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3/6

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嘘から出たまこと

 ダウンロード時間中暇なので、試験問題に出てきそうな単語の暗唱をして時間をつぶした後に、ゲームを起動する。


『初めは自然のみが転がっていた大地———』


 そうしてナレーションが入る。どうもこの世界は、機械文明が発達したファンタジーらしい。とはいっても、魔法のような物は存在していない。その代わり機械工学、化学が発展した世界。戦争において全長15mを誇る人型機動兵器アーマナイトが発展し宇宙開発が発展した時に、自動機械の制御AI、『エイハヴシステム』が異常をきたし、元々工業用に用意されていた大型機械を殺りく兵器へと改造した機動兵器『デウス』が解き放たれ、それによる制圧が開始。

 その結果宇宙コロニーに暮らす住民が虐殺され、デウスによる防衛戦力が敷かれたことで宇宙に上がることができなくなり、地上に下ろされてくる数多のデウスに、今もなお苦しめられている。


『所属する勢力を選んでください』


 そんな世界観の説明が終わり、キャラメイクの段階に入ったことをコンピューターの機械的なボイスが告げれば、ホログラムのように4種類の別々のカラーリングが施された武装を装備した『僕』が現れる。

 まだ顔などのキャラクターメイクをしていない都合上、スキャニングされた僕のアバターのままだが、まず勢力を選べ、ということらしい。先ほどのオープニングで組織の概要を説明こそされたが…………困った。事前に調査などをしていないせいで、どの組織に所属するのが正解かわからない。


 一つ目の組織は()()により兵をまとめ、保有する戦力こそ少ないものの一つ一つの質が高く、多くのネームドNPCを保有する「クライスト・チャーチ」通称『教会』


 二つ目の組織は()()に高い影響力を持ち、大手のアーマナイトの生産を行い最も多くの戦力を保有している「カンパニー・ユニオン」通称『企業』


 三つ目の組織は傭兵という()()を影響力に変え両陣営に傭兵として派遣する「サバイバーズ・ギルド」通称『ギルド』


 そして四つ目がどこの勢力にも属さず、細々とした集落を故郷に持ち、彼らとともに歩む「ミグラント」


 教会と企業はそれぞれ勢力がらみで黒いうわさも多いと聞く。厳密には勢力ではなく、地方の集落から始まり、金稼ぎも楽じゃない上級者御用達のミグラントは論外だ。となると所属戦力はギルド一択になる。傭兵としてどちらの陣営にも絡みやすいというのもメリットになる。そう考えて緑を基調とした迷彩服を装備したアバターを選択。次は武器やステータスだ。


 なるほど、その画面に移行して理解した。作りこみが深い。顔などの細かいパーツを変えられるキャラメイク、初期から選べる豊富な種類のメインアーム(主兵装)サイドアーム(副兵装)に、出身で変わるステータス補正、衛生兵などの職業(ジョブ)による特殊技能。このクオリティは確かに文句なしの神ゲーなのだろうというのが素人である自分にもひしひしと伝わってくる。


「よし………こんなものか。」


 とりあえず決定したステータスがこれだ。


PN:コウ

Lv.1

M,Job:工作兵

S,Job:なし

所持金:3000C(クレジット)

出自ː高層地区出身


カンパニー・ユニオン庇護下の町の上層部。恵まれた環境を持つあなたは生まれながらにして天運に愛され、その環境で戦うための力を鍛えた レベルアップ時、STR,STM,の上昇に補正がかかり、LUCが生まれながらにちょっぴり高い。


STR(筋力):8

DEX(器用):4

AGI(俊敏):3

STM(体力):8

TEC(技量):3

VIT(耐久):5

LUC(運勢):7


スキル

【格闘戦技術】 Lv.1

【コンピューター知識】 Lv.1


メインアームのアサルトライフル、サイドアームに取り回しに優れたハンドガンのオーソドックスなスタイル。筋力値を参照にできる格闘戦技術。正直、ロボットだらけの世界で役に立つかは疑問だが、ロボットなしの序盤は活きる機会があるかもしれない。


「顔は…………変えなくてもいいか。」


 そこは適当だった。別に僕はゲームにさほど興味もなければ、ほかのゲームを続ける気もない。プレイヤーネームも名前をもじって『コウ』にした。昔はそう呼ばれていたし、これでいいだろうと決定ボタンを押す。


『では、チュートリアルを開始します。』


 そして、そのアナウンスとともにキャラメイクのための如何にも『仮想空間です』という場所から転移するエフェクトとともに消えて


『戦闘エリアに転送します、急な攻撃に備えてください』

「は?」


 後で調べて知ったことなのだが、ミグラント以外の勢力は、ゲーム開始直後、各陣営の参加している進行中の戦闘エリアに飛ばされるらしい。銃の撃ち方もゲームシステムも実践しながら学ぶこと。確かに控えめに言って鬼畜難易度だ。


