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8 妹ができたようです

フレデリック君に妹ができました。兄バカになる素養たっぷりです。

 翌年の初夏、母上が女児を出産した。私も、2歳6か月となり、流石に『バブウ!』とは言わないが、大人のように流暢に話す事は未だ出来ない。まあ、2歳児なりには話せるし、運動もかなり出来るようになった筈だ。考えてみると、この世界の言葉は日本語ではない。英語やフランス語とも違う。しかし相手の話を聞くときは、頭の中で日本語に翻訳してくれるようだが、喋るとなると、私がこの世界に生まれてから今日までに聞いた言葉に限定されてしまう。話し言葉が辿々しいのは、それが理由だ。


 妹の部屋は、私の部屋の隣の隣で間の部屋は、妹の乳母と侍女の部屋となった。私の侍女のスザンヌは、自宅からの通いで、娘さんが1人おり、王室でメイドをしているとの事だった。


 妹の名前は『アリス』と言い、我が家で初めての女の子だ。しかし、生まれてすぐには会えなかった。医療技術の未熟なこの世界では、風邪を引いただけで重篤な事態を引き起こすことがあり、目を開けるくらいまでは、メイドと乳母以外の入室は禁止されている。母親の初乳は、搾乳機で吸いっ取って哺乳器で赤ん坊にあげるそうだ。


 アリスが生まれてから1週間、今日は、ジョルジュ兄とちい兄と一緒にアリスに会いに行く日だ。2人が私の部屋に来て、一緒にアリスの部屋に行く。既に母上はアリスのところだ。部屋に入って吃驚した。部屋がピンクの花柄だらけだ。壁紙からカーペットまで女の子らしい雰囲気でコーディネートされていた。アリスは、ゾロゾロと入ってきた私達に吃驚したのか、ヒクヒク泣き出しそうになっていた。


  「お兄、ちゃがもう。」


 両手を下に振りながらしゃがみ込む。ジョルジュ兄とちい兄も一緒にしゃがみ込んだ。アリスの様子を伺うと、視界から消えたことで安心したらしく、泣きそうになっていた雰囲気がなくなった。


 ジョルジュ兄に立ち上がるように手で合図をする。それを見たジョルジュ兄は、ゆっくり立ち上がって、アリスの様子を見る。ちい兄も立とうとするが、肩を抑えて、まだしゃがんでいるように伝える。ちい兄は立ち上がりそうにモゾモゾしているが、肩をがっしり抑えて動かないようにしている。毎日、100本素振りを5セットやっている私の膂力は、とても2歳児のものではない。おそらくジョルジュ兄にも負けないと思う。


 アリスを見ていたジョルジュ兄は、母上の方を見て、ニコリと微笑んだ。


  「義母上にそっくりですね。」


 母上は、透き通るような金髪に緑色の瞳をしているが、おそらくアリスも同じ色の髪と瞳をしているのだろう。ジョルジュが、ゆっくりとしゃがみ込むと、次はちい兄の番だ。ちい兄の肩を抑えていた手を外すと、少し涙目になっていたちい兄がビョンと立ち上がった。急に視界に入ってきたちい兄を見て、アリスが火のついたように泣き始めてしまった。あ、これはダメだな。母上がオロオロしているし、乳母がアリスを抱き上げようと回り込んできた。私は、ジョルジュ兄に部屋から出るようにハンドサインを送ってから、低い姿勢のまま部屋の出口の方へ向かった。


 ドアの前で、チラリとアリスの方を見ると、アリスの寝ているベッドの周りが真っ赤な光で覆われている。あれは、火属性の魔力だ。しかも量も多いし、色も濃いので強力な火魔法を使う素質があるようだ。アリスが泣いているのは分かるが、何故ちい兄まで泣き始めているのだろう。まあ、母上がいるし、放っておいても大丈夫だろう。


 部屋から出ると、ジョルジュ兄が寂しそうな顔をしている。


  「ジョルジュ兄、どうちたの?なんか泣きそう。」


  「泣かないよ。でもアリスは義母上にそっくりだなって。髪の色も目の色も。僕は、ちっとも似てないし。何処か似ているところが有れば良かったのに。」


  「ちい兄、母上と同じ。やさちいところ、とっても似てる。」


  「そう!そんなに似てる。良かった。僕、義母上が大好きだから、良かった。」


 廊下で待機していたジョルジュ兄の侍女とスザンヌさんが、涙目になっていたのは見なかったことにしてあげよう。結局、アリスと私の初顔合わせは翌日になってしまった。




 私は、毎日6時に目が覚める。私位の年齢の子ならもっと遅くまで寝ているだろうが、午後8時には就寝するので自然と目が覚めてしまうのだ。スザンヌさんが起こしに来るのが午前7時なので、それまでの間は魔法の練習をしている。最近は、魔力を使っての剣道の型の練習だ。


 木刀に魔力を纏わせて、宙に浮かせ青眼に構えさせる。勿論、仮想の人間が構えるのだ。そのまま上段に移動させ3歩分前進させてから面を打つ。それから青眼に戻して3歩分下げる。


