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三十一文字の想い

作者: 並木空
掲載日:2024/03/08

 私はそっと窓辺に寄る。

 放課後の教室は貸し切りだ。

 窓を少しだけ開ける。

 ここからは、よくグラウンドが見える。

 制服のスカートの上に置いた本が待ちぼうけをしている。

 授業で習ったばかりの和歌が載っている、ちょっと重たい本だ。

 教科書よりも重く、副教材よりも重い。

 そして、私の心よりは軽い。

 好きな相手が有名人だと助かる。

 その日、一日、その人に会えなくても、噂話が自然と集まってくる。

 彼が一日、何をしていたか、手に取るようにわかる。

 近づきたいなんて思わないから、せいぜいグラウンドを見るだけ。

 耳を澄ませな、ここまで彼の笑い声が聞こえてきそうだ。

 きっと、彼は私を認識していない。

 クラスも違えば、委員会も違う。

 同じ部活に入っているわけでもない。

 共通点は、同じ学年だけだ。

 彼のことを好きな女子生徒はたくさんいたし、勇気のある子は告白をしていた。

 バレンタインデーにはチョコレートをいっぱいもらっていた。

 結局、私は用意したものの、手渡すことはできなかった。

 今も私の部屋の勉強机に、可愛らしくラッピングされたチョコレートは載っている。

 出番がないままに。

 それでもいい。

 それでも幸せだった。

 もうすぐこの時間も終わりを迎えるけれども。

 卒業式が待っている。

 彼の目指す大学と私の進む進路は違っている。

 グラウンドを走る彼と、窓際でひっそりと見ている私がかけ離れているように。

 想いは伝えた方がいいのかな。

 本に視点を転じる。

 片想いの和歌ばかりが並んでいるページを見る。

 昔から、切ない想いをしてきたのは一緒らしい。

 私の想いも三十一字に詰め込んでしまえればいいのに。

 そして、いつか誰かの目に留まればいいのに。

 馬鹿らしいと思われるだろうか。

 女々しいと思われるだろうか。

 たった一言、言えれば変わるのだろうか。

 きっと変わらない。

 長い人生の中で、すれ違っただけの『恋』だった。

 視界にすら入っていない。

 だから『サヨナラ』までの時間を大切にしようと思う。

 一秒でも長く。

 一瞬でも長く。

 窓際に座って、彼の姿を追いかける。

 膝の上に置いた三十一文字の想いを載せて。

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