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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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4話 後編 水の味と、はじめての料理 

「ごちそうさま」


手を合わせると、二人が不思議そうな顔でこちらを見ている。

手を合わせたまま、左右に軽く振りながら、


「これはね、私の国の食文化における大切な挨拶」


「食材への感謝や、食事に関わった人々への敬意が込められているの。

 食べる前の“いただきます”は、生き物の命をいただきますって意味。

 “ごちそうさま”は、食べ物を集めるために奔走してくれた人、

 作ってくれた人への感謝の気持ちを表すの」


「へえ、そうなんだ。文化、ね。僕らにはないな」


食後、しいなは立ち上がった。


「……あの」


「少し、台所を借りてもいい?」


ふーぴょんが目を瞬かせる。


「今から?」


「うん。夜のうちに、やっておきたいことがあって」

「食材も使ってもいいかな」


「ある分ならね……変な人」


「褒め言葉として受け取ります」


まず、水を鍋に入れる。


「ふーぴょん、火つけてもらっていい?」


「いいよ」


指先が動き、鍋の下の薪に火が灯る。

ぐらぐらと泡が立つまで。


「……火って、どう止めるの?」


「風で」

「空気、抜くんだ」


一瞬、鍋の周りが静まり、

火はすっと消えた。


「すごいね」


完全に冷めるまで、待つ。


「……なんで一回沸かしたのに、冷ますの?」


ラピが不思議そうに聞いた。


「川の水にはね、見えない悪いものがいることがあるの」

「一度、煮沸させて熱で弱らせてから使うの」


「しゃふつ……?」


「うん。お腹、壊さないため」


冷めた水に、干した小さな魚の頭を取り、血合いを除く。

干した海藻を軽く、濡らしたふきんで拭いてから入れる。

煮干しと昆布のような香りが、ほんのり立つ。

火はかけない。朝のための出汁だから。


豆は、よく洗ってから、煮沸した少しぬるめの水に浸す。

ひと晩、静かに戻す。


二人は不思議そうにこちらを見る。

ラピが少しいぶかしげに、


「なんで? こうするの?」


「明日、分かるよ。今日は寝ようね」


藁を敷いただけの寝床に横になると、

一気に疲れが押し寄せてきた。



朝。目が覚めた。


周りを見る。

いつもと違うベッド。

いつもと違う天井、藁の屋根。

少し肌寒い。


「やっぱり、夢じゃなかったんだ」


外からは、たっぷりの陽ざし。

聞き慣れない鳥の鳴き声が聞こえる。


顔を洗って、

せっけんのようなものはない。

昨日そのまま寝ちゃったから、

化粧が落ちてない。


洗顔フォームほしいな。


手もきれいに洗う。

破けた白衣を羽織る。


台所に立ち、少し息を吐く。

夜の仕込みを使って、朝食を整える。


昨日つけておいた出汁水と豆。


「おはよう」


外から声がする。


「ふーぴょん、お客さんだよ」


寝ぼけ眼で目をこすりながら起きてくる。


「うん、ミルルさんだよ」


牛の獣人さん。


「今日はもう、うちの子がミルクいっぱいくれたからね。お裾分けよ」


「いつもありがとう」


「いーの、いーの。お互い様だからね」


「何か作ってるの? これも使って」


そう言うと、ふーぴょんはまたベッドの方に足を運ぼうとする。


「ごめん、火をつけてもらっていい?」


「うん」


手慣れた感じで、火の魔法で薪に火をくべる。


「集いて赤き火となれ! ファイア」


「すごい……私にもできるのかな?」


「うん、魔力と加護があればね」


「加護?」


「うん、神の加護ね。

 ちなみに僕は風の加護。

 正直、火は得意じゃないから、これぐらいしかできない。

 お水も出せないんだよね」


「うちの村は風系の加護を受けているから、

 風魔法が得意な子が多いよ。

 火や水は少ないかな」


「加護は、どう受けられるの?」


「神殿」


「神殿?」


「そう、神殿だよ。後で行ってみる?」


「うん、ありがとう」


ふーぴょんは、またベッドに足を運ぶ。


ラピが起きてきた。


「シーナさん、おはようございます」


「ラピちゃん、おはよ。今日もかわいいね」


少し照れた顔になる。

昨日より、少し距離も近い。


「見てていい?」


「いいよ」


そうしている間に、お湯が沸いた。


小松菜のような野菜。

少し生で噛んでみると、えぐみが口に残る。

お湯に入れて湯がいて、しばらく冷ました水にさらす。


