52 国賓が攻撃を受けたようです
今回は、フレデリックくんのチートぶりが見えるかも知れません。
つい、ニヘラと笑って誤魔化してから、王都で流行っているマカロンに手を出してみる。アン嬢がじっとマカロンに注目している。
「これ、美味しいですよ。王都で流行っているお菓子で『マカロン』と言うのです。」
「ひとちゅ、いただくわ。」
おもむろに黄色いマカロンを手に取って食べ始めた。見る見る顔付きが変わって行った。うん、美味しい時のお顔ですね。
「ママン、これ、とてもおいちいでちゅ。ママンも食べて。」
「あら、あら、手掴みなんてお行儀が悪いわよ。」
「あ、これ手掴みでどうぞ。ナイフとフォークを使うと崩れてしまいますから。」
「あら、これ、美味しいわね。好きなタイプだわ。」
うん、お菓子は最強です。
その日の夜、フォルクス殿下御一行の歓迎晩餐会が行われた。料理もワインも超一流を準備したつもりだ。さすがに室内管弦楽団の演奏は無かったが、兵士の中にギターやクラリネットが演奏できる者がいたので、それなりに楽しめる演芸になったと思う。但し『ALM48』のコーラスやランカスター騎士団によるラインダンスは禁止にした。ことはアスラン王国の名誉に関する問題だからだ。
フォルクス殿下は、気さくな方だが、私がブルーム殿下のご学友兼護衛だと言うことも知っており、シンシア様とブルーム殿下の事について、色々と聞いてこられた。シンシア様に対する王室の冷遇とかブルーム殿下の食生活など言いたいことは沢山あるが、国際問題に発展しかねないナイーブな問題なので、はっきりは伝えられなかった。実際に王城において、ご自分の目で見て、シンシア様からお話を聞いて貰いたいと思うので、私から伝えるのは当たり障りのない事ばかりになってしまった。
アン嬢は、見るもの、聞くもの初めてのものばかりのようで、会場の中を走り回っていた。まあ3歳児なんてあんなものかも知れない。そう言えば、お兄様とお姉様がいた筈だが、今回来なかった事についてフォルクス殿下から説明があった。まずご子息については、皇帝陛下と皇太子殿下それと皇太孫殿下がご一緒に行動することは基本的にはないそうだ。万一の事態があっても血統を残すためのルールというわけだ。また、長女の皇女様は、馬車酔いが酷く長距離の旅行はさせられないそうだ。
歓迎晩餐会という名の飲み会は、やはりタガが外れてしまい、ビキニパンツひとつの太めの兵士が色々なポーズをして笑わせる隠し芸から、完全にいつものモードになってしまい、アン嬢は妃殿下とともに早々に退場していただいた。
◆
次の日、一行は王都に向け出発した。皇太子殿下ご夫妻とアン嬢が乗られる馬車の後方には随行の従者、侍女達が乗る馬車が4台続き、その前後にはエイボン国から同行して来た騎士達20騎が随行している。
更に前衛に我がランカスター騎士団180名、後衛にアラモード砦守備隊120名が随行している。、これだけの人数が宿泊できるほどの施設はないので、部隊のほとんどは街や村の広場などで野営だ。皇太子殿下ご家族は、貴賓室や特別スイートルームにお泊りいただき、私は、その次に良い部屋に泊まる事になる訳だが、一度位はテントで野営してみたかったと言うのが本音だった。
3日目の昼過ぎに、エイボン渓谷の北岸に到着した。これから渡しを使って渡河するのだが、最初に騎士団のうち80名が渡河した。人と馬がセットなので時間がかかる。いよいよ殿下の番だ。馬車を筏に乗せ、馬車の中に殿下一行と私が乗り込んだ。ゆっくりと川を横断して行く。アン嬢は初めての体験らしく大喜びだ。
「ちゅごーい、あたち、こんなお舟、初めて見た。ばちゃごと乗るの。」
「これは筏と言うんですよ。馬車がのっても沈まないような構造です。」
「フレ君、なんでもちってる。ちゅごい。」
「そんなこと、ないですよ。先生がいろいろ教え・・・・・。」
筏がちょうど川の真ん中付近まで渡った時、上空からの魔力の接近を感じた。すぐに、筏全体を魔力で覆う。攻撃の規模が見えないので、3重に魔力壁を張っておいた。今まで、2重でも破られたことはないので大丈夫だろう。
それまで、アン嬢と話していたのに、急に黙り込んだ私を殿下達は不思議がっていたが、すぐに
ドガーン!
