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5 剣の稽古が始まるようです

 さあ、今日から剣のお稽古ですよー。

 今日の午後から、セフィロ嬢が剣術の指導に来てくれる。私は、なんとか100本素振りが出来るようになったが、元々基礎体力がないので、1本1本が満足のいくものではない。それでも『継続は力なり』だ。毎日の鍛錬は、決して無駄になることはないものと信じている。


 午後2時、セフィロ嬢がやって来た。この屋敷には、屋外鍛錬場と屋内道場があるらしいのだが、私が短い(と言っても私の肩くらいまであるのだが)木刀を振るくらいなら、私の部屋の中で十分だろう。と言うか、私は生まれてからこの部屋を出た事がないのだ。


 セフィロ嬢は、今日は私服で、水色のスエットに紺色のパンツを履いている。この世界にもジャージに似た素材があるのには吃驚したが、綿糸に魔物の糸を混ぜて魔力を通すと弾力性のある糸ができるそうだ。面白そうだが、今は糸を作っている暇はないので、もっと大きくなってからやってみようと思う。


  「フレデリック様、取り敢えず木刀を構えてみまちょうか?」


  うーん、語尾だけ赤ちゃん言葉にしたって、意味ないと思うのだが。しかし、これですぐに木刀を構えたら、相手の言っている事が完全に理解できると言う事がバレてしまう。それはとてもまずい気がするので、


  「バブー!」


とだけ言って、特にアクションはしないでいた。セフィロ嬢は、諦めたように、おもむろに自分の木刀を持って構えを私に見せながら、


  「さあ、こう言うふうに構えるんでちゅよ。やってみようね。」


と、片手で持って、半身になって木刀を中段に構えた。この世界では、右手に片手剣、左手に盾を持つのが普通のようなので、剣の型は片手剣が一般的のようだ。うーん、どうしようか。片手剣もいつか使う事があるだろうから、今から練習しておいても無駄にはならないかな。


 ただ問題があって、父上に貰った木刀は、私には大きすぎて、片手で持つのは至難の技だ。やはり身体が出来上がるまでは、ワンドのおもちゃで型の練習をした方がいいだろう。私は、ベッドの上に置いてあるワンドのおもちゃを持って、セフィロ嬢のように片手半身の型を取ってみる。重心は、左右均一にして、やや前傾姿勢、目は遠山の目付とした。あとは動かざる事、山の如し。いつでも打突攻撃に移れるよう、気を練って丹田に集めておく。


  「フ、フレデリック様。どうされました?お顔が怖いんですけど。」


 剣士たるもの、剣を握ったら常に真剣勝負、相手の一挙手、一投足に応じて無我の一撃を打ち込めるようにならなければ。じっと構えていると、周囲から音が消えた。しかし、セフィロ嬢の気配はしっかりと把握できている。心臓の拍動、呼吸の際の胸の動き、それにこれは何だろう。セフィロ嬢の周りに薄く白い光?いや、もっと存在感があるものが見える。これは魔力?うん、間違いない。今、私はセフィロ嬢の纏っている魔力を見ている。目を閉じても、この気配はハッキリと感じられる。これが魔力感知と言うものかも知れない。部屋の端に立っているスザンヌさんは、セフィロ嬢よりかなり希薄で、隣のベティは殆ど感じられない。やはり、魔力量にも能力格差があるのだろう。


 ハッとして、全ての緊張を解放した。それと同時にバランスを崩してしまい、ステンと前に倒れてしまった。


  「え?フレデリック様、大丈夫ですか?」


 1歳3か月の赤ん坊がなんて答えると思っているんだ。大丈夫かどうかは、大人が判断すべきだろう。しかし、心配させっぱなしと言うのも気分が悪いので、


  「バブー!」


とだけ答えておく。そんな答えを聞いてホッとしたのか、セフィロ嬢は涙目になりながら、


  「よかったです。本当に良かったです。」


と安心してくれたようだ。結局、私は実技なしでセフィロ嬢の行う型を見ているだけになった。しかし見ていると、片手剣も中々奥が深そうだ。半身一つとっても、右半身、左半身があり、左半身は左側を前にするのだが、これは左腕にバックラー等の盾を装備することを前提に定められた型と言える。1時間位セフィロ嬢の動きを見ていて、片手剣は、突きが主体の武器なのだと言う事が分かった。そう言えば日本剣道の型に小太刀の型が3本ある。


 1本目は、相手が上段で構えていると想定しての型だ。右半身になり、中段に構える。この時、小太刀の剣先は相手の顔の高さに向けておく。相手が上段から打ち込んできたと想定して、右斜め前に足を出しながら、刃先を後ろに向け右手を上げて、小太刀の左しのぎで相手の打ち込みを受け流して相手の正面を打ち抜く。同時に左足を右足の後ろにひきつけるのを忘れないようにするのだ。


