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もしも学校給食栄養士が異世界に転生したら〜剣も魔法もランクDけど、最強チート献立で国家再生〜  作者: studio tomo


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17話 はじめての城下町と、娘の呪い

 「噂は聞いている」


 「わしの名はヴァルドリック当主……ヴァルドリック・イヤーナだ」


 貴族の男は椅子に深く腰を沈めたまま顎を上げ、この食堂を値踏みするような視線を向けた。


 「村の空気が変わったのも、冒険者どもが妙に活発なのも、すべてここが起点らしいな」


 試すような口調に、ふーぴょんが一瞬だけ耳を伏せ、

 しろっぷは何も言わず、シーナの一歩後ろに立つ。


 「……それで?」

 シーナが促すと、男は鼻で笑い、当然だと言わんばかりに言葉を継いだ。


 「実はな、一人娘が呪いにかかっている」

 その一言だけは、声の調子がわずかに落ちていた。


 「疲労、筋力低下、理由のない苛立ち……教会では高位の祝詞も試した。

  だが、治らん。金も、環境も、食べ物も、何不自由なく与えているというのにだ」


 「歯ぐきからの出血と歯のぐらつき、乾いて脆くなった毛髪が不自然にねじれ、

  皮膚は荒れて鱗のようになっている。これは明らかに呪いだ」


 症状は淡々と列挙された。

 シーナの胸の奥で、呪いという言葉が静かに別の名称へと置き換わる。


 わがままを認め、何不自由なく暮らさせているのに、と男は悔しさを隠さず、

 だからこそ理解できないのだと吐露した。


 「娘さんの、普段の食事を見せてください」


 貴族は一瞬、眉をひそめた。


 ふーぴょんが一言、

 「こんな奴のために」

 とつぶやく。


 「いいの。娘さんを思う気持ちは本物でしょ」

 シーナは、ウルクの城下町からここまでどのくらいの道のりかを、

 ヤクスから聞いたことがあった。


 イヤーナはしばらく沈黙してから、

 「食事? ……ふん、そんなものが原因だと?」


 「好きなものは与えている。贅沢もさせている。それ以上、何が必要だと言う」


 それでも答えを求めてここまで来たのは事実で、

 男は深いため息をつきながら立ち上がった。


 「わかった。ワシの屋敷へ一緒に行ってくれるか」

 「はい」


 シーナはふーぴょんとしろっぷに目を配り、返事をした。


 「すぐに支度をしろ」

 貴族はそう言い切り、決定事項として馬車の手配を命じたが、

 その声にはまだ命令する側の余裕が残っていた。

 付き人の小柄な男性は、ほっとした顔で何度も頭を下げた。


 「僕らも行くよ」


 ふーぴょんが当然のように名乗りを上げ、しろっぷも小さく頷いて護衛を買って出ると、

 貴族は一瞬だけ眉を動かし、すぐに興味を失ったように視線を逸らした。


 城下町までは丸一日以上、揺れの激しい馬車旅で、乗り心地は決して良いとは言えず、

 付き人は姿勢を崩しながらも、主人に恥をかかせまいと必死に耐えていた。

 夜は更けていった。しばらく進むと野営に入った、携帯食を食べテントを張る

 しばらく焚き火の向こうから忍び寄ったゴブリンの気配に、

 シーナが声を上げるより早く、風と火が一瞬だけ走った。


 ふーぴょんの淡々とした声と同時に、風と火が交差し、

 しろっぷの水と木の加護が地面を抑え、襲撃は文字通り瞬殺で終わる。


 「……終わったよ」


 恐れて馬車に引きこもり、窓から様子を見ていたイヤーナは言葉を失い、

 翌朝から二人を見る目を、明確に変えざるを得なくなる。


 翌日の夕日が落ちる前、ようやく城の門に着くと、まず向かったのは貴族の屋敷だった。


 高い城壁と重厚な門は整然としていたが、近づくにつれて、

 その内側にあるはずの賑わいは、思ったほど感じられなかった。


 通りを行き交う人々は少なく、背を丸めて歩く者が多い。

 顔色は悪く、衣服は擦り切れ、明らかに栄養が足りていない体つきが目についた。

 村で見た獣人の姿はほとんどなく、ウルクの城下では人間の影ばかりが目立つ。


 路地に目をやると、壁際に座り込む子どもたちがいて、

 遊ぶでもなく、声を上げるでもなく、ただ夕暮れを眺めていた。

 その視線は空腹よりも先に、諦めを覚えたものに見える。


 城の門から一歩入っただけで、

 守られている者と、切り捨てられている者の差が、

 空気の温度のようにはっきりと伝わってきた。


 そんな光景を抜けた先で、

 高い門の奥には整えられた木々と噴水が並び、

 馬車は玄関の止め場まで、何事もないかのようにゆっくりと進んだ。


 広い階段を上り、長い廊下の突き当たりにある娘の部屋。

 中は過剰なほど清潔で、物は揃っているのに、どこか空気が重く、

 彼女自身の居場所が薄いことを雄弁に物語っていた。


 「こんにちは。私はシーナ、栄養士よ」

 「こんにちは……ヴァルドリック・エミナと申します。エミナと呼んで」


 か細い声で答える。


 「エミナ……話を、ゆっくり聞かせてもらえる」

 シーナの声に促され、少女は最初こそ戸惑いながらも、

 疲れやすさや痛み、歯ぐきの異変を、ぽつりぽつりと語り始める。


 ちょうど夕食時、運ばれてきた食事は白いパンとオーク肉の素焼き、

 野菜の入らない薄いスープで、申し訳ない程度に置かれた茹でた人参。


 少女は慣れた手つきでパンだけを口に運び、

 野菜にはまったく手を付けなかった。


 「……わかりました」


 シーナは短く頷き、イヤーナを真っ直ぐ見て告げる。


 「明日から、私に食事を作らせてください」

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