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65 王都に帰るようです

ジュリちゃんは、王都に行くようです。

 ジュリちゃん、お風呂に入ってキチンとした服を着たら、可愛らしい女の子になった。これからの事を本人に確認したら、どこにも行くところはないので、王都に行ってみたいとのことだった。それでは、一旦王都に帰るとしますか。帰りは流石に歩いては無理があるので、街で、2人乗り用の乗馬用鞍を買うことにしよう。


 その日の夕食は、私にとっては極々普通のディナーだったが、ジュリちゃんにとっては2年ぶりのまともな食事だったようだ。野菜スープを1口飲んでは感動し、パンにバターをつけては感動し、お肉を一切れ、口に入れた時、ついに泣き出してしまった。周囲の生温かい視線が痛いです。


 次の日、朝早く出発して、ネオ・ディオール市寄りのソルド町を目指した。町まで70キロ、乗合馬車なら10時間位の旅程だ。ホワイトと私だけなら6時間程度で到着するが、ジュリちゃんを乗せてはそれ程早く走れない。クロちゃんは、村を出たところで合流した。なぜか知らないが、私達が村を出た事を知っていたみたいだった。


 その日の午後、ソルド町に到着したが、馬具屋さんはなく、目的のタンデムシートを購入することは出来なかった。貸馬車屋さんにも寄ってみたのだが、そこで2輪馬車が貸し出されているのを見つけた。2人しか乗れないが、軽いので1頭の馬でも引けるのが特徴だ。いわゆるランナバウトと言われる馬車だ。車輪が大きく、簡単な板スプリングが路面のショックを軽減してくれるものだ。貸馬車屋の親父さんがホワイトを見て、


   「幾らランナバウトが軽い馬車とは言っても、ポニーには引けないよ。」


 と言っていたが、ホワイトが明らかに怒っている様子だった。ダメだったら馬も借りると言う事で、試しに馬車に繋いでみたら、全く問題なく引けてしまった。まあ、ホワイトは単なるポニーではなく、大型馬並みの力がある『ドワーフホース』だから当然だけどね。


 さあ、それでは出発だ。借りた馬車は、王都の指定業者に返せばいいそうなので、利便性がとても高いと言える。


 さあ、王都に向け出発だ。


 ネオ・ディオール市に到着し、フレイズさんに会ってジュリちゃんの出身の村について聞いた。フレイズさんも、その村のことは知っていて人口1200人程度の小さな村だったそうだ。3年前の旱魃で平年の7割しか収穫が出来なかったそうだが、年貢は例年通りの量を課したそうだ。反発した村民達が蜂起しようとしたが、いち早く察知したカインズ伯爵が大量の衛士と無頼の輩を動員し、弾圧して抑え込んだそうだ。その後、幼い子供まで身売りされ、離村者が激増、遂には廃村に至ったそうだ。その際の捕まった離村者に対する処罰は凄惨を極めたものだったそうだ。その村は、今ではゴーストやアンデッドが蔓延り、誰も近寄らないとのことだった。


 ネオ・ディオール市ではジュリちゃんの着替えなどを買ってあげた。流石に古着1着のままという訳には行かないだろう。いつものホテルのいつものスイートルームに泊まったが、日本の庶民の時の記憶が、『贅沢は敵だ!』と頭の片隅で囁いているが、市井で財貨を浪費するのも貴族の勤めだと言われているので、仕方がない。仕方がないのです。ヂグジョー!


 2日後、王都に到着した。クロちゃんを連れたまま冒険者ギルドに直行した。ギルドに入ると受付のジョアンナさんのところに行く。


   「いらっしゃいませ。あら、フレデリック様、本日はどのようなご用件ですか。」


 最初にポーター登録した時は『フレ』という名前の平民として登録したが、直ぐに身元がバレてしまい、以来『フレデリック様』と呼ばれている。


   「このニャンコを従魔登録したいんだけど。」


   「このニャンコって、『ブラックパンサー』じゃあないですか?」


 ブラックパンサーは、シャドウパンサーの下位種で危険度ランク『C+』の魔物だが、絶対、野獣の黒豹のことだよね。


 ただ従魔録するのに、契約者も冒険者登録をしないといけないのだが、正規の冒険者は15歳からしか登録出来ないらしい。どうしようかと思っていたら、『冒険者見習』と言うランクがあるそうだ。年齢は10歳以上で、戦闘スキルか攻撃魔法を有しているか、又は治癒魔法師かテイマーなら大丈夫だそうだ。ジュリちゃんは、テイマースキルを有しているので、大丈夫だとの事だったが、スキルはどうやって調べるのだろうか。


