41話 王の血と、後悔
城心の脈動は完全に停止した。
その瞬間、止まったはずの魔力が逆流した。
魔人の身体から黒い閃光が奔り、崩れ落ちる直前の腕が振り抜かれる。
狙いは――前へ出ていたシーナ。
「おのれ、小娘、魔導破!!!!!!!!!!」
「よけろーーーー!」
ユリウスの叫びが石壁を震わせる。
「シー――――――ナ!!!!!!!!!!!」
ふーぴょんがめいっぱいの跳躍で閃光へ跳ねるが、光はそれを飲み込みながら一直線に迫る。
だが避けきれない。衝撃が目前まで迫る。
次の瞬間、視界を遮る影があった。
ルシオスだった。
ただ一歩で間合いを潰し、片腕でシーナを抱え込み、もう一方の手で結界を展開する。黒炎が防壁に叩きつけられ、爆ぜ、石床が砕け、圧が王の間を押し潰す。
「……大丈夫か」
低い声だった。
結界は軋み、火花を散らしながら砕けるが、その一瞬で軌道は逸れる。衝撃は柱を穿ち、王の間の壁に深い裂け目を刻んだ。
シーナは床へ転がり、息を詰める。
「無理ばかりするな、娘」
責める響きはない。
「……無事か」
「はい」
「あなたは……」
短い呼吸の隙間に、視線だけが交わる。
ルシオスは魔人を見据えたまま答える。
「ここで終わらない」
黒い霧が揺らぐ。
それでも、まだ終わっていない。
魔人の視線が、ゆっくりと床へ落ちる。
倒れたルシオス。
胸を貫かれ、血に濡れている、その赤が、石に広がる。
その色を見た瞬間――
魔人エンカルは、頭を抱えの立ち回る
しばらくして落ち着き、人の形の戻っている
エンカルには走馬燈のような情景が浮かぶ
◇
雨の城門がよみがえる。
追放の日。
王族の印を剥がされ、民の視線に晒され、
名を呼ばれなくなった日。
裏の小さな城門を一人で潜る、黒フードがぶった男が語り掛けてくる
「殿下、私はあなたを見捨てません」
ルシオスだった。
ルシオスは、代々王家を守り抜く立場であり、
幼少エンカルの元侍従長であった。
だが振り払った。
「来るな!今更、施しなど受けん」
「殿下今ならまだ戻れます....ご一緒に」
自分の成した、悪行、ルシオスの助言はすべて無碍にしてきた結果が今だ
だから背を向けた。その時は、助けよりも自分の尊厳が何よりだった
多くの村を回った居場所はなかった、魔物にも襲われた、逃げ回った
そんな時、たどり着いた街。城下より賑わう街
――ロザンヌ町
木造の食堂。湯気の立つ皿。
子どもが笑い、
獣人がかき込み、
老人がゆっくり味わう。
同じ皿で同じ匂いと味。
身分や種族を問われない。
「どうぞ召し上がれ」
と差し出された皿。
黄色いルウ。白い麺。油の光。
コクと深みのあるカレーうどんという食べ物初めて口にした
あの味は、忘れられなかった。
血ではなく、人でいられた。希望があった。
だから神殿へ向かった、またやり直そうと助けを求めた。
だが迎えたのは沈黙だった。
「裏切り者の王族」「腐敗の根源」
祝福は与えられない。視線は逸らされる。
膝をついても、手は伸びない。
その夜、街を出て途方にくれず、歩きだした森でどこからともなく声がした。
闇に紛れ姿は、見えなかった。
『お前に力をやる。強さをやる。代わりに心を魂をよこせ。』
思念に訴える言葉は、交換だった、絶望と、強さの。
何もかを変えるために差し出した。
黒い血が流れ込んだ。王子は魔人になった。
だが完全ではなかったようだ。
奥底に、あの皿の匂いが、
あの時の言葉が心に刺さり残っている。
◇
魔人の間へ戻る。
ルシオスの血が床を濡らしている。
魔人の身体が揺らぐ黒炎が再び膨れ上がる。
ユリウスが構える。
だが魔人は攻撃しない。
ルシオスへ向かう残滓を、横から叩き落とす。
黒炎が空中で弾ける。
全員が息を呑む。
魔人の顔が崩れ落ちる、首の下から第二王子エンカルの顔が現れる。
「ルシオス……侍従長」
声はかすれている。
ルシオスの瞼が震える。
「エンカル殿下……」
エンカルは、わずかに笑う。
「最後まで……ついてくるな」
黒い瘴気がルシオスの胸へ流れ込む。
破壊ではなはなかった、再生。
魔族と結んだ契約の力を、逆流させる。
焼けた肉が閉じる。
ルシオスの止まりかけた鼓動が戻る。
その代わりに、魔人の輪郭が崩れる。
魂が削れていく。
「お前の教えを守れず……国を、兄を」
最後の声。
それは第二王子の声だった。
「殿下なりませぬ」
しかし返事はなかった
黒い霧が崩れ、灰のように、床へ溶ける。
完全に消えた。
王の間に、音がない。
ユリウスが剣を下ろす。ドランが肩を支える。
「兄さん....」
ヴィレット、膝を落とし、しろっぷが拳をほどくふーぴょんの弓が下がる。
テンの羽が畳まれる。
ルシオスがゆっくりと息を吹き返す。
「……守れなかった」
シーナが静かに言う。
「選んだのは、彼です」
ルシオスは目を閉じる。
上空にあった核は、玉座下で砕けている。
王家の血を循環させていた法則は、もうない。
城は、ただの石に戻った。
ユリウスが玉座を見上げる。
そこにあるのは、血ではない。
後悔だ。
月光が王の間を照らす。
公式ホームページはこちら
https://studiotomo.my.canva.site/page-7
キャラクタービジュアルイラスト掲載中
よかったらいいね!ブクマお願い申し上げます。




