20話「復讐の計画」
「──で、何でユラネちゃんはナキネちゃんを縛っていたにゃ?」
食堂の席で、いつもの四人で座って話を始める。テーマは、ユラネが私を縛っていた件について。
コネミが訊ね、ユラネが弁明する。
「ナキネちゃんに、私のお願いを聞いてもらう約束をしたのは覚えてるかな……?」
「ああ、してたにゃね」
「そのお願いが、アレだったんだ……!」
「はぁっ……?」
違うユラネ。まだ説明が足りてない……。
「つ、つまり……。ユラネちゃんはナキネちゃんを縛りたかったってことにゃ……?」
「ああいや……! そうじゃなくてっ……!」
「わ、私が説明するよ……」
私がユラネに代わって説明をした。
お願いの内容が思いつかなかったから、お仕置きという形に変えて、とりあえず実験として縄で縛ることにしたこと。
縛る側も縛られる側にもそういった意図はなく、ただただお仕置きというものを純粋に追求していたということ。
「は、はあ……。一応、分かったにゃ……」
コネミは最終的に何とか理解してくれた。
お仕置きを大真面目に追求していたと言ったときに、「何を言ってるんだ」みたいな顔で私を見てきたが、それについては私も説明できなかった。
仕切り直して、食事を再開した。私は訊ねる。
「そういえば、部屋に来たとき色々話すことがあるって言ってたよね? 要件って何かな?」
「あ、そうだったにゃ。来週の魔王様生誕祭についての話をしておこうと思ったのにゃ」
「魔王様生誕祭……?」
私が首を傾げると、コネミがそれについて説明をしてくれた。
「魔王様生誕祭。文字通り、魔王様の生誕を祝う祭りにゃ。前日祭と合わせて二日間開催される魔界でも大規模なイベントで、魔王様が正式に世界を征服してからは、この国でも生誕祭が行われるようになったにゃ」
「へえ……。たしかに、毎年このくらいの時期に監獄の外が賑わってた記憶があるな……。あの騒々しさは生誕祭によるものだったんだね」
「にゃ。どこもかしこも大賑わいにゃ。前日祭では街中で芸が披露されたり、音楽隊のパレードがあったり。屋台も大盛況で、まさにお祭り騒ぎにゃ!」
「ふむ、楽しそうだね……。前日祭ではってことは、当日は違うことが行われるってこと?」
「その通りにゃ。当日は昼まではお祭り騒ぎを続けるけど、午後からは各地の《《偉い人》》が式辞を述べるにゃ。具体的には表彰が行われたり、魔王様からの各国へ充てられたメッセージが読まれたり、魔王様の生誕を儀式的に祝うにゃね」
「……!」
私は、その言葉を聞いて脳裏に浮かぶ。
その偉い人とやらは、場合によっては私が暗殺するべき対象になるのではないかと。
日時の都合によっては、私の復讐者としての道が、切り開かれることになるのではないかと。私は聞く。
「その偉い人って、どんな人か分かるかな……?」
コネミが返す。
「んーと……。たしか、ムクロガミって人にゃね。今はこの国の長で、あんまり詳しくないけど、この国が統治される前は魔王軍でも活躍してたらしいにゃ。人間界の領土獲得にも携わっていたような?」
「そっか、ありがとう……。教えてくれて……」
詳細はあとで調べる必要がある。
が、一つ確定したのは、そのムクロガミという人物を、私は絶対に殺す必要があるということだ。
人間界への侵攻に直接関係しているならば、容赦なく殺さなければいけない。
ただの兵士なら、上から命令をされただけなので、基本的には復讐の対象には含まれない。しかし、魔王軍で活躍をしている時点で、無関係とは言いきれないだろう。
私はムクロガミという人物に狙いを定めた。
「ところで、何で偉い人が気になったにゃ? 私達には関係ないと思うけど……」
「いやあ……。やっぱり元王族として、国や世界を統治する人のことはどうしても気になっちゃうんだよね……」
「元王族あるあるってやつにゃ? だとすると、だいぶ理解しにくいあるあるにゃね……」
「ははっ……。たしかに……」
少し踏み込んだことからコネミに疑問を抱かれてしまったので、適当に誤魔化しておいた。
