59 領地は広いようです
7歳で公爵なんて、あり得ないと思った方、その通りだと思います。
侯爵を叙爵した後に、宰相のところに寄って、領地情勢を教えてもらったり、いろいろ指示を受けることになった。宰相は古い伯爵家出身だが、内政に卓越した才能を発揮し、乞われて宰相の任に就いている方だ。宰相執務室は、広さこそ、そこそこだが、事務官が大勢いて何やら忙しそうに書類仕事をしている。宰相の最も大切な仕事は、各省庁の調整らしいのだが、特に予算が絡む要求の処理はかなりナイーブな業務らしいのだ。一定規模以上の予算が絡む案件は、必ず財務卿と宰相の承認を得てから陛下の裁可を得ることになっており、また人事案件も多くが内務卿と宰相の承認案件だそうだ。なるほど。日本の内閣府には1万人以上の職員がいると聞いたことがあるが、規模こそ違えど、同じような業務をたった数十人でこなしているのは大変だろう。
宰相の他に、内務卿のブレイン侯爵が同席していた。拝領したウエスタン地方のことについて、内務卿からも教えてもらえるとのことだったが、その前に侯爵家の名前をどうするか聞かれた。まさかダメンズをそのまま踏襲するわけにもいかないだろうとのことだった。私としては、なんでもよかったが、西部を意味するウエスタン地方を治める領主なのだから、『ウエスタン侯爵家』にしたいと申し入れた。傍に、事務官がいて、『ウエスタン』の綴りを聞いてきたので『WESTERN』と単純に記載した。変にGとかHを入れると面倒くさいし。あと、家紋も聞かれたので、お任せすることにしたが、あまり難しい絵柄のものは遠慮したいと申し上げた。
事務官は、最後に、家紋を入れた御旗と紋章の入った封蝋印および印鑑を作成する費用は実費だが、次回の納税の際に上乗せしていただくように言われた。納税か。そういえば貴族は納税の義務があったね。でも、領地収入がどれくらいか分からないけど、とりあえず了承しておいた。
次に、領地が抱えている問題点について宰相と内務卿が教えてくれた。まず、ウエスタン領は、王国内でも最も広く、東西350キロ南北250キロ、8万5千平方キロもあるそうだ。ほぼ北海道と同じ位だ。それだけ統治が難しそうだ。西側はブロンコ西部辺境伯と接しているが、ダメンズ侯爵とは仲が悪かったらしく、ほとんど交流がなかったらしい。一番問題だったのは、ダメンズ領内に出入りする際に通行税を徴しているが、相場の4倍も徴収していたために、誰もダメンズ領内に入ろうとしないため、街道が荒れ放題だったらしい。それは港湾も同じで、あえてダメンズ領内の港を使わなくてもブレンボ南部辺境伯の港が使えるので、ダメンズ領の港も廃れる一方だったそうだ。
あと、特にひどいのが領内の課税で、通常は5公5民のところ、7公3民という酷税を長年続けていたため、民は疲弊し、それに騎士や兵士なども愛想を尽かして離反したために魔物討伐もおろそかになって、町や村では限界集落化しているところも少なくないそうだ。今は、王室政府の役人が行政官として赴任して統治をしているが、元からいた領政府の役人と折り合いが悪く、思ったような治世ができないのが現状らしい。
あのう、そんな酷い状況の領地を7歳の私がどうしろと言うのですか。
最後に宰相が明るい展望を述べてくれた。
「まあ、すぐに領地経営をしろと言っても無理だろうから、フレ、いやウエスタン卿には、王立学院卒業までは、領地経営に携わらなくても良いことにしておこう。その間の支出は、国庫からの支出と言うことで、成人してからコツコツ返して貰えば良いからな。フフッフ!」
あのう、ちっとも嬉しくないのですが。それって成人するまで借金が積み重なるということでしょ。成人と同時に多額の借金を抱え、一生借金を返し続けるなんて、どう考えてもブラックな人生なんですけど。あと、ベス嬢との婚約はどうなるのでしょうか。私、婿入りをしなくてはならないんですが。
「ああ、その点は、婚約解消と言うことで調整してみよう。なあに、さすがに侯爵を婿にするなどとは言わないだろう。フフッ!」
なんか、宰相の最後の含み笑いがとても気になるんですが。きっと、何も決まってないんでしょうね。問題の先送りって、役人の超得意技だし。
その後、第二後宮に行って、ダンドール主任教授の魔法の授業を受けたが、ダンドール主任教授ったら、授業をほっぽって新しい魔法を覚えたかとか、今度いつ魔導書研究をするのかと言うことばっかり聞いて来たが、あのう魔法の授業を受けたいんですが。
