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75 スラム街で生きるのは大変なようです

 スラム街は、どこも生きるのに精一杯です。

   「返してよ。それ、俺が買ったんだ。妹に喰わせるために持って帰んなくっちゃいけないんだ。」


 私と同じ位か、もう少し上かも知れない。男の子が、2人の若い男に懇願しているようだが、一人の男が剥き出しのパンを持って、男の子の手が届かないように、その手を上に伸ばしている。


   「てめえ、何処から盗んできた。おらっちらが返してきてやるから、今日は大人しく帰れ。」


   「違うよ。そのパンは、俺がクズ拾いで貯めた金で買ったんだ。返してくれよ。」


   「おめえ、孤児院のガキだろ。アソコじゃ、ガキにクズ拾いをさせてんのかよ。教会が聞いたらどうなんだろうな。」


   「返せよ。返してくれよ。」


  そんなやり取りを見かねたジムさんが、3人に声をかけた。


   「君たち、何をしているんだい?」


   「ああん?何でえ、ジムじゃあねえか。ゴルガン一家が潰れた今、てめえなんか怖くもなんともないぞ。これからは、俺たちレッド団の時代だ。」


   「レッド団?何、それ、聞いたことないんだけど。」


   「へん、レッド団も知らなければこの辺じゃあモグリだな。レッド団といやあ、俺様、ロブとこいつモブの二人が立ち上げた組だ。これから大きくなっていくんだ。よく覚えておきな。」


   「それより、その子のパン、返してやりなよ。小さい子からカツアゲして、レッド団が泣くよ。」


   「うるせえ、俺たちだって腹減ってんだ。これは、これからの用心棒代だ。口を出すんじゃねえ。」


   ジム君、頑張っているようだけど、ちょっと手が震えているよ。あ、そういえば、まだ剣も持っていないみたいだね。衛士見習いだとしても、ちゃんと装備させてあげないと。男たちは、どこからかクスねてきたような木の棒を腰に差している。しょうがないかな、ちょっとだけ口を挟もうか。


   「お兄さんたち、このジムさんに逆らわない方がいいよ。ものすごく痛い目に会うかもしれないよ。」


   「なんだ、てめえは。この辺じゃあ見ねえ顔だな。ヨソもんは引っ込んでろ。」


   「ジムさん、言うことを聞かないみたいですよ。やっつけて下さい。」


   「はあ、ジムが俺らに何ができるんだ。こんな弱虫、こうだ!」


 ロブと言う男が、パンを持っていない左手でジムさんの顔をグーで殴ろうとしたが、顔面の寸前でパンチが止まってしまう。


   「ほら、ジムさん、こいつの顔をグーで殴ってください。」


   「え、いいの?」


 ジムさんの、まったく腰の入らない手を伸ばしただけのパンチがロブの顔面にヒットする。


    ペチン! ボゴドガーン!!


 素晴らしいパンチだ。ロブがのけぞって、後方5m位まで吹き飛ばされていった。驚いたもう一人の男、モブが、パンチングスタイルをとるが、そこまでだった。一歩も動けないうちに、ジムさんのへなちょこパンチがモブの顔面にヒットする。


    パチン! ブゴッ!ドキューン!!


 同じく、モブも吹っ飛んでしまった。


   「え?あれって、もしかしてフレデリック様?」


   「シーッ!」


 私は、吹っ飛ばされて気を失っているロブからパンを取り戻した。ああ、なんて固いパンだ。焼いてから2~3日は経っているみたい。でも、あの子にとっては大切なパンなんだろう。


   「はい、君、このパンは、君のだろう?」


   「ありがとう。あ、ありがとうございます。」


 うん、いい子だね。さあ、この子と一緒に孤児院に向かおうか。


   「こいつらはどうするの。」


   「うん、放っておこう。こいつら、これ以上悪いことするような度胸も無さそうだし。腹をすかして、子供のパンを取り上げることくらいしかできないチンピラに、これ以上のことなどできる訳ないと思うんだ。」


 ジムさん、ニコリと笑って、孤児院へ向かった。


 孤児院は、元教会と思える建物の裏に併設されている。それ程大きくない2階建ての建物だが、周辺のバラックやあばら家と比べても遜色ないほどのボロさ加減だ。正面玄関というか、教会との通用口から入って、案内を呼ぼうとしたら、さっきの子が、