コネミは朗らかな性格で語尾を猫語で統一することから能天気なイメージを持ちがちだが、その雰囲気のわりには妙に鋭いところがあるので、注意しなければならない。
前にもコネミから指摘を受けて、危うくバレると復讐計画に支障が出てしまうレアスキルの存在を、露呈してしまうところだった。決して油断のできない存在だ。
(ユラネには結果的に正体がバレてしまったけれど、それまで築いた関係や、ユラネ自身の控えめな性格のおかげで何とかなっている。でも、コネミやアゲコの場合もそううまくいくとは限らない……)
友達だから。なんて理由だけで、国や世界を揺るがすことを見逃せる者は、ほぼいないに等しいだろう。
だからこそ、私が復讐の計画を立てていることがバレないように、慎重に動く必要がある。発言には気を付けよう……。
コネミが説明を続ける。
「んで、この生誕祭に伴って、すべての学園は一時休校となるにゃ。開催は月曜日からだから、土日で休んだあとにさらに休めることになるにゃ! ハッピーにゃ!」
「四連休か。それは楽しみだね」
「にゃ!」
休日。つまり、暗殺の絶好の機会ということだ。
基本的に私達は学園の外には出られないし、要人が堂々と住民の前に姿を晒すこともない。
生誕祭のあとのことを考えたとしても、これほどまでに復讐一つに時間を割けられるイベントは、まずしばらくは行われないだろう。
このチャンスを逃すわけにはいかない。私は、このときを持って復讐を行うことを心に決めたのだった。
コネミが、生誕祭の説明を終えた上で、私達に訊ねる。
「以上が魔王様の生誕祭について。本題はここからなんだけど、良かったら一緒に街を見て回らないにゃ?」
「……」
純粋に友達としてのお誘いだった。
授業以外で初めて共にする時間。青春という何物にも変えられない限られた時間。この誘いを受ければ、きっと私の心はさらに彩られることにだろう。
復讐という暗い道をとるか、機会自体はいくらでもあるのだから、今回くらいは復讐をやめておくべきか。
選択に迫られるなかで、私は悩むことなく答える。考えるフリだけして、脳内に浮かんでいたセリフをそのまま口から吐く。
「んー……。嬉しいけど、今回はやめておくよ」
それは否定だった。
約束された平和のあるこの国において、友人よりも復讐というあとに引けない選択肢を、私は取ってしまったのだ。
コネミが返す。
「そっか、残念にゃ……。何か理由でもあるにゃ?」
「うん、久しぶりに街をじっくり回りたくて。行きたい場所がたくさんあるし、場所も離れてるからそれにコネミ達を巻き込むわけにはいかないと思ってね……」
「たしかに。元はナキネちゃん達の国だったもんね……。久しぶりに色々見て回りたくなるのも分かるにゃ。ぜひ楽しんできてほしいにゃ!」
「ありがとう。また機会があったら一緒に遊ぼうね」
「にゃ!」
自分で言っていて後ろめたくなった。
街を見て回ること自体は嘘ではないが、それが真の目的ではない以上、本当のことでもない。
復讐という行為が間違っていると自覚しているからこそ、私は胸が締め付けられる感覚を味わった。
アゲコのユニークスキルは、もし使われたら私にとって天敵になるだろうな……。
そんなことを考えていると、コネミがユラネにも話しかける。
「じゃあユラネちゃんはどうするにゃ? 一人になっちゃうけど……」
ユラネが返す。
「えっと……。私はナキネちゃんと一緒に行動しようかな。私も見て回りたいし、私はこの街とは親しみが深いから、どこに行っても楽しいし」
「じゃあ、別行動にゃね。私はアゲコちゃんと一緒にいるから、もし街でばったりあったら巡ったおすすめのお店でも教えてほしいにゃ」
「うん、お互い楽しもうね」
「にゃ!」
そういえば、ユラネにもあとで説明しておかないとな……。
ユラネには悪いが、私は復讐を優先しなければならない。ユラネが私に理解を示してくれている以上は、その優しさに甘える他ない。
一緒には遊べないと、ちゃんと伝えなければ……
