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28話「窮地」

「あっ゛……がぁっ゛……!」


 尋常でないほどの痛みだった。痛みを一瞬痛みだと認識できないほどの、味わったことのない圧迫感を感じた。


 意識がぐるぐると周り、視界がぼやけてうまく見えなくなる。呼吸がしづらくなりながら、歯を噛み締めて震えながら腹を押さえる。


(痛い……痛い……苦しいっ……。痛すぎる……嫌だっ……。痛い……辛い……痛い痛いっ……)


 痛い。それしか考えられなかった。


 このままでは捕まってしまうだとか、ユラネに必ず帰ってくると約束したじゃないかだとか。そう言った今絶対に考えなければならないことが、全部頭からすっぽ抜けてしまっていた。


 ムクロガミが近付いてきて、横たわる私の体を足でむりやり仰向けにして、そのまま踏みつけながら語りかけてくる。


「ぐぅっ……」

「お前の命の保証が、今の俺にできる最大限の優しさだ。申し訳ないが、自分の命を狙った相手を労われるほど、俺は人格者ではなくてな。この体制で話させてもらう」


 そう言ってムクロガミが続ける。


「このまま俺はお前を逮捕する。だが安心してほしい。今言った通り、命の保証はするつもりだ。何せ、未遂に終わっているわけだし、無関係の住民達に直接手を下しているわけではないしな。だから、牢獄の中で深く反省するんだな」

「…………」


 気が付けば、混乱は少し収まりかけていた。


 ムクロガミが私を追い詰めたことによって、身の危険が去ったと曲解した住民が、冷静さを取り戻しつつあったからだ。


 少し離れた場所から、こそこそと話をしながらこちらを見ていた。どうやら、計画は本格的に失敗に終わってしまったらしい。


「まあ、人生なんてやり直そうと思えばいくらでもやり直せる。そう悲観することはないさ」

「黙れっ……!」


 私は仮面の下からムクロガミを強く睨みつけた。


 『人生"なんて"いくらでもやり直せる』。その言葉は、私の心を煮えくり返させるにはあまりにも十分すぎた。


 私を私だと知らないからこそその言葉を吐けたのだろうが、一度は人生を奪われた人間の前でよく言えたものだ。上から目線で無礼がすぎる。


 私は痛みに苦しみながらも、うつ伏せになりながら立ち上がって反抗を試みようとする。ムクロガミは足をぐらつかせて、すぐさま私を強く踏みつけ直した。


「痛っ……!」

「動くな! それ以上動いたら無事では済まさないぞ……! 死にたくなかったら大人しくしろっ!」


 背中を強く踏みつけられて、私はまったく身動きが取れなくなる。少しの反抗も許さないという様子だった。


 いよいよ本当に何もできなくなり、あとは警察の到着を待つのみとなってしまった。私は踏みつけられながら痛みに耐える。


 すると、


「ああ、そうだ。ここで顔の確認だけさせてもらうぞ。種族くらいは事前に知っておく必要があるからな」

「……!」


 突然そんなことを言い始めた。


 ムクロガミが私を踏みつけた状態のまま、私の頭を地面に押さえつけて、住民から見えないようにして仮面へと手を伸ばしてくる。


 絶体絶命の危機だった。顔がバレた時点で、何もかもが終わってしまう。顔を覚えられてしまえば、二度と復讐なんて行えなくなるだろう。


(だめ……! それだけはっ……!)


 ムクロガミが仮面に手を差し伸べてくる。

 私は終わりを確信した。そのときだった。


【提案。レアスキル『爆爆』を使用すれば、正体の発覚を防ぐことができます】


(……!)


 私の脳内に音声が直接流れ込んでくる。スキル獲得時にいつも流れてきた、あの謎の声だった。


 この状況の解決策について、提案と称して語りかけてくる。


(何これ……? 爆爆ってたしか……。いや、今はそんなことを考えている暇はない……!)