「は?」


 そして、唐突に戦場に飛ばされた僕は、周囲を走り抜けていく僕と似たような色合いの装備をした兵士たちを目にして、何が起こってるのか理解できないまま…………降ってきた榴弾に吹き飛ばされた。当然Lv.1の初心者が耐えきれるものなはずもなく。みるみるうちに減っていくHPバーを見ている間に、ぷつり、と意識が切れるような感覚とともに視界がブラックアウトする。


「…………はぁ?」


 結局最後まで情報を呑み込めなかった僕の最後の言葉はそれだった。





「ッ!」


「おはよう、もう大丈夫?」


 そして飛び起きた僕を出迎えたのは、この戦場に似つかわしくない白衣を着た青い髪のプレイヤーだった。プレイヤーネームは『アビゲイル』か。見たところ衛生兵のようだが……………


「待っててねコウ君。今団長を呼んでくるから」


 なんだかなれなれしい呼び方だな。と、僕がそれに眉をひそめていることに彼女は気づかず、走り去っていく。 


「貴様か!よりにもよってこんな場所に叩き込まれた最悪な運勢の新入りというのは!」


 そしてそこに入ってきたのは、軍隊ベレーをかぶり髭を生やした軍服姿の壮年の男のアバター。プレイヤーネームは『バードマン』喋り方やその厳しい顔つきは、昔の映画にでてきそうな『鬼軍曹』だった。


「頭上を見ればわかると思うが俺はバードマン。『教会』所属のクラン『ワイルドハント』のリーダーを務めている。そして今は貴様ら木っ端傭兵の雇い主だ。」


 そういうロールプレイからか口調も激しい。


「専門用語も理解していないであろうひよっこの新兵にはどういう状況かを懇切丁寧に教えてやろう。まずはベッドから降りろ!そこは負傷兵の治療場所だ。五体満足の貴様のいるべきなのはそこではない!」


 その言葉に慌てて別途から降りればバードマンはニヤリ、と笑い。


「ついてこい、これからブリーフィングだ。」


 そういって背を向けて歩いていく。それに僕がついていけばアビゲイルもそれについていく。どうやら僕がリスポーンしたのは、ベースキャンプ内の医療テントだったようだ。


「しかし、このような最悪の戦場に飛ばされるような最悪の運勢を持つ貴様にも、幸運の女神というのは微笑むことがあるらしい。知り合いがいる場所に転移できるとは、これぞまさに地獄に仏というやつだな。」


「知り合い?誰のことだ?」


 歩きながら、そう声を上げるバードマンに首をかしげれば、アビゲイルが声を上げる。


「僕のことだよ。覚えてないの?」


 すくなくとも僕の知り合いにそんな水色の髪の人物はいない。


「…………覚えてないも何も、アバターだからな。初対面だ。」


 実際、こんな風にぐいぐい絡んでくる女性というのはいまいち覚えがない。頭を悩ませた結果出た言葉がこれだった。が、その言葉を聞いて顔を輝かせた彼女の顔を見て発言した一秒後に後悔した。


「まぁ、あのことがあってからしばらくメールとかもしてなかったもんね。でもほら、この顔を見て思い出さない?ほら!」


 満面の笑みで顔を近づけて来る彼女の顔を見返す。ファンタジックな青い髪にギザギザの歯。サメでもイメージして作られているのか…………と考えれば、この快活な瞳は、サメとは似ても似つかないなという思考が頭をよぎり………待てよ?


「あっ」


 目だ。そうだ、彼女の目に覚えがある。だがこんな性格の女の子は僕の知り合いにいなかったはず。記憶の棚をひっくり返し、広くない交友関係をあさろうとすれば、似たような目の持ち主の記憶はすぐに出てきた………が、


「え?いや、嘘だろ?」


 確かに記憶にはあった。快活で、小学校のころはシズと一緒に三人で遊びに出かけたものだ。明るくて、引っ込み思案なシズや、コミュニケーションが苦手な僕を引っ張る存在で、小学四年生のころに引っ越しで遠く離れた他県にまで行ってしまった、()


「シゲちゃん?」


 重原優希(しげはらゆうき)僕の思い出の中でいつも笑っていた少年が、女性になっているのに僕は先ほど砲弾で吹っ飛ばされたのと同等の衝撃を受けた。

重原優希ことアビゲイルは女性です。それをコウが勘違いしていたのです。この世界ではマッチング関連の防止策として、アバターの性別は変えられても声は変えられない設定になっています。

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