そうこうしているうちに、全員が食べ終わった。午後からの予定を立てたわけではないので、ここで解散となる。
私とユラネとコネミで、話をする。
「それじゃあまた明日にゃ〜!」
「うん、また明日……。ってあれ、アゲコは?」
一緒にご飯を食べていたはずなのに、今この場にはいない。
なぜ消えてしまったのか気になったので、私は問う。すると、ユラネがアゲコのほうを指差して教えてくれた。
「もしかして、あれじゃないかな……?」
「ん……?」
指差したほうを見ると、そこには無数の人集りができていた。よく見ると、人集りに囲まれているのはアゲコだった。
めちゃくちゃもてはやされていた。
「何あれ……?」
「ああ……。あれはユニークスキルの件のせいにゃ。あの日から噂があちこちに広まって、種族学年性別問わず毎日のようにアゲコに人が集まるようになったにゃ」
「大変だね……」
ユニークスキルは、通常<レア<レジェンドの枠組みには当てはまらない。本人しか持ち得ない固有のスキルだ。
レジェンドスキルを持つだけでも注目の的だというのに、それに加えてユニークスキルも持っているのだから、これほどまでに注目を浴びても、何らおかしくはなかった。
主人公気質すぎるなと思うのと同時に、でも精神的に応えそうだなという心配の言葉が脳裏をよぎった。
コネミが言う。
「私は人集りからアゲコを救ってくるから、二人は先に帰っておいてほしいにゃ。また教室で会おうにゃ」
「うん、頑張れ……」
コネミはアゲコのいる人集りへと一直線に向かっていった。私とユラネはただ二人その場に取り残される。
(どうしようかな……。まずはユラネの誘いを断って、情報を集めないとなんだけど……)
このまま部屋に戻ると、また縛りプレイの続きをすることになるだろう。
それ自体は構わないし、約束なのでむしろそっちを優先するのが当然なのだが、魔王生誕祭の話を聞いてしまってからは、暗殺計画のことで頭がいっぱいだった。
どうにかして情報集めに専念できないものかと考えていると、
「ねえ、ナキネちゃん……」
ユラネが話しかけてきた。
「ん、どうしたの……?」
私が返すと、ユラネは誰にも聞こえないように、そっと耳打ちをしてきた。私が耳を傾けていると、
「やるんだよね? 復讐」
「……!」
そんな言葉が聞こえてきた。
どうやらすべてお見通しだったらしい。
私は小声で返す。
「分かってたの……?」
「もちろん……。話のメインは祭りのことなのに、わざわざ偉い人についてなんて普通聞かないよ」
「それもそうか……」
「そうそう。コネミちゃんは頭がキレるからとくに注意しておこうね。それで、私がナキネちゃんと一緒に行動するって言った理由なんだけど、意図は分かってくれたかな?」
「意図……?」
「わ、分かってなさそうだね……。私がナキネちゃんを誘ったのはアリバイ作りのためだよ。私と一緒に行動していたことにすれば、ナキネちゃんが自由に動いても疑われることはないでしょ?」
「あ、本当だ……。ってことは、理解した上で私に全面的に協力してくれるの?」
「うん、言ったでしょ? できる限り協力するって。これくらいはなんてことないよ」
「ユラネ……」
国家反逆がなんてことないなんて……。
ユラネのできる限りの基準がまるで理解できないが、頼もしい限りだ。
「ありがとう……。絶対成功させるね……!」
「頑張って、ナキネちゃん!」
私達はお互いに微笑む。
友情という言葉では表現できないそれ以上の何かが、私達の中に芽生えるのを感じた。
(今なら言える……)
私は、ユラネの協力に甘えてお願いをする。
「一ついいかな……?」
「どうしたの? ナキネちゃん」
「午後からの予定なんだけど、専念したいことがあるから、一旦あのお願いはお預けしてもいいかな……?」
ユラネが返す。
「分かった。くれぐれも、無理はしないようにね」
「うん、またあとで……」
私は、ムクロガミという人物について知るために、ある場所へと向かうことにした。
ユラネに背を向けて、私はその場所へと歩き出した。




