97 貴族が集まるようです
大貴族の務めの一つは貴下の貴族をまとめることです。
次の日の午後、領内領地を治める貴族や領地はないが代官として市町を収めている貴族、それと隣接していて私の寄子として麾下に入っている貴族が一堂に集まり、挨拶をして貰うことになっている。子爵3人、男爵8人、準男爵19人もおり、準男爵のうち12人は大商人や村長が叙爵されたらしい。領内は、ウエスタン市を含んで6市19町24村あるが、領内領地の領都が4市4町あり、男爵が代官をしている町が3町あるそうだ。子爵、男爵には序列があり、それは叙爵順となっている。ブラウン子爵が筆頭になっている。序列2位が北のバイオ子爵、序列3位が南のレイド子爵だそうだ。男爵では筆頭男爵がウエスタン市の北、領堺にあるグリット男爵で、後7人がそれぞれ続いているとのことだった。
午後2時、大会議室において、貴族達との初会合が始まった。進行司会はベンジャミン卿だ。会議室に入ると、皆、席を立ち上がった。私とベス嬢が、上席に並んで立つと、ベンジャミン卿が、
「フレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタン侯爵閣下です。拝礼をお願いします。」
皆が、右手を左胸に当てて45度の最敬礼をする。勿論、それを受ける私たち二人は軽く会釈するだけだ。それから着席をして、まず自己紹介だ。
「初めてお目にかかる方も多いと思いますが、フレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタンです。隣は私の婚約者であるエリザベス・フォン・アスラン・メルボルン嬢です。」
「折角の機会ですので、皆様にお願いしたいことがあります。」
「最初に、領地と領民を愛していただきたいと言うことです。領民は、皆様のために存在している訳ではなく、皆様が領民のために存在しているのです。領民のための統治、この大原則が破られた時は、必ず報いを受けることでしょう。」
「次に、領民の安全を最優先課題とします。未だ、領内には盗賊や魔物が跋扈している状況です。自領内を守れるだけの武力を培うようお願いします。」
「最後に、我が領内貴族は『質実剛健』を旨とします。華美で優雅な貴族は要りません。武辺に強く、質素かつ気品ある紳士が我が寮の貴族の基本です。どうか、そのことをよろしくお願いします。」
挨拶は、終わった。次にベンジャミン卿から税制について説明があった。基本、領内の年貢は5公5民であるが、5公のうち農地租借料が2割、公共事業や治安維持等の公益費が2割、貴族家の歳費を1割とする事。商人や職人の場合も同様であるが、売り上げから必要経費を引いて計算すること。後、通行税は廃止とすることも示達した。これには貴族達からブーイングの嵐だ。でも、どんなに反発されても撤回するつもりはない。
「こ、侯爵閣下、そ、それでは我々の暮らしが成り立ちませぬ。」
小太りの男爵が、異論を申し立ててきた。誰か分からないが、こう言う時こそ、ベンジャミン卿だ。ベンジャミン卿が席から立ち上がり、その男爵の方に向いて説明を始めた。
「チャート男爵、男爵の領地では、今年、例年にないほどの大豊作ですよね。今までも3割が領主家、4割が侯爵家だったはず。領主家では、治安・軍備及び公益費をその中から拠出していたのですから、1割の年貢でも十分な筈ですが。と言うか、もしその支出をしていなかったとすれば、その方が問題ですが。」
「う、それはそうじゃが。」
「あと、領内の人口や歳入に応じて騎士の常備数を決めますので、その数は必ず充足をお願いします。」
領内の実態を把握しているベンジャミン卿から事細かに言われては、何も言えなくなってしまったようだ。
その日の夜は、私の歓迎パーティーが開かれた。貴族の家族や大商人の家族まで参加する盛大な者だったが、私とベス嬢は、皆から挨拶を受け続けて、完全にグロッキーになってしまった。クロウズ団長を始め、騎士団全員も参加して貰ったが、グレイ達新任騎士は、騎士服に短剣を帯剣するだけの服装で公式の場に参加するのは初めてのようで緊張しまくっていた。うん、彼らにはダンスや騎士らしい話し方などのマナーを教えることにしよう。
貴族達からは、是非領地を視察して頂きたいと言われたのだが、もう1月もすれば領都に戻らなければならず、辺境伯など周辺の貴族にも挨拶に行かなければならないので、領内巡視は、年が明けてからになるかも知れないと伝えておいた。