   「シスターなら、教会にいるんじゃないかな。今頃は、いつも教会の事務室だよ。案内してあげるよ。」


 案内も何も、教会の裏口を入ったところが事務室のような部屋だった。この協会は、礼拝堂と事務室しかないみたいだ。普通の教会は、このほかに司祭室や懺悔室それにシスターや関係者の宿泊所などがあるのだろうが、何もなかった。事務室にいたのは、シスターの服を着た老女だった。シスターが若い女性とは限らないが、限らないけど、シスターなんだから。ね。シスターは、なにか繕い物をしていた。よく見ると、ぼろぼろの子供服だ。


   「こんにちは、シスター、ジムです。」


   「あらあら、ジム、今日はどうしたの。いつもは、夜しか来ないのに。」


   「あのう、あ、あいつら、えーとゴルガンの奴らとは縁を切ったんで。今日は、隠れてくる必要がなかったもんですから。」


   「でも、いつものお金にはまだ早いわよ。無理しないでね。あら、その子はだあれ。この辺の子ではなさそうね。」


   「こんにちは、私はフレデリックと申します。いつか、この街に住みたいと思って、ジムさんに色々案内してもらっているんです。あ、これは、つまらないものですが。」


 そういって、『ストレージ』から、今日の朝、ベンジャミンさんや職員の方たちに買い物に行って貰ったものを取り出した。


   パン(食パン、黒パン、ベーグル、マフィン等)多数

   お肉(牛肉、豚肉、ウサギ肉、鶏肉)それぞれ10キロ

   砂糖  20キロ

   子供服 山ほど


 本当はもっと買いたかったのだが、急に行ってもお店にはそれほど商品がないので、これくらいで我慢して貰おう。


 シスターは吃驚していたが、何か気が付いたようで。


   「もしかして、貴方、いえあなた様は、今度、ここの領主になられるフレデリック様、ウエスタン侯爵様ですか?」


   「はい、まだまだ領主としては半人前ですが、そうです。」


 シスターは、急に立ち上がって、膝をつこうとしたので、慌てて制止した。それから、事務室の中で孤児院のことについて色々聞いたが、市内には、孤児院は8施設あるそうだ。ほかの孤児院は、中央の教会に併設されているが、この協会は、3大教義派とは違う教義の教会だそうだ。そのため、寄付もほとんどなく、行政庁から交付される僅かな補助金と、ジムさんのような孤児院出身者の寄付が頼りだそうだ。


 3大教義以外の教義は珍しいなと思ったら、主は『創造神テスラ』ではあるが、主からの教えを預言された救世主『イスズ様』が、この世界の罪を一身に背負って処刑されたことを後世の人たちに伝えるために13人の使徒様が遣わされたらしいのだ。しかし、この使徒様たちが、世界を暗黒に陥れようとする悪魔の使い、『魔王デビエル』と戦って、見事倒しはしたが、その戦いで皆、天に召されてしまった。この協会の教義は、救世主と使徒様達の教えを伝えるために、今から2000年ほど前から活動をしているらしいが、奇蹟を求める人々から、単に『隣人を愛せよ。』という教義を伝える『イスズ教』は、受け入れられず、ひどい時は、邪教の認定も受けたことがあるとのことだった。


 これ、絶対、前の世界からの転生者が絡んでいるよね。一体、2000年も前に何をしちゃってくれてんの。でも、教義自体は、問題ではなく、魔法があるこの世界で、奇蹟も癒しもない単なる精神論だけで皆が付いてくるとは思えない。世界の宗教は、程度の差こそあれ、救いを求める人々の心の支えにならざるを得ないし、その救いを求める人に即物的に魔法で奇蹟を見せたら、そりゃあ、そっちを信じますよね。


   「あのう、シスター、この教会で『治癒』はどうしているんですか?」


   「え、『治癒』ですか?それは、治癒院に行くか、治癒師のいる他の教会に行って貰いますけど。」


   「えーと、それでは『神の加護』については、シスターは受けられておりますか?」


   「えーと、我が教会は、即物的な効果を求めてはならないという教義でして、『神の加護』を受けた信徒はおりませんでした。」


   「それでは、五穀豊穣とか商売繁盛とか無病息災とか、そういう神様からの祝福については、どうですか?」


    「えーと、我が教会は、即物的な効果を求めてはならないという教義でして、『神の祝福』を受けた信徒はおりませんでした。」


 うん、これはダメですね。信仰心の薄い私でも分かります。この教会は、とっても残念な教会でした。

 ジム君は、まだ14歳です。


 次話は。明日、6:00に投稿する予定です。

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