82 臨時ボーナスは嬉しいようです
騎士達は、未だ本来の業務はしていません。
私達がミンチ村へ戻ったのは午後4時過ぎだった。討伐成果は
ゴブリン:125匹
オーク:37匹
ゴブリンアーチャー:8匹
ゴブリンメイジ:11匹
ホブゴブリン:4 匹
オーガ:6匹
討伐報酬が金貨11枚にもなった。それと魔石が金貨7枚ちょっとで引き取って貰った。一人当たり金貨1枚と銀貨8枚が臨時報酬だ。私はポポロ草を引き取ってもらったが、金貨14枚になった。本当は、20枚以上になる予定だったが、あまりにも大量だったため、値崩れしてしまうので14枚に値切られてしまったのだ。トホホ。
そ日の夕食後、私の部屋に集まって反省会という名のミーティングを行った。皆、それぞれの思いがあるみたいだが、私から言いたいことはただ一つだ。
「皆さん、今日の反省はいろいろあると思いますが、私から言いたいことは、もっとパワーを付けてください。オーガの渾身の一撃を跳ね返すだけのパワーを。そのためには、毎日の駆け足と木刀の素振りを地道にやって行くしかありません。継続は力です。これからでも決して遅くありません。技術は教えることができますが、パワーは自分で頑張るしかありませんから。」
皆、頷いていた。
「明日からは、皆でキャンプに行きましょう。宿のシェフには、美味しいお弁当をお願いしておきました。釣りをしたり、私の從魔と遊んだりしましょう。」
皆には、アーサーのことは教えていないので、きっと吃驚するだろうな。
次の日、いつもの通り朝5時に起床し、村の外周を駆け足する。勿論、皆も一緒だ。1時間、きっちりと走り込む。付いて来られた者はいないが、そのうち付いて来られるようになる筈だ。
朝食後、釣竿10本を『ストレージ』に収納して、旅館前に集合する。目的地は北の森を抜けた先の渓谷だ。本当は、全員で『ゲート』をくぐれば簡単なのだが、ピクニックと言えども鍛錬を忘れない。ただし、今回は、私が先頭だ。ゴブリンやオークは威嚇で蹴散らし、木の陰に潜んでいるフォレストエイプやファイアリザードなどの魔物は誘導弾で殲滅しながら進むので、進行速度が平地の進軍並みの速さだ。素材採取は、魔石だけに限定している。それでも、夕方に森を抜けるころには結構な量の魔石が集まっていた。
草原の開けた場所にキャンプ地を設営する。『ストレージ』の中から、皆のテントを出してあげた。4人用のテントを3張りだ。1張りはバーバラ達女性騎士候補生用だ。テントの中は、すでにマットや毛布が入っているので、そのまま固定するだけで、設営完了となる。私のテントは、4人用の大きさだが、士官用に誂えているので、広めのベッドとソファ・テーブルセットがすでにセッティング済みのものだ。
キャンプと言えば、カレーライスだろうけれど、この世界にはないので、金串にさしたオーク肉や野菜類をバーベキューコンロで焼き始める。タレは、あらかじめ仕込んでいた醤油ベースのタレだが、ニンニクとショウガの隠し味が聞いていて好評だった。締めに作ったピザパイ風チーズ焼きが、とても好評で、王都でもぜひ売って貰いたいとのことだった。うん、今度、商会に相談してみよう。
休憩は、半分ずつ取ることにしたが、初めての野営で緊張しているのか、なぜか皆で見張りをし始めた。まあ、いいけど。私は、いつものように9時になると眠くなるので、先に寝ることにした。翌朝5時、朝日が昇り始めるころ、周辺を走り始める。ここは魔の森の傍なので、3斤の木刀を持ちながらの駆け足だ。木刀を左腰に持ち、すこし前傾姿勢で走るのだが、右腕は後方に伸ばしたままにして、あえて振らずに走る。前の世界で『忍者走り』をテレビで見たが、こんな走り方のようだった。
腕を振らないので、疲れやすいが、逆に周囲の敵に対応しやすい攻撃型の走り方だ。もちろん、他の騎士候補生たちは、通常の走り方で私についてくるのだが、すぐに間が空いてしまうようだ。走りながら索敵をしてみると、300m位先の魔物がダッシュで逃げていく様子がわかる。強い魔物は、夜に活動するようで、早朝、この草原にいるのはゴブリンや角ウサギ程度のようだ。
走り終えてから、軽く汗を拭き、朝食の準備だ。昨日、多めに焼いておいた串焼きをそのまま、お湯の中に入れ、味を調えてスープにする。あとは、黒パンを炙ってチーズを挟み、ホットサンドを作っておく。簡単かつおいしい朝食の出来上がりだ。
朝食後、野営地を片付けてから、渓谷に向かうが、釣りの時間を確保したいので、『ゲート』を使って渓谷手前の崖上まで移動する。うん、本当に便利だね。騎士候補生達も慣れてしまったのか、移動の手際が良くなっている。『ゲート』を開くと、荷物を持った候補生達が2列縦隊になり、粛々と行進しながら『ゲート』をくぐっていく。あっという間に移動完了だ。
