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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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6話 後編 神殿と、語られない加護

 神殿を出ると、外の空気は思ったよりも軽かった。

 張りつめていた静けさがほどけ、村の音が少しずつ戻ってくる。


「……ちょっと緊張したね」


 ふーぴょんが肩をすくめる。


「うん。でも、嫌な感じじゃなかった」


 敵なのか、味方なのか。

 それはまだ判断できない。

 けれど、少なくとも今この場では、害意は感じなかった。


 帰り道を歩きながら、ふーぴょんはいつもの調子に戻る。


「ふーぴょんは、いつも何のお仕事してるの?」


「山を掘ってね。採掘した鉱物や、

 香草や薬草、薪を採って、

 ギルドで路銀と交換して暮らしているんだ」


「そうなんだ。じゃあ、香草とかもある?」


「あるよ。バジルとか、ローズマリーとか?」


「えっ、私も知っている香草だ」


「今日の香草ストックは問題ないよ。

 乾燥も終わってるし、

 食材に使えるのも残ってる」


「ちゃんと確認してるんだね」


「仕事だからね」


 村の商店が見えてきた。


「寄ってく?」


「うん、いいの? うれしい」


 中に入った瞬間、思わず胸が弾んだ。

 品数は多くない。

 けれど、見たことのないものがいくつも並んでいる。


「これ、何?」


「干し豆に、干し芋」

「こっちはスモールサラマンダーの干し肉」

「これは保存用の根菜とか、ウリだね」


 知っている形、知らない名前。

 野菜もどこか見覚えはあるけれど、

 まったく同じではない。

 それでも、使えそうだと思えた。


「ねえ……いろいろ聞いてもいい?

 この世界の、食べ物のこと」


「もちろん」


 ふーぴょんは少し考えてから答えた。


「肉は種類が多いかな。

 魚やモンスター肉があるよ。

 グリフォン、オーク、バジリスク……

 ドラゴンの肉だってある」


「……すごいファンタジー世界」


「食べられるけど、扱いは難しいよ。

 僕は、少し苦手だけど」


 商店の奥に置かれた、大きな肉の塊が目に入る。

 トカゲの獣人が、どうやら店長らしい。


「……あれ、なんですか?」


「ああ、それかい。

 島みたいに、とんでもなく大きい魚でね。

 今日獲れたから、この町まで来たんだ」


「名前は?」


「カジラの肉だ」


 少し鼻を近づける。

 独特の臭み。


 ――赤みが強くて、白いすじのある、

 クジラ肉みたい。


 横で、ふーぴょんが鼻を押さえる。


「これ、買ってもいい?」


「うん。あまり食べないけど、

 シーナが作るなら」


「じゃあ、これください」

「それと……これは?」


 少しくしゃくしゃになった、

 ボール状の野菜を指さす。


「もしゃキャベツだよ」


「意外と、名前は前の世界と同じような野菜があるんだ」


 それと、この綺麗な赤色の果物。


「りんがだね」


 キャベツと、りんが。


「合わせて、路銀四枚だよ」


 ふーぴょんが支払いをしてくれる。


「ありがとね」


 おじさんが笑顔で、買ったものを渡してくれた。


「ありがとうございます」


「ふーぴょん、ありがとね」


「うん。ちゃんと食べられるように作ってね」


「まっ、任せて」


 紙袋を抱えて、家へ向かう。


 家に着くと、ラピは起きていた。


「おかえり」


 声に、朝より少し力がある。


「ただいま」


 荷物を置いた瞬間、胸の奥がざわついた。

 神殿を出てから、

 ずっと感じていた違和感。


 ――何か、見える気がする。


 何もない空間に視線を向けた。


 淡い光の板のようなものが、

 浮かび上がった。


「ふーぴょん、さっきから気になってるんだけど……

 なんか、私、見えてる」


「……ステータス?

 出てるでしょ?」


 ふーぴょんが、あっさり言う。


「加護を得た証拠みたいなものだよ。

 仕組みは分からないけど、みんな出る」


「僕には、シーナのステータスは見えてないけど」


 画面を見て、ひとつの項目に目が止まる。


「固有能力……食の籠 アイテムボックス(冷蔵庫)」


「アイテムボックス!?

 それ、めちゃくちゃレアだよ!」


「冷蔵庫は……?」


「知らないし、聞いたこともない言葉」


 意味は分からないらしい。

 冷蔵庫は私には聞き慣れた言葉だけど、

 この世界には、きっと存在しない。


 ステータスを恐る恐る触れてみると、

 空間が揺らいだ。


 ――冷蔵庫を使用しますか?

 【はい/いいえ】


 「はい」を選ぶ。


 中身だけが、

 まるでプロジェクションマッピングのように

 投影されて見えた。


「……存在しないのに、見えている」


 手を中に入れると、室温より涼しい。

 買ってきた食材を入れてみると、

 空間にしまわれ、見えなくなる。


「おお、すごい!」


 ふーぴょんも初めて見るらしく、

 本気で驚いている。


「これは……すごいね」


 さらに、別のトップ表示に目が留まる。


「……食の加護」


 読み上げると、

 ふーぴょんが首を傾げる。


「食の加護……?」

「聞いたこと、ない」


 二人で顔を見合わせる。


 今は、詳しいことは分からない。

 でも、食に関する加護であることだけは、

 なんとなく分かる。


 不思議と、違和感はなかった。

 きっと、これは私にぴったりの加護だ。


 次は魔法だ。


 火や風の加護ではないけれど――


「ふーぴょん、魔法できるかな?」


「教えられるのは、

 火や風の加護の魔法だけだけど……」


「シーナは火や風の加護じゃないけど」


「とりあえず、やってみる?

