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29話「覚醒、そして決着」

 私は、相手が認識できないほどの速度で目の前まで移動して、


「オトナシ流『珠音討ち』……」

「くっ……」


 相手に聞こえない程度に小さく呟いて、技をムクロガミに直接打ちこむ。


 ムクロガミは衝撃で少しだけ後退る。ダメージこそ通っていなかったが、鎧のほんの一部分だけが欠けていた。


 今度はムクロガミが、


「レアスキル発動《闇玉乱射(やみだまらんしゃ)》」


 レアスキルを発動して、人間の頭蓋ほどの大きさをした禍々しい色の玉を、両手から十数発放ってくる。


(右……下……横……!)


 私は飛んでくる闇の玉を、最低限の動きで容易く躱わしていく。


 私が避けている間にムクロガミが攻撃を仕掛けてこないよう、私は常にムクロガミのほうをむいて警戒していた。


 すべて躱わしきって、次はこちらの番……。私が出方を窺っていると、


「かかったなっ……!」

「なっ……」


 私の真後ろで大爆発が起こった。


 どうやら、闇の玉は私が避けたあとも空中で漂っていたらしい。


 私の真後ろに集まった数十発の玉が、ムクロガミのタイミングで爆破され、私は強制的に前方に吹っ飛ばされた。


 吹っ飛ばされた方向には当然ムクロガミが待ち構えていて、


「喰らえ……!」


 鎧に覆われた大きな拳を、タイミングに合わせて腰を捻りながら繰り出してきた。

 喰らえばどうなるか分からない。私は咄嗟にオトナシ流の技を発動させる。


「オトナシ流《或香咲き》……!」


 そのときだった。


(あれ……?)


 剣を振ると、剣先から桜の花びらが漏れ出ていることに気が付いた。


 その剣とムクロガミの拳がぶつかると、何とムクロガミの拳を覆う鎧の一部が割れ始めた。


「何っ……?!」


 ぶつかった衝撃で、私達は互いに後ろに吹っ飛ぶ。すぐにお互い体勢を整えて、私は剣を、ムクロガミは自分の拳を見る。


(もしかしてこれって……)


 桜の花びら。その正体は幻影だった。


 オトナシ流の真髄は幻影にある。技を極めれば極めるほど威力は増していき、ある一定の水準を超えると、その技に応じてエフェクトのようなものが剣から発せられるようになる。


 今出た花びらもその一つだった。つまり私は、この戦いを通じて成長して、オトナシ流の力を少しだけ解放することに成功したのだ。


(この力なら……!)


 私は、鎧が欠けて驚きを隠せないムクロガミに向かって、剣先を向けた。


 構えながら言う。


「突っ立ってちゃ、前には進めないぞ?」

「しまっ……」


 私はムクロガミが反応する前に攻撃を開始した。


 ムクロガミの目の前まで来て、


「オトナシ流《榎突き》!」


 相手の肩目掛けて剣を突き刺した。剣の先からは雪の幻影が漏れ出ていた。


 剣は鎧と衝突し、


「ぐっ……!」


 ついに鎧を貫いた。ムクロガミの体に剣が突き刺さって、そのまま体を貫通して背中へと飛び出ていく。


 私は、そのまますぐに剣を引き抜いた。すると、血があふれて鎧を血が伝うようになる。


 ムクロガミは痛みで顔をしかめて、


「うおおおおおっ……!」


 がむしゃらに拳を繰り出してきた。


 しかし、そんな単純な攻撃が当たるはずもない。私は、勢いに乗ってさらに技を発動する。


「オトナシ流《彩未乃舞》……!」


 あらゆる方向から敵の隙をついてひたすら剣を振るう猛攻技。剣をぶつける度に鎧を削り取っていく。


 赤色、青色、黄色、緑色。様々な色が剣を振る度に発生した。発展途上段階なのでまだまだ薄く見えにくいが、カラフルなエフェクトがたしかに禍々しい剣から出ていた。


 何度も何度も剣を振るい、確実に鎧を削り取っていく。相手は焦って雑に拳を振り回すが、当然当たることはなく、私は避けながら的確に相手を圧倒していった。


「ぐあああっ……!」


 しまいには、


「オトナシ流《珠音討ち》……!」

「がはっ……」


 鎧の剥がれた一部分へと、的確に剣を打ちつけて、生身へとダメージへと与えた。


 水滴が水溜まりに落ちるように、打ちつけた箇所から水紋が生まれて、虚空に広がっていく。


 ムクロガミは衝撃で後ろに吹っ飛んで尻もちをついた。もはや立つことすらままならなくなっていた。


「さて……」


 誰が見ても同じことを思うはずだ。今この場を制しているのは私であると。


 私は、動けなくなったムクロガミへと、近付きながら呟く。


「勝負ありだな。貴様は私を捕えるのが目的だが、私は貴様を殺すのが目的なんだ。互いの勝利条件の違いが命運を分けた……」


 ムクロガミが返す。


「何が言いたい……。法に則って行動する俺が馬鹿らしいとでも言いたいのか……?」


 私は返す。


「いや、それは違う。そこに関しては、むしろ私は素晴らしいと思っているよ。自分の命がかかっている状況で、自分の命を狙ってきた相手を法で裁こうとするなんて人格者がすぎる。責任のある立場として、威厳を示すことを選択できたのは、間違いなく貴様が優秀だからだろう。私は、決して貴様を愚弄したりはしない」

