45 地竜に罪はないようです
今回は、地竜との激しい戦闘が期待できます。
次の日、午前10時、地竜討伐戦が始まった。随行の4人以外は、森の出口まで後退してもらっている。剣で決着がつかない場合には、大規模殲滅極大魔法を使うつもりなので、その際、巻き込まれないようにするためだ。もちろん、その際、随行の4人は、私が防護しておくので安全なんだけど。
谷の淵まで行って、下を見ると、真下には地竜はいないみたいだ。4人を魔力で包み込み、ゆっくりと谷底に降りてゆく。うん、ところどころ焦げているのは、地竜のブレスを浴びた個所だろうか。
谷底は、幅3m位の流れが速い川と5m位の岩だらけの川岸があるだけで、樹木が全然生えていない殺伐とした景観だ。地面には、何かが擦ったような跡と、ところどころに長さ80センチ位の足跡が残されている。足跡からかなりの大きさだろう。足跡の向きから、地竜が進んでいった方向に行ってみると、大きな岩の陰まで擦った跡が続いていた。
「いますね。」
岩の陰に何かの気配がある。おそらく地竜だろう。かなり大きな気配だし、ほかに生き物や魔物の気配がないので、地竜だけが岩の陰にいるんだろう。周囲を見ると、かなり離れたところに、避難箇所として適当な岩が積み重なっている。
「皆さんは、あの岩の陰に隠れていてください。」
「フレデリック、無理しないでね。」
「坊、危なくなったら、逃げてくださいよ。」
黙って頷いた。皆が避難したのを確認してから、兜の緒を締めなおし、『聖剣グラム』を『ストレージ』から取り出して、鞘から抜き放つ。魔力を込めて見ると、刃体が赤く光り始めた。そのまま、岩に近づき剣を振りかぶって、気合とともに切り下ろす。
「メーン!」 ズバーン!!
岩が左右に両断された。これには驚いた。いけるかなと思ったけど、せいぜい深い傷がつく程度かなと思ったのだ。この剣の威力がどれくらいか、試したかっただけなのに。
両断された岩の陰から地竜がノッソリと現れてきた。でかい。尻尾まで入れた全長は10m以上ありそうだ。早速、地竜の能力を鑑定してみる。
「鑑定」
名称:アースドラゴン特殊個体
種別:地竜
危険度ランク 『S』
攻撃力 720
防御力 981
特殊攻撃 ブレス(火)
噛みつき
尾振り回し
ボディプレス
ひっかき
えーと、どう考えたらいいんだろう。もしかして、これって、素手で倒せる?でも、そんなことをしたら、後で何を言われるか分からない。取り敢えず、『聖剣グラム』を青眼に構える。魔力は流さないでおく。どうしようかな。こちら側から攻撃すべきか、それとも攻撃をさせて受けてみるべきか。
地竜の喉が大きく膨らむ。なるほど、ブレスを吹くつもりなんだな。どんなブレスなんだろうか。じっと見ていると、口を大きく開けた。下あごの歯の根元にチロチロと炎が見える。あ、あれって硫黄を喰ったね。硫黄と黄燐が燃えているような匂いがする。それが火種か。のどの膨らみが流動する。あ、『ゲップ』ですか。体内で消化不良になった何かが発酵してメタンガスになり、ゲップが出る訳ですね。それが黄燐の火種を通過する際に引火するようだ。
火のブレスではなく、ゲップのブレスだったわけだが、一応、ポヤポヤと燃え上がった息がこちらに向かってくる。勢いも何もないので、『ウインド』で上空に蹴散らしてしまう。あ、なんか悔しがっている。次は大きな口を開けて、噛みつこうとしている。まあ、トカゲの攻撃手段なんて限られているよね。でも、犬歯も小さく、獣を引き裂いたりするような歯ではなさそうだ。軽く、『聖剣グラム』を横薙ぎにして、生えそろっている牙ともいえないような歯を根元付近で切り飛ばしてしまう。あ、バカだな。口の中にこぼれた牙をガリガリ齧っている。自分の牙を喰っておいしいのかな。
地竜は知能が高いと聞いたけど、『噛みつき』が効果ないと知ったのか、後ろを向いて尻尾攻撃だ。後ろを向いて尻尾を振り回したって、当たる訳ないじゃない。本当に知能が高いのだろうか。ちょっとだけ飛び上がって、落下する勢いで尻尾を根元から切断する。切断された長い尻尾がビタンビタンと跳ね回っている。ちょっとエグイけど、無視しておこう。ちらっと、ブルーム殿下の方を見ると、全員、岩陰から出てきて、何やら会話しながら此方を見ている。全く緊張感が感じられない。