3人の御学友の魔法レベルは、ブルーム殿下よりもかなり下のような気がする。と言うか、ブルーム殿下、風魔法のレベル、半端ないんですけど。
「ウインド・カッター」
標的の耐魔人形、少し削れてますよね。
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侯爵邸に戻って、しばらく虚脱状態だった。どうしよう。こんな筈では無かった。10歳くらいまではエイボン皇国で修行をし、王立学院に入学するまでに冒険者見習いとして活動して、学院卒業後は、武者修行の旅、そして18になったら、公爵家に婿入りしようかなと自分なりにライフプランを立てていたのに。
まあ、お風呂に入ってのんびりしていると、帰ってきた父上に呼ばれた。父上の部屋に入ると、おもむろにテーブルの上に本が積まれた。
「これは領地経営に関する、法律や行政官必携などの資料だ。特に刑法と刑事訴訟法、税法と民法それと地方自治法については熟読しておくように。また、過去の歴史書には地方統治に失敗した事例が多く載っている。必ず読んでおくように。」
鬼だ。鬼です。鬼畜です。7歳の子供に、何、大卒、いや大学院卒並の知識を求めているんですか。そりゃ元の世界では大学を出ていますよ。でも、学んだのは剣道ですから。法律なんかは概論しか勉強してませんから。あ、いけない。頭が痛くなってきた。今日は、もう寝よう。
次の日、エイボン皇国に戻り、フレックス殿下達にお別れの挨拶をした。1年半とはいえ、本当に良くしてくれたと感謝一杯なのだが、国王陛下から大金貨100枚を賜った。え、何ですか、これ?聞くと、この前の国境線防衛の恩賞らしい。少なくて恥ずかしいので、とても重臣の前では授与できなかったが、今、エイボン皇国でできる精一杯の恩賞らしい。ぜひ、受け取って貰いたいと言われた。大金貨100枚。1億円か。戦争になれば、1日で億単位の戦費が飛んでいくことを考えれば確かに少ないのだろうな。でも、この国にとっては大金なのだろう。ここは、国王陛下に恥をかかせないためにも、遠慮して受け取らないという選択肢はない。深く感謝して受け取っておいた。
皇帝陛下がお別れ晩餐会をしてくれると言ったが、お別れの会をしたらきっと泣いてしまうし、いつでも気軽に遊びに来れるので、このまま帰りますと言って離れに戻ってきた。アン嬢がずっと泣いているのが気になったが、こればかりはしょうがないかな。スザンヌさんには、あとで、必要な荷物ともにホワイトを連れてアスラン王国へ帰ってくるようにお願いして、シュナちゃんを抱いて、帰ることにした。
王都に戻った次の日、メルボルン公爵邸を訪ねた。当然、公爵は事情を全て知っていたが、婚約解消については保留になってしまった。あのう、どうするんでしょうか。取り敢えずベス嬢が、どうするのか、彼女の意思が確認できるまで、何も決めないでおこうということらしい。あ、ここでも問題の先送りですか?ベス嬢は、今回の侯爵叙爵のことは知らないらしいので、あえて火中の栗を拾わなくても良いのではと言うことだったらしい。
久しぶりの王都生活だったが、早朝マラソンや1000本素振りはいつも通りだった。王城での騎士団との稽古だが、シュリンガー団長の動きが分かりやすくなった気がする。体の動きは、年齢的な体力差と体重差があるからどうしようもない所があるが、動きを目で追い、判断することは十分に出来るようになって来たのだ。でも、それで慢心してはいけない。
翌日、ドワンゴ武道具店に行き、5キロの鉛板を入れた腹帯を作って貰った。今日は、日曜日。王城に行くこともないので、散歩がてら王都にある旧ダメンズ侯爵邸に行ってみる事にした。まあ、今はウエスタン侯爵邸なのだが。場所は、王城の真西、王城の隣りだ。ランカスター邸から歩いて30分くらいだが、まあ、ここも結構広いですね。ランカスター屋敷より少し狭いかなと思ったが、どうやら騎士団の鍛錬場が無いみたいだ。と言うか、屋敷の北の空き地、どう見ても鍛錬場だった場所でしょう。騎士団本部だったらしい建物と隣り合ってるし。あ、きっと使わない鍛錬場を整備する費用が惜しくて、外壁の外にしてしまったんだね。そこに木が鬱蒼と茂って、都心とは思えない景観になっている。これを鍛錬場に戻すのって大変な気がするなあ。でも最優先整備事項だね。
王都邸の整備に幾らお金がかかるのでしょうか?
次話は、明日6:00に投稿する予定です。