 2本目は、小太刀を中段に構え、相手が下段から中段に構えようとしていると想定して、相手の刀を制するように上から圧をかけ、相手が脇構えになったものとして中段のまま一歩前に出て相手を追い詰めると、相手が正面を打ってくるので左足を斜め前に出しながら右手を上げて、右鎬で相手の太刀を交わし、相手の正面を打つ。その際、左手で相手の右の二の腕を上からおさえ、相手の動きを制して、右手を右腰にあてて、小太刀は相手の喉元を突く。


 3本目は、半身になり小太刀を下段に構える。そのまま2歩進み、3歩目を出しながら、小太刀の左鎬で相手の面打ちをすりあげ、左に返してすり落とす。相手が胴を打って来るので、左しのぎですり流し、相手の二の腕を下からつかみ、小太刀のはばきの刃の部分で押さえて、相手の肘をを決めて動きを制する。


 普通サイズの太刀を持った相手との約束動作だが、動きは剣の理に合っており、間合いの短い小太刀ならではの体術との合わせ技を会得できる型となっている。これが天然理心流となると、小具足術となり、主に接近戦でも体術と剣術の合わせ技で、型というよりも合気道の技のようでもある。


 この世界での片手剣の型は、上段からの2段打ち、体を躱しての喉元への突き、身体を翻しての横薙ぎ、体を引きながらの切り上げと、まるで剣舞のような動きだ。それを延々と繰り返していくのだ。足捌きを見ると、余り考慮されていないのか、何回か左右の足が交差しており、技と技とのつながりの際の体重移動も一定ではない。うん、これは剣舞という事で見ておこう。しかし、少し気になった事がある。打ち込みの際に、木刀を持っているセフィロさんの右手が強く光っているのだ。なるほど、魔法が普通にあるこの世界では、剣士といえども魔力を打ち込みの際に使用しているのか。それが意識的なのか無意識なのかは分からないが。


 1時間位で剣の稽古(?)は終わり、私はベッドの中、セフィロ嬢は、スザンヌさんとベティと一緒にお茶をしている。ベティは、男爵の娘さんで、夫は騎士として王都警備団に所属しているようだ。私が生まれる少し前に女児を出産しており、その子は屋敷内の使用人用の家族寮で育てているそうだ。私が完全に離乳すれば役目は解任され、王都警備本部近くの家族寮に移る予定だそうだ。


 セフィロ嬢とベティは同い年のせいかすぐに仲良くなり、1時間位お茶会をしてからセフィロ嬢は帰って行った。これからが私の稽古だ。まず木刀を持って青眼に構える。魔力を見ると、うっすらと木刀の先まで纏っているのがわかる。意識して魔力を断ち切って見ると、木刀に纏わりついていた魔力がなくなった。どうやら、魔力というものは僅かずつ漏れ出ているものらしい。そう言えば、魔力を使用すると体内の魔力量は減るが、時間が経つと元に戻っている。これは体内で魔力が生成されると考えた方が自然だ。魔力の元となる素材が何かは分からないが、魔力がフルに満タンだとしたら、それ以上、自然に生成される魔力はどこに行くのだろうか。それが自然に漏れ出す魔力なのだろう。今、私は魔力の自然漏出を敢えて止めている。これで、自分の魔力がどうなるかは分からないが、今のところ身体に不調は無いので、このまま様子を見ることにしよう。


 暫く青眼に構えてじっとしている。スザンヌさんとベティは何処かに行っている。部屋には私一人だ。じっと剣先を見つめる。肩に力が入りすぎないように自然体で構えていると、フラフラ揺れ動いていた木刀の揺れが落ち着いて来た。目線を遠くに合わせ、徐に木刀を大きく振りかぶる。ゆっくりと、本当にゆっくりと木刀を振り下ろして、元の青眼の構えに戻る。何度か繰り返してから、次は足捌きだ。右足の踵はほんの少しだけ浮かしておき、半歩引いた左足の踵は完全に床から離れている。その姿勢のまま、前に一歩移動する。つま先は、床に着いたまま、つまり『摺り足』だ。通常の歩行のように足先を先に出すのでなく、重心を腰に落とし、太腿を腰から前に押し出す感じで前進して行く。この足捌きを『送り足』と言う。


 前に。前に。


 部屋の中をグルグル回るように移動する。移動する際に、青眼に構えた木刀の先端が大きく動かないように意識する。


 うっすらと汗ばむまで回ってから、深呼吸をして息を整え、次は左を向く。つまり今まで回っていた円周の内側を向いた状態だ。その状態で右に一歩。移動する。次に左に一歩移動する。左右の動きに慣れて来たら、今度は3歩ずつ移動する。この時、頭が上下に動かないように意識する。


 これが本当に面白くない。何も変化のない動きの繰り返しだ。しかし、『継続は力』だ。繰り返すことに意義があるのだ。


 何回繰り返したろう。体力の限界だ。と言っても、1歳3か月の乳児に体力を求める方がおかしい。さあ、もう寝ることにしよう。後は、夕方の沐浴と授乳があるだけだ。

 日本剣道の型を読んでも剣道をやらない方はつまらないかも知れませんが、思い出しつつ書いております。

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