80 地獄の特訓は続くようです。
特訓は、まだまだ続きます。脱落者がいなければよいのですが。
1週間後、騎士団候補生用の木刀とウエイトバンドが届けられた。木刀は2斤(1200グラム)の重さだ。ウエイトは、1つ1キロにして、両手両足に装着させる。
「私は、お風呂に入る時以外は、ずっと付け続けています。最初は辛いですが、そのうち気にならなくなります。それからが、真の鍛錬となるのです。」
皆、ある程度は素振りをしていたようだが、自己流だったりショートソードでの素振りなど、やり方はバラバラだった。ここは、木刀を両手で持って振るやり方を覚えて貰う。
先ず、構え方から始める。構えの基本は、「中段の構え」だ。木刀の。柄部分を両手で持つ、。基本、左手を柄頭、右手は、拳1個半位先を握る。右足をやや前に出し、 左こぶしはお臍の前約ひと握り分離したところになるように。左手親指 の付け根の関節をお臍の高さで真ん中の線を外れないようにする。 剣先は相手の両眼の中央またはやや左目寄りの方向としておく。この姿勢が自然にできるように構えてみる。
女子たちは、木刀の重さで、剣先がフラフラしているけど、それはしょうがない。慣れてくれば、ピタッと止まってくれるはずだ。ティム君もがんばれ。その姿勢のまま、前後左右に移動する練習をする。最初は小さめの1歩ずつだ。
「前、後ろ、前、後ろ、右、左、右、右、左、左。」
私の号令通りに動いてもらう。皆に聞こえる位の大声を出し続けるのはつらいので、『拡声』魔法で、普通に話していても、皆には大声で聞こえるようにしておく。30分もやっていたら、皆、へばってしまった。しょうがない。10分間の休憩だ。水分補給が大切なので、少しだけレモンと塩が入っている水を補給させる。水温10度に冷やしておいたので、みな貪るように飲んでいた。さあ、次は、もう少し早いテンポでやるよ。
11:00からは、基礎体力作りだ。つまり、腕立て伏せと腹筋だ。できる、できないではない。筋肉に負荷をかけ続けるのだ。11:50、午前の鍛錬は終了だ。午後は、屋内道場での素振りの練習をしよう。
午後、全員が屋内道場に整列している。靴を脱いで、素足で板の間に上がってもらう。準備体操をしてから、2斤木刀を持って2列横隊で整列してもらう。前列は回れ右で、後列と対面する。前列、半歩左へ。お互いが半分ずつずれた状態だ。この状態で、素振りをしてもらう。自分が、他の人とどれくらい違うのか、確認できるし、悪い見本があったら、自分の矯正にもなるはずだ。
中段の基本の姿勢から、ゆっくり振りかぶりながら、右足を半歩前に出す。左足を強く引きながら、木刀を肩の高さまで振り下ろし、その高さでピタッと止めてもらう。コツは、止めたい高さのところで、両手をギュッと握りこむ感じだ。しかし、変に肩や腕に力が入り過ぎないように意識してもらう。
ほとんどの者が、木刀の重さに振り回され、止めるどころか、振るのがやっとだ。何回かやってもらってから、注意点をいくつか教えてあげる。前後進の際には、絶対に踵を床につけないことや、木刀の軌道は、自分の正中線上をまっすぐになぞる様に意識することなどだ。あと、振り下ろすときに『メン!』と気合を入れると、力強く振れることも教えてあげた。
「質問があります。その『メン』とは、どういう意味ですか?」
「はい、『メン』とは、稽古の時に頭につける防具のことを言いますが、そのほかにも打突部位のことでもあります。頭の前半分、それぞれ正中戦から左右45度以内位の場所を言い、自分がそこを打突したことを宣言する際の気合でもあります。剣の道には、『心・技・体の一致』という言葉がありますが、そのことと密接に関連しています。皆さんは、そう言うものだと思って、練習してください。」
素振りが始まった。2斤(1200グラム)の木刀、しかも先重心となっている木刀を振るのは、簡単なことではない。力も必要だが、力の使い方が重要なのだ。そして、両手両足につけている合計4キロのオモリ。これが地味に重たいはずだ。
100本ほど振ったときに、いったん中断して、木刀を床に置き、肩を回してもらう。うん、筋肉の中に蓄積された乳酸による酸性値を解消しないと。中には、手を握ったり、開いたりしている者もいる。おそらく握力がなくなってきたのだろう。さあ、続けましょう。
