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(3)――「それ、食べられそう?」

 翌日。

 僕はスマホのアラーム音で目を覚ました。

 夏でも朝のうちなら、まだいくらか涼しい。部屋の換気をするなら、この時間に限る。

 まだ半分寝ている頭で、それでも朝のルーティンとして窓を開けようと手を伸ばしたところで、

「おはよう、紫鶴」

と、横からユカリの声がした。

「ん、おはよ」

 きちんとユカリの目を見て挨拶をしよう。

 そう思って視線を合わせようとするが、まだ目が開ききらない。

「朝の換気なら、もう終わってるよ」

「え?」

「紫鶴が寝てるうちに窓を開けて、換気が終わったから、もう閉めたの」

「そっか。……ありがと」

「うん」

 けろりとした笑みを浮かべ、ユカリは頷いた。

 日が変わっても、軟禁は継続しているらしい。

「ユカリ、今日はなにして遊ぼうか?」

 背伸びをして、朝食の準備に取り掛かる。

 自分で言っておいてなんだが、今日はなにして遊ぼうか、なんて言うのは久しぶりだった。

「朝ご飯を食べたら、対戦ゲームしようよ」

「テレビゲームのほう?」

「そうそう。あのパズルゲームの対戦、わたしもやってみたかったんだよね」

「あれ、ユカリとやったことなかったっけ?」

「ないよー。あのゲームは、紫鶴が大学の友達とやってたやつじゃん」

「あー、そうだっけ」

 気まずくなって、僕はあからさまにお茶を濁した。

 小学生の頃は、毎日一緒に遊んでいたのに。

 中学生になったら、勉強と部活に熱中していて。

 高校生になったら、友達と遠出して遊ぶようになった。

 大学生になってからは、課題にサークル活動にと、いろんな人といろんな場所に行っている。

 年々、ユカリとの時間が減っていたことは確かだ。

 どうしてかといえば、部活や勉強という、やるべきことが増えたことが一番の原因だろう。学生という身分では、どうしてもそこに重きを置かざるを得なくなる。

 だけど、たとえ部活と勉強の両立が難しかったとはいえ、いつも一緒に居るユカリと急に遊ばなくなるものだろうか。いや、実際そうだったのだから、疑問を抱くほうがおかしいのだけれど。

 極端な変化が起きたときは、なにか明確なきっかけがあったと考えたほうが良い。とはいえ、なにかって、なんだろう。

 記憶をゆっくりと辿ってみるが、該当するものは出てこない。ユカリと楽しく遊んでいた記憶ばかりだ。いや、でもそれって――

「――紫鶴! 目玉焼き、焦げちゃう焦げちゃうっ!!」

「え? あ、わあああ!」

 ユカリの大声で我に返り、それから焦げついた臭いに驚いて、悲鳴を上げた。慌てて火を消し、フライパンの中身を確認する。

「それ、食べられそう?」

「……たぶん」

 ぷすぷすと不穏な煙を上げてはいるが、まっ黒焦げの消し炭になったわけではない。それに、軟禁されている現状を鑑みれば、卵という生鮮食品を捨てるのは、あまりにもったいない。焦げている程度であれば、食べておきたかった。

「いただきます」

 今朝のメニューは、目玉焼きと白米、白菜の浅漬け、インスタントの味噌汁。思い起こせば、この白菜の浅漬けだって、二週間ほど前にユカリからおすすめされて作り始めたものである。それまでは漬け物を作るなんて、考えたこともなかった。やってみたら存外簡単で、以降頻繁に作っているわけだが、これも軟禁を始めたら生鮮食品の確保が難しくなることを見越していたのかもしれないと思うと、少しだけぞっとする。

「ごちそうさまでした」

 食事を終え、食器を片づけて部屋に戻ると、ユカリは既にゲームのセッティングを終えて待機していた。あとは僕がゲームの対戦ルールとキャラクターを選べば、すぐ開始できる状態になっている。

「ユカリ、操作方法は大丈夫なのか?」

 僕は対戦ルールとキャラクターを選びながら、そう尋ねた。

「紫鶴がやってるのを見てたから、操作方法はばっちりだぜ!」

 言って、親指を立てるユカリ。

「おっけ」

 少し心が痛む話だが、操作に問題がないのなら重畳だ。

「それじゃあ紫鶴、いざ尋常に――」

「勝負だ!」

 ゲームキャラクターの台詞になぞらえ啖呵を切り、戦いの火蓋が切られたのだった。


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