崖の上から、谷底まで、以前は『浮遊』を使って下りたけど、今回は、人数も多いので『土魔法』で坂道を作っていくことにした。崖上の淵に手を当てて魔力を流していく。崖がゆっくりうねり出し、斜面にそって道ができていく。道の端が崩れ落ちないように固めながら、幅員5m位の九十九折の坂道を谷底までつなげてしまった。かなりの魔力を使ってしまったが、もともと潤沢な魔力量なので、特に問題はなかった。
騎士候補生達は、呆れたような目で私を見ていたが、気にしない、気にしない。私が先頭で、坂道を下ってゆく。谷底に到着したら、取り敢えずアーサーをみんなに紹介しないと。
「アーサー!」
声をかけると、岩陰の洞窟からアーサーがのそのそと出てきた。相変わらず大きいが、私から見ると、そのつぶらな瞳がたまらなく可愛いと思う。よく見ると、まつ毛が生えているのだ。あれ、トカゲ類ってまつ毛はないと思ったんだけど。でも、可愛いからいいか。騎士候補生達は、かなり顔が引きつっているが、そりゃ体長10m以上の地竜ともなると恐怖の対象でしかないでしょうね。
私が、『ストレージ』から、大量の野菜やお魚を出してあげると、それはもう嬉しそうに食べ始めた。もともと、川底の藻や苔、それに小魚くらいしか食べないようなので、それほどお腹がすいているとは思えないんだけど、どうやら私がお土産を持ってくることが嬉しいらしいのだ。まあ、子供がお父さんのお土産を喜ぶのと同じ感情みたい。私が、野菜類を手で持って食べさせているのを見た騎士候補生達が恐る恐る近づいてくる。アーサーは、チラッと彼らを見てから構うことなく、食べ続けていた。
「なんか可愛らしい!」
カレンがつぶやくと同時に、山積みになっている野菜の中から人参を持ってオズオズとアーサーの方に差し出している。アーサーは、長い舌をベロっと出して人参だけを器用に受け取っていた。それを見た他の騎士候補生達も、我も我もと野菜を上げ始めた。アーサーは、次々に受け取って食べていたけど、尻尾をビタンビタンと地面に打ち続けているので、機嫌がいいみたい。
アーサーへのお土産を全て渡し終わってから、いよいよ釣り大会だ。皆の釣竿を『ストレージ』から出してあげると、思い思いの場所で釣りを始める。エサは、河原の石を裏返して出てくる川虫だ。やはり女性陣は、うまく付けることができないようだ。私も、あまり好きではないが、前世からの通算年齢45歳のおっさんが気持ち悪いとか言っていられないので、平気なふりをして餌を付けていく。川虫の付け方は、頭から刺すのとお尻から刺す方法の2種類の付け方があるが、どうやら地方によっても違うみたいで、騎士候補生のなかでもどちらから刺すか口論になっているみたいだ。まあ、どちらでも、釣れればいいんだけど。
アーサーが、ビタビタと川下の方に向かって歩いていく。かなり向こうに行ってから、川の中に入っていった。同時に川面から跳ね上がる魚が見えた。あ、追い込み漁ですか。もう、なんかテレビでみた海のナブラのような状況で、そのナブラがこちらに近づいてきた。あれ、これは忙しいかも。もう入れ食い状態。グレイなんか、エサも付けずに次々とひっかけて釣りあげていいる。あのう、今日は、皆でゆっくり釣りを楽しむ筈でしたけど。
もう、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど釣り上げてしまった。まあ、引っ掛け釣りだったので、釣り針の傷がついていて、このまま川に返すわけにもいかず、おいしくいただくことにしました。魚種は、ヤマメにイワナと高級魚ばかりで、河原に作った即席の竈門で魚を焼き始める。アーサーは、河原に上がって日向ぼっこをしていた。
「領主様、こんなにおいしい魚、初めて食べました。」
冷蔵技術のないこの世界では、魚の流通は結構難しいみたいで、王都では塩漬けの魚が主となっている。釣りを趣味にしている人はいるけど、どこに釣りに行くにしても泊りがけで行かなければいけないし、イワナやヤマメなどの高級魚は、めったに釣れないみたいで、鮒や鯉それと季節になって鮎が釣れる程度だ。釣りたての魚をすぐに焼くなどめったにできない体験らしい。特に好評だったのは、イワナの卵で、メスのイワナは取り合いになっていた。
こんなのんびりした時間、久しぶりのような気がした。
久しぶりのアーサーでした。
次話は、明日6:00に投稿します。