こんなに大きい魔物を殺した後、谷の上に引き上げるのは大変そうなので、どうしようか。
地竜が、何故か涙目になりながら此方をじっと見ている。
じっと見ている。
何、これ、どこかで見た感じがするんだけど。あ、あれだ。魔物をテイムするときの動作だ。でも、こんな大きな魔物を従魔にして、何を食べさせるんだろう。
地竜は、じっと見ている。
大体、こいつは人を襲ったんだろう。人を喰ったんだろう。あれ、でも、その喰った人ってどこにいるの。冒険者は、森の中で魔物を狩るけど、谷の底には行かないよね。あと、村を襲った魔物も、こいつとかこいつの仲間じゃないし。そもそも、アーマードリザードやワイバーンって、谷の向こうの山の上に住んでいるんだよね。この地竜、関係ないじゃん。
地竜は、じっと見ている。
あー、分かったよ。分かりました。
「お前、仲間になりたいのか?」
地竜が、ぶっとい首を上下に揺らして頷く。
「分かった。お前、今日から私の従魔な。名前は、・・・『アーサー』だ。」
地竜が白く光った。光が消えた時、地竜が従魔になってしまったことが分かった。もちろん、切り落とした尻尾は、『ヒール』で繋げてあげた。本当は、自然に生えてくるらしいんだけど、今くっつけても大丈夫だよね。牙も、すぐに生えてくるそうだ。
これで、地竜討伐は終了だ。
◆
地竜討伐は終わった。アーサーには、巣穴に帰って貰うように頼んだら、素直にズリッ、ズリッとお腹を地面に擦りながら帰っていった。というか、切断した岩の影が巣穴の入り口なんだけどね。
ちなみに、『アーサー』は、アースドラゴンだから、それを略しただけで、全く意味はありません。しかし、こんな谷底にいて、何を食べているんだろうかと思ったが、川底の苔を食べたり、小魚やカニを食べているらしい。それだけで足りるのかと思ったら、谷底には魔素がたまっているので、それで大丈夫だとのことだった。さすが、魔物だ。あ、この会話は、きちんとした会話ではなく、何となくそう答えている感じがするんだけど、当たらずとも遠からずかな。
ブルーム殿下達がこちらに来て、いろいろ聞いてきた。シュリンガー団長とゾリゲン団長は、岩の切り口を調べている。見事に真っ二つにしたんだけど、この『聖剣グラム』、本当によく切れるみたい。
ダンドール主任教授は、今回は何も調査することはないので、手持無沙汰のようだったが、それでも地竜のことを色々聞いて来た。從魔にした経緯について、彼(彼女?)は、特にこれと言った迷惑を掛けた訳では無いので、討伐するかどうか躊躇していたらつぶらな可愛い目でじっと見つめられたので、情に絆されたと言うことを説明した。
何となくだが、魔物が村を襲った原因は、谷の向こう側、山岳地帯に原因があるような気がする。でも、それは私が気にする事ではない。あくまでも私はブルーム殿下の護衛として来ただけで、魔物の大量発生の原因が何であるかは護衛業務の所掌範囲外だ。
アーマードリザードの外皮は、超高級素材らしいので、騎士さん達は、全ての素材を回収してから王都に帰還するらしい。まあ、2本足で立ち、棍棒などの武器を使う人型トカゲの皮を剥ぐのも中々グロいが、遠征に伴うボーナスとなるので必要な作業であると言える。
本当に高価なのはアーサーの素材であるが、流石に生きたまま皮を剥ぐ訳にも行かないので、それは諦めてもらうことにした。でも、アーサーが脱皮した皮なら腐るほどあると言っていた。皆で、アーサーの巣穴の前に行ったら、巣穴の奥から本当に沢山の皮を持ってきてくれた。取り敢えず、『ストレージ』に入るだけ入れたら、全部入ってしまった。脱皮後といえども、鱗などは完全な形で残っていたので、これだけで国家予算位にはなるんじゃないだろうか。
本当ならアーサーを從魔登録をしたいところだが、この谷限定で從魔登録をしたいと言ってもギルドでは受け付けてくれないだろう。うん、諦めよう。
すみません。いつもこんな終わり方で。地竜は、草食系たまにカルシウム補給のために甲殻類を食べるドラゴンだったのですね。
1月3日までは、1日1話の登録にさせていただきます。お正月ですものね。
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