Stay Alive Say.4. 病気.(3)
Stay Alive Say.4. 病気.(3)
私がそれを知るようになったのは、発病からかなり経ってからのことだったが、どうやらこの世界には治らない病気というものがあるらし。
人の力ではどう足掻いても治せなかったので、それを不治の病と呼ぶらし。
そして、じょうど私の病気がそうらし。
発病と同時に全身の筋肉が溶け始め、1年、長くても2年で死に至らせる病気。
症状も怖かったが、最も怖いのは原因そのものを分からないという点にあった。
全国の有能な医者という医者は全部探してみたけど、誰ひとり、病名はおろか明確な原因さえも明かすことはできなかった。
人が暗闇を恐れるように、知らないということがどれほど恐ろしいものかを、その時気づいた。
たとえどれほど苦しい病だとしても、治す方法があるなら、その可能性がほんの僅かでもあるとしたら、人はその可能性を信じ、希望や未来を描くことができる。
だけど、わたしの病気はちがっていた。
原因も治す方法もわからない。
それだけか?
発病と同時に、余命宣告をされる不治の病。
それが、私の身を蝕む病の正体だった。
だけど、それでも当時には漠然な期待はあった。
奇跡と呼ばれるものに頼っていたのかもしれない。
でも、漠然だとしても、そこには確かに「希望」と呼ばれるものがあった。
まさか自分が死ぬとは、当時の私は思ってもいなかった。
だって、そうじゃないか?
誰が一朝一夕に自分が死ぬと想うと言うんだ?
今までずっと大丈夫だったし、これからもそうであって当たり前じゃないか?
だから今、少し痛いのぐらい、何だと言うんだ?
きっと明日になれば、大丈夫になる....
人なら誰しもが、そういう漠然とした希望を抱きながら生きている、それを当然と想いながら生きていく。
当時、10歳だった私も、そういう希望を持つ人のうち一人だった。
だけど、どんどんと壊れていく私を抱いて、号泣なさる両親の姿を目にしたその日、かすかに残っていたはずの希望は形を失った。
そして、ちょうどその頃から鎮痛剤はその役割を失い始めた。
痛くて痛くて、日に日に鎮痛剤の投与量を増やしていったが、そのたびに、どんどんと何もできなくなっていった。
惨たらしい痛みに呻きながら意識を失い、またその痛みのせいで目を覚ました。
そうするうちに気づけば夜になり、また気づけば季節が過ぎっていた。
それが悲鳴のせいか、病気のせいかは分からなかったが、いつの間にか喉は裂け、もう声を出すことはできなくなっていた。
その頃、もはや一般的な鎮痛剤ではどうすることもできなくて、「スフェンタニル」、そう呼ばれる、モルヒネのおよそ千倍の鎮痛作用を持つ麻薬性鎮痛剤の使用が始まった。
人間に使える鎮痛剤の中で、これより強いものは存在しない。
だから、もしこれが効かないのなら、次はない。
その計り知れない苦痛から人を救える鎮痛剤があるとすれば、それはたった一つ、「死」だけだった。
だけど結局、それでも楽になれす、精神は崩れ始めた。
そうやって、どうすることもできないまま崩れていく精神の奥底から、自分に似た何かが這い出てきて、こう懇願した。
「殺して」
たかが10歳の子供が望んだ最後の願い。
そしてそれが、私が残すことのできた最後の言葉だった。
それを最後に、私の中で精神が完全に崩れ落ちた。
その後はあまり覚えていない。
目を開けると真っ白な世界の中にいて、ただひたすらその瞬間感じた言葉をその真っ白な世界に書き写していた。
痛い、痛い、痛い……
そうするうちに、いつのまにか真っ白だった世界は真っ黒に焦げ、もはや何もわからなくなってしまった。
いつからそこにいたのか、どれほどの時間が経っていたのか、そんなことさえ考えられないまま、ただひたすら真っ黒い世界に呑み込まれていた。
だが、ある日突如として、痛みが消えた。
それはとてもおかしなことだった。
鎮痛剤の使用は、もうとっくに中止されていたはずだった。