 初期魔法の練習」


「うん、教えて」


「まずは火をつける魔法ね。

 イメージが大事だよ」


 ふーぴょんに教わりながら、

 指先に意識を集中させる。

 小さな、小さな火が灯り、

 すぐに消えた。


「できてるよ。

 すごいよ、無詠唱って」


 ふーぴょんが驚いている。


「普通は詠唱してから使うんだけど……

 ちょっとびっくりだよ。

 でも、ほんの一瞬の初期魔法だからね」


「火はついたね」


 人生で初めての魔法だった。


「次は火を消す。

 真空をイメージして、

 火の周りの空気を抜く感じで」


「あっ、消えた」


「まじ?

 シーナ、すごいよ。

 今のところ、僕と同じ加護だね」


「でも……なんでかな?」


 自分では、まったく想像できない。


 ……でも、今は。


 とにかく、お腹がすいている。


「……料理を作ろう」


 そう言って、私はラピを見る。


「ラピちゃん、手伝ってもらってもいい?」


「うん、もちろん」


 ラピと一緒に、台所に立つ。


 さあ、調理だ。


 買ってきたカジラの肉は、

 臭みが強い。


 りんご、にんにく、生姜。

 石鉢とすりこぎで、すりおろす。

 そして、ふーぴょんが集めてきた、

 バジルの爽やかな香りの香草。


 それらを混ぜ、

 肉にやさしくすり込む。

 しばらく漬け込む間に、

 ほかの料理を進める。


 まずは、もしゃキャベツ。


 細く千切りにして、さっと茹でる。

 火を通しすぎない。

 ザルにあげ、

 軽く塩を振ってから、ぎゅっと絞る。


 次は、こっぺパン。


 焼き上がったところに、

 バターと刻んだにんにくを加える。

 香りが立ったところで、

 ふーぴょんの薬草庫から出した香草――

 バジルをひと振り。


 台所に、香ばしい匂いが広がる。

 木のテーブルの上に、料理がそろった。


 完成したのは、

 こっぺパンのガーリックトースト、

 カジラの竜田揚げ、ゆでキャベツ、

 りんが、牛乳。


「……うん」


 思わず、笑みがこぼれる。


「まるで、昔の学校給食ね」


「では、みんなで手を合わせて。

 いただきます」


「いただきます!」


 まずは、ゆでキャベツ。


 ふーぴょんが一口食べて、

 目を丸くした。


「……このもしゃキャベツ、うめー」

「しゃきシャキなのに、ちゃんと火が通ってる」

「塩も、うっすらでちょうどいい」


「……これ、やばい」


 次は、ガーリックトースト。


 香ばしく、

 食欲をそのまま引っ張っていく匂い。

 噛むと、

 バターとにんにくの風味が、

 一気に広がる。


「このパンもおいしい。

 初めてだよ」


「りんがは、やっぱりおいしいね。

 口の中が、さっぱりする」


 そして、最後にメイン――

 カジラの竜田揚げ。


「臭みのあった肉が、どうかな……」


 ふーぴょんが恐る恐る口にする。


 一瞬で、

 ふーぴょんの表情が変わった。


「今まで食べた肉とは、別物だよ」


 りんごのおかげで、肉はやわらかい。

 繊維が、ほどけるように切れる。


 バターで揚げ焼きしているから、

 最後にふわっとコクが残る。

 焼くときに加えた、

 ローズマリーのような香草の香りが、

 鼻に抜けた。


「……めっちゃ、うまい」


「正直に言えば、

 私は今まで、

 肉が苦手だったから」


 でも――


「……これなら、いくらでもいける」


 ふーぴょんがおかわりを要求している。


「はいよー」


 ラピも一口食べて、

 目を見開いた。


「これ……おいしい」


 私も食べてみる。

 うん、おいしくできた。

 どれも、学校給食みたいだ。


「上出来だね」


「うん。

 じょーでき、じょーでき」


 ラピが、可愛く答える。


 ラピは、いつもより背筋を伸ばして座っていた。

 さっきまで伏せがちだった肩が、

 自然に上がっている。


 食べ進めるうちに、

 ラピの顔色が、少しだけ良くなる。


「……あれ。

 あまり、くるしくない」


 ぽつりとこぼれたその言葉に、

 私は一瞬、息を止めた。


 顔色がいい。

 声も、はっきりしている。


 ふと、気になって、

 ラピのほうを見る。


 ――ラピはステータスは、出ない。


 ラピは、まだ十一歳。

 加護の洗礼を受ける年齢には、

 達していないから。


 この世界では、洗礼を受けるまでは、

 ステータスそのものが表示されないようだ。


 だからこそ。


 今ラピに起きている変化は、

 画面ではなく、目で見るしかなかった。


 皿が空になり、

 自然と手を合わせた。

 みんなで一緒に


「ごちそうさまでした」


 その瞬間だった。


 ごちそうさまに答えるように、

 二人の身体が、一瞬だけ、七色の光を帯びる。


「……え?」


 思わず、ふーぴょんを見る。


「ねえ、ステータス……どう?」


「え?」


 確認したふーぴょんが、目を見開いた。


「……嘘でしょ」

「戦闘してないのに、各ステータスが

 少し上がってるんだけど」


 劇的じゃない。でも、確かに違う。


 それで、十分だった。


 私は、そっと息を吐く。


 よかった。

 私の料理が、

 誰かの役に立っている。


 魔法の世界でも、

 私は料理を作ろう。


 そう、心に決めた。


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