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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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23話 酒・味噌・醤油と、エミナの書状

 村へ戻った翌日、給食堂にはいつもより多くの顔が集まっていた。


 ヤギ―村長にお願いし、みんなに集まってもらった。

 ホクス、ラピ、メリッサ、羊獣人の給仕の三姉妹、ミルル。

 畑を預かる獣人たち、石鹸工場の獣人たち、倉を管理する獣人たち。

 そして、ふーぴょん、しろっぷ、ヴィレット。

 長机を囲み、静かに座っている。テンも可愛くシーナの足元にいる。


 「昨日はありがとう。みんなとまた会えてうれしいよ」

 「今日は、みんなに協力してほしいことがあるの」


 シーナは立ったまま、一枚の板の上に並べた米と麦を指した。


 「これを、食べるだけじゃなくて、育てたいと思います」


 誰かが眉をひそめ、誰かが身を乗り出す。


 「城下町から持ってきた米や麦、大豆を使って」

 「酒、味噌、醤油を作りたい」


 「さけ? しょーゆ? みそ? なんだそれは!」


 ホクスが大きな声で問いかける。


 「保存できる調味料です。味が増えて、必ず村の力になります」


 一瞬の沈黙のあと、ホクスが腕を組んだ。


 「……面倒くさそうだな」


 「でも、今まで面倒じゃなかったことなんて、あった?」


 メリッサの一言で、空気が少し緩んだ。


 「そうだな、商売の匂いがプンプンすんぜ」


 ホクスがにやりと笑う。


 「私たちは、シーナに従うよ」


 ミルルが腕を組み、任せろと言わんばかりに笑みを送る。


 ヤギ―村長は顎に手を当て、しばらく考えてから頷いた。


 「やってみよう」

 「この村は、もう“村”のやり方だけじゃ足りん」


 数日後、正式な知らせが届いた。


 この集落は、町へと昇格する。


 ヤギ―村長はワインを持って現れ、町の名を一緒に決めようと言った。

 シーナが、スイス湖畔の町を参考に「ロゼンヌ」を提案すると、村長は古語を引いて説明してくれた。


 「ロゼ(Rose)」――静かな水面、澄んだ色。

 「エンヌ(Enne)」――人が集い、留まる場所。


 そうして、町の名は「ロゼンヌ」に決まった。


 人が増え、往来が増え、責任も増える。

 給食堂のみんなで、小さなお祝い会をした。


 次の日から、シーナが栄養士の学校で学んだ食品加工実習の知識を生かし、

 給食堂の隣の工房で「酒・味噌・醤油」三つの仕込みが始まった。


 最初に手を付けたのは酒だった。

 担当はメリッサと、羊獣人の三姉妹――ルナ、カナ、ミナ。


 米を洗い、水に浸し、蒸す。

 蒸し上がった米は白く艶を帯び、指で押すとふわりと戻る。

 そして麹になっていく。


 「甘い匂いがする」

 「もう食べられそうだね」


 麹を混ぜ、しっかり加熱殺菌した木桶に移し、水を加えて布をかける。

 静かな場所へ運び、毎日、泡の様子と匂いを確かめた。


 「今日は、少し強い」

 「生きてるね」


 急がせず、混ぜすぎない。


 二か月が過ぎた頃、澄んだ香りが立ち上った。


 ヤギ―村長が試飲に来て、満足そうに笑った。


 「……たしかに酒だ。温泉上がりに飲んだら最高だろうな」

 「消毒用のアルコールにも使えるわ。衛生面も上がる」


 シーナは、確かな手応えを感じていた。


 次は味噌。

 担当はミルルと、その夫のカウル。


 大豆を洗い、一晩水に浸す。

 翌朝、大鍋で柔らかく煮込み、カウルが湯気の中で力任せに潰す。


 塩と麹を加え、手で混ぜる。


 「まとまってきたね」

 「これでいいわね」


 団子にして木桶へ詰め、空気を抜く。

 表面をならし、塩を振り、重石を置く。


 「これで終わりか?」

 「ううん、始まりだよ」


 二か月後、蓋を開けると、やわらかな香りが広がった。

 舐めると、塩気の奥に甘みがある。


 「できたね」


 最後は醤油だった。

 担当はラピと、石鹸工場の職人たち。


 蒸した大豆と炒った麦を砕き、麹を混ぜる。

 水と塩を加え、甕へ移す。


 「これ、失敗じゃない?」

 「まだ、時間が足りない」


 混ぜる。

 待つ。

 また混ぜる。


 「半年は待つ」

 「そんなに?」

 「待てるかどうかが、醤油」


 三つの樽、三つの時間。

 魔法に頼らず、手と目と時間だけで育てていった。

 

 半年後。


 ヴィレットは給食堂で定食を任され、目覚ましい成長を見せていた。


 エミナから届いた書状は短く、余分な言葉はなく、

 整えられた文字だけが静かに事実を伝えていた。

「 父は、眠るように逝きました」

「家督は、家を継ぎます」

 と並ぶ二行を読み終えたとき、当主交代という重さが、遅れて胸に沈んでくる。


 そしてその頃、イヤーナから譲り受けたうさぎのテンは、

 誰も予想しなかった進化の入口に立っていた。

 来たときはやせ細っていたが、シーナの野菜を食べてすくすく成長していた。

 しかしそれだけはなかった。

 満ちる月が天頂に昇った夜、テンの体は静かに光を帯び、伏せた小さな背から

 銀色の光が滲み出すのを、シーナは呼吸を忘れるほどの緊張と共に見守っていた。

 その光が広がり、羽は大きく伸び、確かな力が宿って体は一回り成長し

 月光を受けた毛並みが夜空に溶け込むように揺れていた。

 誰かが驚きの声を上げるより早く、ある伝説であると感じた

 月の加護が今この場所に顕現した瞬間なのだと。


 変化を終えたテンは、まだ余韻の残る空気の中でふいに顔を上げ、

 はっきりとした声でシーナに告げた。

「シーナ、これからは力になれるよ、いつでも声をかけて」

「ありがとう、助かるわ」

 返したシーナの言葉に、テンは少し誇らしげに胸を張り、

 物流を補助する役割を当然のように引き受ける。

 その姿を、ヤクスは、何か思いつた顔で見つめ続けていた。


 それから1か月後

 その直後、地鳴りが街を揺らした。

 市場が歪み、壁が崩れ、井戸が傾く。

 命の被害は少なかったが、火が使えず、炊事が止まった。

 原因はわからない。厄災なのか魔族の仕業か。


 次の日に、早馬で城下町のエミナから使者が来た。


 「エミナ様からです。お助けください。」

 「シーナ様に炊き出しを、お願いしたい」

 「被害は」

 「城下町全体です。死傷者多数、城下で助かった者も、食べるものもなく」

 「数は……」

 「かなり多いとしか」


 シーナは、すぐには頷かなかった。


 釜の数、米の量、人手、動線。

 頭の中で、必要なものを並べる。


 「できます」

 「継続できる形でやります」

 「一度きりじゃなく、街が立ち直るまで」


 夜。

 給食堂では釜が並び、火の準備が進んでいた。


 米が洗われ、麦が計られ、味噌と酒が慎重に使われる。


 ふーぴょんが小さく呟く。


 「……なんか、大きくなったね」


 「うん」

 「これなら、みんなを助けられるね」


 シーナは釜を見つめたまま答えた。


 「みんなのため……」

 「料理をつくろう」


 胸の奥がざわついた。

 不安が、もぞもぞと動く。

 それでも――みんなの無事と、明日の自分を思い、

 シーナは息を吸い、前を向いた。


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