結局、今日は500本ほど振ったら限界になってしまった。皆、汗だくで道場の床に倒れこんでいる。私は、結構、ストレスが溜まってしまったので、3斤(1800グラム)の木刀で早素振り(跳躍素振り)を500本ほどしておく。うん、少し汗ばんできたかな。皆はあきれたように私を見ている。
「今日は、初日なので、軽くアップ程度にしておきましょう。それでは、これから腕立て伏せ500回、腹筋500回をやったら終わりです。それでは、始め!」
皆、げっそりした顔つきで腕立て伏せを始めた。まあ、できなくても構わないのです。筋肉をいじめることが大切ですから。
◆
10月の末、皆の武器と防具が届いた。真新しい武器と防具はいやが応でも、士気が盛り上がる。ガンスさんが、わざわざ来て試着後の微調整をしてくれた。あと、ショートソードは、正式武器だが、そのほか、彼らに特化した特殊武器も持ってきてくれた。スカウト用の迷彩コートとか、タンク用のタワーシールド、あとアーチャー用の弓矢セットだ。どれも普及品だが、決して安物ではない。ガンスさんが予算の中で最高と思われるものを準備してくれたのだ。あと、身長が195センチもあるニケには、幅広のロングソードを持ってきてくれた。重さは、3キロ以上あるのだが、ニケに、これからはこのロングソードで素振りをしたらと言ったら、ものすごい勢いで否定されてしまった。まあ、ロングソードの場合は、勢いをつけて、相手をたたき切る感じで、素振りとは全く違う振り方だからね。
最近は、基礎訓練はかなりできるようになった。彼らの1日は、
5:00 起床、自主トレ(駆け足10キロ)
7:00 朝食、訓練準備
9:00 訓練開始
・駆け足 10キロ
・腕立て伏せ 500回
・腹筋 500回
・素振り 500本 × 2セット
・腕立て伏せ 500回
・腹筋 500回
12:00 昼食
13:00 午後訓練開始(午前訓練と同メニュー)
16:00 自習(読書等)及び清掃
18:00 夕食、入浴、自由時間
21:00 就寝
ほぼ、私が前の世界で経験した警察学校の日課時限のようだ。訓練は、基本的に私が立ち会うが、ベス嬢やブルーム殿下の相手でどうしても立ち会えないときには、ゾリゲン団長にお願いして、何人か、ランカスター騎士団から応援をもらっているが、訓練メニューを見て、自分たちも同じように訓練してしまうので、指導者というよりも特別参加者のようだ。あきれたことに、自分たち用の2斤の木刀まで準備して、道場に置いているのだ。まあ、いいけど。
防具もそろったので、皆で冒険者登録に行くことにした。もちろん、私はまだポーターのままだが、カレンを除く皆は、もうできるはずだ。ティムももう15歳になったしね。ヂグジョー!
貰ったばかりの装備を付けて、冒険者ギルドまで、2列縦隊で歩調を合わせ、向かっていく。真新しい甲冑の完全装備で向かうのだ。先頭の私は、なぜか、とても恥ずかしい。冒険者ギルドでは、いつものジョアンナさんのところに向かう。騎士候補の中には、すでに冒険者登録をしている者がいた。グレイとニケ、ボブの3人だ。それぞれEランク冒険者になっていたが、地元の騎士学校を卒業してから、騎士選考試験に落ちて、しばらくは冒険者として暮らしていたらしい。残りの皆は、初登録となるので、全員『G』ランクからのスタートだった。カレンは、『冒険者見習い』として登録した。
このギルドでは、さすがに私をガキンチョ呼ばわりする者はいなくなったが、それでも、10人もの騎士見習いを引き連れてくるのは、皆の注目を浴びてしまうらしい。さあ、いよいよ魔物討伐に出発できるぞ。
グレイが今まで戦った魔物で最強はファイア・リザードだそうだが、パーティに参加しての討伐だったので、あまり経験値は入らなかったそうだ。というか、自分の剣が跳ね返されてしまい、有効な攻撃ができずに悔しい思いをしたそうだ。ニケは、オークが最強の魔物だったらしい。ボブは、採集中心のソロでやっていたらしく、ゴブリンが最強の魔物だったと言っていた。
さあ、明日は王都東の魔物の森へゴブリン退治に行ってみよう。
訓練が中心の生活が構築されました。さすが、もと警察官です。
次話は、明日、6:00に投稿予定です。




