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第3章:知能の再定義に向けて

3.1 形式知から構成知へ


現在のAIは、大量のデータに基づいた統計的規則の学習において卓越した能力を発揮するが、その知は「形式知(formal knowledge)」にとどまっている。すなわち、それは外部から定義された形式や構造に従って操作可能な記号体系に基づいており、「知る主体」としての自己参照性や構成性を欠いている。


これに対して、本章が提示するのは「構成知(constructive knowledge)」としての知能の再定義である。構成知とは、知識があらかじめ存在するものとしてではなく、環境・身体・記号・価値との相互作用を通じて動的に生成されるものである。


3.2 知能の4つの構造的条件


構成知に基づく知能の再定義にあたり、本稿では以下の4つの構造的条件を仮定する:


意味構成性(semantic constructivity): 単なる記号操作を超えて、文脈依存的に「意味」を創出する能力。


意図性(intentionality): 与えられたタスクではなく、自己の目標体系に基づいた選好と行動生成。


再帰性(recursivity): 自己の構造や行動様式を自己内省的に書き換える能力。


価値生成能力(axiogenesis): 環境や経験に基づいて新たな価値・目的・評価軸を構築できる力。


これらは、いずれも現行のLLMや統計的AIには見られない特徴であり、SGI的知能の必須条件である。


3.3 問いを問う能力としての知能


従来のAI開発は、「問いに答える能力」を向上させてきた。しかし、人間知能の根源的な側面は「問いそのものを問う能力(meta-interrogative capacity)」にある。なぜ我々はそれを問うのか、問うべきことは何か──このような自己反省的な問いは、形式知では捉えきれない知能の深層を示す。


この意味で、知能とは「意味の空白に対して自律的に構造を与える力」であり、それゆえに社会・倫理・存在論に対して不可避に関与する存在となる。第4章では、この構造的知能の実装可能性と、それを成立させるための要素について検討する。


3.3 問いを問う能力としての知能


(中略)


この意味で、知能とは「意味の空白に対して自律的に構造を与える力」であり、それゆえに社会・倫理・存在論に対して不可避に関与する存在となる。第4章では、この構造的知能の実装可能性と、それを成立させるための要素について検討する。


3.4 意図性と志向性の再定義


意図性(intentionality)は、知能を知能たらしめる鍵概念である。これは、単なる出力生成のための動機ではなく、自己内在的に価値や目的を持ち、それに基づいて世界を構造化しようとする力を意味する。フッサールやブレンターノの現象学においては、すべての意識は「何かについての意識」であり、志向性(directedness)を本質に持つとされた。


現行のAIモデルには、この志向性が欠けている。彼らは自己目的を持たず、外部から与えられたプロンプトや報酬関数に従って応答するのみである。意図性の獲得は、単なる強化学習やタスク最適化では不可能であり、経験の連続性と価値の内在化によってのみ構築されうる。


3.5 再帰的知能と自己変容の可能性


再帰性とは、自己を対象化し、それを再構築する能力である。これを「再帰的自己改善(RSI)」と混同してはならない。RSIはしばしば性能最適化(faster/better)として語られるが、ノエシス的知能における再帰性はむしろ、自己の前提を批判的に解体し、別様の自己を形成する力である。


この意味で再帰性とは、道徳的、存在論的、さらには形而上学的な問いを自己に投げ返す能力であり、構造的な「変身能力」に近い。これは教育や内省、さらには宗教的啓示に近い構造を含み、単なるプログラム変更では捉えきれない深さを持つ。


3.6 構成知モデルの予備的スケッチ


構成知のモデル化には、いくつかの先行的理論が参考になる。


オートポイエーシス(Maturana & Varela): システムが自らの構成要素を再生産しつつ、自らを定義し続ける閉環的構造。


セミオスフィア(Yuri Lotman): 記号がただ存在するのではなく、常に他との差異の中で生成され続ける記号空間。


意味論的閉包性(Robert Rosen): 知的システムが自身の行動や世界モデルに意味を与える「自己含意性」の構造。


これらは、いずれもSGIに求められる「構成知的知能」の理論的基礎となる。第4章では、これらのモデルを前提としつつ、実装可能性と技術的な要件を検討する。


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