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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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40話 歪みの真実と、オーバードーズ

 王の間に歪みが満ちていた。空気はねじれ、炎は揺らぎ、距離そのものが伸び縮みしている。


 ユリウスの剣は確かに魔人を捉えているはずだったが、肩口を断った刃は触れる直前で空を裂き、白い光だけを残して霧のように抜けた。


 しろっぷの拳が床を砕き石片が跳ね上がるが、魔人の輪郭は半拍遅れて揺らぐだけで傷を結ばない。ふーぴょんの矢は急所を射抜いた軌道のまま影を貫き、背後の石壁へ深く突き刺さり、その光さえ吸収されていく。


 互角だった。互いに決定打を持たず、互いに退かず、王の間そのものが軋むたび均衡は崩れそうで崩れない。


「おかしい」


 ユリウスが低く呟く。


「この城では、私が法則だ! 今まさに我はこの城の心臓――城心と一体になっているのだ!」


 魔人の声が静かに響き、足元の石床が低く唸る。玉座の背後、黒い石壁の奥で、百年以上前に封じられた核が脈打っていた。魔石に覆われた心臓のような塊が王座の上空で鈍く明滅し、その拍動が石壁を伝い、柱へ、床へと広がっていく。


「城心……」


 ユリウスが視線を上げる。鼓動に合わせて空間が歪み、攻撃が放たれるたび王の間が収縮する。


 かつてここは魔人の統治の座だった。王家が奪い、封じ、歴史の下に押し込んだはずの炉が、いま再び城心として共鳴している。


 テンが低く鳴き、歪みの流れを追って天井近くを旋回する。


「……吸収している」


 シーナはその軌跡を追い、歪みの中心ではなく玉座の上へ視線を上げた。攻撃が放たれるたび、空間がわずかに沈み、そして膨らむ。その収縮は城心の拍動と一致している。


 炎も拳も矢も消えたのではない。奪われ、取り込まれ、城心へと流し込まれている。


「街で戦った時とは状況が違いすぎる。これが狙いだったか」


 ルシオスが低く呟き、踏み出さずに城の鼓動を見極めている。


 魔人が杖を掲げると黒炎が一点へ集まり、その力は城心へと吸い込まれた。


「感じるか。この城の力を。これが我が力だ」


 攻撃は糧となる。城心は封印を解き、放たれる力をすべて取り込み続ける。


 ユリウスが踏み込み再び斬りかかるが、刃は触れる前に薄れ、魔人の笑みだけが残る。


「斬れぬだろう。ここではすべてが私に還る」


 しろっぷが地を蹴るが衝撃は床に吸われ、ふーぴょんの矢も光を奪われ黒い炉――城心へ流れ込む。


 テンが玉座の上へ跳び、爪で魔石を引っかく。黒く磨かれた紋様が淡い光を帯び、内部の城心と呼応している。


「……城そのものが力を受け取り、魔人と共鳴している」


 シーナの声は低い。


「あれを狙え!」


 ユリウスの号令で全員が城心を狙うが、魔石は異様な硬度で攻撃を弾き、びくともしない。


「どうすればいい」


 ドランが叫び、ヴィレットが息を整える。


「このままじゃ魔力が尽きる」


 均衡は崩れない。魔人は消耗を待っている。このままでは呑み込まれる。


 シーナは歪みの流れを見つめ、城心の鼓動を数える。


 吸収は止まらない。ならば――。


「吸うなら、吸わせればいい」


 テンと視線を交わし、前へ出る。


 食のアイテムボックスが開き、壺が掌に現れる。白い結晶が詰まった、ただの壺。


 後方支援に回っていたシーナがテンの背から滑り降り、前衛へ踏み出す。


「下がれ、シーナ!」


 ユリウスの声を背に受けながら、彼女は壺を魔人へ投げつける。狙いは胸ではない。城心へと続く吸収の渦そのもの。


 壺は黒炎に触れた瞬間砕け散り、白い粒が舞い上がる。


 魔人は嘲る。


「愚かな攻撃だ。糧になるだけだ」


 塩は吸い込まれ、白い粒子が城心の奥へ消える。


 一瞬の静寂。


 城心の脈動が、わずかに乱れた。


 魔人の眉が動く。


「グオオオオ……な……何をした」


「塩よ。必要なものでも、制御できなければ毒になる」


 吸収は止まらない。選別もできない。魔力として再構成できぬ物質が内部に滞り、城心の循環を乱す。


「オーバードーズ……食塩中毒」


 城心の明滅が不規則に揺れ、歪みが崩れる。重力が戻り、距離が固定される。


 魔人の輪郭が、初めて確かな形を持つ。


「力が……失われていく」


「今だ!」


 テンが上空へ舞い上がる。

 その小さな身体が白く発光し、月の加護が解き放たれる。

 王の間の天井に、夜がひらく。


 石の天井を貫くように蒼白の円が浮かび、満ちた月が城内を照らす。

 銀光が床を走り、柱を伝い、仲間たちの影を濃く引き伸ばす。


 息が整い、視界が澄み力が湧く。


 しろっぷがドランの盾を蹴り、反動で跳び上がり、

 火の加護をまとわせたグリフォンクローを振り抜く。


「――ラビットストームクロー!」


 拳の連撃が確かな衝撃となって肉を打つ。


 ヴィレットが疾風の付与を重ね、ふーぴょんが弓を引き絞る。


「これが最後だ! バーニング・バースト・アロー!」


 三本の光が一直線に走り、魔人の胸を貫く。吸収は起きない。共鳴は断たれている。


「このためにとっておいたぞ! 聖剣――セント・ディクリー!」


 ユリウスの剣が歪みを裂き、乱れた法則を強制的に整える。城心の拍動が途切れた一瞬、刃が深く肉を断つ。


 ユリウスの刃が胸を断ち、しろっぷの拳が骨を砕き、ふーぴょんの矢が額を穿つ。


 三層の攻撃が重なり、魔人の身体が崩れ落ちる。


 黒い霧が立ち上り、王の間を覆う。


 城心の脈動は完全に停止した。


 だが霧の奥で、なお揺らぐ影がある。


 魔人は、ぐらつき膝をついた。


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