 そのため、色々とバリエーションを交えて木刀を操作させているが、30分も続けていると、かなり魔力を消費する。最初は、いろいろな物に魔力を纏わせて宙に浮かせて遊んでいたのだが、コツが掴めると、大きなタンスを浮かせるのでも大して魔力を使わなくなった。それで今の遊びを思いついたのだが、あれ、これって小さい時に見たネズミが主人公の映画に似たシーンがあったよな。確かモップが水汲みするのだが、止められなくなってしまう映画だった気がする。


 最終的には、オートで剣の型ができれば、仕太刀と打太刀で練習が出来るようになるかも知れない。この練習を始めたところ、木刀を振らせる事は比較的簡単に出来るが、勢いのついた木刀をピタッと止めることの方がずっと難しいと分かった。


  午前7時、スザンヌさんが部屋の扉をノックする。1人でも出来ない事はないけど、朝の準備をしてもらう。洗面、歯磨き。着替えに髪のセット。本当に1人でも出来るんだから。


 食事は、両親とお兄達と一緒だ。カトラリーをうまく使えないときは、部屋でスザンヌやベティに食べさせて貰っていたが、離乳食も終わり通常食になった段階で、スザンヌからカトラリーの使い方を教わって、2歳になる少し前に朝食を一緒に摂る許可をもらえたのだ。朝食後、父の出仕を家族総出(アリスは除く)で見送り、ジョルジュ兄は、家庭教師からお勉強を教わり、ちい兄は侍女と一緒に色々なことをしている。


 私は、部屋で着替えてから屋敷の敷地内を走って周回だ。魔力操作をすれば敏捷性や持久力が上がるのだろうが、それでは訓練にならないのでリアルで走り込む。広大な侯爵邸の敷地の中を一周すれば概ね1キロなので、10周が私のノルマだ。最初は、5周位で一休みしなければならなかったが、今はノンストップで走り切ることが出来るようになった。日本で朝から晩まで剣道をしていた頃よりも格段に基礎体力が向上している気がする。この世界の標準なのか転生特典なのかは分からないが、正門と裏門の警備の騎士さん達が驚いていたので普通ではないのだろう。


 駆け足が終わると、汗を軽く拭き、それから剣の稽古だ。木刀をリアルに振っての素振りと型の練習だ。型は、両手で持っての日本剣道の型を一通りと、セフィロ嬢から見せて貰った片手剣の型を一通りやってみる。最近、木刀が軽く感じてきたが、まだ暫くはこの木刀で我慢しよう。時々屋外鍛錬場に行って、打ち込み用の木製人形に木刀を叩き込む練習をする。時々『カキーン!』といい音をさせるが、その度に訓練中の騎士さん達の注目を集めてしまうので、すごく恥ずかしい。


 昼食後は、お昼寝タイムだ。寝過ぎも良くないので、概ね1時間程度のお昼寝にしている。起きてからは、蔵書室で気に入った本を読むか、お絵描きタイムだ。本を読むといっても、まだ字を習っていないので絵を眺めるだけ。この世界に転生してきた時から、頭の中で考える事は日本語なのだが、喋る言葉はアスラン語のようだ。どうもよく分からないが、転生者の仕様なのかも知れない。そういうわけで、アスランの文字でアスランの文法で書かれた書物はチンプンカンプンだ。ただ不思議な事に絵と文字がセットになっている場合には、何となく意味が分かるのだ。象の絵に象と書かれていれば、アスランの文字のはずなのに『ぞう』と書かれているように見えるのだ。謎だ。


 夕方は、夕食までの間アリスの部屋に遊びに行く。いつも寝ているのだが、時々起きていることがある。分からないだろうが、色々と話しかけてみる。


  「アリスちゃん、にいにでちゅよ。フレにいにでちゅよ。アリスちゃんは良い子でちゅね。早く大きくなるといいでちゅね。」


  まあ、普通に赤ちゃん言葉だね。でも私の言っている言葉が分かるのか、こちらを見てニコッと笑った時など、もう尊くて尊くて視界が一点に絞られてしまう。うん、この子は美人になる事間違いない。いや、その前に超絶美少女になるのか。アリスの将来が心配だ。うん、お兄ちゃんが守ってあげるからね。


 そんなことを考えてニマニマしていたら、アリス専属の侍女から変な顔をされてしまった。アリスの纏っている魔力は赤色だったので火属性の魔法に適性があるのだろうが、実際に火魔法が使えるかどうかは魔力操作の能力によるだろう。でも最低限でも何かに火を灯せる位の魔法が使えたら、きっと生活が便利になる筈だ。私も、簡単な生活魔法なら全て使える位は出来るようになっておきたい。それでアリスの手を取って魔法を教えることができれば、もっといいなと思っている。

えーと、兄バカのお話はほどほどにします。フレデリック君は修行の身、ほかのことに気を取られている暇はありません(笑)

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