙。

そして、かすかな声。

「七回目だよ」

通話が切れる。

受話器の向こうは、無音。

真白の喉が震える。

七回目。

何の。

写真を見る。

蒼の横顔。

動いていないはずなのに、

今にも柵を越えそうに見える。

真白は立ち上がる。

編集部を出る。

理由は言わない。

誰にも。

エレベーターの扉が閉まる。

鏡に映る自分の顔は、

三年前と同じだ。

正しい顔。

【残り15時間58分】

数字は、止まらない。

物語が、始まる。

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