 スザンヌさんが冒険者登録した時は、そんな事を言われなかったような気がしたが、成人の場合は自己責任という事で自由なのだが、未成年の場合は制限を加えないと直ぐに死んでしまうために、そんな制限があるらしいのだ。


 暫く待っていると、青い水晶球を持った中年のおばさんが現れた。


   「お前さんかい、見習いになりたいのは。さあ、手を出して、この水晶に触れてご覧。」


 ジュリが恐る恐る手を差し出して、水晶球に手のひらを乗せる。水晶球が白く光り、直ぐに消えた。


   「うーん、『テイマー』スキルはあるようだが、年齢がダメだね。あと3か月足りないね。」


 ジョアンナさんが、残念そうな顔をしていたが、何かメモして2階に上がって行った。このまま冒険者登録ができないかなと思っていたら、ザイン本部長の推薦書を持ってジョアンナさんが降りて来た。聞けば私の功績を評価して特例を認めてもらえることになったらしい。うん、地味に嬉しい。これでクロちゃんは晴れて従魔と認められ、鑑札を貰うことが出来た。良かった。良かった。


 冒険者ギルドを出て、ランカスター邸に到着したらジュリちゃんが固まっていた。私が貴族であるとは知っていたようだが、こんなに大きなお屋敷の貴族とは思わなかったらしい。急な帰宅で屋敷の者は驚いていたが、私が可愛い女の子を連れているのに、もっと驚かれていた。誰ですか。『側室』なんて不穏な言葉を。ベス嬢の耳に入ったらどうするんですか。


 スザンヌさんにジュリちゃんを預けたんだけど、その時が、クロちゃんとシュナちゃんの初対面だった。犬と猫、仲が悪いんじゃ無いかと心配したけど杞憂だったらしい。クロちゃんたら、最初、何故か怯えていて、次にお腹を見せるいわゆる臍天で服従のポーズだった。シュナちゃん、クロちゃんの態度を見て、そのまま興味を失ったのか私に抱っこをせがんで来た。うん、可愛い。スザンヌさんが言うには、シュナちゃん、拾って来た時から2年以上経っているのに、全然大きくならないらしい。この大きさで成犬だとしたら、明らかにおかしいそうだ。まあ、シュナちゃんの場合、小さいからと言って困ることは無いので、出来るならば小さいままでいてね。


 ジュリちゃんは、メイド見習いということでスザンヌさんからメイドのイロハから礼儀作法、文字の読み書きに四則演算まで教わることになった。あのうスザンヌさん、側室の嗜みは要りませんからね。


 翌日、久しぶりの我が家で、ゆっくりしていたら突然ベス嬢が尋ねて来た。どうやら、私が戻ったら公爵邸に知らせが来るようにお願いしていたらしい。久しぶりに会うベス嬢は、なんかちっちゃくて可愛らしい感じだ。きっとジュリちゃんをずっと見ていたから新鮮な感じなのだろう。


 応接室でベス嬢と2人でいると、メイド服を着たジュリちゃんがお茶のセットを持って来た。辿々しい手つきでお茶の準備をする。私の前のテーブルにお茶のセットを置いて、紅茶をカップに注いでくれた。


   「ありがとう。ジュリちゃん。」


  「いいえ、どういたしまして。」


 ジュリちゃんが部屋から出て行ったが、ベス嬢が固まっていた。どうしたんだろう。


   「あ、あの子はどなたですの?」


   「え、ジュリちゃんと言って、旅の途中で一緒になったんだ。」


   「ず、随分親しそうでしたわね。」


   「え、そうかなあ。普通だけど。」


   「でも、でも、あの子のこと、『ジュリちゃん』って呼んでいましたわ。」


   「まあ、ジュリって呼び捨てもできないし。」


 あれ、ベス嬢、なんで泣いているの?


   「私だって『ベスちゃん』って、呼んで貰いたいです。」


 なんだ。そんなことか。貴族同士の会話では、男性は『卿』、独身女性は『嬢』を名前の後に付けるのが一般的で、決して『ちゃん』よりも下位の呼称では無い。でもベス嬢がそう呼んで貰いたいなら、呼んであげるのにやぶさかでは無い。


   「ベスちゃん。」


 ベス嬢の顔が赤くなっている。


   「も、もう一度です。もう一度、呼んでみるです。」


   「ベスちゃん。」


   「は、破壊力、半端ないです。もう一度、お願いするです。」


   「ベスちゃん。」


   「も、もういいです。この呼び方、2人だけの時にお願いするです。」


 ベス嬢の顔は、帰るまで赤かった。

 ジュリちゃんは、テイマーとして活躍するかもしれません。

 次話は明日、6:00に投稿いたします。

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