次の日、ベンジャミン卿と、領内の問題点について色々教えて貰った。まず、領内の殖産についてだが、農業以外に主だった産業がなく、北西部の山岳地帯には、かつて金鉱山があったのだが、掘りつくしてしまい、廃鉱になってしまっているそうだ。また、交易についても王都からブロンコ辺境伯領までのメイン街道があるだけで、ウエスタン市に東西南北の交易路が交差していないだけに、交易に伴ううまみがないのが残念だ。
取り敢えず、交通インフラの整備を優先して実施しようと思っている。街道整備にしても、鉄道整備にしても莫大な費用が掛かるだろうし、その費用が領内に落ちるということは、それだけ領内が潤うことになるわけだから。この点について、ベンジャミン卿に相談することにしたら、ベンジャミン卿が、公共工事債を発行したらどうかと提案してくれた。え、それって何だろう。私は、前世ではずっと剣道一筋、他のことはあまり知らないが、公共工事債って初めて聞く言葉だ。詳しく聞いてみると、借金をして公共工事を施工するために発行する地方債だそうだ。
「地方債って、何ですか?」
「領主が長期の償還期間の公債を発行して、大商人や貴族に買って貰うのです。もちろん、利息が付きますが、購入する人は堅実な投資ということで人気があるんですよ。もちろん、王家や他の貴族家の裏書、つまり保証が必要ですが、まあ、現在、流通している公債は、王室公共債と王国公共債位ですかね。償還期間は、自由に決められますが10年間が一般的です。償還する際には、利息をつけるのですが、年1割の福利が、現在の公定利率です。」
あ、ダメだ。私の理解を超えている。昔、前世の爺さんに『金は貸しても絶対借りるな。』ときつく言われていたことを思い出してしまった。
「えーと、それって借金ということですか。」
「まあ、早く言えばそうなりますが、まあ、広く投資をしてもらうと言いうことです。100万ジェルの公債は、10年後には250万ジェルになりますから、投資家としても確実な利益が見込める投資です。それに担保がいらないということが大きな魅力ですよね。あ、もちろん、破産してしまえば償還できないのですが、そのことは両当事者ともに了解事項ですから。」
ベンジャミン卿、何処からか1枚の紙を持ってきた。何やら金色の模様の入っている高級そうなかみだが、表には『王国債』と大きな表記がしている。
「これは、当家で保有している王国債の現物です。これ1枚で250万ジェルの債券になります。今から6年前に発行されたときは100万ジェルで購入できました。でも、250万ジェルと交換できるのは、あと4年後になります。そうですね。今、業者に換金をお願いすれば、160万ジェル位ですかね。まあ、償還時期が近いほど、価値が上がっていくのはお分かりですよね。」
うん、体育学部出身にはかなり高度なはなしではあるが、資金的に問題がないのはわかった。私は、鉄道の概要についてベンジャミン卿に説明した。レールについては、鍛冶工房と錬金工房で作ることができるそうだ。枕木については木材燃料ギルドにお願いすれば準備できる。また、レールの下の敷石については、今は鉱山ギルドにお願いできるそうだ。それぞれ大量の資材を搬送してこなければならず、ウエスタン市内で集積・加工するわけにもいかないので、専用のスペースを街の北側、城壁外に作る必要があるそうだ。まあ、そうだろうと思う。
まず、手始めに、ウエスタン市とブラウン市を結ぶ鉄道路を敷設することにしよう。お金の手配や技術者の手配は、ベンジャミン卿にお願いするとして、取り敢えず私は何をしようか。私は、丸投げ感たっぷりに、
「それでは、私は、市内の巡視をしていようかな。」
と言ったら、ベンジャミン卿は、呆れた顔をして、
「何を言っているんですか。まずは行政庁内にプロジェクトチームを作らなければいけないですよ。財政調達班、路線調査設計班、施工管理班、王室等渉外班、労務班、資材管理班、総務班。本当に、今、思いついただけでもこれだけの作業班が必要じゃないですか。現体制では、これだけの人員を拠出することなど絶対に無理ですからね。」
あ、私、死んでしまうかも知れない。
今のところ、問題のある貴族はいないようです。
次話は、明日6:00に投稿する予定です。