 私は状況が飲み込めなかったが、すぐに謎の音声の提案を受け入れて、叫びながらスキルを詠唱する。


「レアスキル発動|《爆爆》!」

「なっ……!」


 すると魔法陣が現れて、私の右腕をスキャンしながら肘から手のひらにかけて降下していく。


 手のひらをすり抜けると、そのまま魔法陣が地面へと反映されて、広範囲へと広がっていく。この間、わずか一秒の出来事である。


 あっという間に地面に巨大な魔法陣が生成されて、光を帯びながらぐるぐると魔法陣が回り始める。


 ムクロガミは、突然の出来事に対応できず、ただ突っ立って見ているだけしかできなかった。


 私は、痛みに抗いながらすぐに起き上がり、膝をつきながら魔法陣に手を翳す。


「喰らえ……!」

「やめっ……!」


 やめろ。そう相手が言い切る前に、スキルが発動した。


 魔法陣の範囲を中心に大爆発が起こり、辺り一体は煙に包まれる。ステージは派手にぶっ壊れて、爆音が周囲に響き渡った。


「な、何……?!」「ば、爆発だ! 逃げろおおおおっ!!!!」


 住民達の恐怖する声が聞こえ始める。


 再び混乱が起こり始めて、慌てふためく住民で公園はいっぱいになる。


 絶体絶命の危機だったが、何とか元の状態まで戻すことができた。


「ケホッ……ケホッ……。さて……どうなったかな……?」


 煙に包まれるなか、私は咳をしながらゆっくりと立ち上がる。


 正直に言えば今すぐにでもぶっ倒れたいくらいには苦しいが、何とか堪えて立ち続けた。


 やがて煙が晴れて、ムクロガミの姿が鮮明になる。


「くっ……」

「……わお」


 結論から述べると、鎧の一部が割れてダメージを負っていた。破片が辺りに散らばっていて、明らかに攻撃が通っていることが分かる。


 爆発の勢いで少し離れた場所まで吹っ飛んだようで、今は地面で這いつくばっていた。


 私がすでに立ち上がっていることに気が付くと、ムクロガミはすぐに立ち上がって、全身に付いた汚れを手で払い始めた。


 払いながら呟く。


「事前にレアスキルで身体能力を向上させた上で、さらに威力重視のレアスキルを至近距離で放つ……。よく考えたものだな。そのせいで鎧が壊れてしまったではないか」


 私は返す。


「ふっ……。だから言っただろう? 足元を掬われると。貴様が優位に立ったと勘違いしてくれたおかげで、また群衆は大パニックを起こした。あとは貴様を屠るだけだ」


 まあ、そこまで考えてないけど……。

 ムクロガミは、


「ああ。もう一切の気も抜く気はないし、こんなヘマはしないさ。一国の代表たるこの俺が、お前ごときに負けたりはしない。本気で相手をしてやろう」

「……」


 そう言って、スキルを詠唱した。


「レジェンドスキル発動《影鎧(オブシディアン)》!」


 先ほどの鎧とは比較にならないほどの硬度を誇るであろう謎の物質が、ムクロガミの周囲に現れる。それらが全身と結び付いて、鎧を形成していく。


 物質が発しているのか、ムクロガミ自身が発しているのかは分からないが、邪悪な気のようなものが湯気のようにゆらゆらとあふれ始める。


 仮にも、一国の代表であることが象徴されるような重圧を感じられた。


 私も、深呼吸をして、スキルの詠唱の準備を始める。


(私も全力でいくしかない……! 代償なんてもう知らない……。確実に奴を殺す……!)


 レジェンドスキルを発動すると、体に深刻な負担がかかって寝込むことになる。そうなれば、復讐が成功しても疑われるリスクがあった。


 なので極力使用を避けていたのだが、それももう限界のようだ。私は覚悟を決めて、対抗するようにスキルを詠唱した。


「レジェンドスキル発動|《暴走信者》……!」


 発動したその瞬間、私は鼓動がドクっと強く響くのを感じた。命が削られているような嫌な音だった。


 そして心が黒い何かに侵食されて、灯火のようにゆらゆらと燃えたぎるような感覚を覚える。莫大な怒りと殺意だった。


「ぐっ゛ぅっ゛……! ああ゛ああああ゛ああああっ゛!!!!」


 抱えきれないほどの負の感情が自身の中に宿り、爆発的に身体能力が向上する。


 こんな細々とした小さな手でも、岩を簡単に握り潰せそうな凄まじい力が体の中に取り込まれた気分だった。


 私は、肩を使いながら全身で大きく息を吸って吐く。そうでもしないと、今すぐに心と体がどうにかなってしまうからだ。


 極度の興奮状態に陥りながら、先ほどよりも一回りも二回りも大きい瘴気を放つ。側から見れば、魔王だと勘違いしてもおかしくないほどのオーラを放っていた。


 我を忘れそうになりながらも、意識を保ってムクロガミを睨む。


「もう言葉は必要ない……。殺す……!」

「同感だ……。もうお前を生かして捕らえるのは無理そうだしな……。さあ、殺ろうか……」


 私達は最後の戦いを始めた。

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