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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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39話 王の間と、魔人の歪み

 王の間へ続く扉は、開いたままだった。

 押し開ける必要もなく、拒む気配もない。

 それが、かえって不気味だった。

 中に足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。

 冷たく、重く、張りつめている。


 広い空間だ。天井は高く、柱は少ない。

 黒い石の床には、長い年月の擦れだけが残り、

 装飾と呼べるものは見当たらない。

 中央に置かれた玉座は、座るための形だけを保ち、

 権威を誇る意思を、感じさせなかった。


 玉座に座していたのは、

 もう以前のエンカルではなかった。


 かつて人であった痕跡を歪ませ、寄せ集めたような姿の、

 ただ一体の醜い魔人が、そこにいた。


 顔は左右の均衡を失い、皮膚の下から骨の輪郭が浮き上がっている。

 背中から突き出した白い骨を覆うように、黒いマントが無理やり掛けられていた。

 右手には、どくろを飾った禍々しい杖。


 どれもが、不釣り合いだった。

 だが、その不均衡こそが、目を離させなかった。


 魔人が、ゆっくりと顔を上げる。


「……よくぞ、ここまで連れてきたな」


 視線の先にいたのは、ルシオスだった。

 空気が、わずかに止まる。


 ふーぴょんの視線が、無意識に横へ流れる。

 しろっぷの耳が、ぴくりと揺れた。

 ユリウスは剣を下げないまま、

 ほんの一瞬だけ、ルシオスを見る。


 誰も、何も言わない。

 その沈黙が、疑念のすべてだった。


 シーナが、ほとんど息だけで呟く。

「……ルシオス」


 ルシオスは、視線を逸らさない。

「……この無益な戦いは、すべきではない」


 魔人が、喉の奥で低く笑う。

「勘違いするな」

「話が違う」


 ルシオスが、他の誰にも聞こえない声で呟く。

 だが、それ以上は語らなかった。


 パーティーの集中が、

 一瞬だけ、ルシオスへと引き寄せられる。


 その刹那。


 魔人の身体が、床を離れた。

 引き剥がされるように、重力から外れる。

 空間が軋み、魔力が集束していく。


 ユリウスの合図で、全員が配置につく。


 ユリウスが剣を抜き、前に出る。

「いくぞ」


「おうよ」

 ドランが盾を構え、地を踏み締める。


「任せて」

 しろっぷが、半身で踏み込む位置を取る。


「狙う!」

 ふーぴょんが矢をつがえ、呼吸を止める。


「この者たちを守れ」

 ヴィレットが詠唱を始め、

 全員を覆う防御魔法を展開する。


「いこう」

 シーナはテンに跨り、空へ上がる。


 もう、戦わなければならない。

 それだけが、はっきりしていた。


 魔人が、杖を掲げる。


「暗黒の炎をつかさざるイフリートよ――

 この者たちを、燃え尽くせ」


 言葉が、落ちる。


「ヘルフファイヤー」


 次の瞬間、世界が赤く染まった。

 業火が、一直線に押し寄せる。

 存在そのものを焼き払う、炎だった。


「受け止めるぞ!」


 ドランが盾を前に出し、

 身体ごと炎の衝撃を受け止める。

 同時に、ヴィレットの防御魔法が重なる。


 透明な壁が軋み、

 悲鳴のような音を立てた。


 テンの光が、炎を弱める。

 だが、それでも止まらない。

 盾が震え、地面が割れ、

 魔力が削られていく。


 誰もが理解していた。

 今まで相対してきた、どんな魔物とも違う。

 次元が違う。

 押し量る必要すらないほど、

 ただ、強い。


 ただ耐えた。


 もし、あの夜の食事がなければ。

 加護がなければ。

 この一撃で、全員がここで終わっていた。


 王の間に業火が踊り、

 戦いは、否応なく始まり、

 炎が引いた。


 完全に消えたわけではないが、

 王の間に漂っていた炎が、

 ゆっくりと後退していく。


 床は溶け、石は割れ、

 空間そのものが、焦げた匂いを残している。


 それでも、全員が立っていた。


 魔人が、わずかに首を傾げる。


「……ほう」


 感嘆でも、驚愕でもない。

 ただ、事実を確認するような声だった。


「耐えたか」


 その言葉に、ドランが奥歯を噛み締める。


 ユリウスは剣を下げない。

 しろっぷとふーぴょんは、

 次の動きを待ったまま、

 一歩も退かない。


「来ます……!」

 ヴィレットが声を上げる。


「行くぞ」


 次の瞬間、

 ユリウスの剣が、見えない壁に弾かれた。


「――なに?」


 斬撃は、確かに届いている。

 だが、手応えがない。

 刃は、魔人に触れる直前で、

 “意味を失った”。


 しろっぷが踏み込み、

 地を割る一撃。


 当たった。

 ――はずだった。


 拳は、魔人の輪郭をすり抜け、

 空を打つ。


「実体が……ずれてる?歪み」


 ふーぴょんが放った矢も、確実に急所を射抜いた。

 だが、貫いたのは、影だった。


 魔人が、初めて一歩、前に出る。


 声は、静かだった。

「この城では、私が“法則”だ」


 空間が、軋み歪む。


 重力が、斜めに傾く。

 距離の感覚が狂い、前と後ろの区別が、曖昧になる。

 立っているだけで、意識が削られていく。


 魔人の狙いは、これだった。ただ、やるしかない。

「ここまで来たんだ」

「歪んでいるのは顔だけでじゃないんだな……来い」

 ユリウスが、低く言った。


 魔人の口角が、わずかに吊り上がる。

「いいだろう」


 一撃一撃が、致命傷になる、一瞬の判断が、生死を分ける。


 その戦いは、互角だった。


 力量だけではない。

 経験、意志、そして連携で、

 かろうじて、均衡を保っている。


 シーナパーティーは、優位に立てていない。

 誰も、決定打を持たない。


 拮抗。


 それは、最も残酷な戦いの形だった。


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