という爆発音が直近でしたので、何が起きたかすぐに分かったようだ。魔法による攻撃だ。
「馬車の中は安全です。絶対に外に出ないでください。」
そういうと、すぐに馬車の外に出て、周囲の確認をする。筏には全く被害がなかったようだ。渡しの人足さん達は、その場で頭を抱えてしゃがみ込んでいた。上空を見ると、南岸の崖の上に2名の黒い影が見えた。あいつらが魔法攻撃をしてきたのだろう。2人の上空に赤い球が見える。次弾のファイアボールだろう。まあ、この状況は、しょうがない。指鉄砲を彼らに向け、9ミリパラベラム弾を2発、空中に浮かばせて、音速を超える速度で撃ち出す。両手を上空に差し伸べている男の頭を9ミリ弾で吹き飛ばして、もう一人の男の右肩が吹き飛んでしまったのが見えた。
1人はきっと死んだだろう。頭を失って生きていた人間を見たことはないし。もう1人の姿が倒れてしまってここからは見えない。仲間がいれば、助けてもらえるだろうが、2人だけだったら、たぶん、その場で転がっているはずだ。南岸の九十九折坂を見ると、騎士さん達が上を目指して馬を走らせている。でも、あれじゃあ馬が可哀そう。
私は、『浮揚』で、上空に浮き上がった。崖の上までグングン上昇すると、敵の状況がよく見えた。敵は2人の他に仲間がいなさそうだった。転がっている男のそばに降りてみると、右肩が完全になくなっており、出血がおびただしい。このままでは出血多量で死んでしまいそうなので、『ヒール』をかけて出血部位を塞いでおいた。男は、私を見ると、驚いた顔をしている。
「な、なんだ、お前は。こんなガキに俺はやられたのか?」
「まだしゃべらないで。出血は止まっているけど、ショックで死ぬかも知れないよ。」
「ふん、お前には関係ないだろう、こうだ。」
その時、男が何かを噛んだように見えた。『ポン!』という小さ音がして、口の周りが吹き飛んだ。毒薬を飲むのは知っていたけど、小さな爆薬を仕掛けているのは初めて見た。なるほど、小さな爆発でも脳の直近の口の中を爆破すれば、死んでしまうのか。これって、これから注意しよう。爆薬を噛めないように早めに口に詰め物をしなければいけないんだね。
下から、騎士さん達が上がってきた。現場の状況を見て、息を飲み込む。そりゃあ、頭が残っていない死体と、右肩から先がなく、口の周りに大きな穴が開いている死体が転がっているんだもの。あとのことは任せて、私は川の中央付近で停泊している筏の上に降りて行った。
殿下達は、馬車の中から不安そうな顔で外を見ていたが、私が飛び上がったことも降りてきたところも角度的に見えなかったようだ。馬車の中に声をかける。
「もう大丈夫ですよ。賊はいなくなりました。」
殿下が、恐る恐る馬車の外に出てきた。渡しの人足さん達が作業を再開し始めたのを見て、少し安心したようだ。
「フレデリック卿、君、何かしたのかな?」
「え、私ですか。いいえ、こんな5歳児に何かできる訳ないじゃないですか。アハハハハハ・・・。」
嘘もこれだけ平気でつくことができれば、それは真実となるだろう。(そんなことはないかも知れません。)
それから、無事、向こう岸に渡り、南岸の九十九折坂を上るころには崖上の死体は片付けられていた。しかし、背後関係が分からないが、おおよその見当は付いている。我が国とエイボン皇国の仲が悪くなって得をする国がある。その国が、仕掛けたと見るのが妥当だろう。
私の元の世界でも、たしかオーストリア皇太子が暗殺されたことにより第一次世界大戦が起きたはずだ。もし、ここで皇太子殿下が暗殺されれば、いくら属国と言えども、エイボン皇国が我が国に宣戦布告することだってあり得るのだ。国際連合などの世界規模の合議体がないこの世界では、些細なことで、戦争が起きてしまう。まあ、戦争が目的というよりも、その結果の領土の拡張が目的なのだが。エイボン皇国は、シンシア様の処遇で我が国に不満を持っている。そんなときに、皇太子殿下が我が国で暗殺されたら、それこそルース帝国の支援を得て、我が国に攻め入ることもあり得るだろう。それで、エイボン皇国のみならず我が国の領土の一部でも割譲させることができれば、ルース帝国としては、最高の戦利品となるだろう。
しかし、犯人が死んでしまった今となっては、証拠も何もないことなので、ルース帝国に文句を言うこともできない。まあ、5歳児の私には関係のないことですがね。
残酷なシーンがあったかも知れませんが、人の命は紙よりも軽く、甘いことを言っていると命を失う世界です。5歳児と言えども、人を殺すことに躊躇いは有りません。
次話は、明日6:00に投稿予定です。
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