「じゃあ何なんだ……」

「少しばかり申し訳ないと思ってな。本来であれば貴様が勝っていた。私は貴様の温情によって生かされているにすぎない。立場を考えるとなおさら不公平だと思った。だから、謝罪くらいはしておくべきかと思った……」


 するとムクロガミは、


「ふっ……今さらだな……。殺す相手に礼儀を持つ奴はいるだろうが、まさか謝罪までする奴がいるとは……。ふふっ……笑わせてくれるじゃないか……。はははっ……」


 笑顔でそう言う。厳かな雰囲気を放っているムクロガミらしさとはかけ離れた笑みだった。


 私は、


「い、いいだろべつに……。いくら殺意を取り込んだとしても、少しは理性は残ってる。さすがにそこまで恥は捨ててない……! わ、笑うなっ……」


 はぐらかされたことにムキになって返す。私も私で、暗殺者らしくない態度だったと思う。


 ムクロガミは、その言葉を聞いて改めて言う。


「まあ、そんなことはべつに気にする必要はない……。最悪、立場を無視してお前を殺してしまうこともできた。それをあのとき選択しなかった時点で俺の負けだ。あくまで俺の選択。そこに公平だとか不公平だとかは関係ない」


 その言葉は、


「そうか……。そう言ってくれるのは……正直ありがたい……」


 私にとってはとても嬉しいものだった。


 私はムクロガミに殺意を抱いていて、今すぐにでも殺したい。その気持ちは最初から変わっていないし、今さら変える気もない。


 だが私は、残念ながらまともな側の人間だったらしい。変に倫理観を身につけてしまったせいで、実質的に敵に助けられたことに、負い目を感じてしまっていたのだ。


 だからこそ嬉しかった。その本人が私の行動を肯定してくれたことが、何よりも心の支えになった。


 ムクロガミはさらに言う。


「それに、最後には本気でお前を殺そうとしたしな……。そこで負けたんだから、俺からは何も言うことはない。お前もこれ以上のタラレバはよせ」

「そうだな……。ここからは暗殺者としてちゃんとするよ……」


 そして私は、一呼吸置いてムクロガミに問いかける。人間としてではなく、暗殺者として。


「それじゃあ終わりにしよう、ムクロガミ・クロカード。何か遺言はあるか?」


 ムクロガミは答えた。


「ああ、一つだけ……。死ぬのはとても怖い。だが、もう逃れられない。せめて、流れ星が消えるみたいに、すっと終わらせてほしい……」

「分かった……。その言葉の通りにしよう」


 私は、剣を持っている手にぐっと力を入れた。

 それから、躊躇うことなくすぐに技を発動する。


「オトナシ流《榎突き》」


 そのまま剣を、ムクロガミの心臓部へと突き刺した。雪の幻影が剣先から発生する。


 剣は心臓ごと体を貫いて、背中へと飛び出ていく。突き刺した剣と体のわずかな隙間から、血が滲んで、やがてだらだらと流れていく。


 刃物を突き刺したままなので、出血量はそこまで多くはなかった。私は敬意を抱きながら、無表情を貫いた。


 顔はできるだけ見ないようにする。良くも悪くも、それが大きく印象に残ってしまうだろうから。


 この暗殺は復讐の第一歩であって、ゴール地点ではない。これからは復讐も本格的に日常の一部になる。


 もし顔を見てしまえば、あとで後悔することになるかもしれない。だから見ない。見ないようにする……。


(でも……)


 絶対に見ないようにしていたのに、その意識とは裏腹に、私の視線はムクロガミの顔へと向いていた。


 ムクロガミは笑みを浮かべていた。どういう意図かは読み取れないが、逆に不気味さを感じるくらいの笑顔を私に見せていた。


 見た瞬間私は思う。ああ、見なければ良かったと。脳裏から焼き付いて離れなくなってしまいそうな、強烈な印象を与える表情。もしかしたら一生引きずることになるかもしれない。


 ムクロガミは、笑顔を保ち続けたまま、逝った。私の復讐の第一歩は、この瞬間をもって達成された。


【ユニークスキル発動により、私は新たにレジェンドスキル『影鎧』を入手しました】

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