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22話「信念」

 ──それから一週間後のことだった。月曜日。ついに前日祭当日になった。


 私は、ユラネと一緒に制服に着替えたりと、朝の準備を着々と進めていた。


「ナキネちゃん。決行は明日なんだよね? 今日は何をする予定なの?」


 ユラネに聞かれたので私は返す。


「今日は街の下見がメインかな。街の構造はあんまり変わっていないだろうけど、万が一通れない道とかがあったら怖いし……。まあ、ほとんどが逃走ルートの確認だけだから、すぐに終わるとは思う」

「そっか。じゃあ怪しまれないようにしないとね。たまには屋台も寄るようにしないと」

「それもそうだね……。何か食べたいものとかある?」

「うどんかな?」

「見つかるかな……?」


 私もユラネも元々この国に住んでいたので、どの辺りがどういう構造になっているかくらいは大体分かる。


 もしここがまったく知らない街だったら、一日の下見だけでは絶対に時間が足りないので、復讐を断念せざるを得なかっただろう。


 だが、幸いにもここは私達の住んでいた街。すなわち故郷だ。いくら王城に引き篭もっていたとは言え、さすがに街の構造は理解している。


 少しの下見を終えてしまえば、あとは復讐の準備に専念できるというわけだ。


「よし、じゃあ行こっか」

「うん」


 私達は、財布の入った鞄を持って、部屋を出た。


 部屋を出た先には、まったく人気のない廊下が広がっていた。自分達以外の生徒はすでに街へと出かけているようだ。よほど楽しみだったことがこの静けさから窺える。


 私達はゆっくりと歩きながら、寮を出て校内を歩き、やがて門へとたどり着く。


 門はとっくに開いていて、自由に出入りできるようになっていた。


 ユラネが呟く。


「生活が少しずつ戻ってきたって感じがするね……」

「……そうだね」


 一ヶ月前までは考えられなかっただろう。


 勉学に励むことができて、こうしたイベントの際には自由へ街へと赴くことだってできる。


 順当にいけば、冒険者という役職を手に入れて、路頭に迷うこともない。


 市民としての権利が与えられて、誰かと笑い合って生活することが約束されている。


 私は、そんな今の状況が喜ばしくもあり、複雑でもあった。


 果たして、オトナシ家にここまでのことができただろうか。


 すべての種族を分け隔てなく扱い、皆が楽しく暮らせるようにする。これは、人間界が乗っ取られる以前では考えられなかったことだ。


 元は人間とその他すべての種族で対立していた。人間は自分以外の種族をすべて敵と見なしたのに対し、魔界の民は人間以外のすべての種族を仲間とみなした。


 しかも、いざ人間が自らの手中に収まったかと思えば、とくに躊躇うこともなく民からの要望を聞き入れて、人間に自由に暮らせる権利を与えた。


 これは単一種族のみで繁栄を目指していた人間では考えられなかったことだ。あまりに魔王の懐が広すぎる。


 人間に世界征服の野望こそなかったが、もし世界を征服したとして、人間は鬼や魔族達に市民としての権利を与えただろうか。


 否、絶対になかっただろう。植民地支配、迫害、虐殺。人間を第一に考えて、他種族の体を酷使させて奴隷として働かせ続けていたと思う。


 私が女王としてオトナシ王国を率いたとしても、悔しいがきっとここまでの平和な環境は作り出せなかった。


 ただでさえ民からの評判は良くなかったのだから、下手すると人間同士で争って内乱が起きていた可能性すらあり得る。


 魔王が世界の王として君臨している今は、魔王を神格化することで、市民が魔王を崇拝しながら一致団結をしているので、内乱の心配はない。


 考え方によっては、魔王に支配されてしまった今のほうが、世界は安定しているとも考えられる。


 となると、やはり私情による復讐は行わないほうがいいのだろうか……。


(本当は魔王による統治を望むのが、民を守るはずだった者としての正しい選択なのかもしれない……。安定と平和を何よりも優先するのが、王としての資質なのかもしれない……)


 今なら引き返せる。引き返せてしまう。


 今すべてを諦めてしまえば、死ぬまで安泰な生活が送れるかもしれない。


 このまま友情という朗らかなものに絆されて、光ある未来へと進んでしまったほうが、私は幸せになれるのかもしれない。


 少なくとも、両親は敵討ちなんてものは望んでいないだろう。


 自分のことを、そして何より両親のことを想うのであれば、復讐なんて……。


(いや、違うな……。それは正しくない……)


 私は生活を奪われた被害者だ。

 魔王が世界征服という野望を抱いたせいで、いたずらに生活を奪われることになった悲しき一人の人間だ。


 これから先、魔王の支配の下で暮らしたとして、それを幸せだと言えるほど私はお利口な性格ではない。


 そうだ。私は王としての資質など鼻から持ち合わせていなかったのかもしれない。


 現に、お父様のようにどんと構えられるだけの器は私にはない。自身の復讐という目的のために、友達までも巻き込んで、利用する。


 そんな人間が王としての自覚を持って民を想い復讐の計画を投げ出す? 無理に決まってるだろう。


 ならば、被害者として正義を語ればいい。たとえ世界最大の極悪人と謳われようが、自身の大義を成し遂げられるなら、それでいい。


(私の大切な人を奪った。復讐をする理由なんてそれだけでいい……。正しいかどうかなんて、考えること自体が間違いだ)


 自分のやりたいことをやろう。


 私は、復讐をする決意が完全に固まったので、ユラネに一声かける。


「まずは、一番重要な逃走ルートのゴール地点から確認しに行こう。途中で何か寄りたい場所でも見つけた、そこへ行こう」

「うん。いよいよ出発だね……!」


 私達は、今門の外へと踏み出した。


 後戻りのできない復讐という道へと、一歩歩み出した。

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