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30話「立ちはだかる勇者」

(…………)


 私は剣から手を離して、ため息をついた。


 謎の音声が聞こえてくるが、私は反応を示すことなく佇む。反応していられるほどの余裕が、心にも体にもなかったからだ。


(あとは逃げないと……)


 住民からの叫び声が飛んでくるなかで、私は逃走の準備を始めようとする。


 この逃走さえ成功すれば、あとは一旦全部終わる。路地に逃げて、ユラネと再開して、状況を何も知らない生徒として、周りの生徒から話を聞いて適当に驚いておけばいい。


 さあ、逃げよう。そう決意したときだった。


《勇撃斬(ゆうげきざん)》!」

「……っ!」


 大きな光の斬撃が、聞き覚えのある声と共に一直線にこちらへと飛んでくる。


 私は咄嗟に真後ろに飛んで避けた。先ほどまで私のいた場所に斬撃がきて、ステージの壁を貫通しながら壊していく。


 そしてすぐに、ある者がステージへと飛び乗って、私の目の前に立った。もしかしなくても、唐野揚子その人だった。


(なぜアゲコが……。いや、というかそれよりも……)


 アゲコは神々しい光をその身に纏っていた。確実にユニークスキルの影響だろう。


 私は、まずアゲコの奇襲の理由に疑問を抱いたが、それよりも考えなくてはならない懸念事項があったので、そちらを考える。


 その懸念事項とは、アゲコのユニークスキルのことだ。アゲコのユニークスキルの能力は、三つの罪悪度合いの基準に左右される。


 アゲコ自身の主観、客観的事実、そして相手自身が抱く罪悪感。要するに、対象となる相手が悪人であればあるほど威力や効果は増す。つまり、今のアゲコは私にとって最恐の天敵ということになる。


 アゲコは私を悪と見なし、客観的に私は殺害という罪を犯していて、かつ私は自分の行なっている行動を正しいとは思っていない。もし技を喰らえば、私は間違いなく私は死ぬだろう。


 私はどう対処して逃走するのか、必死に悩み考える。これ以上不必要に戦闘が長引けば、警察や軍が駆けつけてくるので、早急に対処する必要があった。


 私がどうするべきか悩んでいると、


「ねえ、暗殺者さん……! どうしてこんなことをするの……? はっきり言って私には理解できないよ……!」

「……」


 私に問いかけてくる。


 私は、さすがに声を作ったとしてもバレるリスクがあると思ったので、沈黙を貫いた。


「な、何か言ったらどうなの……! 言っておくけど、私はユニークスキルもレジェンドスキルも持ってるから、そう簡単にやられはしないよ……!」

「……」


 何を言われても黙る。


 本当は対話をして無難に済ませたいところだが、やっぱりリスクはリスクなので、迂闊に声が出せない。


 一方通行な問いかけに痺れを切らしたアゲコは、


「答える気はないんだね……。なら、倒す……!」


 手に持っていた鉄の剣を私に向けて、構え始めた。


(困ったな……)


 アゲコの技を喰らえばまず私が死ぬし、私の技をアゲコが喰らっても無事では済まない。最悪死ぬ可能性だってある。


 双方に何のメリットもない戦い。戦いが始まった時点で、実質的には敗北ということになる。私は、この戦いを何としてでも逃れる必要があった。


(一応手はあるけど、成功する保証はどこにもないし……。いや、戦いが始まった時点で負けみたいなものだし、一か八かにかけるしかないのかな……)


 気は進まないがやるしかない。私は、一か八かにかけて作戦を実行することにした。


 私は、スキルを一度解いた。瘴気が湯気のように見えなくなり、邪悪なオーラが消え去る。


 それから私は、前方向に体を傾けて膝を付けることなく地面へと倒れた。体から力を抜いて、ぐったりと動かなくなった。


「えっ……倒れた……? 何で……?」


 アゲコは困惑していた。遠くから様子を窺ってこちらを眺める。


 これが私の一か八かの作戦、死んだふりだった。相手の前で倒れることで、相手の油断を誘ってその隙に逃げる作戦。


 何の捻りもないが、これしかなかったので実行するしかなかった。


(きつい……)


 しかも、能力を解いたことにより、反動で体への疲労や痛みが一気に押し寄せてくるときた。


 ムクロガミから喰らった一撃と、能力の反動を同時に味わうことで、かつてない苦痛を感じた。


 頼むから騙されてくれ……! そんな想いを胸に、意識が飛びそうになりながらもひたすら苦痛に耐える。


 最終的にアゲコは、


「も、もしかして……。あの偉い人と戦って力尽きちゃったのかな……?」


 何とか騙されてくれた。死んだふり作戦はひとまず成功した。


 アゲコは警戒はしつつも、直接様子を見ようと武器の構えを解いた。慌ただしい群衆をよそに、コツコツと足音を響かせてこちらへと歩いて来る。


 私の目の前まで来て、


「触ったらまずいかな……」


 そんなことを言いながら、私の顔を確認しようと手を伸ばしてくる。


 私は、


(今だ……!)