使っても意味がなかったので、鎮痛剤の副作用で二度目の心停止が来た日、投与は中止された。
それでも、この日を境に、今までどんな鎮痛剤を使っても、いくら量を増やしてもやまなかったはずの私の痛みが、完全に消えたのだった。
けれど、なぜか本能的にそれが良い兆しではないということを感じ取ることができた。
しかし、その瞬間はあまりに疲れて、それ以上何も考えることができなかった。
痛みは消えたけれど、依然として私の世界は真っ黒に塗りつぶされていたので、まともに考えというものができるようになるまでにはかなりの時間が必要だった。
後に知ることになったが、この日、私の体は取り返しのつかない一線を越えたという。
脳から全身へとつながって、体を動かしたり制御するための信号を送り、またそこで感じたことを脳へ運ぶための神経系。
その神経系がこの日、溶けていく筋肉に焼かれ、燃え広がる導火線のごとく全身から全焼した。
突如として、痛みが消えたこともまた、その全焼の一環だらしい。
脳が体に信号を送る神経が破壊されたことにより、体が脳に痛みという信号を送る方法もまた失ってしまったのだった。
だから、この日に私の体に起こったことは、奇跡的な回復だとも劇的な好転だとも言えるものではなかった。
痛みが消えたことは間違いないけれど、それは同時にもう二度と昔のようには戻れないということを意味していたからだ。
そこからもう少し時間が過ぎ、意識が戻る頃には、あまりにも多くのことが以前とは変わってしまったことを受け入れなければならなかった。
目を開けようとすると、そこには光を失った暗夜だけが満ちており、痛くてもどうにか動かせたはずの体は、痛みを失うとともにほとんど完全に動かせなくなっていた。
いくら動こうと努めても、まるで手が届かない遠くにある物体を、存在もしない念力のようなもので掴んで動かそうとするかのような無力な乖離感だけが押し寄せた。
昨日までも当たり前にしていたことたちが消えたことを一つ一つ確かむたびに、生きたまま死体になっていくような薄気味悪い感覚にとらわれていた。
これは本当に自らが覚えていた自分なのだろうか?
いや、それ以前に、これが本当に人間なのかさえも、もはや確信できなかった。
そこにあるのは、まるで植物のように何も見れず、自らは動いたり何かを表現したりすることもできない、人間と呼ぶには異質な壊れた何かだった。
人と呼ぶというより、ただ生きたまま臓器を保管する箱に近い形を持っていた。
あまり気持ちがいい表現ではなかったけれど、それ以上に正確な表現を見つけられない現実から、不快な虚脱感と無力感が押し寄せてきた。
ああ……こんなふうにこの鼓動も、ある日突然、何の前触れもなく止まってしまうんだ……。
胸が不気味にざわついた。
痛みが消えたように、私はこれからも多くのものを失っていくことになるだろう。
そしてこの心臓の鼓動も、そう遠くない未来、失うことになるだろう。
痛みを失ったように、やがて訪れるその時、私はきっと何も感じないだろう。何も感じることなく、自分の心臓が止まったということさえも気づかぬまま、突然と終わりを迎えることになるのだろう。
それが私の未来。
痛みと引き換えに取り戻した心が悟った、逃れられない運命。
もうそう遠くない所に、その未来は待っている。
それがあまりにも怖かったけれど……
それでも、三回目の心停止が訪れたこの日は、痛みもなかったので久しぶりに深く眠ることができた。
\(˶ᵔ ᵕ ᵔ˶)_♡
皆さん、こんにちは 今週もお元気でしたか?
私は今週も皆さんが快適で安全な一日を過ごされたことを心から願っています。
今週も皆さん本当にお疲れ様でした。 だから最後まで気をつけて無事に帰ってきてください。
私は今週も短い文章で皆さんを慰めることができることを願っています。
あ、最後に今週はエピソードが2つアップロードされる予定なので、明日の朝をお楽しみに。
(◍´͈ ᵕ `͈ ◍)




