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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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33話 役目を終えた日と、夕暮れの街

 それから四年もの歳月が過ぎた。


 戦は遠のき、国境は静まり、兵は整え直され、街道には再び人と物が行き交うようになった。

 焼け落ちていた区画には新しい屋根が並び、

 朝になると湯気と声が自然に立ち上るようになり、

 復興は少しずつだが、確かに生活として根を張っていた。


 シーナは、その四年を国のために使い切った。

 前線に立つことはなく、華やかな場に出ることもなく、

 食を整え、流通を繋ぎ、制度が現場に届く形へと静かに修正し続ける日々だった。


 春の終わり、城の執務室で、シーナは机の前に立った。


「……はじめの約束通りよ、ユリウス。ここまででいい」


 大臣の席を示すように手を伸ばすと、ユリウスは反射的に立ち上がった。


「待ってくれ。まだ必要だ。君が抜ければ、調整が――」

「もう整ってるよ。大学も順調だし、ラピたちもこの春卒業よ」


 淡々とした声だったが、視線は逸らさなかった。


「私がいなくても回る形にしたでしょう。ここに居続けたら、それは失敗よ」


 ユリウスは言葉を探すように口を開き、閉じ、拳を握りしめた。


「……それでも、もう少しでいい。半年でも、三か月でも」


「ごめんなさい」


 即答だった。


「私の役割は終わった。この世界は、元々あなたたちの世界」


 必死さが滲むほど、彼は苦しかった。

 それでも最後に深く息を吐き、視線を落とす。


「……分かったよ。若い君に、大変な思いをさせたね」


 その声は首相ではなく、一人の好青年のものだった。


 城を出て、いつもの宿に戻ると、ふーぴょんが先に気づいて駆け寄ってきた。


「シーナ、おかえり。……あれ?」


 手ぶらで、肩の力が抜けた彼女を見て、首を傾げる。


「席は、降りてきたよ」


 一拍置いて、ふーぴょんはぱちりと瞬きをした。


「……そっか」


 そして、いつもの調子で言う。


「お疲れ様」


 その一言で、肩の奥に溜まっていたものが、すっと抜けた気がした。


 退城の日、多くの人が城門まで見送りに来てくれた。

 花束や手紙を抱えながら、この四年でしてきたことは、

 間違いではなかったと、静かに思えた。

 不思議と涙は出なかった。それだけやり切れた四年だった。


 城下へ向かう途中で、ユリウスが追いかけるように声をかけてきた。


「シーナ」


 息が少し上がっている。


「午後から、街に出ないか」


「……仕事?」


「違う」


 即座の否定に、シーナは一瞬だけ目を瞬かせる。


「……それって」

「ただ、歩くだけでいい」


 妙に真剣な顔で言われ、シーナは思わず視線を逸らした。


 部屋に戻ると、しろっぷとラピが待っていた。


「街に行くって?」

「二人で?」

「それってデート?」


 二人は顔を見合わせ、揃ってにやにやする。


「何着ていくの?」


 鏡に映る自分は、転生したばかりの少女ではなく、すっかり転生前の自分に近づいていた。


「これなんかどう?」

「これも着てみてよ」


 しろっぷが楽しそうに服を抱える。


「……なんか、いいね」


 ぽつりと零すと、


「最近ずっと、大臣とか先生だったもんね」

「緊張してる?」

「ううん。ちょっと、どぎまぎしてるだけ」


 夕方、噴水前で待ち合わせると、ユリウスはいつもと違っていた。

 正装ではあるが、少しゆったりした服装で、前髪も下ろしている。


 よく見ると、やっぱりかっこいい。


 二人は並んで歩いたが、最初は自然と半歩分の距離があった。

 近づこうとして、また離れ、歩幅が揃わない。


「……にぎやかだね」

「そうね」


「そこのおねーさん、これ食べていかない?」

「お二人、これ美味しいよ」


 この街に来た頃、市場に食事の屋台はほとんどなかった。

 今では、日本の料理も含め、さまざまな匂いが並んでいる。


 喧騒が途切れ、風の音だけが間に落ちる。


「お好み焼き、食べる?」

「……半分こなら」


 鉄板の音と匂いに、肩の力が少し抜けた。

 一口かじると、口の中で熱が弾けた。

 ふわりと広がるのは、ホタテの旨味とキャベツの甘味、

 その上に重なるソースのやわらかな甘さだった。

 中は驚くほど軽く、歯を立てた瞬間にキャベツのシャキシャキとした歯触りが残り、

 それを包む生地がふんわりと追いかけてくる。

 ソースもマヨネーズも主張しすぎず、多すぎも足りなさもない、

 料理として一番落ち着くところに収まっている。

 表面に描かれたマヨネーズの線が、見た目にも柔らかさを添え、

 箸を入れる前から軽さが伝わってくるようだった。


「……おいしい」

「うん、美味しい。懐かしい味」


 思わず零れた声に、ユリウスが少しだけ目を細める。


「これも、君が伝えた味だ」


 そう言われて、シーナはもう一口、ゆっくりと頷いた。


「食べたいもの、つい作って教えちゃうの」

「どれも、ちゃんと街の料理になってる」


 団子を選ぶとき、指先が触れ、二人同時に手を引いた。


「……ごめん」

「い、いや」


「何にする?」

「みたらしか、あんこ……どっちもいいな」

「二つ買って、分けよう」

「うん」


 ぎこちないやり取りに、なぜか笑ってしまう。


 装飾店の通り。

 この街に来た頃は、武器を買うだけだった。


「お姉さん、安くしておくよ。これなんかどう?」

「ドワーフの銀細工だ。魔法石も込められてる」


「きれい……わ、高い」


 そっと台に戻し、別の装飾を眺めて、また歩き出した。


 露店の端で、ユリウスが小さなブレスレットを差し出した。


「シーナ、これ。記念に」

「記念? これって、さっきの……」

「ああ。形に残るほうがいいと思って」


 一瞬迷ってから、シーナはそっと手を差し出す。

 夜気で冷えた金属が、手首に触れた。


「……ありがとう、うれしい」


 高台に上ると、沈みかけた夕日が石畳を橙色に染めていた。

 復興した街は、昼とは違う柔らかさを纏っている。


「……綺麗ね」

「君と整えた街だ」


 その言葉に、シーナは何も返さなかったが、視線だけが揺れた。

 夕日が完全に沈み、街の灯りが浮かび上がる。


 二人の距離は、いつの間にか自然に縮まっていた。


 そのとき、悲鳴が上がった。


 人々が走り、灯りが揺れ、空気が一気に張り詰める。

 闇の奥から、重い気配が迫ってくる。


 人の形を残しながら、人ではないものが立っていた。

 ユリウウスの声が、低く震えた。



「……もしかしたら……やつは」


 名を口にする前に、言葉が途切れる。

 確信に近い予感が、その場の空気を重く沈めていた。


 柔らかな時間は、そこで断ち切られた。


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