前日仕込んだ豆と海藻は、それぞれ別の鍋に入れて、ゆっくり火を通していく。


さっき来た新鮮なミルク。

少し味見をすると、すごく濃厚。


「おいしい」


思わず声が出る。

ラピが顎に手を当てながら、私を見つめてる。


「ラピ、なんか瓶みたいのある?」


「うーん」


しばらくすると、


「これでいい?」


細いツボのようなものを持ってきてくれた。


一回沸騰した鍋に、ツボを入れる。


「何してるの?」


「煮沸」


「あっ……しゃふつ、ね」


ツボの三分の一くらいまでミルクを入れる。

蓋はない。

煮沸した革の生地をかぶせて、紐でくくる。


そして……振る。

とにかく振る。


「何してるの?」


ラピがびっくりした顔で私を見る。


「ラピもやる」


「うん」


ラピが瓶を振り続ける。

ひたすら振り続ける。

かわいい。


身体までフリフリしている。

かわいすぎる。


「何か重くなった!」


「うん、振り続けて」


私はその間、豆と出汁を用意する。味見する。

豆はふっくら煮えた。

出汁もいい香り。


ラピがさらに振り続けると……


「はあ……はあ……」


かわいすぎて、思わず笑っちゃう。


「できた?」


「うん、上出来!」


「じょーでき、じょーでき」


意味は伝わっているようだ。


牛乳の脂肪分が分離して、バターができた。


「ありがとね」


思わず頭をなでると、うれしそうにしてくれた。

それ以上に、私がうれしい。


鍋の豆はいい感じ。

出汁は臭みもなく、うまく取れている。


厨房に置かれた白い粉をなめてみる。


「これ、小麦粉?」


「うん、麦粉だよ。パン作るやつ」


「パンは、ラピが作ってるの?」


「うん」


「すごいね」


ラピが、愛くるしい顔で笑ってくれた。

やっぱり、かわいい。


小麦粉と、さっき作ったバターを、鍋に同量入れて、ゆっくり炒める。

しばらく遠火で火をかけると、少しとろっとして、

クッキーの香りがしてきた。


そこに、さっきの牛乳を加える。

ホワイトルウの出来上がりだ。


小鍋に豆と出汁を入れ、ルウをゆっくり加える。

塩を入れて、味を調える。


菜っ葉は絞って、最後に加え、ひと煮立ちして仕上げる。


ラピの作ったパン。

麦の香りはするけど、冷めて固い。


パンは半分に切って、蓋をして軽く蒸し焼きにする。

蓋を外し、バターを塗って、表面に少し焦げ目をつける。

軽く、パセリのような香りの香草をかける。


お皿に、クリームスープとパンを並べる。


「できた?」


ラピが顔を覗き込む。


「うん」


「ふーぴょん、できたよ」


「あれ、いい匂いだね」


「ラピと一緒に作ったんだよ」


「へえ」


「ねえ、一緒に“いただきます”しよ」


「うん……いただきます、ね」


三人で手を合わせて、声をそろえて。


「いただきます」


ふーぴょんが、スープを一口、口に運ぶ。


「……うまい」


ふーぴょんが、ぽつりと言った。


「こんなの、食べたことないよ。

 スープが濃厚で、体に染み渡る。

 豆もほくほくしていて、菜っ葉も苦みがなくておいしい」


「パンも香ばしくて、焼き立てパンよりおいしい」


「これ、昨日の夜と同じ食材で?」


「まさか、魔法?」


「違うよ……料理」


ラピも、ゆっくり食べる。


「おいしい。すごいね」

「なんだか、身体がふわふわする」


一瞬、ラピの周りが、ふわっと光をまとったように見えた。


ふたりとも、あっという間に食べきってしまう。


「ごちそうさま」


ふーぴょんが、おもむろに私に近づき、


「シーナといれば、こんな料理、毎日食べられるんだよな」


「うん」


「行くところ、ないんだろ。ここに住めば」


「うん。ありがとう」


なんだかあっさり、

「ふーぴょんとラピ」との暮らしが確定した。


頭の中に、勝手にレベルアップ音が鳴った。

「パラッパラッパパー」


この世界というより、現実の時から、実はたまになる。


食器の片付けを終えて、部屋に案内してもらった。


「ここ、おとーたちが住んでいた部屋だけど、使って」


「ありがとう」


部屋の中を見渡す。


大きな箒に、縦らしきものに剣が刺さっている。

ラベンダーらしきドライフラワーが飾られている。


おばあちゃん家のような、

なんだか懐かしい香りのする部屋だった。


ラピが、つぶやく。


「……お兄ちゃん」


「今日、なんだか体、軽いの」


「今日は、外、行けそう?」


「うん」


ふーぴょんは、優しい笑みでラピを見つめる。

風が、やさしく吹いた。


しいなは、その様子を静かに見つめていた。


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