 アゲコが油断している隙を突いて、いきなり体を起こす。


「えっ……!?」


 そしてアゲコを手で強く突き飛ばして、すぐにステージから飛び降りた。


 アゲコに背を向けた状態で、私は全力で逃走を始める。


「ま、待って!」


 後ろから声が聞こえるが、無視して走る。


 あとは、全身の痛みに耐えながら逃走して、建物を使って路地裏まで逃げるだけ。


 私は、通常スキルの感知低下を発動させながら、全速力でドマンナカ公園から出ようとする。


 住民が所々障害物のように前にいるが、ステップを踏みながら華麗に避けていく。


 出口まであと百メートルほど、後ろから直接追ってくる気配がないので、実質的には逃げ切れたことになる。


(よし、大成功……! 全部うまくいった……!)


 もうアゲコに私を捕える術はないだろう。私は勝利を確信して、思わず仮面の下で笑みを浮かべた。


 だが、


「……っ!」


 突然、後ろから身を震わせるほどの巨大な力を感じた。嫌な予感をして後ろを振り向くと、


(う、嘘でしょ……?)


 そこには、舞台の上で莫大なエネルギーを剣に収束させるアゲコの姿があった。


 アゲコの最後の手段であり、具体的に能力が知らされていない、転生特典のレジェンドスキル。アゲコの必殺技だった。


 どんな技かは知らない。だが一つだけ確信できるのは、技を喰らえば私はもちろん、街にまで甚大な被害が及ぶであろうこと。


 そんな後先を考えない狂った選択を、アゲコは私を倒すためだけに取ったのだ。


 私は、勝利から一転して死を確信する。終わったかもしれない。絶望の表情を浮かべながら、足を前に動かして逃げた。


 アゲコが叫ぶ。


「喰らえ! 私の全力……! レジェンドスキル発動《楽観暗示(ヒーロード)》!」


 そう叫びながら剣先を私のほうへと向けて、収束させたエネルギーを一点に放出する。


 莫大なエネルギーで構成された光線が、住民を巻き込んで私のもとまで一直線に飛んできた。


(ああっ終わった……。こんなところでか……)


 避ける間もない最強の一撃。ここまで順調だった計画がすべて丸崩れだった。


 いくら前世が不幸だからと言っても、さすがに活躍しすぎだろ。あまりに主人公がすぎるではないか。


 私は愚痴を心の中で溢しながら、逃げるのが無駄だと分かっていながらも走り続けた。


 そして次の瞬間、私は、


「痛っ……」


 道につまずいて転けた。うつ伏せの状態で動けなくなるほどのズッコケだった。


 そのおかげからだろうか。盛大に転けた私のすぐ真上を、光線が通過していった。私は転けたことによって、幸いにも光線の直撃を免れることに成功したのだ。


(わお……)


 空気を轟々と揺らす音が、私の真上に響く。少し視線を上に傾けると、とてつもないエネルギーを帯びた光線が、果てしなく真っ直ぐ伸びているのが分かった。


 しばらくしてスキルの発動が終わって、強力すぎる光線が消えていった。

 痛みに抗いながら体を起こして辺りを見渡すと、そこには不思議な光景が広がっていた。


「あれ、俺死んでない……?」「何かすごいビームを受けたのに生きてる……。何で……?」

「……!」


 何と、光線に巻き込まれた住民が生きていたのだ。


 光線をたしかに受けたと住民自身が述べているのに、実際には傷一つ付いていなかった。


 逆に公園の外にある数軒の建物は、円の型の大穴が空いていた。光線によって煉瓦造りの壁が抉れていて、椅子や机など、部屋の中が丸見えになっていた。


 私は瞬時に理解する。これはもしかしたら、対象を絞ることのできる攻撃だったのではないかと。


 建物などの障害物は不可能でも、生物に対してのみならば、ダメージを与える対象を自由に選択することができる。


 アゲコがレジェンドスキルの使用の強行に出たのは、そう言った理由からなのかもしれない。


(転生特典ってのは、つくづく厄介だ……。でもこれで……!)


 私は、アゲコによる最後の攻撃を回避することに成功したので、急いで走り去る。


 ちらっとアゲコのほうを見ると、能力の反動からかその場に座り込んで動けなくなっていた。


 追手はさすがにもういなかったので、私は颯爽と公園の整備された道を駆け抜けて、ドマンナカ公園を出た。


 あとは路地裏に逃げるだけ。私は、


「通常スキル発動|《疾風蹴り》」


 『疾風蹴り』を発動させ、足に風を纏わせて一気に建物の屋根まで飛び乗る。


 そのまま建物の屋根同士を軽快に飛び移って、最も近くにある人通りが皆無に等しい路地裏を目指した。

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